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待ち続けた孤独の魔法人形
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「雨に打たれて体も冷えていらっしゃることでしょう。よろしければご入浴されてはいかがですか?」
「いいんですか? それは凄く助かります。よろしくお願いいたします」
一晩雨を凌げればいいと思っていたのに、風呂まで貸してくれるという。体は冷え切っていたため、二つ返事で有難くいただくことにした。だがこのまま中へと入れば屋敷の中を汚してしまう。
「ただこのまま中へ入ると水で汚してしまいますね。少し待っていただけますか? 今ある程度水気をふき取りますので……」
持っているマジックバックの中からタオルを取り出し水気を取ろうとしたところ、執事の男から待ったがかけられる。
「お気になさらず。この屋敷全体に浄化の魔法がかけられています。汚れてもすぐに綺麗になりますから」
「え……?」
屋敷全体に浄化魔法? もちろんヒューバートも使えるが、屋敷全体にかけるとなると骨が折れる案件だ。よほどの魔力持ちでなければ出来ないこと。それがかけられた屋敷なんて、と思った矢先、ヒューバートの足元に溜まった水たまりは綺麗になくなっていた。
「凄いですね……」
執事の男が言っていたことが本当だとわかり、思わず感嘆の声を上げる。
「よほど凄い魔術師がかけたんでしょうね。その人の名前はわかりますか?」
「名前……? 誰が……かけたんでしょう……」
ヒューバートの軽い問いかけに執事の男は俯き考え込んでしまった。こんなすごい魔術をかけられるならよほど高名な人だろうと、ちょっとした好奇心で聞いてみただけ。なのに。
名前がわからない、というよりも、誰がかけたかわからない。そんな口ぶりだ。この執事の男は魔法がかけられた後に越して来たのだろうか。
「ああ、ちょっと気になっただけなので気にしないでください。急にすみません」
「……いいえ、お答え出来ず申し訳ございません。それではこちらへどうぞ」
執事の男は軽くお辞儀をすると、客室へと案内するべく歩き出した。ヒューバートもその後へと続く。
(この人、さっきからずっと無表情なんだが、執事というのはそういうものなのだろうか)
顔を見てからずっと、一切表情が変わらないこの男。笑わない人間がいてもおかしくはないが引っ掛かりを感じてしまう。笑わないというより無機質に近い。そんな印象だ。
だが親切にしてくれたことに変わりはない。そういう人もいるんだろうと自分を納得させた。
広い屋敷の中を歩いていると、感じていた違和感は段々と大きくなってきていた。
(何故だ……? 俺はこの屋敷を知っている……?)
執事の男の後に続き屋敷を歩いていると、なんとなくだが屋敷の間取りが分かるのだ。あの扉の向こうはキッチン、この扉の向こうは書庫。あの扉から向こうは全て客室。
扉を開けて見たわけじゃないから本当にそうなのかはわからない。だが、なんとなくそう感じてしまう。そして客室であろう一つの部屋の前で執事の男は立ち止まった。
「こちらは客室になります。本日はこちらをご利用くださいませ。中には浴室もございます」
「あ、ありがとうございます。お言葉に甘えて使わせていただきます」
自分が思った通り、そこは客室だった。偶然だったのだろうか。ヒューバートは不思議に思う中、執事の男は軽くお辞儀をすると背を向けてどこかへと向かって行った。残されたヒューバートは扉を開け客室へと入る。
「……なんだか、酷く懐かしく感じる……」
客室の中は華美な装飾はなくすっきりとしていた。奥にはベッド、手前にはローテーブルとソファー。右手奥に見える扉の向こうは恐らく浴室などがあるのだろう。
ベッドにはシーツなどもきちんと敷かれており、急な来客にも関わらず綺麗に準備された部屋。浄化の魔法があるからセッティングされたままであっても大丈夫だったのだろう。
とりあえずずぶ濡れの状態をなんとかせねば、と浴室へ向かい体を温めることにした。
「いいんですか? それは凄く助かります。よろしくお願いいたします」
一晩雨を凌げればいいと思っていたのに、風呂まで貸してくれるという。体は冷え切っていたため、二つ返事で有難くいただくことにした。だがこのまま中へと入れば屋敷の中を汚してしまう。
「ただこのまま中へ入ると水で汚してしまいますね。少し待っていただけますか? 今ある程度水気をふき取りますので……」
持っているマジックバックの中からタオルを取り出し水気を取ろうとしたところ、執事の男から待ったがかけられる。
「お気になさらず。この屋敷全体に浄化の魔法がかけられています。汚れてもすぐに綺麗になりますから」
「え……?」
屋敷全体に浄化魔法? もちろんヒューバートも使えるが、屋敷全体にかけるとなると骨が折れる案件だ。よほどの魔力持ちでなければ出来ないこと。それがかけられた屋敷なんて、と思った矢先、ヒューバートの足元に溜まった水たまりは綺麗になくなっていた。
「凄いですね……」
執事の男が言っていたことが本当だとわかり、思わず感嘆の声を上げる。
「よほど凄い魔術師がかけたんでしょうね。その人の名前はわかりますか?」
「名前……? 誰が……かけたんでしょう……」
ヒューバートの軽い問いかけに執事の男は俯き考え込んでしまった。こんなすごい魔術をかけられるならよほど高名な人だろうと、ちょっとした好奇心で聞いてみただけ。なのに。
名前がわからない、というよりも、誰がかけたかわからない。そんな口ぶりだ。この執事の男は魔法がかけられた後に越して来たのだろうか。
「ああ、ちょっと気になっただけなので気にしないでください。急にすみません」
「……いいえ、お答え出来ず申し訳ございません。それではこちらへどうぞ」
執事の男は軽くお辞儀をすると、客室へと案内するべく歩き出した。ヒューバートもその後へと続く。
(この人、さっきからずっと無表情なんだが、執事というのはそういうものなのだろうか)
顔を見てからずっと、一切表情が変わらないこの男。笑わない人間がいてもおかしくはないが引っ掛かりを感じてしまう。笑わないというより無機質に近い。そんな印象だ。
だが親切にしてくれたことに変わりはない。そういう人もいるんだろうと自分を納得させた。
広い屋敷の中を歩いていると、感じていた違和感は段々と大きくなってきていた。
(何故だ……? 俺はこの屋敷を知っている……?)
執事の男の後に続き屋敷を歩いていると、なんとなくだが屋敷の間取りが分かるのだ。あの扉の向こうはキッチン、この扉の向こうは書庫。あの扉から向こうは全て客室。
扉を開けて見たわけじゃないから本当にそうなのかはわからない。だが、なんとなくそう感じてしまう。そして客室であろう一つの部屋の前で執事の男は立ち止まった。
「こちらは客室になります。本日はこちらをご利用くださいませ。中には浴室もございます」
「あ、ありがとうございます。お言葉に甘えて使わせていただきます」
自分が思った通り、そこは客室だった。偶然だったのだろうか。ヒューバートは不思議に思う中、執事の男は軽くお辞儀をすると背を向けてどこかへと向かって行った。残されたヒューバートは扉を開け客室へと入る。
「……なんだか、酷く懐かしく感じる……」
客室の中は華美な装飾はなくすっきりとしていた。奥にはベッド、手前にはローテーブルとソファー。右手奥に見える扉の向こうは恐らく浴室などがあるのだろう。
ベッドにはシーツなどもきちんと敷かれており、急な来客にも関わらず綺麗に準備された部屋。浄化の魔法があるからセッティングされたままであっても大丈夫だったのだろう。
とりあえずずぶ濡れの状態をなんとかせねば、と浴室へ向かい体を温めることにした。
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