【完結】君を愛すると誓うよ。前世も今世も、そして来世も。

華抹茶

文字の大きさ
上 下
33 / 47

32

しおりを挟む

 キッチンに着いたものの。
 心が痛い。目にジワリと涙が滲む。

 泣くな。泣いたところを見せられない。そんなことをしたら絶対にどうした? って聞かれる。
 落ち着かせるために目を瞑り、深呼吸を何度か繰り返し気分を切り替える。

 お茶を淹れるためにケトルに水を入れて火にかけると、ふいに後ろからソニア様が「手伝います」とやって来た。

「え…そんな大聖女様に手伝ってもらうなんてっ…俺1人で十分ですからお席に――」

「というのは建前よ。何か心に抱えているんじゃないの?」

「え……いえ、そんな事は……」

「わたくしにはそうは見えなかったわ。……ゼフィロ様のことかしら?」

 その言葉にピクリと反応してしまう。「やっぱり…」とソニア様にバレてしまった。

「ねぇウルリコさん。ゼフィロ様には言えないこともわたくしには話せると思うの。わたくしはあなた達の味方よ。だから聞かせてくれないかしら?」

「味方…。どうして味方になってくれるんですか?」

「どうして…そうねぇ。ゼフィロ様が幸せそうだから、かしら」

「幸せそう、だから…?」

「ええ。あの方はとても苦労されてきたんです」

 ソニア様の話は、俺の知らないゼフィ様の話だった。

 【勇者のスキル】が発現してからの日々は、とても穏やかとは言えなかった。それは俺も想像だけど、分かっていた。強いスキルはそれに見合った努力がなければ開花しない。スキルを開花させるために必死に鍛え、修練に打ち込んだ。

 それだけだったならまだいい。【勇者のスキル】を開花させるのは、時間もかかるし生半可な事じゃない。だけど周りはさっさと討伐に行けとばかりに、ゼフィ様を焦らせた。家族の支援もあって何とか開花させたゼフィ様は、魔王討伐の旅に出ることになった。だけどそこでも周りの心無い言葉は止まるどころか、更に加速した。

 人々には魔王討伐するのは当たり前とばかりに声を掛けられ期待され、討伐したらしたで取り込もうとする貴族の思惑が邪魔をする。

 このままゼフィ様が何もしなければ、待っているのは傀儡としての人生。そんな事は死んでも嫌だと、陛下との謁見の時に一切の関知を拒否すると明言した。

 だけどそんな事は関係ないとばかりに、私利私欲を肥やそうとする貴族が多い。それが先ほど話にも出てきた皇女様の一件もその内の一つ。この国の宰相が、以前からゼフィ様との婚姻を望んで勧めていたそうだ。

「ゼフィロ様が目覚めてウルリコさんを探しに行く前、ウルリコさんが唯一無二の存在だと、前世からの愛しい人なんだと、そう仰ってたわ。
 そして今日初めて貴方と一緒にいるゼフィロ様を見て、優しい眼差しと幸せそうな表情と、そしてあのように甘えるだなんて…。ウルリコさんの存在がゼフィロ様を救っているんだとわかったの」

「……前世の話もご存知だったんですね」

「ええ。信じられないような話だったけど、ゼフィロ様は嘘を付く方ではないし、むしろ嘘を付いてもなんのメリットもないから。だからわたくしは信じたの。
 それでウルリコさんは何に悩んでいるの? 幸せそうには見えても、素直に全てを受け入れているわけじゃない気がするわ」

 すごいなソニア様は。今日ほんの少し見ていただけで分かってしまうなんて…。

「俺は……。正直前世の記憶とかなくて、よくわからないんです。ゼフィ様は俺がクレベールの生まれ変わりだって信じてます。それは別にいいんです。だけど……。ゼフィ様が好きなのは、俺じゃなくてクレベールなんだって思ってて…。
 それに俺ともし万が一、結婚なんてしてもこの先子供が出来ることはありません。優秀な血筋を残すためにも俺が側にいるのは違うんじゃないかって…そう思ってしまって…」

「ウルリコさん……。ゼフィロ様がそう仰ったの? クレベールだから好きだと。貴方じゃなくて、クレベールだから好きなんだと。
 ウルリコさん本人を好きだとは言われてないの?」

「はい…あ、いえ。よく、わかりません。ゼフィ様には俺がクレベールの生まれ変わりだから会えて嬉しいと。でも俺をクレベールとは呼んだことはないです。でも…すみません、よくわかりません」

「…そういうことね。ウルリコさんは、自分を通してクレベールを見ているんじゃないか。そして血筋を残すために、自分が側にいてはいけない。そう思っているってことね。
 …クレベールを見ているのかどうかは、ゼフィロ様本人に聞かないとわからないことだけど、血筋云々の話は気にしなくていいと思うわ。まぁどちらにせよ、ちゃんとゼフィロ様と話をした方が良いと思うの。今持ち上がっている問題もあることだし」

「そう、ですね……」

 やっぱりちゃんと確認しないと、ゼフィ様と話をしないとダメだよな。でもそれでクレベールだから好きだって言われたら…。

「きっと悪い事にはならないと思うわ。大丈夫。……というか。はぁ…。ゼフィロ様も何をしているんだか。肝心な事を伝えていないだなんて…。幸せボケでもしているのかしら。
 というか、お湯がもう沸いてるみたいね。わたくしがお茶を淹れるわ」

 そう言うと、さっと俺が手にしていたポットを取り上げるといそいそとお茶を淹れだした。

「………なんでわたくしがやるとこうなるの? ウルリコさん、わたくし呪いをかけられていないわよね?」


 出来上がったお茶は、何故がどぶ色の、正直口にしたくないお茶になっていた。 
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

処理中です...