2 / 99
プロローグ
秘密を知ってしまった顛末
しおりを挟む
睡眠から覚め、うっすら瞼を開く。
目の前に広がるのはいつもとは違う景色。視界に映る窓はいつにもまして広い気がする。窓から漏れる日差しは眩しくも暖かい。
朧げながらも記憶を遡っていく。
そうだ。入学式中に目眩を引き起こして保健室に来たんだった。
今は一体何時だろう。ポケットにしまってあるスマホを取り出すために状態を起こした。
「おはよう。気分はどうだ?」
ふと、横から声が聞こえた。
反射的に顔を向けると、一人の女性がベッドの足を置く側で椅子に座っていた。
金髪のショートヘア。一重の瞼に、人を試すような余裕さを感じる瞳。整った顔立ちは美人と言わざるを得ない。
ボタンのしまっていない白衣から垣間見える胸は立派なものだ。
小さすぎることもなければ、大きすぎることもない。すらっとした体に対して見事にマッチしている。
「そいつは良かった。まさか入学早々、保健室で寝ている奴がいるとは思わなかった」
「すみません。目眩が激しかったので、先生を探すに探せず。寝るくらいなら大丈夫かと思ってました」
「サボりを疑っているわけじゃないさ。それに、先生が心配して保健室に来たから、その時時に事情は聞いたよ」
「そういえば入学式はどうなりましたか?」
「とっくの昔に終わったよ。今はみんな帰ってしまったよ。部活動は除いてな」
そんなに眠ってしまっていたのか。
少しまずいことになったかもしれない。入学式はともかく、教室でのホームルームを過ごせなかったとなると孤立する可能性が出てきた。
クラスで自己紹介をしていないことを願うばかりだ。
「ところで少年」
明日以降どう接しようか考えていると、先生が僕を呼んだ。
大人の女性だ。彼女から見れば僕はまだ子供なのだろう。成人してないのだから無理もない。
僕は再び彼女に顔を向ける。
先生は片手で持った文房具で、もう片方の手のひらをパチパチと叩いていた。
あれは……芯の出ていないカッターナイフだ……
「ここで休んでいる時に、何か変な音を聞かなかったか?」
彼女は僕の顔を見ずに戯れている自分の手を注視する。
変な音。僕は寝る前の記憶を辿る。
確か、僕が入眠する前に彼女が保健室に入ってきたような気がした。
それで誰も来ないのをいいことにパソコンで遊んでたんだっけ。
あれは……何のゲームだったか……
「流れたのは可愛い女の子の声だった件?」
刹那、密閉された部屋にも関わらず突風が巻き起こった。
僕は首元に添えられたカッターナイフを見て戦慄する。風が発生する瞬間、微かにカチカチと芯が出る音がした。
女性は僕と一緒にベッドに座っていた。
僕と彼女を阻むカッターナイフさえなければ萌えシチュエーションだったかもしれない。しかし、これは胸の高鳴るシーンではない。ラブコメではなくサスペンスだ。いや、ホラーとでも言おうか。
「不正解だと言いたいところだが、最初と最後が合っているのでオセロ形式に従って正解としよう」
先生は意味の分からない言葉を並べて僕の回答を正解にする。彼女のオーラから明らかな殺意が感じ取れる。
「正解すると何があるんですか?」
「ご褒美に決まっているだろ。美人である私に犯される」
「その犯されるは『わいせつ罪』ですか?」
女性は不敵に笑うと、僕の腰あたりに手を回す。
これはもしかして本当にわいせつ……
「残念。『傷害罪』です」
ですよね。
カッターナイフの芯の冷たい感触が首に触れる。これを横にして引いたものなら、僕の人生ゲームはゲームオーバーだ。
「先生がやっていたゲームなら、僕が秘密を暴露しない条件に、先生に淫らな行為をすると思うですが……何で僕の立場が危ういんでしょうか?」
「よく知ってるな。18歳未満は閲覧不可能なはずだが」
「どの時代もそんなのに従う子どもなんていませんよ」
「そうか。残念。現実は非情だったな。私が社会的に消される前に、君を存在ごと消してしまえば何もなかったことになるんだ。わざわざ淫らな行為をするまでもない」
カッターナイフが僕の首元から離れる。だが、安心はできない。むしろ、危険になったとでも言えよう。高校入学と同時に人生卒業か。長かったような短かったような。
「しかし、私も流石に人の命は奪えない」
どうやら先生は僕にチャンスをくれるらしい。
「保健室の先生ですもんね」
「いや、刑務所には行きたくないからな」
「真っ当な考えですね。じゃあ、どうするんですか?」
「君はさっき、子どもは18禁を見ているような言い方をしていたな。つまり、君も見ているということでいいか?」
ここで嘘をつけばチャンスは完全に失われるだろう。
「一応」
「漫画、ゲーム、動画のうちどれだ?」
「……全部です」
「なら、その中で君のベスト5を見せてくれ。スマホは持っているだろ。それでチャラだ」
なるほど。秘密の共有ってわけか。僕が暴露すれば、こちらも暴露すると。
この状況では従わずにはいられない。仕方なく僕はスマホを取り出し、パスワードを解除した。
目の前に広がるのはいつもとは違う景色。視界に映る窓はいつにもまして広い気がする。窓から漏れる日差しは眩しくも暖かい。
朧げながらも記憶を遡っていく。
そうだ。入学式中に目眩を引き起こして保健室に来たんだった。
今は一体何時だろう。ポケットにしまってあるスマホを取り出すために状態を起こした。
「おはよう。気分はどうだ?」
ふと、横から声が聞こえた。
反射的に顔を向けると、一人の女性がベッドの足を置く側で椅子に座っていた。
金髪のショートヘア。一重の瞼に、人を試すような余裕さを感じる瞳。整った顔立ちは美人と言わざるを得ない。
ボタンのしまっていない白衣から垣間見える胸は立派なものだ。
小さすぎることもなければ、大きすぎることもない。すらっとした体に対して見事にマッチしている。
「そいつは良かった。まさか入学早々、保健室で寝ている奴がいるとは思わなかった」
「すみません。目眩が激しかったので、先生を探すに探せず。寝るくらいなら大丈夫かと思ってました」
「サボりを疑っているわけじゃないさ。それに、先生が心配して保健室に来たから、その時時に事情は聞いたよ」
「そういえば入学式はどうなりましたか?」
「とっくの昔に終わったよ。今はみんな帰ってしまったよ。部活動は除いてな」
そんなに眠ってしまっていたのか。
少しまずいことになったかもしれない。入学式はともかく、教室でのホームルームを過ごせなかったとなると孤立する可能性が出てきた。
クラスで自己紹介をしていないことを願うばかりだ。
「ところで少年」
明日以降どう接しようか考えていると、先生が僕を呼んだ。
大人の女性だ。彼女から見れば僕はまだ子供なのだろう。成人してないのだから無理もない。
僕は再び彼女に顔を向ける。
先生は片手で持った文房具で、もう片方の手のひらをパチパチと叩いていた。
あれは……芯の出ていないカッターナイフだ……
「ここで休んでいる時に、何か変な音を聞かなかったか?」
彼女は僕の顔を見ずに戯れている自分の手を注視する。
変な音。僕は寝る前の記憶を辿る。
確か、僕が入眠する前に彼女が保健室に入ってきたような気がした。
それで誰も来ないのをいいことにパソコンで遊んでたんだっけ。
あれは……何のゲームだったか……
「流れたのは可愛い女の子の声だった件?」
刹那、密閉された部屋にも関わらず突風が巻き起こった。
僕は首元に添えられたカッターナイフを見て戦慄する。風が発生する瞬間、微かにカチカチと芯が出る音がした。
女性は僕と一緒にベッドに座っていた。
僕と彼女を阻むカッターナイフさえなければ萌えシチュエーションだったかもしれない。しかし、これは胸の高鳴るシーンではない。ラブコメではなくサスペンスだ。いや、ホラーとでも言おうか。
「不正解だと言いたいところだが、最初と最後が合っているのでオセロ形式に従って正解としよう」
先生は意味の分からない言葉を並べて僕の回答を正解にする。彼女のオーラから明らかな殺意が感じ取れる。
「正解すると何があるんですか?」
「ご褒美に決まっているだろ。美人である私に犯される」
「その犯されるは『わいせつ罪』ですか?」
女性は不敵に笑うと、僕の腰あたりに手を回す。
これはもしかして本当にわいせつ……
「残念。『傷害罪』です」
ですよね。
カッターナイフの芯の冷たい感触が首に触れる。これを横にして引いたものなら、僕の人生ゲームはゲームオーバーだ。
「先生がやっていたゲームなら、僕が秘密を暴露しない条件に、先生に淫らな行為をすると思うですが……何で僕の立場が危ういんでしょうか?」
「よく知ってるな。18歳未満は閲覧不可能なはずだが」
「どの時代もそんなのに従う子どもなんていませんよ」
「そうか。残念。現実は非情だったな。私が社会的に消される前に、君を存在ごと消してしまえば何もなかったことになるんだ。わざわざ淫らな行為をするまでもない」
カッターナイフが僕の首元から離れる。だが、安心はできない。むしろ、危険になったとでも言えよう。高校入学と同時に人生卒業か。長かったような短かったような。
「しかし、私も流石に人の命は奪えない」
どうやら先生は僕にチャンスをくれるらしい。
「保健室の先生ですもんね」
「いや、刑務所には行きたくないからな」
「真っ当な考えですね。じゃあ、どうするんですか?」
「君はさっき、子どもは18禁を見ているような言い方をしていたな。つまり、君も見ているということでいいか?」
ここで嘘をつけばチャンスは完全に失われるだろう。
「一応」
「漫画、ゲーム、動画のうちどれだ?」
「……全部です」
「なら、その中で君のベスト5を見せてくれ。スマホは持っているだろ。それでチャラだ」
なるほど。秘密の共有ってわけか。僕が暴露すれば、こちらも暴露すると。
この状況では従わずにはいられない。仕方なく僕はスマホを取り出し、パスワードを解除した。
10
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
高校では誰とも関わらず平穏に過ごしたい陰キャぼっち、美少女たちのせいで実はハイスペックなことが発覚して成りあがってしまう
電脳ピエロ
恋愛
中学時代の経験から、五十嵐 純二は高校では誰とも関わらず陰キャぼっちとして学校生活を送りたいと思っていた。
そのため入学試験でも実力を隠し、最底辺としてスタートした高校生活。
しかし純二の周りには彼の実力隠しを疑う同級生の美少女や、真の実力を知る謎の美人教師など、平穏を脅かす存在が現れ始め……。
「俺は絶対に平穏な高校生活を守り抜く」
そんな純二の願いも虚しく、彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。
やがて純二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。
実力を隠して平穏に過ごしたい実はハイスペックな陰キャぼっち VS 彼の真の実力を暴きたい美少女たち。
彼らの心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
陽キャグループを追放されたので、ひとりで気ままに大学生活を送ることにしたんだが……なぜか、ぼっちになってから毎日美女たちが話しかけてくる。
電脳ピエロ
恋愛
藤堂 薫は大学で共に行動している陽キャグループの男子2人、大熊 快児と蜂羽 強太から理不尽に追い出されてしまう。
ひとりで気ままに大学生活を送ることを決める薫だったが、薫が以前関わっていた陽キャグループの女子2人、七瀬 瑠奈と宮波 美緒は男子2人が理不尽に薫を追放した事実を知り、彼らと縁を切って薫と積極的に関わろうとしてくる。
しかも、なぜか今まで関わりのなかった同じ大学の美女たちが寄ってくるようになり……。
薫を上手く追放したはずなのにグループの女子全員から縁を切られる性格最悪な男子2人。彼らは瑠奈や美緒を呼び戻そうとするがことごとく無視され、それからも散々な目にあって行くことになる。
やがて自分たちが女子たちと関われていたのは薫のおかげだと気が付き、グループに戻ってくれと言うがもう遅い。薫は居心地のいいグループで楽しく大学生活を送っているのだから。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる