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1章:安藤日和(クラスの友達を一人作れ)

秘密の暴露2

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「日和に一目惚れしたと言うのは嘘だったんだ」

 僕がそう言うと、日和は呆気にとられたような表情を見せる。

「勘違いしてもらったら困るんだけど、今は日和のことが好きだよ。それは間違いない。ただ、最初は違ったってだけ」

 両手を宙でふわふわさせながら話す姿が滑稽だったのか、日和は吹き出すようにして笑った。

「なら良かった。でも、そっか。一目惚れじゃなかったんだ。じゃあ、何に惚れたの?」

「えーっと、最初に日和と会った時は、実は惚れてすらいなかったんだ。ただ、四宮先生に頼まれたから尾行することになっただけで」

「四宮先生に頼まれた? あー、もしかして私がカウンセリングしてもらった時に気を遣ってくれたのか。でも、なんで文也に?」

「決して意図があったわけじゃないんだけど、日和がカウンセリングしていた時に一番奥のベッドで寝てたんだ。うまく寝付けなくて、意識が失くなる前に日和が先生と話していたから盗み聞きすることになってしまったんだ。それを先生に見抜かれて、『日和がクラスメイトの友達を作るのを手伝え』って言われたんだよ」

「あの時にいたんだ。先生は寝ているもんだと思ったのかな。じゃあ、なんで寝付けなかったことを見抜けなかったの?」

「もともと頼むつもりだったんだよ。先生は持病のことを知っているから寝付けない可能性を考慮して聞いたに過ぎない。聞いてないって言われたら、教えられていただけだよ」

「四宮先生が生徒を使うなんて思わなかったな。話が戻っちゃうけど、どうして文也は頼まれたの? まさか先生とできていたり!?」

 名推理と言わんばかりに、瞳をキラッとさせて僕を見る。

「まあ、秘密を共有する仲にはなったね?」

 いくら秘密を暴露と言っても、流石にエロ漫画やAVの話を女子にはできない。

「秘密を共有する関係……怪しい……私には教えてくれないの?」

「言ってもいいけど、公共の場で言えるようなことではないかな。それと、聞いてしまえば僕とも四宮先生とも微妙な雰囲気は避けられないと思う」

「……浮気じゃないよね? 元々、四宮先生とそういう関係だったとかじゃないよね?」

 今までの失態の積み重ねのせいで『最初に浮気を疑われること』を避けられなくなってしまっていた。全部誤解なのが辛いところだ。

「もしそうだったら、僕の口から話すわけないよ。だから断じてそんなことはない。信じてほしい」

「そう言われたら信じるけど……すごく気になるんだよね。秘密を共有する関係っていうのが」

「どうしても気になるなら、今度僕の家に来た時に話すよ。あと四宮先生には絶対に聞かないでね」

 日和の命が危うくなる。そして、僕は間違いなく殺される。文字通り『絶体絶命』だ。今度こそあのカッターナイフが僕の首筋を通り過ぎるだろう。

「文也がそういうなら分かった。そっか。じゃあ、互いに最初は好きという関係ではなかったのか。なんというか……残念だったような……安心したような……変な感じだな」

「でも、お互いに騙し合っていたのは案外良かったかもね」

「だね。文也から教えてもらって前よりも罪悪感は消えた気がする。それに、今はお互いに好きなんだから」

 蟠りが消えたことにほっとしたのか、日和は一息ついてコーヒーを啜り始める。

「そういえば、日和はどのタイミングで僕を好きになったの?」

 ほんの世間話程度のテンションで問いかけると、日和はコーヒーを吹き出す。食道に変な形で入ってしまったようで咽せるのを止められないでいた。

「ごめん。そんなに動揺するとは思わなかった」

 手元にあった紙ナプキンを渡す。日和は受け取ると、紙ナプキンで口を覆いながらゆっくりと呼吸を始める。

「ふっ~。も~う、いきなり聞かれたら動揺するに決まってるよ」

「そっか。まあ……そっか。うん、そうかもしれない」

 自分が逆の立場で考えてみるが、確かに今の日和みたいに咽せる自分を想像できる。飲み物を飲んでいる時に恋バナは厳禁だな。

「話は戻るけど、日和が僕を好きになったタイミングは?」

「うーん、多分だけど、休日デートの時の喫茶店かな。文也くんの寝顔が可愛かったから」

「よくそんなところで落ちましたね」

 思わず顔を引き攣る。まさか寝顔で落ちてしまうとは思わなかった。

「人の恋心に対して、その言い方はないんじゃないかな?」

 日和は唇を尖らせ、不満そうな顔を見せてくる。確かに、今の反応はあまりよろしくなかったかもしれない。

「ごめん。信じられなかったから」

「寝顔が可愛かったのはもちろん。ただ、そこで落ち着けたってのもあるかな。カモフラージュで付き合ったのに、心底楽しそうにデートしてる自分に驚いたんだ。もしかして、この人が運命なのかなって……それが今日で確信に変わった。やっぱり文也は私にとってのヒーローだった」

 屈託のない表情で笑みを浮かべる日和の姿を眩しく感じる。本当に思っていることが伝わる表情で、聞いているこっちも嬉しくなるし、同時に恥ずかしくもなる。

「逆に文也はどこで好きになったの?」

 それは日和も同じだったようで、恥ずかしさを紛らわせるように逆質問をしてきた。

 僕が恋に落ちた瞬間か。記憶を辿りながら口を開く。

「最初は天音さんと対面した時だったと思います。単純に『好き』と言ってくれたのが嬉しかったので。それから……確信に変わったのは、日和の家に行った時ですね」

「もしかして……私の下心が効いた?」

「そこじゃないよ。姉さんから僕の過去話を聞かされて、優しくしてくれたのが嬉しかったんだ。中学の頃は叩かれてばかりだったから。身体的にも、精神的にも」

 重い話になってきてしまった。これじゃあ、せっかくのおしゃべりが台無しだな。

 そう思って話題を変えようとした瞬間、机に置いていた手が握られる。
 見ると、向かい側から伸びた手が僕の手に添えられていた。綺麗な手の先からゆっくり顔の方へ向ける。

 日和は穏やかな笑みで僕を見ていた。
 母親のように、母性溢れる目で僕を見つめる。

「当たり前だよ。だって、文也の気持ちは誰よりもわかるから」

 そっか。種類は違えど、僕たち二人は自分にはどうにもできないことで他人から蔑まれていたのだ。痛みが分かるから寄り添えた。簡単な話だ。

「ありがとう」

 僕は手を裏返し、日和の指に指を絡ませる。
 互いの秘密を分かち合ったことで、距離がより一層近づいた気がした。
 僕たちはお互いの存在を確かめるように、しばらくの間、手を握り合いながらお喋りを交わしたのだった。
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