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婚約者に好きな人がいることがわかったので…

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 それから僕とブラッドの交流が始まった。ブラッドはカッコいいだけじゃなく頭も凄く良かった。しかも凄く優しくてこんな素敵な人が僕の婚約者だなんて、親が研究を頑張ってくれたおかげだと感謝した。

 町へ市場調査を兼ねてよく町へと出かけたり、カッシーラー商会へ出向きそこで商売について学ばせてもらったり。この婚約がなければ経験出来ないことをたくさんさせて貰っていた。

 初めは緊張して上手く接することが出来なかったブラッドとの時間も、彼のお陰で楽しく過ごせるようになった。僕を婚約者として認めてくれたんだと、あの時まではそう思っていた。


 婚約者となって6年が経ったある日。いつものようにカッシーラー商会へと出向いた時だった。

 ブラッドの部屋へ行くと、そこにはブラッドと、知らない女性が一緒にいた。

「あ……ごめん。来客中、だったんだ」

「いや、気にしないでくれ。彼女は――」

「あら、もしかしてブラッドの婚約者かしら? へぇ、思ったより普通、というか冴えないわね」

 冴えない。そう言われて少し傷つきはしたものの、その通りだから何も言えなかった。

 僕は茶色い髪に、茶色い目。そして薄くだがそばかすが散っている。ブラッドほどじゃないけれど、背はそれなりに伸びたが細い体だ。ブラッドにはもう少し食べろと言われるくらいに。

 それに対して彼女は白い肌に艶やかなピンク色の髪で、淡緑の綺麗で大きな瞳。誰もが美人だという容姿だった。

「リリー、申し訳ないが帰ってくれ」

「あら、つれないこと言わないでよ。貴方とわたしの仲じゃない」

「あの…僕が席を外すよ。急に来てごめんね」

「いや、サイラスはここにいてくれ。急に来たのはリリーの方だ」

「……ふん。今日のところは帰ってあげるわ」

 ソファーに深く腰掛けていた彼女はスッと立ち上がると部屋の出口へと向かって行った。僕はすっと横にずれ、彼女が僕の横を通り過ぎる。その瞬間――

「彼に相応しいのはわたしの方よ」

 ぼそりとそう言い残し姿を消した。

 彼女はカッシーラー商会がよく出入りするとある貴族のご令嬢だった。ブラッドにそろそろ商談の場を見せよう、とブラッドの父上が一緒に連れて行った先で気に入られたそうだ。
 それから彼女はブラッドと接触を図るようになり、お得意様だということで商会側も無下には出来ずブラッドの部屋まで押しかけて来たということらしい。

 この世界は女性の数が少ない。だからこそ、女性を迎え入れたい家は多く、保有魔力に左右されないカッシーラー商会だとしてそれは変わらないだろう。魔法が使えることで、また何かの商売につながるかもしれないのだから。

 ブラッドは彼女の事を迷惑だと言ってくれた。僕もその言葉を信じたいし、ブラッドを信じることにした。膨れ上がる不安な気持ちに蓋をして。
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