62 / 99
2章:千丈真奈(部員を5人集めよ)
好調な下校、不調な下校
しおりを挟む
「すみません。お待たせしました」
飯塚先輩に連れられ、僕は日和と千丈先輩の待つ校門付近にやってきた。
「気にしてないよ。何かあったの?」
日和は不思議そうな表情で聞いてくる。
彼女に関連しての内容のため言うべきか迷う。
「ちょっと……雑談を……」
少し迷ってから、本人の想像に任せるように覚束ない返事をする。
「へぇ~。文也がクラスメイトと雑談なんて。仲の良い友達ができたみたいで良かった」
仲が良いか。弁解したい気持ちはあるが、日和が喜んでくれているので黙ることにした。
「ところで……」
言いながら視線を日和から横に逸らす。
千丈先輩は昼頃と変わらず項垂れていた。彼女の頭上には不調を示すように縦線が何本も引かれているように見える。
「千丈先輩は……まだ落ち込んでますよね……」
「うん。心配だったから迎えにいったんだけど、クラスでもこんな様子だった。一人哀愁漂わせて座ってたんだよね」
昼食時間に行われた部活勧誘は失敗で終わった。
あの後、何も話すことなく教室を立ち去っていった。側から見れば不審者に見えなくもないが、クラスにいた生徒のほとんどは日和に夢中になっていたので、気づけばいなくなっていた程度に思っていることだろう。
一発目で心が完全に折れ、その後は動けずじまいでチャイムが鳴った。
今日の戦績はゼロ。むしろマイナスかもしれない。今の調子では部活勧誘どころかイベント開催すら怪しい。
何人も集めておいて、何も話せず終わったら示しがつかない。
「ところで……」
今度は日和の視線を走らせる。
定まった先は僕の隣だった。
「杏子はどうしたの?」
僕もまた隣に視線を運ぶ。
そこには、だらしのない笑顔を見せる飯塚先輩の姿があった。
「ねえねえ、日和。私ってそんなに可愛いかな?」
ポリポリ頰を掻きながら惚気るように口走る。
「えっ! うん。可愛いと思うけど」
「そうかなー! えへへ、えへへ」
鼻を下伸ばし照れるように笑う。
日和は少し引き気味な表情で飯塚先輩を見る。それから助けを乞うように僕を見た。流石に説明が必要だよな。
「僕のクラスメイトが可愛いって言ったんです。僕に向けて言ったんですけど、距離が近かったから飯塚先輩にも聞こえたんでしょうね」
「そういうことね」
「日和は言われ慣れてると思うけど、私は初めてだったからさ。しかも、後輩男子に。これってモテ期かな?」
「変な男に引っかからないでくださいね」
偏見ではあるものの、飯塚先輩はすぐ罠に引っかかりそうだ。
あまり悪くは言いたくないが、彼らは多少可愛くて付き合えるなら誰でも良いと思っている。
「行きましょっか。結花も待たせちゃうかもしれないので」
ここで話し込むわけにもいかない。
本日は、昨日完成したポスターのデザインを元に清書する予定だ。
清書に際して、美術部である結花の力を借りることにした。
突然の頼みであったが、結花は嫌な様子は一切見せず、すぐに承諾してくれた。妹には頭が上がらない。今度何かプレゼントしてあげよう。
話がまとまったところで僕の家に向かうため校門を出る。
僕と千丈先輩が前を行き、日和と飯塚先輩が後ろ付いていく形となった。
「ごめんね。最上くんが色々教えてくれたのに、何一つできなくて」
僕が声をかけるよりも先に、千丈先輩が口を開いた。
「別に気にしなくて良いですよ。日和から聞きました。一年の時に、授業の発表で泡吹いて倒れたって」
「恥ずかしいこと言われちゃったな。昔から人前は苦手なんだよね。多くの視線に晒されると身動きが取れなくなっちゃうんだ」
「そうなんですね。なら、言遊部に入ったってすごいですね」
「え? どうして?」
「だって、今の言遊部は千丈先輩一人なんですから、先輩は一人で入部を希望しに行ったんですよね。少なくとも五人の視線には晒されることになった。それを拒まずに入部届を出したんですから、相当な思いがあったんじゃないですか?」
「……」
「なら、なおさら廃部にはさせられないですね」
「最上くん……」
千丈先輩の口元がだんだん閉まっていく。
その様子を眺めていると、彼女の目元から大量の涙が出てきた。
「えっ! ちょっと待ってください!」
思わぬ出来事に焦らないはずもなかった。
女子を泣かせてしまった。後ろにいる二人に見られたら何を思われるだろうか。
「ごめん。嬉しくって。まさか褒められるとは思ってなかったから」
ブレザーで涙を拭う。
ひとまず、悪い意味で泣いている訳じゃなくて良かった。知らぬうちに傷つけてしまったかと思った。
「文也~」
ふと、肩に手を置かれる。
その手は呼び止めるには握力が強すぎた。
振り向くと、日和が真顔でこちらを見ている。どうやら、泣かせてしまったことに気づかれたみたいだ。それも、不都合なことに悪い事をして泣かせたと思われたみたいだ。
「なーにしてるのかなー?」
「これには深い訳が……」
脅威の視線に晒され、言葉がうまく出ない。
千丈先輩の気持ちが今なら分かる。どうやら、人の視線には毒の作用があるみたいだ。
飯塚先輩に連れられ、僕は日和と千丈先輩の待つ校門付近にやってきた。
「気にしてないよ。何かあったの?」
日和は不思議そうな表情で聞いてくる。
彼女に関連しての内容のため言うべきか迷う。
「ちょっと……雑談を……」
少し迷ってから、本人の想像に任せるように覚束ない返事をする。
「へぇ~。文也がクラスメイトと雑談なんて。仲の良い友達ができたみたいで良かった」
仲が良いか。弁解したい気持ちはあるが、日和が喜んでくれているので黙ることにした。
「ところで……」
言いながら視線を日和から横に逸らす。
千丈先輩は昼頃と変わらず項垂れていた。彼女の頭上には不調を示すように縦線が何本も引かれているように見える。
「千丈先輩は……まだ落ち込んでますよね……」
「うん。心配だったから迎えにいったんだけど、クラスでもこんな様子だった。一人哀愁漂わせて座ってたんだよね」
昼食時間に行われた部活勧誘は失敗で終わった。
あの後、何も話すことなく教室を立ち去っていった。側から見れば不審者に見えなくもないが、クラスにいた生徒のほとんどは日和に夢中になっていたので、気づけばいなくなっていた程度に思っていることだろう。
一発目で心が完全に折れ、その後は動けずじまいでチャイムが鳴った。
今日の戦績はゼロ。むしろマイナスかもしれない。今の調子では部活勧誘どころかイベント開催すら怪しい。
何人も集めておいて、何も話せず終わったら示しがつかない。
「ところで……」
今度は日和の視線を走らせる。
定まった先は僕の隣だった。
「杏子はどうしたの?」
僕もまた隣に視線を運ぶ。
そこには、だらしのない笑顔を見せる飯塚先輩の姿があった。
「ねえねえ、日和。私ってそんなに可愛いかな?」
ポリポリ頰を掻きながら惚気るように口走る。
「えっ! うん。可愛いと思うけど」
「そうかなー! えへへ、えへへ」
鼻を下伸ばし照れるように笑う。
日和は少し引き気味な表情で飯塚先輩を見る。それから助けを乞うように僕を見た。流石に説明が必要だよな。
「僕のクラスメイトが可愛いって言ったんです。僕に向けて言ったんですけど、距離が近かったから飯塚先輩にも聞こえたんでしょうね」
「そういうことね」
「日和は言われ慣れてると思うけど、私は初めてだったからさ。しかも、後輩男子に。これってモテ期かな?」
「変な男に引っかからないでくださいね」
偏見ではあるものの、飯塚先輩はすぐ罠に引っかかりそうだ。
あまり悪くは言いたくないが、彼らは多少可愛くて付き合えるなら誰でも良いと思っている。
「行きましょっか。結花も待たせちゃうかもしれないので」
ここで話し込むわけにもいかない。
本日は、昨日完成したポスターのデザインを元に清書する予定だ。
清書に際して、美術部である結花の力を借りることにした。
突然の頼みであったが、結花は嫌な様子は一切見せず、すぐに承諾してくれた。妹には頭が上がらない。今度何かプレゼントしてあげよう。
話がまとまったところで僕の家に向かうため校門を出る。
僕と千丈先輩が前を行き、日和と飯塚先輩が後ろ付いていく形となった。
「ごめんね。最上くんが色々教えてくれたのに、何一つできなくて」
僕が声をかけるよりも先に、千丈先輩が口を開いた。
「別に気にしなくて良いですよ。日和から聞きました。一年の時に、授業の発表で泡吹いて倒れたって」
「恥ずかしいこと言われちゃったな。昔から人前は苦手なんだよね。多くの視線に晒されると身動きが取れなくなっちゃうんだ」
「そうなんですね。なら、言遊部に入ったってすごいですね」
「え? どうして?」
「だって、今の言遊部は千丈先輩一人なんですから、先輩は一人で入部を希望しに行ったんですよね。少なくとも五人の視線には晒されることになった。それを拒まずに入部届を出したんですから、相当な思いがあったんじゃないですか?」
「……」
「なら、なおさら廃部にはさせられないですね」
「最上くん……」
千丈先輩の口元がだんだん閉まっていく。
その様子を眺めていると、彼女の目元から大量の涙が出てきた。
「えっ! ちょっと待ってください!」
思わぬ出来事に焦らないはずもなかった。
女子を泣かせてしまった。後ろにいる二人に見られたら何を思われるだろうか。
「ごめん。嬉しくって。まさか褒められるとは思ってなかったから」
ブレザーで涙を拭う。
ひとまず、悪い意味で泣いている訳じゃなくて良かった。知らぬうちに傷つけてしまったかと思った。
「文也~」
ふと、肩に手を置かれる。
その手は呼び止めるには握力が強すぎた。
振り向くと、日和が真顔でこちらを見ている。どうやら、泣かせてしまったことに気づかれたみたいだ。それも、不都合なことに悪い事をして泣かせたと思われたみたいだ。
「なーにしてるのかなー?」
「これには深い訳が……」
脅威の視線に晒され、言葉がうまく出ない。
千丈先輩の気持ちが今なら分かる。どうやら、人の視線には毒の作用があるみたいだ。
10
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
高校では誰とも関わらず平穏に過ごしたい陰キャぼっち、美少女たちのせいで実はハイスペックなことが発覚して成りあがってしまう
電脳ピエロ
恋愛
中学時代の経験から、五十嵐 純二は高校では誰とも関わらず陰キャぼっちとして学校生活を送りたいと思っていた。
そのため入学試験でも実力を隠し、最底辺としてスタートした高校生活。
しかし純二の周りには彼の実力隠しを疑う同級生の美少女や、真の実力を知る謎の美人教師など、平穏を脅かす存在が現れ始め……。
「俺は絶対に平穏な高校生活を守り抜く」
そんな純二の願いも虚しく、彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。
やがて純二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。
実力を隠して平穏に過ごしたい実はハイスペックな陰キャぼっち VS 彼の真の実力を暴きたい美少女たち。
彼らの心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
陽キャグループを追放されたので、ひとりで気ままに大学生活を送ることにしたんだが……なぜか、ぼっちになってから毎日美女たちが話しかけてくる。
電脳ピエロ
恋愛
藤堂 薫は大学で共に行動している陽キャグループの男子2人、大熊 快児と蜂羽 強太から理不尽に追い出されてしまう。
ひとりで気ままに大学生活を送ることを決める薫だったが、薫が以前関わっていた陽キャグループの女子2人、七瀬 瑠奈と宮波 美緒は男子2人が理不尽に薫を追放した事実を知り、彼らと縁を切って薫と積極的に関わろうとしてくる。
しかも、なぜか今まで関わりのなかった同じ大学の美女たちが寄ってくるようになり……。
薫を上手く追放したはずなのにグループの女子全員から縁を切られる性格最悪な男子2人。彼らは瑠奈や美緒を呼び戻そうとするがことごとく無視され、それからも散々な目にあって行くことになる。
やがて自分たちが女子たちと関われていたのは薫のおかげだと気が付き、グループに戻ってくれと言うがもう遅い。薫は居心地のいいグループで楽しく大学生活を送っているのだから。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる