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21 ずっと愛されていたのね
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(アルベルティーヌside)
デボラの言葉が、表情が、ずっとぐるぐると頭の中を流れ続ける。思考が上手くまとまらず、なんだかよく分からない。
「ずっと演技だったなんて……」
しかし、今になって思い返してみれば、デボラに虐められる時は決まって叔父の前だけだった。
それに、叩かれるとは言っても、そこまで力一杯に叩かれることはなく、あまり痛くもなかった。
とはいえ、顔はとても怖い顔なので、恐怖で身は縮むような思いをしていたのだけど。
女性だから叩かれてもそんなに痛くないのだと思っていたが、あれは全てデボラの演技だと知りアルベルティーヌは納得した。
「そっか……私いきなり嫌われたのかと思っていたけれど、叔父のせいだったのね……!デボラ様はやっぱり優しかったのね……」
「ね?アルベルティーヌ嬢。君に必要なことだっただろう?しかし、あの方はすごいな。今すぐ女優になれそうだ」
ラクール様は肩をすくめて冗談を言う。
きっと明るく振る舞って、混乱している私を落ち着かせようとしてくださっているのだわ……
「……ふふっ、ラクール様ったら。でも、良かったです。本当のことを知れて」
────
「──で、デボラ・マニエ、あなたの処遇だが、確実に全ては隠し通せない。侯爵家も裁きたいので、どうしてもあなたの証言が必要になる。貴族裁判に掛けられることになるでしょう」
「わかっております。罰はしっかりと受けますわ」
「国に無届けでの違法植物の栽培・研究。事情があったとはいえ貴族令嬢への虐待と軟禁。心の病だと病気をでっち上げアルベルティーヌ嬢の名誉を毀損したこと。……どれも情状酌量で減刑されたとしても、平民に落とされ国外追放になるのは避けられないだろう」
アルノーが静かに告げると、デボラは項垂れ頷いたあと、しっかりと顔を上げすっきりとした顔で言った。
「──ええ、わかっております。私は夫を止めることもできなかった。早くに夫が関与していると分かっていたというのに、騎士団の方たちに助けを求めることもしませんでした。死刑でも文句など言えません。罰はしっかりと受ける覚悟でおりますわ」
「私もです!姉が……母が……ずっと苦しんでいたというのに、私はなにも出来ずにのうのうと暮らしてきました。私も罰を受けなければ!」
アルノーはため息をつくと言った。
「まぁ、マニエ夫人、コリンヌ嬢、落ち着いて。あなたたちもまたセザールや侯爵の身勝手な欲望の被害者ですからね、同情はしますよ。僕たち騎士団に頼ろうにも、軍務副長官が絡んでいると分かって下手に騒ぎを起こせなかったんでしょうし」
「ただ、この件に関しては、両親を亡くし、大事な青春時代を奪われた一番の被害者の気持ちが大切ですよね?──ねぇ、アルベルティーヌ嬢?」
エリクは頷き、突然話を振られ驚いたアルベルティーヌの黒いローブを優しく剥ぎ取った。
「あ……アルベルティーヌ……!」
「お姉さま……!」
──ど……どうしましょう?
「っすみません、全て聞いてしまいました。私は何も知らず、ずっと守られていたのですね……」
デボラに駆け寄られるとぎゅっと抱きしめられた。
──デボラ様、随分とお痩せになったわ……
「ずっと……ごめ……ごめんなさいね……あなたのご両親……助けられなかった……!もっと早くに夫の企みに気がついていれば止められたかもしれないのに……!夫を止められなくてごめんなさい!ずっとあなたを一人にしてごめんなさい……!!あなたのこと大好きなのに……」
「お姉さま、私は何もできずごめんなさい!私もお姉さまのことをお慕いしております!大好きです」
「デボラ様、コリンヌ、悲しかったけど今なら分かります。叔父から離してくれて、守ってくれて……私のことを気にかけてくれて……ありがとう……っ……」
──うわぁぁぁぁん
デボラとコリンヌに泣きながら抱き締められた私は、久しぶりの温もりを感じて、ふと母のことを思い出した。
──抱き締められたのはお母様が最後だったわ。
私はずっと誰にも気にかけられず、誰からも愛されていないと思っていたけれど……私はずっとずっと愛されていたのね……
デボラの言葉が、表情が、ずっとぐるぐると頭の中を流れ続ける。思考が上手くまとまらず、なんだかよく分からない。
「ずっと演技だったなんて……」
しかし、今になって思い返してみれば、デボラに虐められる時は決まって叔父の前だけだった。
それに、叩かれるとは言っても、そこまで力一杯に叩かれることはなく、あまり痛くもなかった。
とはいえ、顔はとても怖い顔なので、恐怖で身は縮むような思いをしていたのだけど。
女性だから叩かれてもそんなに痛くないのだと思っていたが、あれは全てデボラの演技だと知りアルベルティーヌは納得した。
「そっか……私いきなり嫌われたのかと思っていたけれど、叔父のせいだったのね……!デボラ様はやっぱり優しかったのね……」
「ね?アルベルティーヌ嬢。君に必要なことだっただろう?しかし、あの方はすごいな。今すぐ女優になれそうだ」
ラクール様は肩をすくめて冗談を言う。
きっと明るく振る舞って、混乱している私を落ち着かせようとしてくださっているのだわ……
「……ふふっ、ラクール様ったら。でも、良かったです。本当のことを知れて」
────
「──で、デボラ・マニエ、あなたの処遇だが、確実に全ては隠し通せない。侯爵家も裁きたいので、どうしてもあなたの証言が必要になる。貴族裁判に掛けられることになるでしょう」
「わかっております。罰はしっかりと受けますわ」
「国に無届けでの違法植物の栽培・研究。事情があったとはいえ貴族令嬢への虐待と軟禁。心の病だと病気をでっち上げアルベルティーヌ嬢の名誉を毀損したこと。……どれも情状酌量で減刑されたとしても、平民に落とされ国外追放になるのは避けられないだろう」
アルノーが静かに告げると、デボラは項垂れ頷いたあと、しっかりと顔を上げすっきりとした顔で言った。
「──ええ、わかっております。私は夫を止めることもできなかった。早くに夫が関与していると分かっていたというのに、騎士団の方たちに助けを求めることもしませんでした。死刑でも文句など言えません。罰はしっかりと受ける覚悟でおりますわ」
「私もです!姉が……母が……ずっと苦しんでいたというのに、私はなにも出来ずにのうのうと暮らしてきました。私も罰を受けなければ!」
アルノーはため息をつくと言った。
「まぁ、マニエ夫人、コリンヌ嬢、落ち着いて。あなたたちもまたセザールや侯爵の身勝手な欲望の被害者ですからね、同情はしますよ。僕たち騎士団に頼ろうにも、軍務副長官が絡んでいると分かって下手に騒ぎを起こせなかったんでしょうし」
「ただ、この件に関しては、両親を亡くし、大事な青春時代を奪われた一番の被害者の気持ちが大切ですよね?──ねぇ、アルベルティーヌ嬢?」
エリクは頷き、突然話を振られ驚いたアルベルティーヌの黒いローブを優しく剥ぎ取った。
「あ……アルベルティーヌ……!」
「お姉さま……!」
──ど……どうしましょう?
「っすみません、全て聞いてしまいました。私は何も知らず、ずっと守られていたのですね……」
デボラに駆け寄られるとぎゅっと抱きしめられた。
──デボラ様、随分とお痩せになったわ……
「ずっと……ごめ……ごめんなさいね……あなたのご両親……助けられなかった……!もっと早くに夫の企みに気がついていれば止められたかもしれないのに……!夫を止められなくてごめんなさい!ずっとあなたを一人にしてごめんなさい……!!あなたのこと大好きなのに……」
「お姉さま、私は何もできずごめんなさい!私もお姉さまのことをお慕いしております!大好きです」
「デボラ様、コリンヌ、悲しかったけど今なら分かります。叔父から離してくれて、守ってくれて……私のことを気にかけてくれて……ありがとう……っ……」
──うわぁぁぁぁん
デボラとコリンヌに泣きながら抱き締められた私は、久しぶりの温もりを感じて、ふと母のことを思い出した。
──抱き締められたのはお母様が最後だったわ。
私はずっと誰にも気にかけられず、誰からも愛されていないと思っていたけれど……私はずっとずっと愛されていたのね……
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