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2章:千丈真奈(部員を5人集めよ)

二人きりの部屋

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 ゆっくり瞼を開く。見慣れた景色がそこにはあった。
 静寂の中に響き渡るのはペンが紙を擦る音。誰かが勉強しているみたいだ。

 持病によって倒れたことは明らかだった。
 問題はいつ倒れたか。記憶を思い起こす。

「イベント……」

 ボソッと呟いたにも関わらず、体の飛び起きる勢いは強かった。

「目覚めたんだね。おはよう」

 視界に入った女性がこちらに穏やかな笑みを浮かべる。
 彼女の手元を見ると、学校で使っている教科書とノートが置かれていた。

「日和……」

 彼女の名前を呼ぶ。周りを見渡すが誰の姿も見当たらない。
 今この部屋にはソファーで寝ていた僕とテーブルで勉強をしていた日和だけが残されていた。

「夜遅くなりそうだったから、みんなは帰ったよ」

 僕が思っていることを察したのか、何を言わずとも日和は答える。
 ポケットにしまったスマホを手に取る。時刻は七時半になろうとしていた。
 だいぶ寝てしまったみたいだ。疲れていた証だろうか。

「ごめん。大事な時間だったのに寝ちゃって」

「気にしなくていいよ。やめたくてもやめれるもんじゃないでしょ」

「まあ……」

 とはいえ、せっかく議論で盛り上がっていたところに水を差すように寝込んでしまったのは申し訳ない。熱を冷ましてしまった可能性がある。

 上体を起こし、ソファーに座り込む。
 日和もまた床から立ち上がる。僕の隣に座ると、そのまま体をこちらに寄せた。

「久々に文也にじっくり触れられるな」

 肩に顔を乗せる。甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「ここ最近は言遊部のことで飯塚先輩や千丈先輩と一緒にいることが多かったからね。ポスターとイベントはどこまで進んだ?」

「どちらも完成はしてないよ。ポスターについては結花ちゃんが明日までに仕上げてくるって。気になったところがあれば随時真奈ちゃんと連絡を取るって言ってたから心配しなくていいと思う。イベントはやることが決まったから日付、場所、タイムテーブルを決めるだけかな」

「順調に進んでいるみたいで何よりだね。結花に負担をかけすぎたのが玉に瑕だけど」

「後で連絡してあげてね。でも、結花ちゃんはすごく気合い入ってたよ。文也が物事にやる気を出してくれたのが嬉しいって」

「中学の時は寝るかボーッとするかだったからね。でも、四宮先生に依頼されてなければやる気は出てないと思うけどね」

「たとえ誰かに言われたとしても、本人がやる気を出したなら成長だと思うよ」

 日和は元気づけるためにか僕の手をぎゅっと握りしめた。お返しするように僕もまたぎゅっと握る。

「日和は帰らなくて良かったの。今家を出たら帰るのは九時過ぎるんじゃない?」

「帰って欲しかったの?」

「できることなら帰ってほしくないけど……色々と心配だから……」

 夜道は危険だ。特に日和の地元は人通りが少ないから不審者が現れてもおかしくはない。エゴで大切な人を危険に合わせるわけにはいかない。

「相変わらず優しいね」

「あの場には天音さんがいたんだから任せても良かったんじゃない?」

 僕の言葉に返事することなく、握った手をさらにぎゅっと締める。手から痛みが伝わってくる。どうやら怒っているみたいだ。

「合理的ではあるけど、私の気持ちを考えてないね」

「ご、ごめんなさい」

「こう見えても結構気にしてるからね。やむを得ないこととはいえ、高校生と大学生の女子が彼氏の家に居座ったんだから」

「浮気するかって。しないよ」

「何回もしてるじゃん」

「あれは全部誤解だから……」

「んー、怪しい……」

 怪しさは一級品だが、疾しさは皆無だ。
 弁解したところで意味はない。だから僕は彼女の耳にできる限り顔を近づけて「好きだよ」と言った。

 その瞬間、日和はソファーの反対方向に移動する。
 耳を押さえ、顔を真っ赤にしていた。効果は抜群らしい。

「ずるい……でも、すごく良かった……」

 不敵に笑い、離れた分を取り戻すように一気に近づいてくる。
 僕は押し倒され、日和が僕の上につく。長い髪がダラっと下がり、僕の顔を包み込む。日和は僕に向かって微笑みかけ、同じように耳元に顔を近づけた。

「私も大好きだよ」

 胸が熱くなる。心が満たされていくという言葉を初めて体感した。
 胸にこもった熱は体に浸透していく。今の僕は熱が37度を超えている気がする。恋の病にかかってしまったみたいだ。

 再び僕らは顔を合わせる。
 静寂が流れる。日和は蕩けた表情を見せていた。
 なんとなく状況を察する。僕はゆっくりと顔を彼女に近づけた。

 すると、日和はびっくりして仰け反った。
 そのままバランスを崩し、ソファーから落ちていく。テーブルに頭をぶつけ、「いった……」と唸った。

 しばらく呆然とする。
 しかし、フラッシュバックした彼女の行動が滑稽に思えて反射的に吹き出してしまった。

「もう……笑わないでよ……いきなりで恥ずかしかったんだから」

「ごめんごめん。日和があまりにもウブだったから」

「文也が早過ぎるんだよ」

 そっか。付き合って二週間足らず。本当に付き合って一週間くらい。まだくちづけは早いか。本当だろうか。

「はあ……恥ずかしいところ見られたな」

 ため息をつきながら再びソファーに座る。距離は少し僕から離れた。なんだか寂しい。

「この後どうする? 送っていこうか?」

「うんうん。泊まっていくよ。文也が警察に補導されちゃうかもしれないし」

 泊まっていく。もしかしてお泊まりデートというやつか。こんな形で決まるとは。良いような。もう少し雰囲気が欲しかったというか。

「でも、明日の準備は?」

「あっ……忘れてた。歴史とか、生物とか。家にあるんだった」

「じゃあ、無理そうだね。別に日和が危険な目に遭うくらいなら、僕が警察に補導されるくらい屁でもないよ」

「うーん。そう言ってもらえるのは嬉しいけど、私としては納得いかないな。文也とは同じ立場にいたいから」

 さらっと嬉しいことを言ってくれる。
 日和は少しばかり考えると、アイデアが舞い降りてきたように顔をぱっと咲かせた。嫌らしい笑みを浮かべて僕を見る。

 不安が募る。大丈夫なアイデアだろうか。
 不敵な笑みを浮かべ、彼女は自信満々な様子で話し始めた。

「ふっふーん。何も私が文也の家に泊まらなくても良いんだよ。文也が私の家に泊まればいいだ
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