上 下
6 / 99
プロローグ

自己紹介

しおりを挟む
 翌日。僕は昨日と同じように学校に登校した。
 そして、昨日と同じように頭がぼーっとしたまま学校生活を送ることになった。

 昨夜もまた入眠困難・深夜覚醒のダブルパンチで十分な睡眠を取る事ができなかった。もしかしなくても、今日も四宮先生のお世話になることは間違い。

 眠い目を擦りながら教室の様子を見渡す。
 廊下側二番目の一番後ろが僕の席だ。ここからはクラス全体がよく見える。

 昨日とは打って変わって教室にいる生徒のほとんどがグループを作って喋っていた。入学式後のHR、授業後などでの交流によってできたものだろう。どちらにも参加できなかった僕はこの通りぼっちとなった。

 女子は全員何かしらのグループに入っている。
 男子は僕以外にもぼっちの生徒がちらほら見える。スマホでゲームをしていたり、律儀に勉強していたり、窓から外を見ていたりと過ごし方は多種多様だ。

 話しかけてみたい気持ちはないわけではないが、僕の席から距離が離れているため声をかけに行きづらい。

 せめて隣にボッチがいてくれれば。
 ふと視線だけを左に映す。隣にいるのは、性格が相容れない太陽のような明るいグループだ。声をかけようものなら蛇のように睨まれることは間違いない。

 次に前方に目を向ける。こちらは性格が合いそうなお淑やかなグループだ。しかし、性格が相容れない女子グループ。声をかけようものなら身の危険を感じて遠のかれるかもしれない。

 右に行こうが、前に行こうが精神的ダメージは逆らえないか。
 ひとりでにため息を吐くと、右側にある扉がガラッと開く。

 視界に入ったのは、容姿端麗な美少女だった。
 黒髪ロング。すらっとした体。第一ボタンまでしっかり止まったワイシャツ。膝丈まできちんと下がったスカートは彼女の育ちの良さを感じさせる。

 パーソナルスペースにずけずけと入ってくるタイプであれば、真っ先にナンパされそうな子だ。

 見惚れていると、彼女が僕を見る。

 冷徹な眼差しが僕を撃ち抜く。もし、龍がいるとしたら彼女の持つ瞳と同じものを持っているに違いない。そう思わされるほど彼女の瞳には狂気のようなものを感じた。

「どうも」

 俺は敵ではないことを示すようにお辞儀をしながら挨拶する。
 彼女は警戒を解いてくれたようで、瞳を閉じると一番近くの椅子に座った。

 どうやら、彼女は俺の右隣の生徒みたいだ。つまり、ペアワークをやろうものなら彼女と一緒になる。うまくやれるだろうかとまだない未来に畏怖する。

 彼女が座ってすぐチャイムが鳴る。
 同時に浅葱先生が教室に入ってきた。

「それじゃあ、HRを始めましょうか。相沢くんと風間さんに今日は日直をお願いしようかな」

 浅葱先生の指示で最前列の窓側にいる二人が号令をかける。
 クラスの全員が「おはようございます」と言って礼をした。
 高校生活が始まって二日目。新鮮な気持ちだからか、行動に真面目さが伺える。

「今日は三限にクラス写真、四限に新入生歓迎会があります。一、二限は教室でこれからの予定について説明して、余ったら自己紹介やらゲームやらしましょうか」

 先生の説明で教室がざわつく。
 自己紹介か。やるのは一年ぶりだ。

 中学三年生は周りに知っている人が多かったため無難な挨拶で終わった。
 しかし、このクラスでは完全なるアウェイ状態だ。地元から遠いし、入学式もろくに参加できなかったためにほとんどの生徒が僕を知らない。

 先生の説明を受けながら頭の中で自己紹介の内容について考える。
 僕の学校生活はこの自己紹介にかかっている。ここで爪痕を残す事ができれば、誰かしら声をかけてくれるに違いない。

「今のところわかってる予定はこれくらいかな。それじゃあ、時間が余ったから予定どおり『自己紹介』でも行っていきましょうか。じゃあ、相沢くんから順にお願いね」

 唐突に振られ、相沢という男子生徒が困惑する。それでも渋々立ち上がって名前、趣味、一言メッセージを口にした。彼がテンプレを作ったことで皆がそれに則って自己紹介をしていく。

「名前は城島 可憐ジョウジマ カレンです。間違えた。これは妹の名前でした。城島 光希ジョウジマ ミツキです。間違えた。これは兄の名前だった。俺の名前は……なんだっけ?」

 中には他愛のないボケをするもの。

「カードゲームで全国大会に出場しました! カードゲームに自信のある人は勝負しましょう!」

 同性受けは良いが、異性受けの悪いもの。

「中学では毎授業合間トイレに行っていたので『トイレの神様』と呼ばれていました」

 ニックネームで大喜利を行っている者もいた。
 あだ名で大喜利か。良いかもしれない。昨日に保健室で休んでいた理由を冗談めかして言えば、自己を面白く伝える事ができる。

「では、最上くん」

 ようやく僕の番がやって来た。
 話す事が決まって自信が沸いたため勢いよく立ち上がる。

「最上文也です。睡眠に難を抱えていて保健室にいることが多いと思います。なので、僕のことは『保健室の亡霊』と覚えてください」

 僕の一言で教室は静まり返った。
「昨日の早退はそう言うことだったのか」「大丈夫なのかな」「睡眠障害ってきついよね」などの小声が聞こえてくる。

 ギャグで言ったつもりだったが、面白さよりも心配が勝ってしまったみたいだ。

「保健室の亡霊って……ふふふっ……」

 ただ一人、右隣にいた例の彼女だけは笑いを堪えるように体を震わせていた。
 他のみんなが心配している中、爆笑している彼女はおそらくドSなのだろう。僕は教室の誰よりも彼女の性格を理解できた気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

高校では誰とも関わらず平穏に過ごしたい陰キャぼっち、美少女たちのせいで実はハイスペックなことが発覚して成りあがってしまう

電脳ピエロ
恋愛
中学時代の経験から、五十嵐 純二は高校では誰とも関わらず陰キャぼっちとして学校生活を送りたいと思っていた。 そのため入学試験でも実力を隠し、最底辺としてスタートした高校生活。 しかし純二の周りには彼の実力隠しを疑う同級生の美少女や、真の実力を知る謎の美人教師など、平穏を脅かす存在が現れ始め……。 「俺は絶対に平穏な高校生活を守り抜く」 そんな純二の願いも虚しく、彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて純二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 実力を隠して平穏に過ごしたい実はハイスペックな陰キャぼっち VS 彼の真の実力を暴きたい美少女たち。 彼らの心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

陽キャグループを追放されたので、ひとりで気ままに大学生活を送ることにしたんだが……なぜか、ぼっちになってから毎日美女たちが話しかけてくる。

電脳ピエロ
恋愛
藤堂 薫は大学で共に行動している陽キャグループの男子2人、大熊 快児と蜂羽 強太から理不尽に追い出されてしまう。 ひとりで気ままに大学生活を送ることを決める薫だったが、薫が以前関わっていた陽キャグループの女子2人、七瀬 瑠奈と宮波 美緒は男子2人が理不尽に薫を追放した事実を知り、彼らと縁を切って薫と積極的に関わろうとしてくる。 しかも、なぜか今まで関わりのなかった同じ大学の美女たちが寄ってくるようになり……。 薫を上手く追放したはずなのにグループの女子全員から縁を切られる性格最悪な男子2人。彼らは瑠奈や美緒を呼び戻そうとするがことごとく無視され、それからも散々な目にあって行くことになる。 やがて自分たちが女子たちと関われていたのは薫のおかげだと気が付き、グループに戻ってくれと言うがもう遅い。薫は居心地のいいグループで楽しく大学生活を送っているのだから。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

処理中です...