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1、初めまして
しおりを挟む昔から歌が好きだった。
それは子供の頃聞いた歌が原因だった。子供でも分かるくらい下手なのに、楽しそうに歌ってた。
そんな歌を聞いて、俺も歌いたいと思うようになった。
それから10年、17歳になった今俺はユートという名で匿名通信サイトで顔を出さずに歌を投稿している。
俺は声変わりしてから低音を大切に歌うようになった。本当はもっと、高音を出したいが仕方ない。
そう思っている俺にとって大斗は凄いやつだ。
俺と1つしか変わらないのに、高音が綺麗に出ている。だからか、最近人気が凄まじい。
そんなある日、俺は社長に呼ばれた。
「社長、呼びましたか?」
「ユート、お前大斗って知っているか?」
「最近人気が右肩上がりの高音ボイスが凄いやつですよね?」
そいつが一体どうしたっていうんだ?
「そうだ。お前にはそいつと、ユニットを組んでもらおうと思ってな。入ってこい」
「失礼します」
そう言って社長室のドアを開け入ってきた大斗は俺が思ってるよりもかっこよかった。
スラッと細身なのに筋肉質で、色白。小顔で鼻も高く目は少しつり目。こんなやつのどっから高音が出ているんだ?
「大斗です。ユートさんの動画はよく見てます。よろしくお願いします」
大斗は右手を出して握手を求めてきた。
「あ、あぁ。よろしく」
慌てて俺も握りかえす。
「じゃあ早速、合わせてみるか?」
社長にそう言われて俺達はレコーディング室に向かった。
「ユートさんがよく歌ってる“君の気持ち”で良いですか?」
「お、おう」
これ低音が多いやつだぞ?大丈夫なのか?
嘘、だろ?
こいつ低音のとこを高音で歌って……!?
しかも音程は外してない。
おまけに俺にハモってる!?
すげぇ、歌いやすい。気持ちいい。
「大斗!お前すげぇな!」
「え?」
興奮している俺に大斗は戸惑っている。
「こんなに歌いやすいの、俺初めてだ!」
「大袈裟ですよ」
ドキッ
戸惑いながらも照れ笑いした大斗の笑顔に俺はドキドキした
「改めてよろしくお願いします、ユートさん」
「おう!」
こうして俺達はユニットを組んだ
「なんだこの2人!」
「どっちも男だよな!?」
「この人の高音がやばい!」
「いやいや、それに合わせてるこっちの低音もすげぇって!」
「どっちもすげぇ!コンパニオン!」
俺達のユニット名であるコンパニオンはフランス語で“相棒”という意味のcompagnonからきている。
社長がつけた。
俺達が初めて合わせたのを聞いて社長は
「初めて合わせたのにまるで何年も相棒としてやってきたかのようなハモリ方だな」
と言ってくれた。
それから俺達は初めて合わせた“君の気持ち”をアップした。するとそれが驚異の五千万回再生。一躍人気者になった。
でもそれは大斗が人気だったからだと思うけど。
5月下旬
最近はずっと雨が続いてる。
「また雨か」
「ユートさんは雨嫌いなんですか?」
レコーディングに来ていた俺と大斗は外を眺めながら話した。
「好きか嫌いかなら嫌いだな。雨にはあんまりいい思い出がない」
「そうなんですか。俺は好きですよ、雨。」
そう言って少し寂しそうに大斗は笑った。
「なんでだ?」
俺は気になって聞いてみた。
「雨の日は、全部水に流れていくような気がして。」
あぁ、こいつはなんかあったんだな。
俺はその一言で察した。
過去に何かあったこと。そしてそれをあまり深く聞かないでほしいことも。
「そうか。」
俺は一言そう返事をした。
「って、すみません。こんな話」
「俺は」
大斗が何か言いかけたのには気づいた。
その話をさせないようにさえぎって俺は話し始めた。
「俺は、中学の頃ヤンキーだった。金髪で。」
「……へ?」
「悪い事は沢山した。授業サボったり、他校の奴とケンカしたり、」
大斗は俺をみていた
「まぁ、とにかく沢山だ。当時の俺はこれ以上にないくらい悪い事だと思ってた。でも今考えると、笑える。そんなに悪い事じゃなかった。」
俺は苦笑いになりながら言った。
「授業サボったって言っても午後からしかサボれなかったし、サボっても大抵校内にいた。ケンカって言っても手は出せなかったし。」
大斗はまだ俺をみていた。まっすぐと
「まぁ、だからお前が思ってる悪い事は時がたつとそんなに悪い事じゃなかったって、分かるよ。」
少し沈黙が続いて大斗は俯いた
「ありがとうっ……ございます……っ」
大斗のすすり泣く声と雨の音だけが聞こえていた
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