人間不信の黒鷹王子は捨てられ令嬢に手懐けられる

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25 アルベルティーヌの変化

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 (アルベルティーヌside)


 涙の夜会から三日が経った。
 あの翌日、デボラ様は本当に早く使用人を罰し、邸から全員追い出してしまった。


 デボラ様は何やら花のような良い香りの香を焚きしめると、使用人たちを別邸で一番広い広間に集めた。

 「可愛いアルベルティーヌをよくも虐めてくれたわね……?使用人の分際で……」

 デボラ様が何やら一人一人の耳元に囁きかけると、使用人たちは一斉に泣き喚きながら私に向かって謝罪の言葉を叫び始めた。

 ──これは、なにかの宗教儀式かなんかなのかしら……?


 「あらぁきちんと自分のしてきたこと分かってるじゃない。──あなたたち今日でクビよ。邸を出た瞬間から、あなたたちはマニエ家でのことを口にすることを一切禁じます」

 ──もし、口にするとどうなるのでしょうか……?

 使用人たちやアルベルティーヌの疑問に答えるように、彼女はにこやかに告げた

 「そうねぇ……うっかり話そうものなら……舌が裂けちゃうわ♡」

 ──蛇みたいな舌になりたくなければ黙っていることね。


 アルベルティーヌは、そう言って美しくにこやかに微笑んだデボラを見て、味方でいてくれて良かったと心底思った。
 同時に、エリクの言った『あの方は今すぐに女優になれそうだ』という言葉を思い出してしまい、吹き出しそうになるのを必死に堪えた。


 ────


 「みんな、少し離れてしまうけど元気に過ごすのよ。私が落ち着いてみんなを飼えるようになったら、また絶対に迎えに行きますから!」

 鳥たちの飼育ノートも書き終えた。
 鳥たちの種類、名前、見た目、性格、餌の種類と量、おやつのペレットの袋の何番を与えるか、好きなおもちゃを書き込んだ。

 畑の薬草や果物を採れるだけ採り、ペレットを大量に作った。
 そして、それを種類ごとに袋に分け、鳥の種類と番号を書き込んでおいた。


 「今までよりおやつは少しになってしまいますが、鳥さんたちごめんね……早く迎えにいきますからね!」
 
 そうして、馬車二台で鳥たちを迎えにきたポートリエ様に、ノートとペレットと鳥たちの籠を預けた。
 その後、デボラと侍女サリーによって姿を整えられ、可愛らしいドレスを着せられ、共にオーバン侯爵家に向かった。


 ────


 「おお……アルベルティーヌ大きくなったな……!セレスティーヌにそっくりじゃな……!」

 「ええ、ええ、セレスティーヌにとっても似ているわ……!」

 オーバン侯爵家の方たちは優しかった。
 特におじい様のクレール様、お母様の姉である奥様のカトリーヌ様は、母の面影を感じたのだろうか、泣きながら嬉しそうに迎え入れてくれた。


 オーバン侯爵家の現当主であるシリル様も穏やかで優しい方だった。
 
 「もう大丈夫!ここにいればアングラード卿にも簡単に手を出せまい」

 「ああ可哀想に、髪も傷んでしまって……ゆっくりでいいからね?しっかり食べて、しっかり寝て、健康を取り戻していこう」


 そして、シリル様とカトリーヌ様の長男ジェラール様は25歳、次女シャルリーヌ様は18歳だった。長女のクロディーヌ様は22歳で、既に嫁いだということだった。

 シャルリーヌ様は、とても可愛らしく明るくて人懐っこい方だった。

 「もう!シャルリーヌ様だなんて寂しいわ!せっかくできた歳の近いお姉さまなんですもの!シャリーって呼んでくださいませ!仲良くしてくださいね」

 「では私のこともベル、と呼んでください。シャリー……これからよろしくね……っ」

 「あわわ……ベル、泣かないでっ!ええと……もう一人じゃないですよ、シャリーもお兄様もみんな傍にいますから!」


 ──こうして誰かと愛称で呼びあえる日がくるなんて……

 青春時代を別邸に押し込められていたアルベルティーヌにとって、愛称で呼び合うような家族や仲の良い友達はいなかった。
 家族を愛称で呼び合う、そんなありふれたことですら幸せを感じ、涙が溢れてきてしまうのだった。


 一方、デボラ様は泣きながら謝っていた。

 「デボラ様は仕方がなかったじゃありませんか……!」

 ──これでおじい様たちに怒られるなら、あんまりだわ!デボラ様もまた被害者なのに……!

 そんな私の心配とは裏腹に、おじい様は苦い顔をしつつ言った。

 「そうだ。君の立場はかなり難しかった。もっと早くに我が家を頼ってくれたら……と思わないでもないが……こうしてアルベルティーヌが生きていてくれたんだ。生きてさえいればやり直せる。それに、娘セレスティーヌの死の真相を暴いてくれたのは君だ。ありがとうマニエ夫人、礼を言う」

 「私が、お姉様の分も、マニエ夫人の分も、アルベルティーヌに愛情を注ぎますわ。マニエ夫人もずっと一人で頑張ってこられて……大変だったでしょう……」


 デボラ様もまた、ずっと10年一人で色々と抱え込み、限界だったのだろう。
 カトリーヌ様に抱き寄せられ労わられると、とめどなく涙を零すのだった。
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