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3、新たな歌い手

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「失礼します」

「失礼します」

  俺と大斗はまた社長に呼ばれた
  思い当たる節はない

「来たか」

「社長、今回はどうしたんですか?」

  大斗が尋ねた

「お前ら、こいつをみてみろ」

  そう言って社長はスマホをしまった渡してきた

  そこには高い音から低い音まで歌いこなすやつがいた
  匿名通信サイトの動画だから顔は分からない

  女性だと言われれば女性のような気もするし、男性だと言われれば男性のような気もする

  だが一体、こいつがどうしたというのだ

「社長、確かに凄いですけどこの人がどうかしたんですか」

  俺は気になって尋ねてみた

「こいつはユートと同じ17歳。おまけに性別は男だ」

「すげぇ」

  俺は思わず口に出した
  こんなに高低差のある歌をたった1人で歌ってることに感動した

  しかし大斗は俺の隣で不機嫌そうな顔をしている

「俺の方が高い声が出せます」

「大斗、こいつは高い声が出せるから凄いんじゃない。こいつは高低差のある歌を一発録りで歌っているから凄いんだ」

  まじか。こいつ、一発録りなのかよ
  でもなんで社長が知ってるんだ?

「なんで社長がその事を知っているんですか?」

「俺の目の前でレコーディングさせたからだ」

  ということは……!?

「今はもう帰ったが、運が良ければ明日会えるかもな」

「やった!俺もう少し高い音が出せるように教えてもらおうかな」

  俺がそう言うと大斗は

「俺が教えます!だから、この人には教わらないでください」

  と弱々しく言った

  俺はそんな大斗に少し胸を痛め、軽く頷いた



  帰り道、気になった俺は大斗に尋ねてみた

「大斗、お前最近変だぞ。急に学校に来るわ、さっきもまるで競ってるみたいだった」

  大斗は立ち止まり俺の方をみた

「ユートさん、」

「どうかしたのか?何かあったのか?俺で良ければ力になるぞ」

  俺はこんなに弱った大斗をみたのは初めてだったから本当に心配して言った

「ユートさん、好きです」

「……え?」

「好きです、好きなんです。」

  大斗は何かが切れたように俺の肩を掴んだ

「初めて合わせた時から、会う度に好きになっていってるんです」

「大斗、1回落ち着け。」

  俺の肩を掴んでいる大斗の手を俺は優しく握る
  大斗もそれに気づいたのか掴んだ手を緩めた

「ユートさんは?」

「っごめん」

  俺はとっさにこの言葉が出てきてしまった

「……」

  沈黙が重たい
  そんな沈黙を破ったのは大斗だった

「好きな人でも、いるん、ですか?」

「いるわけないだろ」

  本当にいなかった
  彼女とかできたことができたことがなかった

「そうなんですね!なら俺の事、これから好きになってください」

「は!?」

「さー、帰りますか」

  大斗は何もなかったかのように明るく振舞った

「もし、好きになれなかったら?」

  確かに大斗はかっこいいけど、好きになることはないと思った

「好きにさせます」

「っ……」

  正直、凄いと思った。この自信は

「あれ?もしかして照れてます?」

「て、照れてない!」

  でも実際、自分でも分かるくらい顔があつかった

「なるほど、ユートさんはおされると弱いんですね」

「そんなことない」

  俺は必死に冷静を保った





「……あの、」

  大斗は言いずらそうに口を開いた

「ん?」

「俺とユニット解消してあの人と組むって言わないでください」

  あの人って今日みた高低差のある歌を歌ってたやつか

「何を当たり前なことを言ってるんだ?」

「いや、でも多分あの人の方が同い年だから話も合うと思いますし。それに……」

  そこまで言いかけたところで俺は止まって振り返り、大斗の方をみた

「俺は、お前以外に考えられないよ」

  そう言って笑った

「ユートさん、」

「ほら、帰るぞ」

  歩き出そうとしたその時、俺は右腕を掴まれた
  大斗は俺の腕を引っ張って俺を抱きしめた

「なっ!?大斗!?」

「ユートさんのそういうとこ、好きです」

「お前、いいから離せって」

  抱きしめる強さがどんどん強くなっていってる

「大斗っ……痛い」

「あ、すみません」

  俺の痛いって言葉で大斗は俺を離した

「あー、帰りましょうか」

「お、おう」

  ちょっと気まずいまま俺達は帰った
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