上 下
33 / 39
第2章 友達と相棒編

28秒 役者は揃った

しおりを挟む
       ◇    ◇    ◇

 エレナ達が奴等に連れ去られて、どれくらいが経っただろうか、
一刻も早く向かいたいが、どこへ向かったのかがわからない限り動けない、
 俺は顎に手をやり、しばらくどこかを見つめながら考えていると、

「……わりいネリス、黙って見てたのは間違っていたのかもしれない。連れ去られた場所もわからないんじゃ、かなりまずい状況だ」

 スヴェインは判断を誤ってしまったと思い、俺に対して謝るが、
俺は別の事を考えていた、何が正解だったのか? 何がベストな選択だったのか
 あの時、あの燃え盛る家の中、判断を誤って二人を救えなかった。

「(能力は……ダメだな。人に触れる事が出来ないなら、二人を抱えて逃げる事も出来ない。 ……ほんとに、つっかえねえ能力)」

 だとすると飛び出すべきだったか? 違う、スヴェインも危険に
晒す事になる、エレナもアマリアさんも守りながら勇者の側近二人、無理だ

「(隠れてるのが正解だったんだろうな……)気にするなよスヴェイン、とにかく村の連中に協力を願おう」

 スヴェインは悪くない、勇者の側近が動けば、村のみんなにも
被害が及んでいたのかも知れない、戦う場所が移っただけでも良しとしよう

 ……グレアは考えて戦う、でも、俺は機械じゃない、時々感情で
動いてしまう、それが……俺の弱さなんだろうか。

 ネリスが考えていると、励ましの言葉を聞いて安心したのか、
スヴェインは一つの提案をする

「ネリス、これからどうする?」

「そうだな、もし村に魔物が襲って来られても、みんなが戦える準備を先にしとかないとな……今ここで村を離れる、ってのはみんなが危ないけど、俺はエレナ達を優先したい」

「ああ……確かにそうだな」

「少しここで考えてみる、スヴェインは村長の手当と村の人達に声をかけてくれ」

「わかった!」

 俺が言うと、スヴェインは急いで外へと向かう。

「(……村長は5年前に本を受け取ったって言ってたけど、どうして俺の字に似ていたんだろう?)

 そして、能力者がをどうやって知ったんだ……?

 ――時間が惜しい、簡単に整理してみよう、まず俺たちは突然消えた
イリナが、生態実験に関わってる事を知った、あいつがか、
 またはであるかはわからない。

 でも、勇者達と深い関係がある事はまず間違いないだろう、
ここまでは正しいと思う、次に勇者の側近がこの近くを探していた動機だ

「(ヘスサルだけではなく、他の村にもこういった本を渡している事は間違いないんだけど……問題はその、俺がという情報を知ってる人物がいるという事だ)」

 いったい、その情報は流したんだ?
イリナを探す為に俺達が西へ向かう、という情報を流した人物……。

「(カルロさん……? いやそれだとしたら、一つ矛盾むじゅんがある)」

 確か本の内容は「悪魔への捧げ者を5年に1人、洞窟に残せ」だ、
もし仮に西へ行く情報をカルロさんが知っていても、俺達より速い訳がない。
 勇者の側近が既ににいた……? それならカルロさんが漏らしている訳ではなく、会話を聞いた別の人物だろう、そして……

「(5年前、一体誰がこの村に来たんだろうか……)」

 ダメだ、考えれば考えるほどわからない……とにかく冒険者はここ、
、という事はカルロさんが、
 何か隠しているのは事実だ、考察するのはこの辺にしておこう。

「――ネリス!」

 突然スヴェインが叫び、声の方を向いた
外を走り回ったからだろうか、息を切らしながら、

「はあ……はあ、村長は怪我をしていたが無事だ!」

「よかった、村の人達はなんて?」

「それが……今すぐ外へ来てくれ!」

「あ、ああ」

 俺は外へ出ると、村長は奴等に数発殴られたのか、頭に包帯を巻いていたが、
なんとか無事なようで、俺の心配をしてくれた、しかしスヴェインが言うには、
「村の連中がみんな、事情を話してもドアを開けてくれないのだと言う」
試しに近くの家のドアをコンコンと軽く叩いたが、先ほどの騒ぎを聞いて
 怯えたのか、反応は全くと言うほど返ってこない。

「どこもみんなこんな感じだ、畜生どうすれば……!?」

 もうあまり時間もない、さっさと準備しなければ、
みんな死んでしまうかも知れない。

「みんな、魔物の襲撃に備えてくれ! 誰もいないのか!? おい!!」

 ネリスとスヴェインは数多くのドアをドンドンと強く叩いたが、
関わりたくないのか、やはり反応は返ってこない。次に回り込んで
 窓を見ると、気付いた村人は関わりたくないのかカーテンを閉める。

 「どうして?」と疑問を浮かべるネリス、するとフラフラと、
左右によろめきながら歩く村長はネリス達に声をかけ、
 察したような表情で、呟いた。

「……みんな、関わろうとしないのですよ」

 俺は信じられないと言った顔で返事をする

「ど、どうして!?」

「関われば巻き込まれ、犠牲者が増える。それなら犠牲になったアマリア一人で事が済む方が良いのでしょう」

 何を言ってるんだこの人は? 事実だとしても、その一人を救おうって
考えはないのか? 俺は若干、村長や村の人達の態度に対し、
 苛立ちに似た怒りを徐々に感じていった

「私は村長ですから、村を守る義務があります。ですが、村の人達は守るべき子供や、愛する人がいるのです」

 魔物が来るかも知れないんだぞ、みんな死ぬ可能性だってある、
だったら、みんなでこの村を守らなきゃいけないんじゃないのか?
 俺は何か、間違った事を言っているのか? 違う、間違ってないはずだ。

「村長さん、あなたが指示してください、勇者の側近は目的を果たしたんです、この村が用済みとして襲われる危険性があるんだッ!!!」

 俺は村のみんなに聞こえるような大声で叫び続け、
手を強く握って訴える、もう、時間がない、エレナを助けたい。

「村を守る為にみんな立ち上がるんだ!! 早く!!」

 ……だが、村長は苦い表情を浮かべ、俺の意見を否定し続ける

「残念ですが、難しいと思います。あなたの言ってる事は正しい、でもみんな危ない事には関わりたくないんです」

 怒りが爆発したネリスは、村長の襟首を掴み、
納得いかない表情を示しながら叫ぶ

「なんでだよ!! あんたらの為に、二人犠牲になってんだぞ!!」

「おいネリス! 落ち着け!」

 スヴェインは今にも殴りかかってしまいそうなネリスを止め、
怒り、焦り、その感情が入り交じったネリスは肩で息をしながら一旦落ち着く

「(……難しい? 何が難しいんだ?)」

 アマリアさんとエレナは連れ去られたんだ、別に取り返す為に、
みんなが動いてくれって言ってるんじゃない、全員で力を合わせて
 守ってほしいんだ。もう……もうのは嫌なんだよ!!

「誰かが犠牲に、ましてはよそ者が犠牲者としてなってくれるのであれば、みんなにとって後はどうでもいいのでしょう。 ……本来、人とはそういうモノです」

「ざけるな……。 ふざけるなよ!! 大体一人犠牲になりゃいいって!! 本気でみんな思ってんのかよ!!」

 この村全員に届くように大声で叫ぶ、俺は、
もうあんな悲劇は繰り返したくない。

「アマリアはあんたらの為に犠牲になったんだろう!! それがどうでもいいってなんだよ!! 彼女が決意した覚悟も意思も! 全部全部無駄にしていいのかよ!!」

「ネリス!!」

 スヴェインが思い切り俺の背中を拘束するように掴み、
村長と距離を引き離す、わかってる。村長に言っても仕方ない、
 この人もいっぱいいっぱいなんだ、でも、思うようにいかない事に
怒りが収まらず、俺はスヴェインに掴まれながら、

「あんたも……わかってくれよ、村を本気で守りたいなら、今すぐ……動いてくれ」

「ネリス……」

 スヴェインの力が弱まる、俺は膝から崩れ、四つん這いの状態で涙を流した
誰かが死ぬのも、誰かが悲しむのも、全部全部嫌だ。

 地面にポタ、ポタと涙が落ちた、みんなわかってくれ!
もうあの出来事は嫌なんだ……! 複雑な気持ちのまま、
 言葉をハッキリと表現出来なかった。

 どう説明しても誰にもハッキリとは伝わらない、
何も考えられない、気持ちだけが頭の中でいっぱいになる。

 泣いているネリスを見ていたスヴェインは、
唐突に横に立つと、村長の前で地面に頭がつくほどの土下座をする

「村長、いや、村長さん、俺からも頼む。村のみんなを説得してくれ!!」

「(……スヴェイン?)」

「言ったろ? 俺も覚悟、相棒」

 村長もやり切れない気持ちをぶつけるように、

「……皆さんの気持ちはわかりました、村の皆さんは私を信頼してくれるかわかりませんが、やるだけやってみましょう」

 村長は決意すると、家のドアを叩き始めた

「お願いします!! 魔物がここを襲ってくるかもしれないんです! 協力してください!!」

 何度も、何度もドアを叩く、段々と俺は冷静を取り戻していった。

「(みんな動いてくれてる……俺は、今。何が出来る……?)」

 俺も村長と同じように、家を見つけてはそこに向かって走り、
ドアを叩いた、「お願いします!」と何度も気持ちを伝える、
 自分が本気で思って動くから、他人はそれに応えてくれる。

 でも、ただワガママを押しつけるだけじゃ人は動いてくれない、
言葉というのは、感情で伝わり方もまた変わるはずだ。

「お願いします! 村の為に戦ってください!! お願いします!!」

 スヴェインも何かしようと動いてくれたのか、
気がついたら村の外に立っており、俺を大声で呼ぶ

「ネリス、馬だ! これを使って追いかけるぞ!!」

 追いかける? どうやって? 俺はスヴェインの近くへ走ると、
村の外には、光る小さな球体が地面に落ちており、その光が一つの線を
 描くように点々と地面に散らばっており、俺は不思議そうな顔で
スヴェインに尋ねると、

「これは……?」

「あの時、家で見たアマリアの具現魔法だろう! これならどこへ行ったかわかるぞ! 早く乗れ!! 急がないと見失ってしまう!!」

 コクリと頷いたネリスは馬に乗り込んだスヴェインの後ろへ乗ると、
手綱を引き、馬は勢いよく発進し、光の塊を辿りながら
 奴等を追いかける事にした。

「(待っていてくれ二人とも!!)」

       ◇    ◇    ◇

 そこは、暗い洞窟のような場所だった。エレナは、アマリアの
照らしてくれた小さな光に反応し、小さく「ん……」と声をあげる

「よかったエレナ、大丈夫?」

 私が両目をゆっくりと開けると、そこには心配そうに見つめる
アマリアがいた、同時に身体を起こそうと思ったが、
 どうやら殴られた後、奴等に捕まったんだ、手足が縛られて動けない。

 私はアマリアを見て、怪我がないか尋ねる

「大丈夫、私は何もされてないから」

 ひと安心すると、私の大切な友達を傷つける、あいつの声が聞こえた。

「あら~、目が覚めたんだ、キャハハ」

 私の中で憎悪が溢れるほど、癪に障る声だった、エウベーナ……
アマリアを奪おうとしたこの女だけは、私は許す事は出来ない。

 怒りに震え、眉をしかめて睨み付けるエレナを見て、エウベーナは

「キャハハ、怖い怖い~でもさ、これ見てもまだ強がれるかな~?」

 指を差すエウベーナ、その方向に振り向くと、

「おら、出てきなよ」

 エウベーナは松明を使って洞窟の明かりという明かりをを一斉につけると、
眩しい光が二人を襲い、アマリアは自身を抱きついたような姿勢になり、
 ガタガタと下を向いて震え出す、

「火……火は嫌……!」

 私はアマリアを見なきゃいけなかった、落ち着かせて
あげなきゃいけなかった、でも……見慣れた顔が目に映り、
 目線を外す事が出来なかった。

「あ……あ……」

 震えながらも声をあげたのはアマリアだった、私もを見て、
言葉に詰まり、身体が恐怖に包まれた、あれは……あれは……。

 ガァ、アアア――。

「キャハハ、どう? エウベーナ様自慢のは?」

 最初に鳴き声が聞こえる、初めに強く思った、これは魔物だ、人ではない。
私は信じられなかった、人はどこまで残虐になれるのだろう?
 それとも、この姿に変え、笑っている悪魔は何も感じていないのだろうか、
胃がひっくり返るほど気持ちが悪い、吐き気が襲う、寒気が襲う。

「キャハハ、どうしたの二人固まっちゃって、 ……あ、キャハハ!! もしかして仲間だった? マジ!? 実はもう一匹の方も作りたかったんだけどさ~ダランが首チョンパ! しちゃってね~。 キャハ、キャハハハ、キャハハハハハ!!」

 腹を抱えながら嬉しそうに笑う、私とアマリアの反応を楽しんでいるんだ。
最低な悪魔、絶対に許さない……。

 ――生態実験、その言葉の意味を私はようやく理解出来た、
あの時私たちが倒した大きいゴブリンは、こういう事だったんだ。

「エレナちゃん疲れたの? 私たちが外の様子見とくから、少しベッドで休みなよ」

 ふと、優しい彼女の言葉を思い出した、昨日挨拶をされ食事を頂いた、
あの声はもう聞けない、あの姿はもう見れない、もう会話する事も出来ない。

 アア、アア――!!

 声をあげた、彼女。それは――

「ラウレッタ……さん」

 ラウレッタは90度に首が、口から唾液のようなモノを垂らし、
 目の焦点が合っていなかった、恐らくあの女によってやられたのだろう。

 グ、アアアアッ!!

 もはや彼女に自我なんて無いんだ、もう……彼女ではない。

 私の中に怒り、悲しみ、憎しみ、色んな感情と殺意が波のように押し寄せる
殺してやる、この女を絶対に許さない、殺してやる。

 エウベーナはラウレッタの身体を撫でるように触り、

「いやあこれね~、ちょっと不格好だけどさ。首戻せばよく出来てるとは思うんだよね~」

「……黙れ」

「は?」

 縛られていた身体は、全身が暴れ出したいぐらいだ、
今すぐぶん殴ってやりたい、ラウレッタさん達の敵を討ってあげたい。

「はあ~、さっきも思ったけどさ、自分の立場ってのがわかってないよね。キャハハ」

 ニヤニヤと笑うエウベーナは、上機嫌で注射器のようなモノを
ローブから取り出すと右手で握り、エレナの目の前に近づけると――

「これね、魔物化する薬らしいんだけど、私たち、死んだ人間にしか使った事ないからさ、生きてる物にコレ……試した事ないんだ。 だからさ~キャハハ、どういう結果になるかすぅ~っごく、楽しみなんだよね」

 私は表情一つ変えず、エウベーナを見た。

「……それで?」

「あ?」

「それで、私が怯えるとでも思ったの? アンタなんかの手の平じゃ踊らない、最後まで抵抗してやる」

「ムカつくガキだね~ ……っほんとさあ!!」

 エウベーナはバタバタと暴れるエレナを抑え付け、
注射器の後ろをグッと押し込むと、容器の中に入っていた紫の液体は、
 見る見るうちに彼女の腕の中へと入っていった。

「……!! ああああああああっ!!」

 頭の中の脳みそが上下左右に震えたように感じた、
拒絶したように身体はブルブルと震えだし、口から何か……

「ぐっ!!」

 血だ。口から血が出てきた、まずいよ……助けてお兄ちゃん。
まだ好きって言ってない、大好きって伝えられてないのに
 死……? 死ぬの? 私……結局誰も救えず? 死ぬの……?

「キャハハハ!! さ~このガキはどういう結果になるかな~?」

 苦しむエレナの様子を見てエウベーナは笑い、
それを見たダランは若干引き気味の表情で、

「悪趣味だよなテメェ」

「エレナ……? エレナ!!」

 アマリアは正気に戻ったのか、急いで地面に頭を擦りつけながら、
悶え苦しむエレナの元へ駆け寄り、腕を握った後、彼女の手から
 何やら小さな光の球が出てきた。

「(火なんか怖くない、火なんか怖くない……!!) ああエレナ、死なないで、私の大切な友達のエレナ!! 絶対に諦めないで! 意識を強く保って!」

「う……ん……」

 何度も手から魔法を出し続け、私に声をかけるアマリア、
その言葉に身体の痛みは収まっていく、朦朧とした意識の中で、
 私は憎しみと、恨みの感情と抑え付けるのに精一杯で、息が漏れる。

「はぁ……はぁ……ぐっ……はぁ……」

 殺せ、全てを食え。人間が憎い。人間を殺せ、血を、血で満たせ。
目の前の人間に噛みつけ、違う、アマリアは私の友達、手を出しちゃだめ、
 コロセ……違う、血が欲しい、違う違うチガウ!!

 何とか自我を保とうと、必死にアマリアの事を頭の中で
いっぱいにしようとした。

「ガ、アアアッ……」

「エレナ! エレナ!」

 アマリアは必死に魔物化しつつあるエレナに声掛けをし、
エレナは薄れゆく意識の中で、ヒモ遊びの事を思い出していた。

「はぁ……はぁ(あの歌の……歌詞、なんだっけ)」

とーびましょ、ほらとーびましょ、つーかまーれば鬼になるー
おーにはひーとをうーらみ、だーれーかーを鬼にする
鬼になありたくなければー、とーびましょ、さあとーびましょ――

「(そうだ、あの歌の最後の歌詞は――)」

 捕まれば今度はあなたが鬼になる、だ。

 必死に魔物化に抗うエレナと、治療するアマリアの様子を見て、
エウベーナは滑稽だと感じたのか、クスクスと小馬鹿にしたように笑い

「いいね~その友情、でもさ、そろそろ見飽きたから ……おら、やっちまいな!!」

 ガァァアアア!!

 ラウレッタは叫び、四足歩行でアマリアではなく、
エレナの方へ向かう、目を見開き、驚きの表情でアマリアは、

「エレナ!!(魔力が……もう……!!)」

「(ネリス兄ちゃん……助けて、助けて)」

 私はお兄ちゃんが助けに来てくれる事を願い続けた、家が火に包まれ、
お母さんが抱きしめ続け、私はただ「助けてほしい」と願った、
 あの時と同じように私にとっての英雄が助けに来てくれる事を、ただ願った。

「(お願い、助けて、お兄ちゃん――!!)」

 ラウレッタの口が開き、座り込んだ二人のどちらかが噛みつかれる瞬間――

 ガキンッ――!!

 ……鉄同士がぶつかったような音がした、私の身体は
どこも痛みを感じない、それじゃあアマリアが噛まれちゃったの?と、
 私はゆっくりと閉じた目を恐る恐る開けると……

 ピンチの時……必ず、必ず来てくれる、私にとっての
英雄ヒーローがそこには立っていて、両手で持ったダガーで、
 飛びかかったラウレッタさんの口を塞いでくれていた。

「ごめん……遅くなった。怖かったろ?」

「お兄ちゃん……!!」

「もう大丈夫だ、俺が……守るッ!!」

 嬉しくて、ぽろぽろと涙が出た。

「お兄ちゃあん……!!」

 エウベーナはペロリ、と新しい獲物が来たことにワクワクしたのか、
舌を出してグルリと唇を舐め、歓喜が混じった笑顔でクスクスと笑った。

「(いつの間に? こいつまさか……?) キャハハ、だあれ、あんた?」

 ラウレッタは飛びかかった勢いが無くなったのか、
地面へ着地するとさっ、と距離を取る、すると大声で一人の男が、

「ネリス!! いたか!?」

「スヴェイン!!」

 アマリアが声に反応し、洞窟の入り口を見ると、そこには
スヴェインさんの姿があった、みんな、助けに来てくれたんだ……。

 エウベーナは不服そうに舌打ちをすると、懐から剣を抜く

「どいつもこいつも……面倒くさいなあ、殺しちゃおうか」

 ダランはこういう戦いを待っていたのか、腕をグルンと一回転し、

「面白そうだ、せいぜい足掻くこったな」

 ネリス達と勇者の側近、命を賭けた戦いが、今始まる――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

魔王転生→失敗?(勇者に殺された魔王が転生したら人間になった)

焔咲 仄火
ファンタジー
 人間界と魔界との間には、100年戦争が続いていた。長い間、戦争は膠着状態が続いていたが、突如人間界に現れた"勇者"の存在によって一気に戦況が変わる。圧倒的戦力である勇者への対応のため、魔王も最前線と魔王城の行き来をしていた。そんなある時、魔王の乗った飛空艇を勇者が襲う。魔王と勇者の一騎打ちの結果相打ちとなり、重傷を負った勇者は逃亡、魔王は勇者の一撃で致命傷を負ってしまう。魔王は転生の秘術により生まれ変わり、また戻ってくることを部下に約束し、息絶える。そして転生した魔王は、なぜか人間として生まれ変わってしまった。  人間に生まれ変わった魔王は、人間界で冒険者として生計を立てながら、魔界を目指す。 ※2017年11月25日完結しました

処理中です...