【完結】君を愛すると誓うよ。前世も今世も、そして来世も。

華抹茶

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 馬で駆けていると途中で馬車が1台止まっているのが見えた。行商の馬車かな? と思いながら横を通り過ぎようとしたら、怪我をした人が何人かいて治療をしているところだった。

「あの…いきなりすみません。俺は薬師です。少しですがポーションを持っていますのでお渡ししましょうか?」

 俺がそう声を掛けると、驚きながらも「有難い」と言ってポーションを受け取ってくれた。

 どうしたのか話を聞くと、行商の馬車だと気が付いた賊に襲われたらしい。

「私は最果ての村に行商に行く途中だったんです。あの村は店がありませんからね。私が町と村を行き来して物を売っているんですよ。それを知った賊が襲ってきまして、なんとか撃退出来たんですがなかなか手練れだったようでこちらも無傷とはいかず…。
 しかも荷物も半分ほどは持っていかれました。中にはポーションもあったんですが…ですから本当に助かりました。ありがとうございます」

 そこへ俺がたまたま通りがかったことで、最果ての村まで一緒に行くことになった。俺には護衛なんていないから、一緒に村まで行けるのは心強い。賊がまた襲ってくる可能性は十分あるから。

 そしてちょっとした旅の仲間と共に出発して、俺たちは最果ての村に到着した。


 村へ入るとそこは魔獣の被害が大きく、ぼろぼろの家が多かった。そして住んでいる人は本当に少なかった。聞くところによると、魔獣が襲って来た時に亡くなった人が多かったらしい。
 元々少ない村の人口は、その被害で更に少なくなっていた。

 小さな村、特にこんな最果ての村は知らない人間に対して警戒心が強い。俺も最初はかなり怪しまれたが、怪我人が未だいるというので持ち合わせのポーションを渡し治療を施した。
 そのお陰と行商の人の口添えもあって、俺は村の端っこで、もう住む人がいなくなった家を借りることが出来た。

 そこでポーションを作り、また薬師として生活することになった。以前住んでいた町とは違い、ある程度の治療が済めば俺は暇になった。魔獣の数もかなり減って村の男たちが少しだけ魔獣狩りをするだけでよくなったから、怪我をする人も少なくなった。


「今日はよろしくお願いします」

「ああ、任せとけ。お前さんが来てくれたおかげで俺たちは命が助かった。そのポーションの為だったらいつでも手伝うぜ」

 こうやってたまに村の人に護衛を頼み、森へ行って薬草を採取する。
 村近くの森は、薬草の群生地だった。あまりの豊富さに俺は我を忘れて薬草を採取した。

「はははっ。俺達にゃ興味もなかったが、お前さんの顔はまるで宝物庫を見たかのようにキラッキラしてるぞ」

 夢中になって採取していたら、護衛してくれた村の人に笑われてしまった。

 森から帰ってきたら、薬草を天日干しする。その様子も村の人達には興味深かった様でしばらくは眺める人が多かった。それが少し恥ずかしかった。

 ポーション作りは中で行う為、誰かに見られることはない。だけど、ある日村のある子供がポーションを作れるようになりたいと俺に志願するようになった。

「僕も作れるようになれば村の人達の力になれると思うんだ。僕じゃ、だめ、かな…」

 いずれそう遠くない未来で俺は死ぬ。俺がいなくなればこの村はまたポーションを手に入れることに苦労する。
 この村に来る途中に出会った行商人から買うことは出来るが、安くはない。だから数をそこまで用意することが出来ない。それで魔獣に襲われたときに亡くなった人が多かった。

 魔王がいなくなった今、魔獣の数は減ってもいなくなることはない。それに狩ですら大怪我をすることもある。
 いずれこの子が村の人々を支えていけるように、俺はその子供を弟子にしてポーション作りを教えることにした。
 どこまで教えられるかはわからない。どれくらい俺に時間が残されているかわからないから。だけど、出来るだけこの子に教えたいと思う。

 そうやって毎日を過ごし、ある程度落ち着いた今は以前のような生活だ。割とのんびり過ごすことが出来ている。

 食材は村のみんなそれぞれ畑を持っていて、そこで採れたものや狩で得た肉を分けてもらっている。
 俺は代わりにポーションを分けていて、そうやって物々交換を行なって助け合っていった。
 

 そして俺の体に、時々痛みが走るのも変わらない。その感覚も日に日に短くなっていた。

 村に来た当初は1日に1回程度だったのに対し、今はもう1日5回は痛みに苦しむようになっている。きっといつかはこの痛みも和らぐことがなくなり、ずっと苦しむことになるんだろう。その後に待つのは死。

 もう無理だと思った時は、1人森へ行って死のう。そうすれば死体は森で動物や魔獣の餌となる。誰にも死体をさらすこともなく、村に迷惑も掛からない。置手紙だけはおいて村から出ていったことにすればいい。俺がいなくなることを弟子にも伝えるつもりはない。
 まだ元気なうちに置手紙を一つ書いておくことにした。

 ポーションは出来るだけたくさん作っておこう。俺がいなくなった後、この村でお世話になったお礼として残しておきたい。
 死ぬ準備をするなんて変な気分だな、と思いながら1人ひっそりと死ぬための準備と計画をしていった。

 
 それから村へ移ってどれくらいたっただろうか。

 とうとう突然襲ってくる呪いによる体の痛みは1日に12回ほどになった。こうなってくると眠っていても痛みで起きてしまうので、全然休むことなど出来ない。食欲も失せてしまい、かなり痩せてしまった。
 おかげで弟子にはかなり心配させてしまっている。かなり難しい病気なんだ、とだけ言っておいた。



 もうそろそろか。


 そう思って死ぬための最後の準備に取り掛かった。

 弟子は治癒のポーションが作れるようになった。というかそれしかまだ作れない。だけど、村ではそれさえあれば何とかなる。だから修業はもうお終いと言って無理やり打ち止めにした。
 かなり渋られたが「大きな町へ行って治療を受けてくる」と言って何とか誤魔化した。


 それから家の中を綺麗に掃除し、荷物を纏めた。そう長くは掛からないだろうと最初は考えていたが、体の痛みに耐えながらの作業は思った以上に進まなかった。ここまでで何日もかかってしまった。

 そして家を出る準備もそろそろ終わるか、という時、俺は倒れた。

 気が付けば外は真っ暗だった。突然今まで以上の痛みに襲われて倒れた時はまだ明るかったから、数時間か1日か。それとも数日か。
 全く分からなかったが、それなりに俺は気を失っていたらしい。

「今回は、父さんたちに会えなかったな…」

 少しそれを残念に思いながらも、もうすぐ会えるか、と気持ちを切り替えた。

 重い体を何とか起こし、寝室に向かう。置手紙を取り出し机の上に置いた。

 いつになるかわからないけど、きっと誰かがこれを見つけてくれるだろう。


 さ、死に場所に決めた森へ行こうと小さな鞄を一つ手に持った。と、その時――

「突然済まない。ここにウルリコという薬師はいるだろうか」

 ノックの音の後に男の声がした。誰か怪我をしたのだろうか、そう思い玄関へ向かい扉を開けると、そこにはありえない人物が立っていた。

「勇者…様…?」

「……やっと…やっと見つけた」

 呆然とする俺をよそに、久しぶりに見た勇者様はとても元気そうで、そして俺の顔を見てそれはそれは嬉しそうに微笑んだ。

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