人間不信の黒鷹王子は捨てられ令嬢に手懐けられる

poi

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18 連れて行ってくださいませ!

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 (アルベルティーヌside)


 クロとお別れをしてから約一ヶ月後のある日、外で鳥たちの毛繕いをしているとエリク・ラクール様が突然邸にやってきた。

 「お久しぶりです。先触れ無しですみません。先日はうちのクロを助けてくれてありがとうございました!君はベルさんだね?」

 「──ラクール様、どうしてここが……」

 「すみません。職権濫用して街の雑貨屋のアンヌさんって方に聞き出したんだ。改めて御礼を伝えたくて」


 そっと邸の方を見る。使用人に見られてしまっては、本邸の叔父たちに何を言われるか分からない。

 「ええと……わざわざ来ていただいて申し訳ないですが、当たり前のことをしただけなので礼には及びません」

 ラクール様は困ったように眉を下げると優しい声音で言った。

 「──アルベルティーヌ嬢……僕達は君を助けたいと思っている」


 ──ヒュッ……

 アルベルティーヌは驚愕のあまり言葉が出なかった。喉が、心臓が、口の中が乾いてヒリヒリと熱い。

 ──何故?何をどこまで知られているの?   

 私はラクール様には知られたくなかった。
叔父夫妻のことも気がかりだけれど、ラクール様に連絡をしなかった一番の理由はラクール様に今の私を知られたくなかったから。

 ラクール様が知るということは、幼なじみで仲の良いクロヴィス殿下にも伝わるかもしれない……
 いいえ、もう伝わっているのかも……
 クロヴィス殿下にだけは、こんな惨めな姿を知られたくない。


 「うっ……うう……っ……」

 「あっ……アルベルティーヌ嬢、すまない!君を困らせたいわけではなかった!泣かせるなんて……!」
 「ええと……君のことを勝手に調べてしまってすまなかった。あー、邸だと使用人の目があるか……どこか使用人に見られない場所はないか?この事でちょっと話があるんだ」

 「グスッ……取り乱してしまいすみません……でしたら畑の作業小屋でもよろしいでしょうか……?」


 ────


 「アルベルティーヌ嬢、すまなかった。勝手に探られるなんて不快だろう。申し訳ないと思っている」

 「前回お会いした時に気付いたのですか?私今はこんな姿ですし、ラクール様には絶対に気付かれていないと思っていましたのに……」


 ラクール様は目をさまよわせると俯いた。

 「いや、殿下の命令で君のこととマニエ家を調べていた。クロの件は完全に偶然だったが、拾ってくれたのがアルベルティーヌ嬢だと知って、これはキミを救いだすチャンスだと思った。──クロヴィス殿下はずっとあなたのことを心配されていたよ」

 「嘘……クロヴィス殿下もご存知なの……?私、クロヴィス殿下にだけはこんなこと知られたくなかった……せめて、私のこんなみすぼらしい姿など見せたくありません……どうかこの姿を見せることだけはご勘弁願います……」

 「ああ、大丈夫です。殿下はこちらにはいらっしゃいませんよ。……それでも、どんな姿であろうとあの方にとって、あなたは大事な幼なじみ。心配くらいはさせてやってください」


 ──ああ、やっぱり殿下もご存知なのね……悲しいけど、でも私のことを気にかけてもらえるなんて……いつぶりのことかしら?
 殿下が気にして下さっていたなんて……少し嬉しい、なんて単純すぎるかしら?


 「──ふふ、お二人は相変わらず仲がよろしいのですね。殿下はお元気ですか?」

 「……相変わらず元気ですよ」
 「──そうだ、これが本題なのですが。今晩22時に迎えに来るので一緒に来てもらえませんか?訳あってアルベルティーヌ嬢には隠れていてもらいますが、今のあなたに絶対に必要なことなのです。一緒に聞いていただきたい」


 ──聞いてもらう?私に必要なこと……?

 何かは分からないけれど、ラクール様の目は真剣だし嘘はついていないと思うわ……
 何より、殿下とラクール様が私のことを思い、マニエ家について調べてくれた……!私がここにいることに気が付いてくれた……!

 私は知りたい。お二人が何に気付き、何を知ったのか。


 「──怖いですが、知りたいです。連れて行ってくださいませ!」
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