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5 何故気が付かなかったんだ
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(クロヴィスside)
次の日は晴れた。
クロヴィスは外を見て安心して、ほっ、と一息ついた。
──雨が続かなくてよかった。ベルにあんな悲しげな顔はさせたくないからな。
昨日、アルベルティーヌが刺繍をしながらぽつりぽつりと語った内容が頭から離れない。
そして話を聞いて、俺は大事なことに気がついた。
──俺とアルベルティーヌは仲の良い友達だった。
思えばあの子の面影があるではないか。10年以上経つとはいえ、何故すぐアルベルティーヌだと気が付かなかったのだろう。
幼く見えるとはいえ、やはり少女のアルベルティーヌとは雰囲気が違うからだろうか?
────
母の主催するお茶会にいつも来ていたモルヴァド伯爵夫人は、娘のアルベルティーヌ嬢をよく連れてきていた。
母と伯爵夫人は令嬢時代からの友人で仲良しだった。
クロヴィスは優しい母のことも、同じく穏やかに微笑む伯爵夫人のことも大好きだった。そして、明るく可愛らしいアルベルティーヌ嬢のことも大好きだった。
12歳で先祖返りしてしまった時も、実は一度だけアルベルティーヌに会っている。
当時は変化したことに心も体も全然ついていかず、かなりやさぐれていた。
どうにかして人間に戻ろうとして、壁にぶつかってみたり、地面に体を叩きつけてみたりと、いわゆる自傷行為を行っていた。おそらくストレスが溜まりすぎていたのだろう。
そんなある日、何故か一人で王宮内を歩いていたアルベルティーヌが傷付いた俺を見て駆け寄ってきた。
『大変!どうしよう!?鷹さん、血が出ているよ!』
そうしてワンピースが汚れるのも厭わずに抱き上げ、母たちの所へ連れていかれた。
『お母様、勝手に居なくなってごめんなさい!クロヴィス殿下に会いたくて探しに行ったの。でも廊下に血だらけの鷹さんがいたの!けが治る……?』
──僕を探しに来てくれたの?アルベルティーヌ嬢、僕だよ。ここにいるよ……
そこからの記憶はない。おそらく出血が酷かったのだろう。
気がつくと母に怒られ、そして抱きしめられながらひどく心配された。
『僕、アルベルティーヌ嬢にはこんな姿見られたくなかったのに!もう嫌だ。早く人間に戻りたいよ……』
『焦ってはだめよ。あなたは絶対に戻れるから。だから自分を傷付けることはダメよ。お母様も周りのみんなも悲しむわ。アルベルティーヌちゃんだって悲しむわよ!』
──あの子が落ち込むのは見たくない。もう自分を痛めつけるのはやめる。
それから割とすぐに流行り病が流行ってしまい、お茶会や夜会も無くなった。
その後は立て続けに伯爵夫人と母が亡くなってしまい、アルベルティーヌとの接点は無くなり会うことはなかった。
────
10年以上の年月を経て、また偶然アルベルティーヌに出会えた。
アルベルティーヌがずっと大変な環境下に置かれていることを知らなかった自分に腹が立つ。
──俺は鷹だろう!?アルベルティーヌのことを見に行こうと思えばいつでも行けた!
俺は自分のことばかりで精一杯で、何も気にかけてやることが出来なかった!大事な妹のような存在だったのに!
そして、昨日もアルベルティーヌを慰める言葉の一つも掛けてやれない己に腹が立った。
人間の姿だったなら良かったのに!
親を亡くした者同士分かち合うことも、言葉を掛けてやることも、抱きしめることも出来たのに……!
「──早く人間に戻りたいな」
次の日は晴れた。
クロヴィスは外を見て安心して、ほっ、と一息ついた。
──雨が続かなくてよかった。ベルにあんな悲しげな顔はさせたくないからな。
昨日、アルベルティーヌが刺繍をしながらぽつりぽつりと語った内容が頭から離れない。
そして話を聞いて、俺は大事なことに気がついた。
──俺とアルベルティーヌは仲の良い友達だった。
思えばあの子の面影があるではないか。10年以上経つとはいえ、何故すぐアルベルティーヌだと気が付かなかったのだろう。
幼く見えるとはいえ、やはり少女のアルベルティーヌとは雰囲気が違うからだろうか?
────
母の主催するお茶会にいつも来ていたモルヴァド伯爵夫人は、娘のアルベルティーヌ嬢をよく連れてきていた。
母と伯爵夫人は令嬢時代からの友人で仲良しだった。
クロヴィスは優しい母のことも、同じく穏やかに微笑む伯爵夫人のことも大好きだった。そして、明るく可愛らしいアルベルティーヌ嬢のことも大好きだった。
12歳で先祖返りしてしまった時も、実は一度だけアルベルティーヌに会っている。
当時は変化したことに心も体も全然ついていかず、かなりやさぐれていた。
どうにかして人間に戻ろうとして、壁にぶつかってみたり、地面に体を叩きつけてみたりと、いわゆる自傷行為を行っていた。おそらくストレスが溜まりすぎていたのだろう。
そんなある日、何故か一人で王宮内を歩いていたアルベルティーヌが傷付いた俺を見て駆け寄ってきた。
『大変!どうしよう!?鷹さん、血が出ているよ!』
そうしてワンピースが汚れるのも厭わずに抱き上げ、母たちの所へ連れていかれた。
『お母様、勝手に居なくなってごめんなさい!クロヴィス殿下に会いたくて探しに行ったの。でも廊下に血だらけの鷹さんがいたの!けが治る……?』
──僕を探しに来てくれたの?アルベルティーヌ嬢、僕だよ。ここにいるよ……
そこからの記憶はない。おそらく出血が酷かったのだろう。
気がつくと母に怒られ、そして抱きしめられながらひどく心配された。
『僕、アルベルティーヌ嬢にはこんな姿見られたくなかったのに!もう嫌だ。早く人間に戻りたいよ……』
『焦ってはだめよ。あなたは絶対に戻れるから。だから自分を傷付けることはダメよ。お母様も周りのみんなも悲しむわ。アルベルティーヌちゃんだって悲しむわよ!』
──あの子が落ち込むのは見たくない。もう自分を痛めつけるのはやめる。
それから割とすぐに流行り病が流行ってしまい、お茶会や夜会も無くなった。
その後は立て続けに伯爵夫人と母が亡くなってしまい、アルベルティーヌとの接点は無くなり会うことはなかった。
────
10年以上の年月を経て、また偶然アルベルティーヌに出会えた。
アルベルティーヌがずっと大変な環境下に置かれていることを知らなかった自分に腹が立つ。
──俺は鷹だろう!?アルベルティーヌのことを見に行こうと思えばいつでも行けた!
俺は自分のことばかりで精一杯で、何も気にかけてやることが出来なかった!大事な妹のような存在だったのに!
そして、昨日もアルベルティーヌを慰める言葉の一つも掛けてやれない己に腹が立った。
人間の姿だったなら良かったのに!
親を亡くした者同士分かち合うことも、言葉を掛けてやることも、抱きしめることも出来たのに……!
「──早く人間に戻りたいな」
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