保健室の先生に召使にされた僕はお悩み解決を通して学校中の女子たちと仲良くなっていた

結城 刹那

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1章:安藤日和(クラスの友達を一人作れ)

三人での寄り道

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 一件落着したところで、僕たちは寄り道がてらゲームセンターを訪れていた。

 日和と来たことのあるゲームセンター。飯塚先輩は途中まで日和と一緒の帰路だったため、別れる場所となる駅付近で遊ぶことにした。

「いやー、楽しかった!」

 飯塚先輩は清々しい表情で、モリオカートVRのコーナーから出ていく。とても楽しんでくれたみたいだ。改めてプレイするのは数日ぶりだったが、僕の中での高揚感も未だ健在だった。

「ねぇねぇ、次はあれ乗らない?」

 僕の方を叩き、飯塚先輩は言う。見ると、もう一方の手は日和の肩に乗っけていた。顔で指しているようで、全く違う方を向いている。
 彼女の視線の先に目を合わせる。そこにあったのは『脱出病院』と書かれたホラーVRだ。

 なんだかデジャブを感じる。

「飯塚さんってホラー系好きなんだ?」

「うん! 大好き! ホラーとか絶叫マシンとか心臓バクバクするやつが好きなんだよね」

「わかる! 生きてるって感じするもんね!?」

「そ、そうなんだよ!」

 飯塚先輩がホラー好きであるとわかった瞬間、日和のテンションが高くなる。不意に声を大きくする日和に、飯塚先輩は驚くものの悪い気はしていない様子だ。むしろ同じ趣味を見つけて喜ばしく思っているみたいだった。

「文也はどうする?」

「僕は待っているよ。今日は流石にホラーはもういいかな」

「え、なんで?」

「文也は私たちと違ってホラー苦手だから」

「へぇー、結構可愛いところあるじゃん」

 後輩の弱点を知れて嬉しく思ったのか嫌らしい目でこちらを覗く。僕はあしらうように「はいはい。早く行ってください」と手を前後に振った。

 二人が『脱出病院』に足を運んでいくのを見送ってから、周りをキョロキョロと見回す。すると、UFOキャッチャーのところに既視感のあるぬいぐるみを発見した。

 ウサギのぬいぐるみ。
 どこで見たか記憶を辿っていく。予想以上に早い段階で既視感の正体が分かった。日和の部屋にあるベッドの枕元に置いてあったのだ。

 枕元にあったぬいぐるみと同種類だが、大きさが少し小さい。
 取ったら喜んでくれるだろうか。そう思いながらポケットから財布を取り出し、百円玉を入れる。

 こちらに向けて縦に寝そべっている。
 まずは正攻法を試そうと、アームを首の位置に持っていって降ろしていく。うまく掴んだもののアームの力が弱く、持ち上がることはなかった。

 アームの力が乱数設定になっているのだろうか。
 少しやり方を変えよう。五百円玉を投入し、6プレイできるようにする。アームの落とす位置をぬいぐるみよりもやや横や手前にすることでゆっくりと移動させていく。

 移動させていくとはいえ、最終的には持ち上げなければいけない。
 なるべく受け口付近まで持ってきたところで、受け口にアームを挟むようにして持ち上げる。

 だが、うまくはいかなかった。

「何してるの?」

 どうしたものかと悩んでいたところで後ろから声をかけられる。
 振り向くと、飯塚先輩が僕の隣についていた。VRは終わったようだが、日和はどこに行ったのだろう。

「安藤さんならトイレだよ」

「そうですか。良かった……」

「もしかして、安藤さんにプレゼント?」

 安堵で漏らした言葉を逃さぬように拾ってくる。飯塚先輩は抜け目がない。

「はい。ただ、うまく取れないので、どうしようかと」

「私に任せて」

 飯塚先輩はそう言って、スマホを使ってゲーム料金を支払った。
 僕は横にそれて場所を譲る。飯塚先輩は真ん中に位置するとプレイを始めた。アームはぬいぐるみから外れた位置に落とす。

「何してるんですか?」

「良いから見てなって」

 自信ありげに告げる。僕は黙ってアームを覗いた。
 アームが持ち上がると、まるでマジックのようにぬいぐるみがひっついてくる。良く見ると、ぬいぐるみに付けられたプラスチック製の輪っかに引っかかっていた。

 アームは受け口に達して再び開く。引っかかった部分はなんとかずれ落ち、無事に受け口にぬいぐるみが落ちていった。

「すごいですね」

「でしょ! でも、途中まで君がやってくれたから取りやすかったんだ。私はただ、最後に添えただけ。はい、どうぞ!」

 受け口からぬいぐるみを取って僕に渡す。
 この人は本当に抜け目がないな。配慮の天才とでも言おうか。

「お待たせー。何やってるの?」

 ちょうどそのタイミングで日和が戻ってくる。

「最上くんが安藤さんのために取ってくれたんだ」

 飯塚先輩がアシストしてくれたので、それに肖ってぬいぐるみを渡す。

「これ……日和の部屋のベッドにあったから……」

「覚えてくれてたんだ。ありがとうね!」

 日和は僕に笑顔を向けて、感謝の言葉を伝えてくれた。
 
「へぇ~、お二人はそんな仲まで発展してたんだね」

 飯塚先輩は人の言葉を逃さない。ニヤニヤする口を手で押さえながらこちらを覗く。

「違いますから」「違うから!」

 僕らは強く否定する。嫌らしい雰囲気になったのは確かだからか、日和の否定口調は強いものだった。

「大丈夫、大丈夫。誰にも言わないから」

 強い否定が悪手となり、飯塚先輩は誤解を鵜呑みにしてしまった。
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