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7 僕も学園辞めるね
しおりを挟むヴィンセントが泣き止むまで抱き締めていたら、いつの間にか眠ってしまった。泣き疲れたんだろうな。
そっとベッドに寝かせて父さん達の元へ向かう。
「ライリー、ヴィンセント君の事だけど。」
簡単な事情は話したけど、ヴィンセント自身の事は話してない。僕もさっき知ったばっかりだけど聞いたことを全部父さんと母さんに話した。
「マジかよ…。そんな生い立ちだったなんて。」
「…無表情だとは思いましたが、納得ですね。」
僕は何とかしてやりたいことを伝えた。そしたら2人とも「もちろん」と賛成してくれた。
そしてさっき決めた事も併せて伝える。
「それと僕、学園辞める。」
「はぁ!?」
まぁそうなるよね。
「僕の周りに寄ってくる人って、誰も僕じゃなくて僕の肩書きを見てくるんだ。『ドラゴン討伐の英雄』っていう肩書きを。
僕はそんな事意識してなくて普通にしてるんだけど、何かすればカッコいいだの凄いだの流石だの言われる。それに学園の授業を受けるよりも父さんと訓練した方がよっぽど身になるし、正直学園に行くメリットが感じられないんだ。」
「なるほどな…。きっとライリーに婚約者がいないってのも理由の一つだろうな。アシェルは結婚したし、俺たちはとっくに夫夫だし、残ってるのはライリーだけだ。だからなんとしてもライリーを取り込みたい家がこぞって群がってるんだろう。」
「…これじゃあ友達も出来にくくて正直つまらないんだ。だから辞めてもいい?」
兄ちゃんはメリフィールド様が後ろ盾になってくれたけど、僕が入学する時はもう『ドラゴン討伐の英雄』だったおかげで後ろ盾が必要なくなった。
だから辞めようと思ったら自由に辞められる。
「そうだな。わかった。ライリーの好きにしたらいいよ。」
「ありがとう母さん。」
そうと決まったら、早速学園に退学届を出さなきゃな。荷物も取りに行かなきゃだし。
転移門の予約をしに外へ出て、それならついでに、と母さんに食材の買い出しも頼まれた。
外から戻ると、ヴィンセントは起きていて僕を出迎えてくれた。
あれだけ泣いたから目は少し腫れている。相変わらずの無表情のままだけど、なんとなく晴れ晴れとしている感じがした。
「ライリー様お帰りなさいませ。」
「ただいま。…それとヴィンセント、お願いがあるんだけど。その『様付け』やめない?」
「え、ですが…。私は平民ですし、お世話になっている身です。」
「でも僕はもっと仲良くなりたいから、ライリーって呼んでくれた方が嬉しい。」
「…………………ライリー……さ、ん。」
「ぶはっ!」
たっぷり時間かけて呼んだと思ったら最後に申し訳程度な『さん』付け。
「ぷくくくくくっ!…いいよ、それで。様付けられるよりずっと良い。…くくくっ!お前って面白いな。」
ちらっとヴィンセントを見ると、眉間に皺を寄せていた。こんな顔も初めて見たな。
「…ライリーさ、ん。そんなに笑わなくても…。」
「ぷくく。ごめんごめん。」
また少し新たな一面を見れた。うん、それで良い。そうやって少しずつ感情を出していこう。
「お前たち何やってんの?いちゃいちゃするのも良いけど、ご飯の準備するから手伝って。」
「いちゃっ!?」
どこがいちゃいちゃしてたんだよ!母さん変な事言わないで!
「かしこまりました、エレン様。」
え、あいつなんで普通なの?僕だけ意識してるみたいになってるじゃん!
「ライリーさん?…顔が赤いですよ?大丈夫ですか?」
「えっ!? だ、大丈夫だからっ!」
「ふぅ~ん。へぇ~。」
母さんが物凄くにやにやしてるっ!違うから!母さんのせいだから!
「…ふふ。」
え?と思ってヴィンセントを見たらまた笑ってた。もっと表情がはっきりして、今までよりもちゃんと笑顔で。
きゅん。
あれ?僕今どうした?ん?なんだこれ?
「ライリー?」
「あ、今行く!」
なんか今感じたけど、気のせい気のせい。うん。
それから僕は学園を辞めてソルズに戻ってきた。
辞める時も大変だった。先生には泣いて止められて、クラスメイトだけじゃなく色んな人から残ってくれと懇願されて、めちゃくちゃめんどくさかった。
なんとか振り切って寮の部屋に戻ったら、部屋の前にも人だかりが出来ていて部屋の中に入るにも苦労した。
「ライリー様!貴方が居なかったら僕たちはどうすればいいんですか!」
そんなこと知るか。僕が居なくても別に何の問題もないだろ。
「俺と、俺と結婚してください!好きなんです!」
無理。僕お前の名前すら知らないし。
「いえ、僕と結婚してください!婚約なんて今すぐ破棄してきますから!」
いやダメだろ。ちゃんと婚約者大事にしてやって。
そんな感じで兎に角めんどくさかった。辞めるってわかった途端にプロポーズラッシュ。いや、無理だわ。
本当に僕の表面しか見てないんだなってよくわかる。辞めるって決めて本当に良かった。
それから学園から出るのもすごく大変だったけど何とかなった。
「…疲れた。」
「お疲れ様でした、ライリーさん。」
はぁ~、やっぱり家が1番落ち着く~。家に戻ってくるまでの数日間、本当に大変だった。
「ははっ。人気者も大変だな。」
「…母さん、笑い事じゃないから。でもこれで解放されたから気持ちが楽になった。」
ヴィンセントはあれから父さんと母さんに家事を教えてもらってたようで、それなりに充実した日を送っていたみたいだった。
「ヴィンセントは頭が良い。こちらが言ったことはすぐ覚えるし、少しずつ出来ることも増えている。」
「いえ、そんな事は。」
父さん達とも上手くやってるみたいだ。やっぱり今までのヴィンセントがいた環境がおかしかっただけで、ヴィンセントはちゃんと周りと上手くやれてる。
「ヴィンセント、どう?数日過ごしてみて。」
「はい。とても楽しいです。こんな楽しい日々を過ごせるなんて思ってもいませんでした。ありがとうございます、ライリーさん。」
そう言ってまた少し笑った。
きゅん。
まただ…。なんだよこれ。僕、どうしたんだよ。
「よし。ライリーも帰ってきた事だし今日はご馳走だ!ヴィンセントの歓迎会な!」
「え?」
歓迎会と聞いて驚いてる。歓迎されたことなんて無かったもんな。
「よし!僕いっぱい食べるから!母さんよろしく!」
「お前も手伝うんだよ。…ほらほら。動いた動いた。」
「私も手伝います。させて下さい。」
それから4人で食べきれない量のご馳走が並んで、皆でわいわいしながらご飯を食べた。ヴィンセントは静かにしてたけど、楽しそうだった。
ヴィンセントにしたら、こうやって誰かとご飯を食べる事も僕が初めてだっただろうし、いっぱい楽しい初めてをたくさん経験してる。
「ヴィンセント、婚約破棄されて良かったな。」
「そう、ですね。…家の事を考えると素直にそう思って良いのかわかりませんが。」
「いいんだよ。ヴィンセントの事をあんな風にしていた家なんてどうでもいい。勘当されたんだから。」
ヴィンセントの元家族の態度は本当に酷い。だからこれはある意味自業自得だ。
ヴィンセントはいい奴だ。普通に生活していたらあんな風に婚約破棄される様な事にならない。大切にして貰えただろう。
だけど、ヴィンセントをこんな風に育てたのはあの家族だ。こいつは何も悪くない。
こいつにはもっとたくさん、楽しい事を知ってほしい。自分という存在に誇りを持ってほしい。
目の色が違う事が悪いんじゃなくて、個性なんだってわかってほしい。
でもこの調子なら大丈夫そうだな。家に連れてきて良かった。
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