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1章:安藤日和(クラスの友達を一人作れ)
姉妹の訪問
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翌日は静かな時を過ごしていた。
日和先輩は地元の友達と遊び、天音さんは『モリカVR』をするためゲームセンターに行っていた。
昨日のことがあった手前、僕は天音さんについていくわけにはいかず、一人家でゆっくりと過ごすことになった。
一人暮らしの生活というのは呑気なものだった。
実家にいる時は、他の家族の生活の流れに沿って起床したり、ご飯を食べたりしていた。しかし、一人暮らしでは基準が全て自分だ。
学校生活どおりに起きるのは叶わず、目が覚めたとしてもスマホ片手に布団から離れずじまいだった。十一時頃にようやく起き上がり、朝食と昼食を合わせたご飯をいただく。
午後からは読書でもするか。
そんなことを思いながら味噌汁を啜る。
ピンポーン。
すると、部屋のインターホンが押された。
訪問者に心当たりはない。配達物も頼んでない。一体誰だろうか。
重い足を起こし、玄関まで運んでいき、ドアを開けた。
「久しぶり。お姉ちゃんがやってきたぞ」
「いきなり押しかけてごめんね。お兄ちゃん」
目の前には顔馴染みの二人がいた。
向かって右側に佇む姉の最上 桐花(もがみ きりか)は白いカットソーにジーンズを着飾っている。吊り目の瞳は獲物を狙う狩人のよう。緩んだ口元は心の余裕を表している。黒髪短髪。外側に跳ねているのは本人の髪質のせいだ。
そして、向かって左側に佇む妹の最上 結花(もがみ ゆか)は白いワンピースを着ていた。桐花姉さんとは対照的なおっとりとした優しい瞳。ショートボブの前髪にはリンゴのヘアピンをつけている。
本人の年齢以上に胸の成長は早く、桐花姉さんと同等、いや、それ以上に大きい。一番上の姉である綾花姉さんの遺伝子系列と見ていいだろう。
「お兄ちゃん、どこ見ているの?」
二人の姿を眺めていると、結花が疑問の表情を浮かべて尋ねる。
いかんいかん。完全に視線を持っていかれていた。さすがは万乳引力。恐るべし。
「なんでもない。いきなり来たからびっくりしただけ」
「本当は前もって連絡したかったんだけどね。お姉ちゃんがいきなり行きたいって言い出したから」
「文也……」
桐花姉さんは僕の名前を呼んで、妹よりも一つ前に出る。
どうしたのだろうかと彼女の顔を覗く。その刹那だった。
お腹あたりに大きな衝撃が走る。少し遅れてやってくる痛みを堪えながら僕はその場に蹲った。
「やっぱり。二週間も放置すれば体は鈍るか。文也、私がいないところでだらけるとはだらしがないぞ」
桐花姉さんは玄関で蹲る僕を上から罵る。
僕が彼女の吊り目が獲物を狙う狩人のように見えたのは、彼女の性格を知っているからだ。
一言で表せば『暴力女』。
他二人の姉妹とは違って、桐花姉さんだけは血気盛んな男子並みに、暴力を繰り返している。その上、格闘技を習っているのでタチが悪い。
ただ、暴力女にも関わらず、彼女はみんなに慕われている。
なぜなら、桐花姉さんは頭脳明晰ゆえに力の使いどころを心得ているのだ。
基本的に、自ら暴力を行うことはしない。暴力を使うのは、他の誰かが嫌がらせやいじめを受けている時だけだ。正義の上での暴力であるからこそ、口出しするのは難しい。まとめると『ズル賢い』のだ。
しかし、僕に限っては例外だ。
桐花姉さんは、僕だけには自主的に暴力を振るう。姉弟唯一の男であり、中学時代に持病でたくさん迷惑をかけたことが理由だ。
とはいえ、いきなり来られて殴られるのは勘弁願いたいものだ。
「大丈夫?」
結花は蹲る僕の背中をさする。桐花姉さんとは対照的に優しい妹だ。二人並べるとまるで『飴と鞭』だな。
「結花、同情はいらないぞ。中学時代であれば、今の攻撃は受け切れたはずだ。歳を重ねているのに退化してどうする」
「ごもっともではあるけど。人生には休息が必要な時もあるんだよ。特に新学期始まってすぐだから生活に馴染めてすらいないしね」
喋りながらゆっくり上体を起こす。結花は僕の腕に自分の手を添え、立ち上がる援助をしてくれた。
「一理あるな。だが、馴染めていないからこその利点もある。今のうちにトレーニングの習慣をつけておけば、当分は怠けることはなくなるだろう。ということで、私から文也にプレゼントだ」
桐花姉さんは左手を右手首に添え、スマートウォッチを外した。
「新しいのを買ったから古いのは文也にあげるよ」
「あ、ありがとう」
ちょうど腕時計がなくて困っていところだ。スマートウォッチならなおさらありがたい。受け取ると、早速腕にはめた。
「そのスマートウォッチには歩数計がついている。文也は明日から毎日ランニングを行い、結果を私に報告すること」
装着した瞬間に、桐花姉さんは罠に引っかかった獲物を見るような目で僕を見つめながら、早口で喋り始めた。
しまった。完全に嵌められた。
「最初は3キロにしておくか。朝1.5キロ、夕方1.5キロだ。怠けた回数分、次回文也の家に来た時、腹パンを喰らわせるからな。精進してくれ」
「まじか……」
さっきのを怠けた数分。それも今回みたいに不意を狙ってではないから痛さは倍近くなるに違いない。走った方が身のためだろう。
「わかったよ」
僕は泣く泣く受け入れる。
「素直でよろしい」
承諾すると、桐花姉さんは今日一の笑顔を見せた。
体力だけでなく、瞬発力も鍛え直しておこう。
桐花姉さんもだが、学校にも面倒な先生がいるのだから。
日和先輩は地元の友達と遊び、天音さんは『モリカVR』をするためゲームセンターに行っていた。
昨日のことがあった手前、僕は天音さんについていくわけにはいかず、一人家でゆっくりと過ごすことになった。
一人暮らしの生活というのは呑気なものだった。
実家にいる時は、他の家族の生活の流れに沿って起床したり、ご飯を食べたりしていた。しかし、一人暮らしでは基準が全て自分だ。
学校生活どおりに起きるのは叶わず、目が覚めたとしてもスマホ片手に布団から離れずじまいだった。十一時頃にようやく起き上がり、朝食と昼食を合わせたご飯をいただく。
午後からは読書でもするか。
そんなことを思いながら味噌汁を啜る。
ピンポーン。
すると、部屋のインターホンが押された。
訪問者に心当たりはない。配達物も頼んでない。一体誰だろうか。
重い足を起こし、玄関まで運んでいき、ドアを開けた。
「久しぶり。お姉ちゃんがやってきたぞ」
「いきなり押しかけてごめんね。お兄ちゃん」
目の前には顔馴染みの二人がいた。
向かって右側に佇む姉の最上 桐花(もがみ きりか)は白いカットソーにジーンズを着飾っている。吊り目の瞳は獲物を狙う狩人のよう。緩んだ口元は心の余裕を表している。黒髪短髪。外側に跳ねているのは本人の髪質のせいだ。
そして、向かって左側に佇む妹の最上 結花(もがみ ゆか)は白いワンピースを着ていた。桐花姉さんとは対照的なおっとりとした優しい瞳。ショートボブの前髪にはリンゴのヘアピンをつけている。
本人の年齢以上に胸の成長は早く、桐花姉さんと同等、いや、それ以上に大きい。一番上の姉である綾花姉さんの遺伝子系列と見ていいだろう。
「お兄ちゃん、どこ見ているの?」
二人の姿を眺めていると、結花が疑問の表情を浮かべて尋ねる。
いかんいかん。完全に視線を持っていかれていた。さすがは万乳引力。恐るべし。
「なんでもない。いきなり来たからびっくりしただけ」
「本当は前もって連絡したかったんだけどね。お姉ちゃんがいきなり行きたいって言い出したから」
「文也……」
桐花姉さんは僕の名前を呼んで、妹よりも一つ前に出る。
どうしたのだろうかと彼女の顔を覗く。その刹那だった。
お腹あたりに大きな衝撃が走る。少し遅れてやってくる痛みを堪えながら僕はその場に蹲った。
「やっぱり。二週間も放置すれば体は鈍るか。文也、私がいないところでだらけるとはだらしがないぞ」
桐花姉さんは玄関で蹲る僕を上から罵る。
僕が彼女の吊り目が獲物を狙う狩人のように見えたのは、彼女の性格を知っているからだ。
一言で表せば『暴力女』。
他二人の姉妹とは違って、桐花姉さんだけは血気盛んな男子並みに、暴力を繰り返している。その上、格闘技を習っているのでタチが悪い。
ただ、暴力女にも関わらず、彼女はみんなに慕われている。
なぜなら、桐花姉さんは頭脳明晰ゆえに力の使いどころを心得ているのだ。
基本的に、自ら暴力を行うことはしない。暴力を使うのは、他の誰かが嫌がらせやいじめを受けている時だけだ。正義の上での暴力であるからこそ、口出しするのは難しい。まとめると『ズル賢い』のだ。
しかし、僕に限っては例外だ。
桐花姉さんは、僕だけには自主的に暴力を振るう。姉弟唯一の男であり、中学時代に持病でたくさん迷惑をかけたことが理由だ。
とはいえ、いきなり来られて殴られるのは勘弁願いたいものだ。
「大丈夫?」
結花は蹲る僕の背中をさする。桐花姉さんとは対照的に優しい妹だ。二人並べるとまるで『飴と鞭』だな。
「結花、同情はいらないぞ。中学時代であれば、今の攻撃は受け切れたはずだ。歳を重ねているのに退化してどうする」
「ごもっともではあるけど。人生には休息が必要な時もあるんだよ。特に新学期始まってすぐだから生活に馴染めてすらいないしね」
喋りながらゆっくり上体を起こす。結花は僕の腕に自分の手を添え、立ち上がる援助をしてくれた。
「一理あるな。だが、馴染めていないからこその利点もある。今のうちにトレーニングの習慣をつけておけば、当分は怠けることはなくなるだろう。ということで、私から文也にプレゼントだ」
桐花姉さんは左手を右手首に添え、スマートウォッチを外した。
「新しいのを買ったから古いのは文也にあげるよ」
「あ、ありがとう」
ちょうど腕時計がなくて困っていところだ。スマートウォッチならなおさらありがたい。受け取ると、早速腕にはめた。
「そのスマートウォッチには歩数計がついている。文也は明日から毎日ランニングを行い、結果を私に報告すること」
装着した瞬間に、桐花姉さんは罠に引っかかった獲物を見るような目で僕を見つめながら、早口で喋り始めた。
しまった。完全に嵌められた。
「最初は3キロにしておくか。朝1.5キロ、夕方1.5キロだ。怠けた回数分、次回文也の家に来た時、腹パンを喰らわせるからな。精進してくれ」
「まじか……」
さっきのを怠けた数分。それも今回みたいに不意を狙ってではないから痛さは倍近くなるに違いない。走った方が身のためだろう。
「わかったよ」
僕は泣く泣く受け入れる。
「素直でよろしい」
承諾すると、桐花姉さんは今日一の笑顔を見せた。
体力だけでなく、瞬発力も鍛え直しておこう。
桐花姉さんもだが、学校にも面倒な先生がいるのだから。
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