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2 友達としてのお願い

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「あ、ヴィンセント!」

「…ライリー様?」

婚約破棄騒動の日の授業後、文官棟へ行った。なんとなく心配で。

「ヴィンセントって通い?それとも寮住まい?」

「寮です。」

「じゃあ一緒に帰ろう。」

そう言って歩き出すも、ヴィンセントはそこで動かず立ちすくんだままだった。


「? どうした?」

「…私を迎えに来たのですか?」

「そうだけど?友達になったから別にいいでしょ?」

え、なに。友達になったから声をかけたし、同じ寮にいるなら一緒に帰るのもおかしくないよな?

…確かに騎士棟と文官棟はかなり離れてるしここまでわざわざ来るのも珍しいとは思うけど。

「…ありがとうございます。ですが、私と一緒にいるのは…。」

「はいはいはい。その話はいいから。僕には傷がつこうがつかなかろうが関係ないから。…行くよ。」

こいつ結構暗いな。卑屈というか…。

『……見ての通り、左右の目の色も違って気味が悪いですし、無表情で気持ち悪いとよく言われます。』

たぶん、コレが原因だよな。

左右の目の色が違うっていうのは確かに珍しい。僕も初めて見た。でも人と違うからって攻撃して良いかと言ったらそんな事は絶対ない。

『…はい。私の意思はないも同然ですから。』

これも気になるんだよな。どういう事なんだ?自分の意思がないって。

でもわかるのは、まともな人間関係が築けていないって事。恐らく、ずっと攻撃され続けてきたんじゃないかな。だからこんな卑屈になってるんだろう。


「ここが僕の部屋。いつでも遊びに来ていいよ。で、ヴィンセントの部屋は?」

「……1番上の階の平民部屋です。」

は?嘘だろ?なんで?だってヴィンセントは侯爵家だろ!? 上級貴族なのになんで平民部屋なんだよ…。

「それは……。私が侯爵家の人間として相応しくないからです。」

意味がわからない。…もしかしてこいつは家でも上手くいってないのか?虐待、とか?

でも同じ騎士科のやつが言ってたけど、ヴィンセントって文官科の首席合格者でめちゃくちゃ頭がいいって言ってたはず。

なのに侯爵家の人間として相応しくない?もしかしてこれも目の色が原因…?

「なんで…って聞いてもいい?」

「…………。」

言わないか。今日知り合ったばっかりだしな。仕方ないか。

「じゃ。とりあえずご飯、いこ。」



それからヴィンセントを連れて寮の食堂へ向かった。

「ライリー様!俺たちもご一緒してもいいですか?」

「僕はいいけど…。ヴィンセントは?いい?」

「…私は大丈夫なのですが。他の方がお嫌でしたら私は別の席に…。」

「はい却下。お前達もヴィンセントがいても別にいいよな?…嫌なら他へ行ってよ。」

「い、嫌だなんて!そんな事はありません!是非ご一緒させて下さい!」

そう言って3人は僕たちの席に着いた。コイツらは僕に憧れてるんだそうで、大体付いてくる。

ヴィンセントが気になるようでちらちら様子を見てるな。

「…本当に目の色が違うんだな。初めて見た。」

「それにしても、お昼の時のライリー様はカッコよかったです!さすがライリー様!」

親に何か言われてるのか、僕が何かをするとすぐ「すごい!さすが!カッコいい!」と言ってくる。
僕はその言葉を聞き流してる。本心かどうかなんてわからないし、そう言われたところで「あっそ。」としか思わない。

正直面倒臭いと思ってるくらいだ。


「あれ?ヴィンセントもう食べないの?」

食事の3分の1を残してフォークを置いた。そう言えばお昼の時もそれくらい残してたな。

「あまり多くは食べられなくて。もうお腹がいっぱいです。」

少食だな。体も僕と違って物凄く細いし。力を入れて腕を握ったら簡単に折れそうだ。

「…もう少し食べた方が良いんじゃないのか?」

「残すのは申し訳ないのですが、これ以上はもう入りません。…これでも少し食べられる量は増えたのですよ。」

まじか。どんだけ少食だったんだよ。


途中で混ざった3人はヴィンセントを気にしながらも、僕がいる手前何も言わず何もしなかった。けど、面白くないって顔は隠さなかった。
嫉妬、ていうのかな。僕が誰といようがコイツらには関係ないのに。本当に面倒臭い。


それから3人には部屋に来て話しましょうとか言われたけど、断ってヴィンセントと戻った。

「ヴィンセント、何かあったら絶対僕に言って。」

「…それは命令、ですか?」

は?命令?なんで?なんでそうなる。

「違う。友達としてのお願い。」

「友達…。」

少し下を向いて友達、と反芻する。表情が変わらないから何を考えてるのかわからないけど、どうしていいのかわからない、とか?

「…申し訳ありませんが、友達が出来たことがなくてよくわからないのです。」

なんてこったい。『友達』がよくわからないとか。

「…じゃあこれから何かあったら僕に言うこと。相談する事。わかった?あと、食事はこれから毎日一緒に取るから。」

「……はい。わかりました。」

本当かな…。とりあえず、友達ってどういうものかゆっくり分かってもらう事から始めるか。


それからヴィンセントは部屋へと戻っていった。本当に不思議なやつ。

別に僕があいつの事をここまで気にする必要はないんだろうけど、なんか放っておく事ができない。すごく心配になる。

すぐに消えて何処かに行ってしまいそうな、そんな雰囲気だ。


しかしなんで目の色が違うっていうだけで、皆こんなにもアイツに冷たくなるんだろう。

あの人は可愛いとか綺麗とかカッコいいとか、皆そんな話をよくする。
兄ちゃんも母さんも、綺麗で羨ましいとかよく言われてた。でも母さんがこう言っていた。

「見た目が良いから中身もいいなんて限らないのにな。世の中には綺麗でも性格のひん曲がった最悪なヤツだっているし。昔の俺みたいな。
見た目なんてただの個性の一つだ。本当に大事なのは中身だと俺は思ってる。でも見た目で判断される事が殆どだ。だからお前達はちゃんと『その人』を見ることを忘れるなよ。」

僕もその通りだと思ったし、それが意外と難しいことも知ってる。

だからかもしれない。ヴィンセントがこんなにも気になるのは。


何を言われても何も思わないとか、そんなの普通はあり得ない。
感情の起伏は人によって違うけど、少なからず嫌だとかムカつくとか悲しいとかあるはずだ。

なのにあいつにはそれがない。

僕はそれがとても悲しい事だと思うし、怖い事だと思う。

なんとかしてやれないかな。こう思うのは傲慢だろうか。
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