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しおりを挟む「リコ、ただいま! 会いたかったよ!」
「ゼフィ様っ!?」
俺は何もすることがなく、やれることもないから「部屋でゆっくりしていなさい」と公爵様に言われて、申し訳ないなと思いながらも美味しいお茶を飲みながら本を読んでいた。
そこへ帝国へ行ってくる、と転移で飛び立ってからわずか半日後、ゼフィ様がいきなり目の前に現れて驚いた。
戦争って言ってたし、数か月は会えなくなる可能性を考えていたんだけど…。
あまりに早いお戻りだったから、何か忘れものでもしたのだろうか。
と思って聞いてみたが。
「え? もう私の仕事は終わったよ。あとは陛下達の仕事だね」
「ということは…? 戦争は、終わったんですか? これからなんですか?」
「終わったよ。だからもう大丈夫」
終わったんだ…。たったの半日で。
俺、そういう事全然わからないけど、戦争って半日で終わるもんだっけ? あれ?
「リコ、難しい顔してる。リコは何も考えなくて大丈夫だよ。それより……」
ゼフィ様が耳元で囁いて来る。その声には甘さが含まれていて、聞くだけで俺の腰がずくんと疼いた。
「頑張った私にご褒美が欲しいな。今から父上たちのところに行ってくるから、夜、覚悟してね」
そう囁いた後、こめかみにキスをするとそのまま部屋を出て行ってしまった。
「ほっほっほっ。本当に仲が良くて微笑ましいですな」
あ…ブルクハルトさんがいたんだった! また恥ずかしいところを見られてしまった…。
その日の夜はもうなんていうか、激しい中にも甘さもあったり、とにかくどろどろにされてしまった。それも朝まで。
声が抑えられないから嫌だって言ったけど、防音魔法を掛けられて「大丈夫だよ」とめちゃくちゃに攻められたり、俺の体力が尽きそうになると癒しの魔法を掛けながらゆっくりゆすられたり。
ずっと「愛してる」とか「かわいい」とか「リコが最高過ぎて死にそう」とか、そんなことを言われ続けていた。俺も返したかったけど、喘ぎ声しか出せなくて快感で馬鹿になった頭じゃまともな言葉も出なかった。
そして外が明るくなって来たな、と思ったのが最後の記憶。そして今は外が真っ暗。
寝室の窓を見れば、カーテンは閉め切られ部屋の中はほんわかと小さい明かりがついてる程度。
どうやら俺は、あのまま夜まで寝ていたらしい。なんてこった。
「リコ、起きたんだね」
声がする方へ顔を向ければ、ベッド横でゼフィ様が座って本を読んでいた。
「すみません、夜まで寝てしまっていて…」
「いいんだよ。私の方こそごめんね。あの皇女の問題が片付いて、やっとリコとの生活に邪魔なものが無くなったと思ったら、嬉しすぎて嵌めを外してしまったんだ。無理させてごめん。家族全員から怒られちゃったよ。
さ、お腹空いてるよね? 今用意させるから、リコはこのままここで待ってて」
ゼフィ様は部屋の明かりを強くすると、ちゅっと頭にキスを一つ落として寝室を出ていった。
癒しの魔法で体は楽になっているとはいえ、腰のだるさは残っていたからお行儀は悪いがベッドの上で食事をいただいた。
「はい、あーん」
前もこんなことあったな。と懐かしく思いながら、大人しく餌付けされる。
あの時はまさかゼフィ様とこんな風になるなんて思ってもいなかくて、ただただ恥ずかしいと申し訳ないの気持ちしかなかった。
でも今は、嬉しくて幸せに思う。
食事が終わった後はお風呂へ連れていかれた。さっぱりしてゆっくりお茶を楽しんでいたら、またうとうとと眠気に襲われる。
「今日はもう寝ようね」
その日は何もなく、ただ抱き合ってゼフィ様の温もりと心臓の音を感じながら夢の世界へ旅立った。
翌朝、身支度を整えて朝食を摂りに食堂へ向かう。席に着くとすぐにゼフィ様のご家族の方もお見えになった。
「おはようリコさん。うちのバカ息子が無理をさせたようで申し訳ないわ。体は大丈夫かしら?」
「おはようございます! は、はい。もうすっかり大丈夫です」
この館にいる人全員に、ゼフィ様とあんないやらしいことをしていることがバレているのは恥ずかしい以外ない。
朝食を済ませた後は、公爵様の執務室へと向かった。今後の事を話し合うためだ。
「ウルリコ君、まずは陛下を呪いから救ってくれてありがとう。そのお礼についてなのだが、何か欲しい物はあるかな?」
「いえ! お礼は特に必要ありません! 俺は薬師として当たり前の事をしただけで…ですのでお気持ちだけで十分です」
「本当に何もいらないのかい? 大金でも、男爵くらいにはなると思うが、爵位も貰えるだろう。貴族の一員になれるぞ?」
「いえ、お金も爵位もいりません。王様が助かったのならそれでいいんです」
「ふむ……」
公爵様は俺の返事を聞いて、腕を組んで考え出した。
俺は、別にお金も爵位も必要ない。これは本当。王様があのままじゃ死んじゃうし、ゼフィ様からも頼まれたし、外から解呪出来ない呪いなら解呪できるのはあの時は俺だけだった、ただそれだけ。
お金はあって困る物でもないが、今でも十分に生活できる蓄えはあるし、また薬屋として店を開ける予定だからこの先もきっと何とかなる。それにもし大金を貰っても使い道がない。俺は別に宝飾品とか高価な物を買う趣味はないし、田舎に戻れば高級品を扱う店なんてほとんどない。
「君は本当に欲のない子だね。ゼフィロの言っていた通りだ」
「そうでしょう? 欲がなさ過ぎて困るくらいですよ。でもだからこそ、私はリコに惹かれたんです」
「なるほどな」
ん? 欲がないから惹かれた?
「前にも言ったと思うけど、リコは私を私利私欲のために利用することはない。私の命を助けた時も、薬師だから当たり前だとそう言ってくれた。それが嬉しかったって言ったよね。貴族の汚れた人々の思いに疲れた私の心を癒してくれたのはリコなんだ」
「貴族も全てがそうではないが、そういう輩が多いのは間違いない。ある意味、そうしなければ貴族として家を繁栄させるのは難しい面もあるからな。私も必要ならば汚いこともする。程度は違えど平民でも同じようなものだろう。
だがウルリコ君はそういうところがない。見返りを求めて当然の事すら、自ら求めることがない。珍しい人間だと思うよ」
俺は珍しい人間だったのか。知らなかった。
「だが何も褒美を与えないという訳にはいかないからな。陛下の命を救ったわけだから」
「ならば、私との結婚を認めてもらいましょう。陛下がお認めになれば他は口を挟むことは出来ません。少なからず公爵家の私と平民のリコとの結婚に対し、反対の声が上がることは分かりきっています。いくら我が家が認めていたとしても。私も今後、周りの貴族から子供の事などでうるさく言われるのは嫌ですし。
リコはどう? それでいい?」
「はい、問題ありません。嬉しいです」
俺もそうしてもらった方が嬉しい。何かを貰うのはやっぱり気が引けるし、ゼフィ様との結婚を王様に認めて貰えるなんてこれ以上ない栄誉だ。十分すぎる。
「わかった。ならばそうしてもらおう。だが、金子は受け取ってもらう。結婚の認めだけでは足りぬからな」
それから1か月ほど、公爵家でお世話になることになった。その間に、陛下からは結婚を認めてもらう書状を書いてもらったり、婚約のお披露目をしたり。
なんだかんだバタバタと忙しく日々を過ごしていた。
お披露目の時は凄かったな…。陛下が俺達を認めたとしても諦めきれない貴族の人達が、綺麗な娘さんをこれでもかとアピールしてきた。陛下に認めてもらったのに…。
額に青筋を浮かべたゼフィ様は、見せつけるように俺にキスをすると「リコは最愛だ。リコ以外興味はないし必要ない」と言って、魔力で圧を掛けてしまった。
動けなくなった貴族の皆さんが気の毒すぎて、ゼフィ様を抑えるのに必死だった。俺が「ゼフィ様、抑えて抑えて! ダメですよ!」と必死になって言葉にするも、引く気はないようで一向に収まらなかった。そこで俺はゼフィ様の顔を抑えて自分からキスをした。するとあっという間に圧は霧散し、にこにことご機嫌になったゼフィ様。
「リコからキスしてくれるなんて嬉しい」と俺を抱きしめ頬をすりすり。それから怖い雰囲気はなくなって、お披露目会の最後まで何とか過ごすことが出来た。
その数日後、お兄さんのフィンセント様に「ウルリコ君、ゼフィロの圧を簡単に抑えたことから『勇者使い』とか『勇者のご主人様』なんて言われてるよ」と言われて愕然とした。
なんだその猛獣使いならぬ勇者使いって…。しかも勇者のご主人様って意味が分からない。どちらかというと、ゼフィ様が俺のご主人様じゃなかろうか。
「リコ、そろそろフォルトンの町に戻る?」
「…いいんですか?」
お披露目会も終わって、落ち着いた頃。ゼフィ様がそう聞いてきた。
俺は町に戻って薬屋をやりたかったから、その言葉は凄く嬉しかった。
「もちろん! あの店はリコの大事な店でしょ? ご両親から受け継いだ大事な店。
もう邪魔者はいなくなったから、今度こそ再開出来るよ」
それで俺たちはフォルトンの町に戻ることになった。
公爵家の皆さんには惜しまれたが、またいつでも遊びにおいでと言ってくれた。ゼフィ様の転移があれば、すぐに行き来できる。また来ます、と挨拶して家へと帰った。
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