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9 これが本業ですから
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(クロヴィスside)
──ベルは寝ているな。よし。
深夜0時、邸内の人間とアルベルティーヌが寝静まったのを確認して行動を開始した。
「よお!新入り!こんな時間にどうした?お前ついにここを出るのか?あ~あ姫さん泣くぞ~」
話し掛けてきたのは、ここモニエ家別邸の鳥たち(自称、姫様親衛隊)のボスである大鷲のブランだ。
鷹の姿の俺が言えることではないが、ブランは眼光鋭くいかつい見た目の割に、気さくで仲間思いの良い奴だった。
ちなみに、ブランは俺が元々人間で先祖返りだと知っている。驚かれたが、『まぁお前、鳥にしてはちょっと変だしな』という一言で納得されてしまった。
鳥歴も12年なので、変だと言われてしまったことは地味にショックだった。人間に戻りたい俺としては喜ぶべきなのか?
「いや、まだ出ない。少し森が気になって見に行こうと思っている。それとベルが家の人間たちに虐げられていた証拠が欲しくてな。今週は本邸に行ってみるつもりだ」
「……そうか。あの森は変な感じがするから気をつけろよ。そして、姫さんは俺たちにとっても大事な子だ。だからお前が姫さんの力になれるってんなら俺たちは喜んで協力しよう。……とりあえずこっちこい。お前の体でも外に出られる通気口教えてやるよ」
通気口は1階にある鳥たちの飼育部屋を出て、右に曲がった廊下の壁の上にあった。
立派な鹿の頭部の剥製の影にちょこんとある木製の丸い扉。丸い扉には金属製の輪っかが付いていた。
ブランは鹿の角に掛けられた細めの麻紐を器用に嘴で食んだ。
「よっと。新入り~俺が嘴で紐を輪っかに通すから、お前は出てきた紐を嘴で反対側から引っ張れ。紐が通ったら一緒に紐引っ張るぞ~」
──家族以外でのファーストキスの相手が鷲……嘴と嘴はキスと呼ぶのだろうか……?
「っおい!お前聞いてるか?紐引っ張れよ」
「……すまん」
こうして人生、いや鷹生初となるファーストキスからの共同作業を終えた俺は通気口から外に出た。
────
──やはりこの隠蔽魔法、この国のものではないな……
詳しくは王宮に戻り、魔術分析官に見てもらわないといけないが。魔法を持続させるための方式が、どうも隣国シュメルのやり方に酷似している。
隣国シュメルに近いこのモルヴァド領に、この高度な隠蔽魔法。
セザールやデボラには隣国の魔術師に伝手があるのだろうか。
隠蔽魔法で隠された森の中心部に地上から入るのは難しくとも、空から降りてしまえば問題ない。
さすがに結界のようなものまでは張られていなかった。
点在する山小屋よりは大きな……倉庫に近いだろうか?倉庫群の一つに近づいてみる。
木造の倉庫の上には明かり取りや換気用の窓だろうか?窓と呼ぶには小さめな木枠の穴が綺麗に一列並んでいた。
その枠の一つから中に侵入してみる。感知器のようなものはない。さすがにこんな小さな窓から人が入るとは思わないのだろう。
『やはりコレか……』
綺麗に並び生えているのは、今周辺国で問題となっている北方の国が原産の違法植物。通称《魔女殺し》だった。
何か研究しているのだろうか?机には乱雑に置かれたフラスコや何かの研究器材らしきものもある。
魔女殺しは、見た目は至って普通の野草である。
魔力を持たない、あるいは少ない者が口にしても特段問題はない。平民の中には野菜として食べる者もいるらしい。
しかし、魔力を一定量持つ者が口にすると、一回の摂取量や体内の魔力量にもよるが死に至る。
フォートリエ王国では基本的に魔力が高いのは王侯貴族や大商人などの裕福層だけだ。
そのため、フォートリエで使われるとするならば貴族狙いになってしまう。
なんとかしてフォートリエ国内への流入を防ごうと動いているのが、水際対策で動いている各地の辺境伯をはじめ、国王直属の近衛騎士団情報部と劇物取締部なのだ。
『まさか国内で育てられているとはな……』
証拠として、目立たないようにそっと土ごと一株掘り起こすと、亜空間魔法で収納した。
そして、アルベルティーヌの夢見が悪くなる2時前には邸に戻ってきた。
通気口から邸内に入ると、面倒見の良いブランは鹿の角に止まっていた。
『何か見つけたか?なんかアレだな、お前人間世界でいうスパイ?っつうの?スパイごっこって、なんかかっこいいよな!』
『──スパイごっこ……』
──いや、俺これが本業ですから……
──ベルは寝ているな。よし。
深夜0時、邸内の人間とアルベルティーヌが寝静まったのを確認して行動を開始した。
「よお!新入り!こんな時間にどうした?お前ついにここを出るのか?あ~あ姫さん泣くぞ~」
話し掛けてきたのは、ここモニエ家別邸の鳥たち(自称、姫様親衛隊)のボスである大鷲のブランだ。
鷹の姿の俺が言えることではないが、ブランは眼光鋭くいかつい見た目の割に、気さくで仲間思いの良い奴だった。
ちなみに、ブランは俺が元々人間で先祖返りだと知っている。驚かれたが、『まぁお前、鳥にしてはちょっと変だしな』という一言で納得されてしまった。
鳥歴も12年なので、変だと言われてしまったことは地味にショックだった。人間に戻りたい俺としては喜ぶべきなのか?
「いや、まだ出ない。少し森が気になって見に行こうと思っている。それとベルが家の人間たちに虐げられていた証拠が欲しくてな。今週は本邸に行ってみるつもりだ」
「……そうか。あの森は変な感じがするから気をつけろよ。そして、姫さんは俺たちにとっても大事な子だ。だからお前が姫さんの力になれるってんなら俺たちは喜んで協力しよう。……とりあえずこっちこい。お前の体でも外に出られる通気口教えてやるよ」
通気口は1階にある鳥たちの飼育部屋を出て、右に曲がった廊下の壁の上にあった。
立派な鹿の頭部の剥製の影にちょこんとある木製の丸い扉。丸い扉には金属製の輪っかが付いていた。
ブランは鹿の角に掛けられた細めの麻紐を器用に嘴で食んだ。
「よっと。新入り~俺が嘴で紐を輪っかに通すから、お前は出てきた紐を嘴で反対側から引っ張れ。紐が通ったら一緒に紐引っ張るぞ~」
──家族以外でのファーストキスの相手が鷲……嘴と嘴はキスと呼ぶのだろうか……?
「っおい!お前聞いてるか?紐引っ張れよ」
「……すまん」
こうして人生、いや鷹生初となるファーストキスからの共同作業を終えた俺は通気口から外に出た。
────
──やはりこの隠蔽魔法、この国のものではないな……
詳しくは王宮に戻り、魔術分析官に見てもらわないといけないが。魔法を持続させるための方式が、どうも隣国シュメルのやり方に酷似している。
隣国シュメルに近いこのモルヴァド領に、この高度な隠蔽魔法。
セザールやデボラには隣国の魔術師に伝手があるのだろうか。
隠蔽魔法で隠された森の中心部に地上から入るのは難しくとも、空から降りてしまえば問題ない。
さすがに結界のようなものまでは張られていなかった。
点在する山小屋よりは大きな……倉庫に近いだろうか?倉庫群の一つに近づいてみる。
木造の倉庫の上には明かり取りや換気用の窓だろうか?窓と呼ぶには小さめな木枠の穴が綺麗に一列並んでいた。
その枠の一つから中に侵入してみる。感知器のようなものはない。さすがにこんな小さな窓から人が入るとは思わないのだろう。
『やはりコレか……』
綺麗に並び生えているのは、今周辺国で問題となっている北方の国が原産の違法植物。通称《魔女殺し》だった。
何か研究しているのだろうか?机には乱雑に置かれたフラスコや何かの研究器材らしきものもある。
魔女殺しは、見た目は至って普通の野草である。
魔力を持たない、あるいは少ない者が口にしても特段問題はない。平民の中には野菜として食べる者もいるらしい。
しかし、魔力を一定量持つ者が口にすると、一回の摂取量や体内の魔力量にもよるが死に至る。
フォートリエ王国では基本的に魔力が高いのは王侯貴族や大商人などの裕福層だけだ。
そのため、フォートリエで使われるとするならば貴族狙いになってしまう。
なんとかしてフォートリエ国内への流入を防ごうと動いているのが、水際対策で動いている各地の辺境伯をはじめ、国王直属の近衛騎士団情報部と劇物取締部なのだ。
『まさか国内で育てられているとはな……』
証拠として、目立たないようにそっと土ごと一株掘り起こすと、亜空間魔法で収納した。
そして、アルベルティーヌの夢見が悪くなる2時前には邸に戻ってきた。
通気口から邸内に入ると、面倒見の良いブランは鹿の角に止まっていた。
『何か見つけたか?なんかアレだな、お前人間世界でいうスパイ?っつうの?スパイごっこって、なんかかっこいいよな!』
『──スパイごっこ……』
──いや、俺これが本業ですから……
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