【完結】瀕死の剣士を助けたら、懐かれて『番』認定受けました。

華抹茶

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1 クラウスside

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『グオォォォォォ!』

「くそっ……」

 後方でドラゴンの咆哮が聞こえる。いや、咆哮というよりも俺を嘲笑っているのだろう。

 ドラゴン討伐を依頼され来てみれば、予想外の相手が現れた。エンシェントドラゴン古龍。遥か長い時を生きた孤高のドラゴン。知能も魔力も何もかもが桁違いな最凶最悪な奴だ。

 ギルドでは『ただのドラゴン』だと聞いていたのにいざ蓋を開ければ『エンシェントドラゴン』。流石の俺でもこいつには勝てない。気付かれる前に撤退しギルドへ事情説明をしようと思ったが、俺の企みはこいつと目が合ったことで打ち砕かれた。

 ドラゴンは鋭い爪を振り上げ俺に向かって勢いよく振り下ろした。それを間一髪で避けると一気に駆け出し距離を取ろうと試みる。だがドラゴンは巨体とは思わせない俊敏さで俺の行く手を阻んでくる。ドラゴンは俺を一思いに殺すことはなかった。きっと俺を玩具だと思って遊んでいるんだと思う。攻撃してはその手を止め、しばらくするとまた攻撃を仕掛けてくる。俺の体には様々な傷が増えていった。

 子供の時にギルドマスターに見込まれて体を鍛え剣も磨いてきた。一人で生きて行くためには強くなるしかなかった。そのおかげで今じゃ師匠よりも強くなれたが、どこかで驕りがあったのかもしれない。
 緊急連絡用の魔道具がここにあれば……なんて今そんなことを考えても手元に現れるわけがないのに。それが今現在手元にないことが俺の驕った心の表れだろう。

 今頃ギルドの奴らは俺のことを心配しているだろうか。エンシェントドラゴンが現れたということだけでも伝えられたらよかったのだが。
 
 傷を負いながらも逃げ回り隠れ続けてもう何日経ったのか。
 負傷を負いながら常に緊張を解くことも出来ず、水も食事も満足にとることの出来ない日々。たった数日のはずだろうが、数か月この状態なのではと思う程の疲労感。生き延びることを諦めたくはないが、あのドラゴンはきっとそれを許さないだろう。俺も意識が朦朧としてきている。

『グォォォォォォ!』

「っ!?」

 もうこんなに近くにいたのか。疲労と血の匂いで俺の鼻もおかしくなっているようだ。側に近寄られるまで気が付かなかったなんて。大木の陰に隠れて身を隠しているがきっとドラゴンは俺のいる位置などお見通しだろう。

「諦めてたまるかっ……!」

 力の入らなくなっている体を叱咤して木の陰から木の陰へと素早く移動する。だがその時ちらりとドラゴンへ目線をやれば目が合った。その時のあいつの表情はまるで楽しそうににやりと笑っているかのようだった。

 ドラゴンの腕が振り上げられた。俺にはそれを避けるだけの力がない。もうここまでか……。
 そう諦めかけた時、ドンッ! という凄まじい音と共にドラゴンが吹き飛んだ。

「は?」

 何が起きたのか全く分からなかった。目の前にあった巨体は無様な姿で地面に転がっている。

「えいっ!」

『ガァッ……!!』

 そのままとんでもない速さで上から何かが落ちて来た。そしてドラゴンの頭部がぐしゃりと潰れる。最後に呻き声を上げたドラゴンはピクリとも動かなくなってしまった。
 
「大丈夫!?」

 ドラゴンの頭部から何かが凄まじい速さでこちらへと駆けてくる。俺は警戒し身を強張らせた。逃げることはもう出来ないだろうが諦めたくはなかった。少しでも隙がないか目を凝らす。
 こちらへと駆けてきた何かは一人の男だった。年頃は俺より少しだけ上だろうか。少し短い金の髪がキラキラと輝いていて、ふわりといい匂いまでする。

「凄い怪我だね。だけどあのエンシェントドラゴンからの攻撃を受けてこれだけで済んでるなんて、君は相当強いんだろうね。無事でよかった」

「っ!?」

 その男が手をかざせば、その一瞬で俺の体に付いていた傷も痛みも、全て瞬く間になくなってしまった。魔法だ。俺には使う事の出来ない治癒魔法。

「あなたは……?」

「僕? 僕はメルヒオール。回復術師だよ」

「……回復術師?」

 俺は少し離れた場所に転がるエンシェントドラゴンを見やる。頭部は見事に潰されていて息の根が止まっていることが傍から見てもわかる。回復術師がエンシェントドラゴンを一発で仕留めるなんてそんなことが可能なのだろうか?

 ん? 回復術師のメルヒオール?

「まさか……!?」

「あれ? 君も僕の事を知ってるの? こんな辺境の地でも僕の名前って知られてるんだね。なんだか恥ずかしいな」

 メルヒオールは恥ずかしそうに頬をぽりぽりと搔いていた。
 回復術師のメルヒオール。冒険者をやっていれば、いや、戦いに身を置く者であれば知らない者はいないだろう。回復術師でありながらなんでも出来るオールラウンダー。ソロで活動し、世界各地を回っている最強の冒険者。
 そんな彼ならエンシェントドラゴンを簡単に討伐出来ても不思議じゃない。なら彼は間違いなく本物の『メルヒオール』なのだろう。
 だがどうしてここに? そんな凄い人物とのまさかの邂逅に開いた口が塞がらない。

「この街のギルドへ寄ったら君が討伐から帰ってこないって聞いてね。もしかして、と思って来たんだけど間一髪だったね。助けられて良かったよ」

「ありがとう、ございました……あの、何かお礼をさせてほしい。命を救ってくれたんだ。俺が出来ることであればなんでもする」

「お礼? 別にいいよ、そんなの。あのエンシェントドラゴンの報酬を貰えればそれで」

「いや、そういうわけにはいかない。あなたが来てくれなければ俺は間違いなくここで死んでいた。傷も全て治してくれた。その恩を返さなければ俺の気がすまない」

「んー……君って大真面目なんだね。じゃあ、そこまで言うなら……」

 メルヒオールは顎に手を当てて少し考えた後、俺の顔を見てにこりと笑った。

「じゃあ僕を抱いてくれる?」

「は?」

 突拍子もないことを言った目の前の男は、それはそれは楽しそうに笑っていた。
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