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2 ペレット作りは心を込めて
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モニエ家別邸の鳥たちは、ご飯が終わると基本的には自由行動である。
開け放たれている窓から外に飛び立つ鳥もいれば、室内の止まり木で休む鳥たちもいる。鳥たちはみな伸びやかに暮らしている。
餌やり後のアルベルティーヌはというと、とても伯爵令嬢とは思えない質素な朝食を食べ、その後は畑仕事とペレット作りを行う。
そして、畑仕事の出来ない雨の日は、街に売りに行くための小物を作る。手慰みに刺繍や針仕事をして、僅かだが自分で使うお小遣いを稼いでいるのだ。
「──わ!クロ!あなた、また飛ぼうとしてるわね!傷が癒えるまではダメよ!」
アルベルティーヌは窓際から飛び立とうと翼を広げていたクロを捕まえると、木綿の布で胸元に優しく括りつけた。
「飛ぶのはダメだけど、外の空気は吸わせてあげる!だからちょっと収穫の間だけ、ここでおとなしくしていてね……?」
クロは忙しなく首を動かしたかと思うと、諦めたようにおとなしくアルベルティーヌの胸元におさまった。
きゃーーーーーーー!
今日は餌を綺麗に食べてくれたし、クロ様がやっとおとなしくしてくれた!!プルプルしてるクロ様……可愛い!
「ふふっ、あなたを拾って五日!やっとうちに慣れてきてくれたのかしらね?」
────
アルベルティーヌがクロを拾って五日。
クロを敷地内の畑の横の大木の下で見つけた時、地面には美しい黒鷹がぐったりと力なく横たわり、真っ赤な血と漆黒の羽が散っていた。
──魔道具が着いていない……それにしても美しい黒鷹ね……
アルベルティーヌは慌てて邸に連れ帰り、銃で撃たれたのであろう翼の傷の手当をし、衰弱した黒鷹のために専用の餌を作った。
畑で育てている薬草と穀物を柔らかく煮込み、ペースト状の餌を作り、水を少しずつ飲ませた。
『──怖くないわ!傷を癒したいだけなの。そんなに怯えないで……』
『──あなたは艶やかで素敵な漆黒の翼だから、クロちゃんって呼ぶわね!私はベルっていうの。よろしくね、クロちゃん』
美しい黒鷹に『クロ』と名付け、なるべく目を離さずに世話をするが手負いの黒鷹は一向に懐かない。鋭い瞳で警戒するように威嚇するのだ。
根気強く優しく声をかけ、優しく手当をすること五日。
やっと餌も綺麗に食べてくれるようになったし、こうして畑仕事の間、胸元におとなしくいてくれるようになったクロのデレ具合に感激するアルベルティーヌだった。
────
クロとペレット用の薬草や野菜、果物を採り終えると、アルベルティーヌは畑横の小さな物置小屋兼作業部屋でペレットを作り始める。
「──攪拌」
「──凝固」
鳥たちの好みや体調に合わせ、穀物や野菜、果物、時には薬草などを混ぜ合わせ、小さく分けて固めるとペレットの完成だ。
アルベルティーヌは家族に見捨てられた令嬢とはいえ、貴族なので魔法が使える。
魔法とは便利なもので、調理場でなくともこうして与えられた小さな物置小屋でも作業ができるのだ。
とはいえ、二十匹ほどいる鳥たちの好みや体調に合わせてペレットを作るのは、なかなか地道で大変な作業である。
鳥たちが美味しそうに食べてくれるので、毎日心を込めて作る。アルベルティーヌはペレット作りが大好きなのだ。
「クロちゃん、そんなにじーって見て魔法見るの楽しいのかしら?」
クロは身動ぎせず、アルベルティーヌの胸元から作業をずっと静かに見つめていた。
「──クロちゃん、はい、あーん。他の子には内緒よ?作業に付き合ってくれたお礼ね。あなたがいるとペレット作りがあっという間に感じるわ!ありがとうね」
アルベルティーヌはクロ用にブレンドした薬草と甘い果物のペレットをそっと嘴に差し出した。
──こうして手ずから食べさせて、嫌そうにしながらも作ったものを美味しそうに食べてくれるのは嬉しいわね!
贔屓してはダメだけど……クロ様はツンデレさんで……とってもとってもかわいいわ!
開け放たれている窓から外に飛び立つ鳥もいれば、室内の止まり木で休む鳥たちもいる。鳥たちはみな伸びやかに暮らしている。
餌やり後のアルベルティーヌはというと、とても伯爵令嬢とは思えない質素な朝食を食べ、その後は畑仕事とペレット作りを行う。
そして、畑仕事の出来ない雨の日は、街に売りに行くための小物を作る。手慰みに刺繍や針仕事をして、僅かだが自分で使うお小遣いを稼いでいるのだ。
「──わ!クロ!あなた、また飛ぼうとしてるわね!傷が癒えるまではダメよ!」
アルベルティーヌは窓際から飛び立とうと翼を広げていたクロを捕まえると、木綿の布で胸元に優しく括りつけた。
「飛ぶのはダメだけど、外の空気は吸わせてあげる!だからちょっと収穫の間だけ、ここでおとなしくしていてね……?」
クロは忙しなく首を動かしたかと思うと、諦めたようにおとなしくアルベルティーヌの胸元におさまった。
きゃーーーーーーー!
今日は餌を綺麗に食べてくれたし、クロ様がやっとおとなしくしてくれた!!プルプルしてるクロ様……可愛い!
「ふふっ、あなたを拾って五日!やっとうちに慣れてきてくれたのかしらね?」
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アルベルティーヌがクロを拾って五日。
クロを敷地内の畑の横の大木の下で見つけた時、地面には美しい黒鷹がぐったりと力なく横たわり、真っ赤な血と漆黒の羽が散っていた。
──魔道具が着いていない……それにしても美しい黒鷹ね……
アルベルティーヌは慌てて邸に連れ帰り、銃で撃たれたのであろう翼の傷の手当をし、衰弱した黒鷹のために専用の餌を作った。
畑で育てている薬草と穀物を柔らかく煮込み、ペースト状の餌を作り、水を少しずつ飲ませた。
『──怖くないわ!傷を癒したいだけなの。そんなに怯えないで……』
『──あなたは艶やかで素敵な漆黒の翼だから、クロちゃんって呼ぶわね!私はベルっていうの。よろしくね、クロちゃん』
美しい黒鷹に『クロ』と名付け、なるべく目を離さずに世話をするが手負いの黒鷹は一向に懐かない。鋭い瞳で警戒するように威嚇するのだ。
根気強く優しく声をかけ、優しく手当をすること五日。
やっと餌も綺麗に食べてくれるようになったし、こうして畑仕事の間、胸元におとなしくいてくれるようになったクロのデレ具合に感激するアルベルティーヌだった。
────
クロとペレット用の薬草や野菜、果物を採り終えると、アルベルティーヌは畑横の小さな物置小屋兼作業部屋でペレットを作り始める。
「──攪拌」
「──凝固」
鳥たちの好みや体調に合わせ、穀物や野菜、果物、時には薬草などを混ぜ合わせ、小さく分けて固めるとペレットの完成だ。
アルベルティーヌは家族に見捨てられた令嬢とはいえ、貴族なので魔法が使える。
魔法とは便利なもので、調理場でなくともこうして与えられた小さな物置小屋でも作業ができるのだ。
とはいえ、二十匹ほどいる鳥たちの好みや体調に合わせてペレットを作るのは、なかなか地道で大変な作業である。
鳥たちが美味しそうに食べてくれるので、毎日心を込めて作る。アルベルティーヌはペレット作りが大好きなのだ。
「クロちゃん、そんなにじーって見て魔法見るの楽しいのかしら?」
クロは身動ぎせず、アルベルティーヌの胸元から作業をずっと静かに見つめていた。
「──クロちゃん、はい、あーん。他の子には内緒よ?作業に付き合ってくれたお礼ね。あなたがいるとペレット作りがあっという間に感じるわ!ありがとうね」
アルベルティーヌはクロ用にブレンドした薬草と甘い果物のペレットをそっと嘴に差し出した。
──こうして手ずから食べさせて、嫌そうにしながらも作ったものを美味しそうに食べてくれるのは嬉しいわね!
贔屓してはダメだけど……クロ様はツンデレさんで……とってもとってもかわいいわ!
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