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1 一日の始まりは餌やりから
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ベルの一日は朝市で肉を買うことから始まる。
小さなマジックバッグを携え、鹿肉や鶏肉、兎肉といった肉を買い集めるのだ。
「ベルちゃん、今日もおつかい偉いわねえ!鹿肉と兎肉少し多めにしといたよ!」
「マリーさん、いつもありがとうございます!お嬢様も喜びます!」
「アルベルティーヌ様も気の毒に……肉をいっぱい食べて早く病気治るといいのだけど……ご両親を亡くされて……可哀想に」
──そのお嬢様は私なのだけど……
しかもそのお肉をいただくのは私ではなく鳥たちなのだけど……
本名アルベルティーヌ・モニエ、20歳。
見た目は15歳くらいと幼く、背も低く華奢な体躯。飴色のウェーブがかった髪に、優しげな若葉色の瞳。
父は亡くなってしまったが、モルヴァド領を治めるモルヴァド伯爵。つまりアルベルティーヌはれっきとした伯爵令嬢である。
それが一体何故こんな使用人のようなことをしているのかというと、ありきたりではあるが義母に虐げられ、田舎であるモルヴァド領の中でも更に辺境の別邸に15歳の時から追いやられているのだ。ご丁寧に両親を亡くし心の病で病気療養中、という設定で。
父のコレクションである──いや、コレクションであった美しい鳥たちと共に。
────
──ピィィィィッ
「ただいま!みんなおいで、ご飯の時間よ」
──バサッバサッ
アルベルティーヌが大空に向かって笛を吹くと、待ってましたとばかりに新鮮な肉やペレットに飛びつく鳥たち。
艶やかな焦げ茶の大鷲や、藍色のオウム、グレーのヨウム、夏の青空のように透き通った水色の文鳥、カラフルなインコ……この邸には色とりどりの美しい鳥たちがいる。
そしてこの鳥たちは元々はアルベルティーヌの父であるモルヴァド伯爵のコレクションだった。美しい鳥、珍しい鳥に目がない伯爵は、金にものを言わせて国内外から鳥たちを集めていた。
だが、流行病で亡くなった両親に代わり領地を継いだ叔父は、この領地の辺境にある古びた別邸に鳥たちを追いやってしまう。
──珍しい鳥らしいからな。他の貴族に売ってしまうのは勿体ない。たまに別邸に眺めにいけばいい──
こうして本邸から追いやられた鳥たちは、飼い主である伯爵と繋いでいた魔道具も外されていた。
魔道具がないということは、本当は自由に飛び立てるのだ。だが鳥たちはアルベルティーヌのことが好きで、あえてこの邸の敷地周辺にいるのだった。
そんな美しい鳥たちの中に、一際美しい黒鷹がいる。
朝日を浴びて艶やかに輝く漆黒の羽に、金色の鋭い瞳。理知的で力強いその佇まいにアルベルティーヌは見惚れた。
「──ほら、クロちゃん。お肉小さめに切ったから食べやすいでしょう?あなた翼を怪我しているのですから、血を造らなくてはダメよ?たくさん召し上がって?」
肉切れを入れた器をクロの前に置くと、アルベルティーヌの顔をしばらく眺めた後、渋々といった様子で食べだした。
きゃーーーーーーー!
今日もクロ様はかっこいいわね!あの鋭い瞳で見つめられたら、鷹相手なのになんだか恥ずかしくなってしまうわ……!
「偉いわ!クロちゃん今日はお肉を綺麗に食べてくれたのね!翼の傷の手当をしましょうね」
クロはまた渋々といった様子で、アルベルティーヌの膝におさまる。
「クロちゃんは、どこから来たのかしらね?魔道具は着いていないけれど、こんなに美しい漆黒の羽ですもの……きっとどこか貴族のおうちで飼われていたのかしらね?」
フリフリ。クロは頭を横に振る。
「ふふっ!クロちゃんはたまに私の言葉が分かっているのではないかと思う時があるわ!──誰にも飼われていないのなら、傷が癒えてもずっとここにいてくれてもいいのよ」
寂しげな、それでいて優しいアルベルティーヌの表情にクロは目が離せなかった。
小さなマジックバッグを携え、鹿肉や鶏肉、兎肉といった肉を買い集めるのだ。
「ベルちゃん、今日もおつかい偉いわねえ!鹿肉と兎肉少し多めにしといたよ!」
「マリーさん、いつもありがとうございます!お嬢様も喜びます!」
「アルベルティーヌ様も気の毒に……肉をいっぱい食べて早く病気治るといいのだけど……ご両親を亡くされて……可哀想に」
──そのお嬢様は私なのだけど……
しかもそのお肉をいただくのは私ではなく鳥たちなのだけど……
本名アルベルティーヌ・モニエ、20歳。
見た目は15歳くらいと幼く、背も低く華奢な体躯。飴色のウェーブがかった髪に、優しげな若葉色の瞳。
父は亡くなってしまったが、モルヴァド領を治めるモルヴァド伯爵。つまりアルベルティーヌはれっきとした伯爵令嬢である。
それが一体何故こんな使用人のようなことをしているのかというと、ありきたりではあるが義母に虐げられ、田舎であるモルヴァド領の中でも更に辺境の別邸に15歳の時から追いやられているのだ。ご丁寧に両親を亡くし心の病で病気療養中、という設定で。
父のコレクションである──いや、コレクションであった美しい鳥たちと共に。
────
──ピィィィィッ
「ただいま!みんなおいで、ご飯の時間よ」
──バサッバサッ
アルベルティーヌが大空に向かって笛を吹くと、待ってましたとばかりに新鮮な肉やペレットに飛びつく鳥たち。
艶やかな焦げ茶の大鷲や、藍色のオウム、グレーのヨウム、夏の青空のように透き通った水色の文鳥、カラフルなインコ……この邸には色とりどりの美しい鳥たちがいる。
そしてこの鳥たちは元々はアルベルティーヌの父であるモルヴァド伯爵のコレクションだった。美しい鳥、珍しい鳥に目がない伯爵は、金にものを言わせて国内外から鳥たちを集めていた。
だが、流行病で亡くなった両親に代わり領地を継いだ叔父は、この領地の辺境にある古びた別邸に鳥たちを追いやってしまう。
──珍しい鳥らしいからな。他の貴族に売ってしまうのは勿体ない。たまに別邸に眺めにいけばいい──
こうして本邸から追いやられた鳥たちは、飼い主である伯爵と繋いでいた魔道具も外されていた。
魔道具がないということは、本当は自由に飛び立てるのだ。だが鳥たちはアルベルティーヌのことが好きで、あえてこの邸の敷地周辺にいるのだった。
そんな美しい鳥たちの中に、一際美しい黒鷹がいる。
朝日を浴びて艶やかに輝く漆黒の羽に、金色の鋭い瞳。理知的で力強いその佇まいにアルベルティーヌは見惚れた。
「──ほら、クロちゃん。お肉小さめに切ったから食べやすいでしょう?あなた翼を怪我しているのですから、血を造らなくてはダメよ?たくさん召し上がって?」
肉切れを入れた器をクロの前に置くと、アルベルティーヌの顔をしばらく眺めた後、渋々といった様子で食べだした。
きゃーーーーーーー!
今日もクロ様はかっこいいわね!あの鋭い瞳で見つめられたら、鷹相手なのになんだか恥ずかしくなってしまうわ……!
「偉いわ!クロちゃん今日はお肉を綺麗に食べてくれたのね!翼の傷の手当をしましょうね」
クロはまた渋々といった様子で、アルベルティーヌの膝におさまる。
「クロちゃんは、どこから来たのかしらね?魔道具は着いていないけれど、こんなに美しい漆黒の羽ですもの……きっとどこか貴族のおうちで飼われていたのかしらね?」
フリフリ。クロは頭を横に振る。
「ふふっ!クロちゃんはたまに私の言葉が分かっているのではないかと思う時があるわ!──誰にも飼われていないのなら、傷が癒えてもずっとここにいてくれてもいいのよ」
寂しげな、それでいて優しいアルベルティーヌの表情にクロは目が離せなかった。
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