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しおりを挟む「いい? リコ。あなたのスキルはとんでもないスキルよ。本当に公表してもいいのね?」
「うん。この辺境の町に住んでる俺がこのスキルを授かったのはきっと運命なんだ」
「運命ねぇ…」
母さんの顔ってそういえばこんな顔だったな。確か父さんと母さんが死んで3年か。
「母さん、俺、薬師としていっぱい教えて貰ったけど、2人共解呪のポーションは作れないでしょ? 自分たちが作れたならって思ったことは何度もあるよね?」
「そりゃあなぁ…。薬師として色々なポーションは作れても、解呪のポーションはどうしたって下位であれ神官様や聖女様のお力を借りなければ作れないからな。そのお陰で買い付けなければいけないが、どうしたって値段は他のポーションに比べて高くなる。
自分たちで作れるのなら、この辺境の町こそ助かるだろう。魔獣の数も多いこの地なら特に」
懐かしい父さんの顔。夢だってわかってるけど、こうやって顔を見れたのは嬉しい。
俺のスキルが判明した日。皆でとことん話し合った夜。薬師としてこれ以上ないスキルだったけど、俺の危険も跳ね上がる諸刃のスキル。
「だからさ。俺は公表して解呪のポーションを作りたいんだ。俺がポーションを作ることで助かる人は多い。今まで何人呪いを解くことが出来なくて死んでいった? 俺はそれを見るたびに『薬師』なのに、って悔しかった。だけど俺の力で沢山ポーションが作れるんだ。助かる命が増えるんだ! だったらやらないわけにはいかない。そうでしょ?」
2人共困った顔をして、最終的には納得してくれた。俺たちの気持ちはいつも一緒だったから。『自分達は薬師なのに』って。
「わかったわリコ。公表しましょう。だけど正式なスキル名は伏せるのよ。【解呪のスキル】だけを授かったというの。それだけでも危ないのに、本当のスキルを教えてしまったらそれこそどうなるか…」
――だってあなたのスキルは【呪いを自身に移すことと体液による解呪のスキル】だもの。
そう。俺の本当のスキルは【呪いを自身に移すことと体液による解呪のスキル】。だから勇者様の呪いだって自分に移すことが出来た。
自分に呪いを移すことで、自分の体の中で解呪する。
簡単な呪いだったのなら手を触れて呪いが移るよう念じるだけで良かった。だけど、勇者様にかけられた呪いは強力すぎてそれじゃ移すことが出来なかった。
だからあんな真似をして呪いを移すしかなかったんだ。
精液には魔力も含まれる。呪いは魔力に宿るから、それを介してしか呪いを移すことが出来なかった。
呪いをかけられた人が自分で魔力を俺に渡せたらあんなことはしなくて良かったんだけど…。
「呪いを自分に移しての解呪だけは人に見せるな。ポーションだけを作れると偽れ。だがな、どうしてもという場合があった時はその限りじゃない。その時の判断はお前に任せる」
「父さん…。うん、わかってる。ありがとう」
まさかその『どうしても』が勇者様だったなんてあの時は想像もしてなかった。
勇者様は助かっただろうか…。いや、きっと助かってる。
呪いのせいで生命力もかなり落ちてしまって危ない状態だったけど、転移できるギルエルミ様もいたし癒しのエキスパートであるソニア様もいたし、きっと大丈夫。
世界を救った勇者様を失わずに済んで良かった。俺がこのスキルを授かってよかった。
そして俺は死んでしまったのだろうか。
父さんと母さんといっぱい話をしたあの日の夜のこと。夢だと思っていたけど走馬灯? なのかな。死ぬ前にみるって聞いたことある。
それでもいいや。俺は俺の役目を終えたんだ。魔王が居なくなったのなら魔獣の数も減るだろうし、町の皆も俺のポーションがなくたって平気だろう。
あ、でも俺がいきなり死んでたら町の皆びっくりするよな。それだけはごめん。
父さんと母さんに会えるかな。会ったら勇者様を助けたんだって報告しよう。きっとあの2人なら褒めてくれる。でも死ぬのが早すぎだって怒られるかな。いや、怒ってから「良くやった」って褒めてくれるかも。
どうかな。ふふ。どっちでもいいや。2人にまた会えるんだから。
あ、向こうが明るく光ってる。きっとそっちに行けばいいんだろうな。
父さん、母さん待っててね。ちょっと死ぬのが早すぎたけど今から会いに行くから。
今までのこといっぱい話すからちゃんと聞いてくれよ。
あ、それと。
勇者様。魔王を倒してくれてありがとうございました。直接お礼は言えなかったのが心残りだけど、どうか届きますように。
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