【完結】君を愛すると誓うよ。前世も今世も、そして来世も。

華抹茶

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 緊急事態…。勇者パーティーの皆さんがゼフィ様を訪ねてくるほどの緊急事態…。

「ゼフィロ。大国であるフェルスト帝国が動き出した。お前ならこれだけで大体の事は察するんじゃないか?」

「……なるほど」

 俺は国の事とか難しいことは良くわからないけれど、ゼフィ様は『フェルスト帝国』と聞いて直ぐにピンと来たようだ。
 ゼフィ様の顔は眉を寄せて難しい顔になっている。さっきまでの柔らかい表情は一瞬にして無くなってしまった。

 フェルスト帝国って確かここ100年程で、周辺国に戦争を仕掛けてあっという間に支配した国じゃなかったっけ。それで勢力図がかなり変わってどうのこうのって、父さんと母さんが話してた気がする。
 俺の子供の時の話だからよく覚えてないけど…。

「そして僕とソニアの事だけど、僕たちも帝国の高位貴族との婚約を打診された。それで僕たちは婚約したんだ。いちゃもん付けられる覚悟はしてたけど、そこはあっさりと引き下がったよ」

「お前たちは仮の婚約という事か?」

「いや、このまま本当に結婚するつもり。僕もソニアも、結局婚約に関して煩わしい思いをしている同志だし、知ってる仲だし、他の誰かと結婚することと比べたらこっちの方が良い。っていうお互いが了承した形」

「なるほど。まぁその方が良いだろう」

 ギルエルミ様とソニア様が婚約したと聞いて、おめでたい事だなぁって俺は思ったけど、皆の顔を見るにそうじゃないみたいだ。貴族の方は何かと色々あるらしい。よくわからないけど。

 話についていけず、ただただゼフィ様の膝の上に乗っかっているだけの俺に、何故がゼフィ様がまたギュッと抱きしめてきて頬をすりすりと擦り付けてきた。

 「ゼフィ様?」と聞けば、「リコがリコで、本当に嬉しいと実感していたところ」とよくわからない返事。どうしたんだろうか。

「皇女がお前に会いたいとご希望だ。陛下がお前との婚約は本人の意思に任せると仰って、それならば何としてもお会いしなければ、と会えるまでは国へ帰らないそうだ。
 それで何度かお前に連絡をしたが、音信不通。それで陛下に頼まれて迎えに来たという訳だ」

「皇女を蔑ろにするわけにもいかないしね。しかもあの女、本当にゼフィロに会うまで王宮に居座る気だから」

 すごいな。流石皇女様。ゼフィ様に会えるまではずっと王宮にいるんだ。
 というか、だから皆揃ってゼフィ様を迎えにここまで来たのか。

 じゃあゼフィ様は王都へと帰ってしまうのか…。

 解呪のポーション作りのことでちょっとした喧嘩をしたものの、やっぱりゼフィ様と一緒にいる毎日はとても楽しい。それがもう終わりを迎えようとしている。

 それに皇女様はゼフィ様と結婚することを望んでいるみたいだし、俺みたいな田舎の薬師と一緒にいるよりゼフィ様にとってはそっちの方がいいんだろう。

 ゼフィ様は、帝国の皇女様が結婚相手に臨むほどのすごい人なんだ。俺の前ではそんなオーラを見せることはあまりないけど、というかむしろ可愛いと思うような表情や仕草だったり、実は凄く甘えただったり。

 解呪のポーションの時だって、結局は俺に怪我をさせたくないってことと、俺の血液が他人の体に入る事が我慢ならない、要は独占欲みたいな物なんだろう。

 だってゼフィ様が見ているのは、前世から想っているクレベールなのだから。そう。ウルリコじゃない。クレベールなんだ。


 なのに。わかっているのに。

 俺はゼフィ様と離れたくないと思ってる。皇女様と結婚してほしくないって思ってる。ずっと側にいて欲しいって思ってる。思ってしまっている。

 なんて浅ましい考えなんだろうか。結局ゼフィ様の幸せよりも自分の幸せを考えてしまっている。

 いや、自分だって幸せになれるかなんてわからない。俺を見ていない人と一緒にいて、それは本当に幸せな事なんだろうか。

「あー、確かなんかそんな事言ってたね。『勇者としての優秀な子孫を残すのは使命』だみたいな。何言ってんだコイツ、って思ったけど」

 ぐるぐるとそんなことを考えていて皆が色々と話をしているのを全く聞いていなかったけど、ふいにギルエルミ様の言葉にピクリと反応してしまう。

 ――勇者としての優秀な子孫。

 そうだよな。ゼフィ様みたいな凄い人は、子孫を残さないといけないんだ。

 もし万が一、俺がゼフィ様と結婚したとして。俺は男だから子供を産むことは出来ない。同性同士の恋人や夫婦は珍しくはないけど、子供が出来るのは男女でしか無理だ。
 だから俺はどんなに頑張ったところで、ゼフィ様の子供を産むことが出来ない。子孫を残してあげられない。

 俺は…ゼフィ様にとって、何が残せるんだろうか。何が出来るんだろうか。


 俺は何も残せないし、何もできない。
 こんな俺がゼフィ様と一緒にいていいはずがない。

「どうした?」

「…なんでもありません」

「リコ、何か思うことがあるのなら言って欲しい」

「いえ…。あ、そうだ。俺、お茶淹れなおしてきますね。なので、いい加減下ろしてもらえますか? 恥ずかしいです…」

「…わかった。じゃお願い」

 渋々といった体で俺を膝から下してくれた。そしてそのまま逃げるようにキッチンへと駆けていく。

 今は1人になりたかった。ゼフィ様の側にいられなかった。側にいる資格がないと思い知らされた。
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