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しおりを挟むそれからは少し近況報告や雑談をして過ごし、セルジオ様たちは帰っていった。
「リコ、私の部屋へ案内しよう」
そう言われて今までいた部屋を出る。さっきまでいた部屋は応接間というらしい。色んな部屋があってびっくりする。
そして俺は部屋を出て更に驚くことになる。
デカい…この建物自体がデカい…。あまりの広さにぽかんとしていたら、隣でくすくすとゼフィ様が笑っていた。酷い、と思ってじとりと睨みつけてやった。
「ごめんごめん。驚いてるリコの顔が可愛すぎて…」
「驚きますよっ! 何ですかこの広さ! いきなり外から中へ転移で飛んできたからわからなかったですけど、これが家!? 怖すぎますっ!」
「公爵家だからね。家もそれなりに、ね」
「……公爵家ってやっぱり凄いんですか? 俺、貴族の事全然わからなくて…」
恥を忍んで聞いてみたら、公爵って貴族の中で一番上の爵位だそうだ。
俺、その貴族の一番上の地位にいる凄い人と恋人なのか…。え、これ普通に考えてやばいんじゃ? え、どうしよう。そう思って聞いてみたけど「一番偉いのは父上で、私は別に偉くなんかないよ」と。
いや、貴方世界を救った勇者様でしょうに。それで偉くないわけがない。
そう考えると、公爵家の息子で勇者で母親は国王陛下の妹って、とんでもない人だ。俺、とんでもない人と付き合ってるんだ…。しかも結婚する予定だし…。これ、考え直した方がいいのか? いや、俺はゼフィ様と一緒にいるって決めたし、ゼフィ様も側にいて欲しいっていうし、あ、あ、愛してるって言ってくれてるし…。
「リコ、さっきから難しい顔してるけど着いたよ。ここが私の部屋だ」
そしていつの間にか着いていたゼフィ様の部屋。立派な扉を開けると、またとんでもなく広い部屋が現れた。
中へ足を踏み入れてきょろきょろと見渡してみるが、この部屋には椅子やテーブル、ソファーなんかはあるけどベッドがない。え? まさかソファーで寝てる??
「こっちにおいで。ここが寝室。そしてここは浴室。そしてここは書斎。この本棚に置いてある本は好きに読んだらいいよ。気になる物があればいいのだけど」
「え…これ全部、ゼフィ様の部屋…?」
「そうだね」とキョトンとした顔をされましても…。この部屋だけで、俺の家がすっぽりと収まるほどの広さがあるんじゃなかろうか…。
「…俺の家、狭くてすみません」
貴族って凄い。公爵家って凄すぎる…。いつも狭いところにいたからか、こんな広い部屋にいるのが怖くなってきた…。
「そんなの全然気にしてないのに。私はリコの家が好きだよ。温もりを感じるよね。それにリコの匂いがして安心するし、あのキッチンで料理するリコも可愛いし。
広さなんてどうでもいいよ。そこにリコが居ないのなら、どんなに広くてもどんなに高級でも、私には意味がないから」
そのまま俺を抱きしめて頭にキスをされた。ゼフィ様は俺の頭に良くキスをする。最初は恥ずかしかったけど、今は凄く嬉しい。
「私の生まれ育った場所はここだけど、早くリコの家に帰りたい。あの家が好きなんだ。リコと一緒に生活するのがとても楽しい。
だから狭いからって謝らないで。私の大好きな場所だからあれでいいんだよ」
「ゼフィ様…」
良かった。そう思ってくれるなら。でもお茶とかは王都で良いものを買っておこう。出来る範囲でゼフィ様に質の高い物を出してあげたいから。
「そろそろ『ゼフィ』って呼んでくれない? 様は省いて欲しいな」
「……それはご勘弁ください」
流石にそれは無理だ。ゼフィ様の地位をちゃんと理解した今「はい、わかりました」とは言えない。
「ほっほっほっ。仲が良くてようございました。ウルリコ様、どうぞゼフィロ様の事を、末永くよろしくお願いいたします」
「ふぁっ! は、はい! 俺なんかでよろしければっ…!」
忘れてたっ! ブルクハルトさんがいたんだった! 最近恥ずかしいところばっかり見られてる気がする…。
例の皇女との話し合いは、2日後に決まった。陛下も立ち会うとのことで、日程の調整がついたのがその日だった。
それでせっかく王都に来たんだし、とゼフィ様に王都観光へ連れて行ってもらい服や靴などをまた沢山買ってもらってしまった。
それだけじゃなくて、お世話になってるゼフィ様の家でも公爵様とか奥様とかお兄様方から色々な物を貰ってしまった。
俺が使う事はないだろう宝飾品に、有名店のお菓子やケーキに高級茶葉、それだけじゃなく「欲しい物は?」と聞かれてもう要らないと答えたのに、しつこく聞いて来るから調味料と薬草と答えたら、かなりの種類の、しかも山盛で出されたときは遠い目をした。
ただでさえ、ゼフィ様の家でお世話になってるのにこんなにたくさんの物貰って本当にいいのだろうか。ゼフィ様は「あの人たちの好きにさせたらいいよ。沢山貰えてよかったね」なんて言うけど、俺には高級な物過ぎて使うのすら躊躇われるものばっかりだ。「ゼフィロの命の恩人に、こんなものしか渡せなくて歯がゆい」なんて言われたけど、とんでもない。
お茶やお菓子、調味料類は、ゼフィ様のマジックバックに入れておけば大丈夫だし、フォルトンに戻った時に使おうと思ってるからまだいいんだけど。服とか宝飾品とかどうすれば…。
それだけじゃなくて、沢山持ってきたポーション類をゼフィ様の家族だけじゃなくて、使用人の人達にもあげたら思いのほか喜ばれた。
「お礼です!」と突撃してきた使用人の人達に肌の手入れだといわれもみくちゃにされたり、ぼさぼさの髪を綺麗に切られたりした。おかげで肌がツルツルで髪はつやつやのサラサラだ。
ゼフィ様には「今までも十分可愛かったけどもっと可愛くなったね」と褒められた。喜んでくれたのなら、まぁいいのだけどすぐにぼさぼさに戻りそうだ。
毎日出される食事も豪華すぎてびっくりだし、テーブルマナーは良くわかってないのに嫌な顔せず「一杯食べなさい」って皆さんにこにこ顔。
俺は小柄だから成長期の子供だとでも思われているんだろうか…。おかしいな、ゼフィロ様と同じ歳だと伝えたはずなんだけど。
皇女様に会う日まで、こんな感じで俺は公爵家の皆さまに可愛がられることになった。会う前までは緊張してたけど、良い人達ばっかりで本当に良かった。流石はゼフィ様の家族だ。
因みに俺の部屋はゼフィ様の部屋だった。聞くと使用人の皆さんで、他の部屋を用意していたらしいんだけど「リコと離れるのは嫌だ」とゼフィ様の一声で一緒になった。
寝る時はただ寝るというわけにはいかず、手を出されることになって困った。だってここはゼフィ様の家で、他にも人が沢山いるのにそんなこと…と思ったけど、ゼフィ様の魔法は便利で汚れようが何しようが、お得意の魔法で一発解決。お陰で俺が拒む理由はなくなった。
いつも思うけど、魔法ってこんなことに使っていいのだろうか…。使ってる本人がいいのならいいんだろうけど…。
「さ、リコ。今日は王宮に行く日だよ。おめかしして可愛くなろうね」
男の俺が可愛くなる必要はあるのだろうか。と疑問に思いながらも、確かに俺が持ってる服で行くのは失礼だろうと理解し、用意された服を着ることにした。それから髪の毛も綺麗にしてもらって、いただいた宝飾品も身に着けた。
このための宝飾品だったのか、と俺は納得した。
初めてこんなにも着飾った俺を見たゼフィ様は「リコが可愛いっ!」とぎゅーぎゅーに抱きしめてきて、俺は危うく窒息死しそうになった。
可愛いのは遺憾だが、喜んでくれたのならまぁいい。
ゼフィ様のご家族全員参加するらしく、皆さん気合の入れ方が違った。顔はいつも通りにこやかなのに、目が笑っていないというか…。
「戦場に向かう騎士の気分だな。今日は決着をつけよう」と公爵様は黒い笑みを浮かべていた。
それから数台の、立派過ぎる馬車に乗って王宮へと向かった。
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