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5 その目はオッドアイ
しおりを挟むそして翌日。午前中に学園の寮を出て街に出た。
ヴィンセントは街にも出た事がなかったらしく連れ出すことにした。そしたらきょろきょろと物珍しそうに周りを見てる。相変わらずの無表情だけど。
「楽しい?」
「…おそらく。初めて見るからでしょうか。少し…これはなんていうのでしょう。」
「たぶん、『ワクワクしてる』、じゃない?」
「ワクワク…。」
ぼそりと呟いて考えてる。
「僕も初めて見るものや知らない事を知った時とか、楽しいし嬉しいしワクワクする。」
「そうなのですね。これが『ワクワクする』。」
こうやって一つ一つ知っていけば、きっと感情豊かな顔になる。そんな気がする。
そうなってくれたらヴィンセントはもっと変わるだろうし、自分の存在が不幸を撒き散らすなんて言わなくなるはずだ。そうなってほしい。
軽く昼食を食べてから転移門へ向かった。
「これが転移門。知ってはいましたがここへ来るのも見るのも初めてです。」
「これもワクワクする?」
「はい。ワクワク、してます。」
あ、また少し笑った。
やっぱり綺麗だなって思う。うん。そうやって笑った方がずっといい。
僕も少し嬉しくなって、ヴィンセントと一緒に転移門を潜ってソルズへと戻ってきた。
「ただいま~!」
「えっ!? は!? ライリー!?」
あ、良かった。父さんも母さんも家に居た。
「ライリー、なんでここにっ!? 学園はっ!?」
「うん。数日休むことにした。そんで紹介するね。彼はヴィンセント・トルバート侯爵……もう侯爵令息じゃないんだっけ。」
「はい。私はもう平民となりましたし、トルバート家とは縁が切れています。…初めまして。ヴィンセントと申します。」
「…はい、初めまして。ライリーの母のエレンです。よろしく?」
母さん、どういうこと?って顔してる。
リビングに集まって事情を説明した。ヴィンセントが婚約破棄宣言された所に居合わせたこと。気になって友達になった事。ヴィンセントが勘当されて学園を出た事。
「はぁ~…。この世界は婚約破棄騒動が流行ってるのか?それに勘当されて平民になったとか。他人事だとは思えない…。」
母さんがため息ついて頭を抱えてしまった。境遇は似てるよね。国外追放になっていないだけで。
「それで行く当ても頼る人もいないっていうから連れてきた。家に住まわせてあげてもいいよね?」
「え、ライリー様?」
家に行くとは言ったけど、住まわせるなんて言ってないしな。
「…部屋は余ってるから問題はないけど。それよりもライリー、そういう事は事前にちゃんと言え。俺たちもヴィンセント君もびっくりするだろうが。」
「あ、あの。私は他へ行きますので。」
「はい却下。これからどうするか考えてるの?生きていくのに何が必要でどうしなきゃいけないか、わかってる?」
「それは…。」
わかってないよな。今まで碌に外へ出たことないんだから。これから何をしなきゃいけないとか、どうやって生活するとか。
「とりあえずヴィンセント君。家は大丈夫だからここに住んだらいいよ。それに俺と境遇が似てて放っとけないし。ライアスもそれでいいよな?」
父さんも問題ないって言ってる。でもヴィンセントは何とかして断ろうとする。
「あの…私は左右の目の色が違いますし気味が悪いと言われます。そんな私が居てはご迷惑になりますので…。」
「あ、それ思ったんだけど目の色が違うって珍しいよな。オッドアイなんて初めて見た。」
「え?」
オッド…なに?母さん、こんな目の事知ってたの?
「オッドアイ。左右の目の色が違う事をそう言うんだけど、あんまり知られてないのか。っていうかこの世界じゃオッドアイって言葉が無いのか?」
「エレン、俺も初めて聞きました。それに俺もそのような目の持ち主は初めて見ましたよ。」
母さんすげぇ。昔からそうだけど、なんでこんな皆が知らない事知ってんだよ。
「あの…気持ち悪く、ないのでしょうか。」
「ん?なんで?気持ち悪いどころか綺麗じゃん。」
さすが母さん。皆が不快に思ってるのを綺麗だって即言い切った。
「綺麗…?ですが今までそんな事は一度も言われたことありませんでしたし、気味が悪いと…。」
「う~ん。多分知らないからじゃないか?珍しい現象だし。ライアスは?ライアスも初めて見たんだろ?どう思う?」
「俺も特に気持ち悪いとは思いません。何というか、神秘的だと思いました。」
うん。やっぱり父さんと母さんだ。
ヴィンセントのやつ、初めてこんな事言われて呆然としてる。ははっ、家に居たらコイツあっという間に感情豊かになりそうだな。
「ま、とりあえず部屋準備しなきゃだな。急に言われて何も出来てないし。」
「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。」
「ん?ヴィンセント君は気にしなくていいよ。ライリーのせいだから。ってことでライリー、お前がちゃんと準備しろよ。」
「かしこまりましたよ、お母様。」
僕は空いてる一室をヴィンセントの部屋にするべく掃除をし始めた。
「じゃあヴィンセントも一緒にやろう。お前の部屋だしな。」
2人で掃除すればあっという間に終わった。元々そんなに汚れてないしな。
「それにしてもライリー様の家ってとても大きいのですね。この部屋も、侯爵家での私の部屋よりも広いです。こんな良い部屋を与えられて良いのでしょうか。」
え。今までどんな部屋にいたの。確かに大きな家だけど、平民としてみればって話で貴族の屋敷とは比べ物にならないはず。
「あのさ。言いにくいかもしれないけど話してほしい。…侯爵家ではどんな感じで生活してたの?」
話すかどうか迷っていたけど、ポツリポツリと話してくれた。その内容に僕は驚いた。
まともな生活じゃなかったんだろうとは思ってたけどここまでだったとは…。
今までずっと1人で食事してきたとか、母親に産まなければ良かったと言われたり、食事もたまに抜かれていたとか、硬い棒で叩かれて死にかけたとか…。他にも色々酷いことされて。
こんな中で今まで生活してきたのかよ。そんなの無表情になったり感情がわからないとか、こんなふうになるに決まってるっ!
ヴィンセントの家族はクソだろっ!自分の子供だぞ!? 目の色が違うってだけでこんな事…信じられない。コイツは何一つ悪いところなんてないじゃないか。全部、全部周りの勝手なこじつけでコイツを傷つけてきたんだ。
胸が苦しくなってヴィンセントを抱きしめた。
「ライリー様?」
「今まで頑張ったな。もう大丈夫。大丈夫だから。ヴィンセントは自由だ。何にも縛られず自分のしたいように、やりたいように生きていいんだよ。言いたい事も言えばいい。我慢しなくていい。誰もヴィンセントを否定しないから。」
「…私は、自由?」
「そう、自由。誰かの言いなりになる必要も、従う必要もない。ヴィンセントの意思で決めていいんだ。お前の人生だ。お前が決めていいんだよ。」
もし僕がヴィンセントのような生活をしていたらどうなっていただろう。考えるだけで怖い。
ヴィンセントは感情を抑えることで、自分の心を守っていたんだ。壊れないように。死んでしまわないように。
ヴィンセントは強いやつだ。たった1人でこんな酷い事から耐えてきたんだ。今まで、1人で。
もうあんなクソな家族も、クソな婚約者もいなくなった。僕も、僕の家族もヴィンセントを傷つけることなんてしない。ここで傷ついた心を癒してもらおう。そしていっぱい感情を爆発させるんだ。
僕はそんなヴィンセントを見たい。
「ライリー様…。」
「辛かったな。お前は強いよ。強いやつだよ。僕はヴィンセントを尊敬する。凄いよ、本当に。」
抱きしめていた体を離して頭を撫でてやる。するとヴィンセントの目から涙が一筋流れ落ちた。
「? これは?」
「涙。悲しい時や辛い時、苦しい時や痛い時なんか涙が出る。でも嬉しい時も出るんだ。…ヴィンセントはどっち?その涙はどっちだと思う?」
「…わかりません。でもたぶん、両方。嬉しいのと悲しい?」
「うん。それでいい。間違ってないよ。…泣きたい時はいっぱい泣いていいんだ。恥ずかしいことなんかじゃない。泣いていいんだよ。」
僕はまたヴィンセントを抱きしめた。するとヴィンセントも抱きしめ返してきて、少しずつ泣き始めた。やがて「うわぁぁぁ!」と声を上げて泣いた。
今ヴィンセントの感情は爆発してるんだ。溜めて溜めて溜め込んできた感情が。
そう。そうやって吐き出していいんだよ。全部吐き出して空っぽになるまで吐き出して。
ヴィンセントの傷ついた心の慟哭が、僕の心を揺さぶってくる。
僕はそのままヴィンセントが落ち着くまでずっと抱きしめていた。
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