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28 オーバン侯爵家での生活

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 (アルベルティーヌside)


 王前裁判から早くも一ヶ月が経った。

 「アルベルティーヌ!とっても綺麗よ!二人並ぶと春のお花畑のようね!」
 「お姉様の手首や足首の跡もだいぶ色が薄くなったし……本当に良かったわ!」

 鏡の中には化粧を施され、髪はハーフアップに結い上げられ、深い緑色のイブニングドレスを纏った私がいる。


 髪の毛には、侍女のリリアンナ(リリー)にお願いして、モルヴァド領の大市で買った金糸で縁取られた緑色のリボンを編み込んでもらった。そう、クロとお揃いのあのリボン。

 イブニングドレスは、義妹シャリーお揃いのデザイン。二人で相談して決めた。

 私は深い緑色の生地に若葉色のふわふわのチュールを重ねたドレス、シャリーは少し濃いめの桃色の生地に薄い桃色のチュールを重ねたドレス。


 「やっぱりお姉さまは緑色にして正解でしたね!髪色も明るい飴色ですし、お肌もアイボリー系の明るい肌ですし!」
 「シャリーもやっぱりピンクが似合うわ!とっても可愛くて素敵よ……!」

 オーバン侯爵家に来てから、すぐにドレスやワンピースなどを十数着も作っていただいた。

 軋んで、傷んでいた髪の毛も、カトリーヌお義母様にいただいたシャンプーとトリートメント、木の実から搾られたというヘアオイルで今では艶が出るようになった。

 畑の世話や家事で少し日に焼け荒れていた手も、今では爪も磨かれ、クリームを塗りこまれ、少しずつすべすべになってきている。


 ──そういえば、専属の侍女や家庭教師もつけてもらえた。リリーはシャリーと同じ18歳の男爵令嬢だった。

 リリーとシャリーは意気投合し、私のドレスのデザインを楽しそうに決めていた。
 リリーと私は、よくシャリーの部屋にお呼ばれされて、夜な夜なガールズトークを楽しんでいる。

 鳥たち以外に友達と呼べる存在がいなかったので、ガールズトークも深夜の女子会も、お庭でのお茶会も……毎日がとても楽しい。
 社交の練習ね、とカトリーヌ様は仰るけれど、おそらく私に色々と甘いものを食べさせたいのだと思うわ……!

 この歳で家庭教師というのも恥ずかしいけれど、吸収が早いとよく褒めていただけるのが嬉しい。
 何より、10歳まで令嬢教育をしっかりと施してくれていた両親について褒められることが……何よりも嬉しかった。


 ──と、話が逸れてしまったけれど……
 今日は、秋の叙爵式でデボラ様が男爵位を叙爵される。
 そのお披露目も兼ねる夜会では、クロヴィス殿下のフォートリエへの帰国の報告もされるらしい。

 シャリーの話によると、もっぱらクロヴィス殿下の結婚相手探しのための夜会だと噂され、年頃の令嬢たちは浮き足立っているとかなんとか……!

 私は大人になってからは初めての社交界なので、緊張でそれどころではないわ……!
 10年間、鳥たちと街の人以外とまともに会話していなかったので、とても緊張するわ……!


 シリルお義父様の話によると、国王直属の名誉薬学研究員という役職を与えられ、領地無しのメディカ男爵位を叙爵されたデボラ様。
 なんと陛下の計らいで、モルヴァド領内に研究所を兼ねた立派な邸宅を下賜されたらしい。
 中には最新の魔法具や実験器具なども揃えられたそう……!見学に行ってもいいかしら?


 「──おそらく、来年正式に爵位継承する予定のアルベルティーヌの補佐として彼女を残したんだろう。陛下も粋なことするね」
 「もう!せっかくアルベルティーヌがうちに来てくれたというのに……たった一年だなんて寂しいわ!」

 ありがたいことに、シリルお義父様と、カトリーヌお義母様は、一年間ということを残念がってくれている。


 ──そうなのだ。
 本来は20歳になり、叔父セザールも処刑され後見が外れた今、父のモルヴァド伯爵位を継ぐはずだったのだけど……陛下よりご厚情を賜り、継承が来年に延びたのだ。

 『君は大変な目に遭ってしまった。今は心と体を休め、オーバン侯爵家の元で休養をしながら一年間領地について勉強するといいだろう』

 ──元々、両親は一人娘の私にスパルタ教育だったということもあり、勉強自体は飲み込みがとても早いと褒めてもらえている。
 一年で色々なことをみっちりと詰め込むなんて大変だけれど、なんだか生きているって感じがして、とても楽しいわ……!

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