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2章:千丈真奈(部員を5人集めよ)

言遊部の創設事情

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「言遊部のポスターって持ってたりしますか?」

 色々な施策の中で、最初に取り組むことになったのは『ポスター作り』だ。
 まずは現在の言遊部のポスターがどうなっているのか知る必要がある。

「あるよ。スマホに保存しているやつだからみんなで見るには小さいかもしれない。実物が下駄箱にあるから実際に見に行く?」

 下駄箱にあるのか。
 今朝眺めていたが、言遊部のポスターは見当たらなかった。見逃していたみたいだ。

「掲示する場所も考慮したいから、見に行った方が良さそうだね」

 僕よりも先に日和が答える。
 異論はないので頷く。飯塚先輩も特に何も言わなかった。
 決まったところで席を立つ。貴重品は身につけ、荷物は鞄の中に入れてから廊下に足を運んだ。

「そういえば、前の部長はどうして言遊部なんて作ったの?」

 四人で歩く最中、奥の隣にいた飯塚先輩が前を歩く千丈先輩に問いかける。
 確かに気になる話ではある。千丈先輩も言っていたが、雑談と言われても差し支えない部活だ。

 わざわざ部活として活動しようと思ったからには、創設者の強い思いがあるに違いない。理念をうまく活用すれば、部員を増やすことは可能だ。会社の人事部ってこんな感じなのだろうか。

「前部長が言うには、『言葉に向き合う時間』が欲しかったらしい」

「言葉に向き合う時間?」

「なんて言うか、言葉って人によって感じ方に曖昧さがあるじゃん。自分にとっては何気ない言葉でも、言われた側には鋭利な刃物となって突き刺さる可能性がある」

 千丈先輩は前を歩いているため、僕からは彼女の表情は分からない。だが、彼女の声音から自分にとっても心当たりがあるように感じられた。

「だからみんなの思う言葉の意味について知りたかったって言ってた。授業後の雑談でするとなると、会話を逸らす可能性がある。だから部活としてやることで向き合う理由を作ったみたい」

「しっかりした理念ですね」

 思っていた以上に、創設者には相当な理由があって言遊部を作ったみたいだ。今の話を聞く限りでは、廃部にするのは惜しい部活だ。

「でも、そんな重い理由だと誰も来ないだろうから『遊ぶ』ってつけたらしい。ぶを部活の部に置き換えているあたり遊んでいる感じするしね」

「確かに創設理由が重すぎると、入部するには気が引けるかもしれませんね。部活は楽しんでやりたいと考える人が多いと思いますから。飯塚先輩とかは絶対に入りたくないだろうな」

「うわっ! まさか振られるとは! 最上くんは失礼だな。今の話を聞いたら入りたくなったよ」

「でも、扱う言葉によっては空気が重たくなるかもしれませんよ」

「その時は……体調悪くなったって言って早退する」

「下手すると、一生活動できなそうですね」

 そのうち幽霊部員となりそうだ。まあ、幽霊部員であっても、部員一人と数えられるのだから言遊部にとってはプラスか。

「逆に文也は入りそうな部活だね」

「確かに! 最上くんは好きそうだ」

「おぉ! もしかして、新入部員第一号になってくれたり!」

 千丈先輩は目を輝かせながらこちらを見る。獲物を発見した狩人の目だ。
 できる限り、僕は自由でいたい。そのためにも、秘策を使うべきか。

「別に入っても構わないですが、日和と遊ぶ時間がなくなっちゃうな」

 自分の意志としては入りたいことを伝えつつ、やむを得ない理由があって入れないことを伝える。これによって、好感度は下がらずに、入部を拒否できる。

「うわっ……惚気だ……」

 飯塚先輩は引くような表情を見せる。前にいる日和は無言のまま潤った瞳で僕を睨む。感動しつつも卑怯だと告げているみたいだ。

「日和って最上くんと付き合っているんだ? ああ、だから垢抜けたんだね」

 千丈先輩は僕と日和が付き合っているという事実を知らない。そのため、驚きつつも納得した様子で僕と日和を交互に見る。

「日和は何か部活に入っているんだっけ?」

「えっ! 私! 私は……どこにも所属してないけど……」

 不意に振られたことにびっくりしながら答える。
 狩人の目が再び輝いた。なんとなく何が言いたいのか察しがつく。

「なら、二人まとめて言遊部に入るのはどうよ?」

 やはり、そう来たか。照準を切り替えさせて回避しようと思ったら、両方に目をつけたみたいだ。だが、二兎追うものは一兎も得ず。

「いいですけど、そうなると僕と日和のイチャラブで部が崩壊するかもしれないですよ」

「イチャラブッ!」

 日和は驚愕したため大きな声を出す。
 満更でもない感じだ。まさか部活動恋愛に興味を持っているとは。

「あー、それは嫌だな。やっぱり願い下げで」

 千丈先輩は実際に想像したらしく、引き攣った顔で却下する。
 雑談している間、誰にも気づかれないようにテーブルの下で手をつなぐ。それだけに留まらず、次第に椅子が近づき体を寄せ合うようになる。

 やっている本人としては悪くないシチュエーションだ。
 しかし、周りからしたら活動の邪魔としか思えないな。

「そ、そうだよねー」

 日和は安堵したように返事をする。その声音には寂しさが感じられた。
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