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2章:千丈真奈(部員を5人集めよ)

言遊部の活動事情

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「なるほど。ごめんね。私が未熟なばかりにために余計な負担をさせてしまって」

 経緯を聞いたところで、千丈先輩は謝罪しながら頭を垂れた。
 千丈先輩は優しい方みたいだ。そして、非常に自己肯定感が低い方みたいだ。

「それにしても、流石は四宮先生だね。こんな私に応援を寄越してくれるなんて。人望故なのかな」

「はは、人望……」

「何か面白いこと言ったかな? はは、なんていうか独特な感性を持ってるね」

 褒められているのか、貶されているのか分からない物言いに「まあ……」と曖昧な返事をしておく。側から見れば人望がありそうに見えるのか。

 先生の言葉どおり、僕が「先生に召使扱いを受けている」と言っても誰も信じてくれないかもしれない。僕自身も人望を手に入れた方が良さそうだな。そのためにも任務を……これって本末転倒では無かろうか。

「最上くんだっけ? 恐れ入りますが、ご協力よろしくお願いします」

 席に座った状態で頭を下げる。
 一つ年上の先輩に礼儀正しくされるのはむず痒い。頭を掻きながら「よろしくお願いします」と返した。

 ふと、敵意のある視線を感じる。
 横に顔を向けると、日和が訝しげな様子で僕を見ていた。

「何かあった?」

「別に……」

 そっぽを向かれる。
 明らかに何かあった様子だが、まずいことでもしてしまっただろうか。

「日和って案外面倒くさいね」

 飯塚先輩は吹き出すように言う。
 微笑した彼女はすぐに顔を引きつった。反射的に手を足にやる。どうやら、日和に踏まれたらしい。何を怒っているのだろうか。

「話が脱線しちゃったね。それで、今日なんだけど真奈ちゃんに色々と聞きたいことがあって来たの」

 話が脱線源である日和が話をレールに乗せる。
 飯塚先輩を抜き去り、千丈先輩の隣に腰掛ける。僕は波に乗るように千丈先輩の向かい側に座った。ワンテンポ遅れて飯塚先輩も席に着く。

「大丈夫ですか?」

「結構強めに踏まれた。地雷だったかな」

 涙目を浮かべている様子から痛さは見て取れる。
 日和……僕が何をしなくとも、その気になればいじめっ子を撃退できたのではないだろうか。

「なんでも聞いて。答えられることには答えるよ」

「ありがとう。えっとね……」

 日和は鞄からノートを取り出す。昨日二人で話している最中に取ったメモを開こうとしているのだろう。

「まずは言遊部の活動内容について教えてもらっていいかな。まだ正直、私は何をするところか分かってないの」

「了解。とは言っても大層なことはしてないんだけどね。側から見たらただの雑談にしか見えないと思うし」

 千丈先輩は話しながらも周りをキョロキョロ見回す。彼女の視線の先を追うように僕も目を動かす。非常に乱雑な動きだった。

「日和は『学校』って言われて思い浮かべるものは何?」

「……『勉強』かな」

 僕も同じことを考えていた。恋人同士通じ合っているのか、ぼっち同士通じ合っているのか。

「じゃあ、次は最上くん。『勉強』と言われて思い浮かぶものは?」

「テストとか……」

「じゃあ、最後にえっと……」

 飯塚先輩の顔を見ながら言い淀む。おそらく名前を分かっていないのだろう。

「飯塚 杏子だよ。よろしくね」

 同じタイミングで察知したようで、飯塚先輩ははにかんで答える。

「よ、よろしく。飯塚さんは『テスト』で思いつくことはある?」

「んー、『憂鬱』かな。特に数学がね。学年が上がってどんどん難しくなっているんだよね」

 言ったことを体現するようにテーブルに顔を伏せて項垂れる。千丈先輩は嫌なことを思い出させてしまったことに罪を感じたのか「ごめん」と謝罪した。

「なんだかブレインストーミングみたいだね」

 雰囲気を立て直すように日和が口にする。

「うん。ただ、まだ序盤に過ぎないよ。じゃあ、今言った中で……えっと……『数学』から発展して『教科』について考えてみよっか」

 千丈先輩はポケットからスマホを取り出すと画面を慣れた手つきで操作する。

「教科は『学校で、教育の目的・方法、生徒の発達などに応じて、授業の材料を分けたもの』って言う意味らしい。では、現在の我が校の教科は『教育の目的や方法、生徒の発達』に応じているだろうか?」

 彼女から投げかけられた問いに対して、しばし沈黙が続く。

「みたいな感じで『言葉』を取って色々と議論をしていく部活だよ」

 静寂に耐えられなかったのか、千丈先輩は話を強制的に区切る。額にはほのかに汗が流れていた。僕たちはしばらくポカンとした表情をしていた。

「あんまり面白くないよね」

 静かな状態=つまらないと捉えたみたいで、露骨にテンションが下がったのが見受けられる。

「そ、そんなことないよ! 考えてたら強制的に打ち切られて戸惑っただけというか」

「ごめん、一生懸命考えてくれてたのに打ち切っちゃって」

「い、いや……大丈夫だよ。そんなに一生懸命だったわけじゃないから」

「一生懸命じゃなかったんだ。やっぱりつまらなかったよね」

「だからそうじゃないって!」

 自己肯定感のなさが彼女の気分を地の果てまで叩きつける。焦る日和の様子はなんだか可愛く感じた。

「でも、好きな人は好きそうな活動だと思いますけどね」

「ほ、ほんと!」

 カバーするように放った一言がとても効いたようで、千丈先輩は花のように表情を開かせて僕を見る。分かりやすい人だな。

「え、えぇ……勉強が得意な生徒とかは好きそうな気がします。それに、昨今は受験で小論文とか書かされるので、こう言うトレーニングは必要になってきますから今の時代の部活って感じで良さそうだとは思いました」

「ははー、最上くんは褒めるのが上手だね。そうさ。言遊部は最先端の部活なんだ! やっぱり存続させるべきだよ!」

 まるで天と地がひっくり返ったように千丈先輩は上機嫌になっていた。扱いやすい人だな。

「部活の内容が分かったので、それを加味しつつ色々な施策を検討していきましょう」

 部活内容の把握、依頼人のご機嫌が取れたところで、僕たちは次なるステップに足を進めた。
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