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僕は今日も祈りを捧げる
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僕たちは魔導学園に通う生徒だ。この学園は貴族も平民も関係なく、ある一定の魔力があれば通う事が出来る。といってもその一定の魔力量は、平均以上の魔力を持たないといけないのだけど。
多い魔力は時として脅威となる。感情によって魔力が暴走する危険があるのだ。少ない魔力量しか持たない者であれば、暴走したところでそこまで気にすることはないのだけど多いと周りを傷つける恐れがある。だからどんな時でもコントロールが出来るよう、しっかりとした技術を学ばなければいけないのだ。
魔力量が多ければ多いほど、暴走した時の危険は高まる。だけどその分恩恵も大きく、将来は貴重な魔導師としての道が約束されている。所謂エリートの仲間入りだ。
魔導師の仕事はたくさんあって魔物討伐はもちろん、便利な魔道具制作に新たな魔法の研究、結界術や浄化などなどあらゆるところで活躍が出来る。給金も高く、平民は特に魔導師に憧れる人は多い。貴族であってもそれは一緒で、優秀な魔導師を輩出した家は何かと優位に立つことが出来る。
政を行う家なんかは特に、魔力量の多い子供を欲しがる傾向が高い。
ダラスは侯爵家の3人兄妹の真ん中。上の長男も魔力が多く、この学園の卒業生だ。下の妹は魔力があまりなく、この学園に通う事はない。だがそういう子たちが通う学園もちゃんとあるから妹ちゃんはそっちへ通っている。お兄さんも妹ちゃんも、ダラスに似てとても美形だ。
ダラスがモテるのは顔がいいからだけじゃない。魔力量が多いのはもちろん、その技術も高く優等生だ。だから余計にダラスの人気は高くなり、それは学園内にとどまらない。
将来の結婚相手として皆ダラスが欲しいと切望するのだ。
だけどそんな彼は既に僕の恋人。僕も彼の事が大好きだ。
既に恋人がいるからと憧れの存在としてダラスを見る人、一縷の望みをかけて告白をする人、恋人である僕よりも優れていると自信を持ってダラスに迫る人、色々な人がいるが皆ダラスに断られると『やっぱりね』と諦めてくれる。
ダラスもきっぱりはっきり断って無駄に期待を持たせるようなことはしないから、大きな問題が起こることはない。というかなかった。今までは。
「ダラス様! 好きです! 僕と付き合ってください!」
「…何度も言っているが俺にはキアンがいる。他を当たれ」
「わかっています。でも僕の方がキアン様より見た目も魔力も何もかもが上です! 僕の方が貴方にとって相応しいのは考えるまでもありません!」
今年入学して来た彼、ブラント・ルドウェル君は何度も何度もダラスへと告白を行っている。彼のように諦めず告白してくる人も過去にはいたが、多くても3回くらいだった。ブラント君は既に10回以上ダラスに告白をしている。物凄い熱意だ。
それに彼は入学してからずっと上位の成績を収めていて、おまけにとっても美人さんだ。ダラスほどではないけど、彼もかなりの人気を誇っている。そして父親は国教であるティアート教の枢機卿だ。非常に優秀な方で、次期教皇様になる方だと言われている。
僕もお会いしたことはあるけど、とっても物腰の柔らかな方で多くの人から信頼を集めている。
だけど息子のブラント君は負けず嫌いというか、信念が強いというか、非常に根性がある。それをダラスに言ったら『ただの傲慢だ』とぴしゃりと言われてしまったけど。
「キアンを悪く言う事は許さない」
「でもっ……あんなパっとしない見た目に成績だって大したことない。そんな人がダラス様に相応しいとは思えません!」
うん。僕はブラント君に言われた通りこげ茶の髪にもっさりとした髪型のパッとしない見た目に、成績は中の上程度。魔力量はなんとか平均値よりも少し多いくらいだ。ブラント君は、そんな僕がダラスの恋人であることは許せないらしい。
「それにキアン様は子爵家じゃないですか! 身分だって釣り合いません!」
それもそうなんだよねぇ。今の僕は子爵家の息子。容姿も成績も魔力も身分も、何もかもがダラスと釣り合っていない。それは周知の事実である。
はぁ、やれやれ。内心でため息をつき左手首に嵌めたお守りのブレスレットをそっと握った。それは小さくシャラっと音を立てる。
「……それ以上口を開くな」
「…っ!」
ぶわりとダラスから魔力が溢れ出す。ダラスは感情の暴走によって魔力が溢れることはない。そのコントロールもダラスは群を抜いて上手いからだ。なのに魔力が溢れているという事はわざとだ。なぜかと言えば怒っているから。それもめちゃくちゃに。
ダラスの魔力の圧力を受けたお陰で、ブラント君だけじゃなく周りの皆もカタカタと体を震わせてしまっている。これ以上はやり過ぎかな。
「ダラス抑えて。僕は何とも思ってないよ」
「……ちっ」
そっとダラスの腕に触れてそう告げれば、渋々といった体で魔力を抑えてくれた。そっと周りを見れば、皆ほっと息を吐き安堵の表情を浮かべている。
「これ以上は周りにも迷惑をかけるから、今日のところは帰ってくれる?」
「くっ……僕は絶対に諦めませんから!」
捨て台詞、というのかそう言ってブラント君は帰っていった。
「キアン……」
「ふふ。怒ってくれてありがとう。僕は大丈夫だから。ね?」
「………」
眉間に皺を寄せて、『不満だ納得いかない』って顔をしている。僕は何を言われても大丈夫なんだけどダラスは嫌なんだよね。もう本当に僕の恋人が可愛い。こんなに想われてるって幸せな事だ。
ブラント君が言っていたことは間違っていない。そして周りもそう思っているからこそ、ダラスへの告白は収まることがない。
でもそれは学園を卒業するまでのこと。卒業してしまったら、きっとこんな風にはならない。というか出来ないだろう。
「明日はお休みだし、今日はダラスの家に泊まるね。いいでしょ?」
「もちろん」
そう言った途端、眉間のしわも取れて一気に機嫌が良くなった。本当に可愛い。
多い魔力は時として脅威となる。感情によって魔力が暴走する危険があるのだ。少ない魔力量しか持たない者であれば、暴走したところでそこまで気にすることはないのだけど多いと周りを傷つける恐れがある。だからどんな時でもコントロールが出来るよう、しっかりとした技術を学ばなければいけないのだ。
魔力量が多ければ多いほど、暴走した時の危険は高まる。だけどその分恩恵も大きく、将来は貴重な魔導師としての道が約束されている。所謂エリートの仲間入りだ。
魔導師の仕事はたくさんあって魔物討伐はもちろん、便利な魔道具制作に新たな魔法の研究、結界術や浄化などなどあらゆるところで活躍が出来る。給金も高く、平民は特に魔導師に憧れる人は多い。貴族であってもそれは一緒で、優秀な魔導師を輩出した家は何かと優位に立つことが出来る。
政を行う家なんかは特に、魔力量の多い子供を欲しがる傾向が高い。
ダラスは侯爵家の3人兄妹の真ん中。上の長男も魔力が多く、この学園の卒業生だ。下の妹は魔力があまりなく、この学園に通う事はない。だがそういう子たちが通う学園もちゃんとあるから妹ちゃんはそっちへ通っている。お兄さんも妹ちゃんも、ダラスに似てとても美形だ。
ダラスがモテるのは顔がいいからだけじゃない。魔力量が多いのはもちろん、その技術も高く優等生だ。だから余計にダラスの人気は高くなり、それは学園内にとどまらない。
将来の結婚相手として皆ダラスが欲しいと切望するのだ。
だけどそんな彼は既に僕の恋人。僕も彼の事が大好きだ。
既に恋人がいるからと憧れの存在としてダラスを見る人、一縷の望みをかけて告白をする人、恋人である僕よりも優れていると自信を持ってダラスに迫る人、色々な人がいるが皆ダラスに断られると『やっぱりね』と諦めてくれる。
ダラスもきっぱりはっきり断って無駄に期待を持たせるようなことはしないから、大きな問題が起こることはない。というかなかった。今までは。
「ダラス様! 好きです! 僕と付き合ってください!」
「…何度も言っているが俺にはキアンがいる。他を当たれ」
「わかっています。でも僕の方がキアン様より見た目も魔力も何もかもが上です! 僕の方が貴方にとって相応しいのは考えるまでもありません!」
今年入学して来た彼、ブラント・ルドウェル君は何度も何度もダラスへと告白を行っている。彼のように諦めず告白してくる人も過去にはいたが、多くても3回くらいだった。ブラント君は既に10回以上ダラスに告白をしている。物凄い熱意だ。
それに彼は入学してからずっと上位の成績を収めていて、おまけにとっても美人さんだ。ダラスほどではないけど、彼もかなりの人気を誇っている。そして父親は国教であるティアート教の枢機卿だ。非常に優秀な方で、次期教皇様になる方だと言われている。
僕もお会いしたことはあるけど、とっても物腰の柔らかな方で多くの人から信頼を集めている。
だけど息子のブラント君は負けず嫌いというか、信念が強いというか、非常に根性がある。それをダラスに言ったら『ただの傲慢だ』とぴしゃりと言われてしまったけど。
「キアンを悪く言う事は許さない」
「でもっ……あんなパっとしない見た目に成績だって大したことない。そんな人がダラス様に相応しいとは思えません!」
うん。僕はブラント君に言われた通りこげ茶の髪にもっさりとした髪型のパッとしない見た目に、成績は中の上程度。魔力量はなんとか平均値よりも少し多いくらいだ。ブラント君は、そんな僕がダラスの恋人であることは許せないらしい。
「それにキアン様は子爵家じゃないですか! 身分だって釣り合いません!」
それもそうなんだよねぇ。今の僕は子爵家の息子。容姿も成績も魔力も身分も、何もかもがダラスと釣り合っていない。それは周知の事実である。
はぁ、やれやれ。内心でため息をつき左手首に嵌めたお守りのブレスレットをそっと握った。それは小さくシャラっと音を立てる。
「……それ以上口を開くな」
「…っ!」
ぶわりとダラスから魔力が溢れ出す。ダラスは感情の暴走によって魔力が溢れることはない。そのコントロールもダラスは群を抜いて上手いからだ。なのに魔力が溢れているという事はわざとだ。なぜかと言えば怒っているから。それもめちゃくちゃに。
ダラスの魔力の圧力を受けたお陰で、ブラント君だけじゃなく周りの皆もカタカタと体を震わせてしまっている。これ以上はやり過ぎかな。
「ダラス抑えて。僕は何とも思ってないよ」
「……ちっ」
そっとダラスの腕に触れてそう告げれば、渋々といった体で魔力を抑えてくれた。そっと周りを見れば、皆ほっと息を吐き安堵の表情を浮かべている。
「これ以上は周りにも迷惑をかけるから、今日のところは帰ってくれる?」
「くっ……僕は絶対に諦めませんから!」
捨て台詞、というのかそう言ってブラント君は帰っていった。
「キアン……」
「ふふ。怒ってくれてありがとう。僕は大丈夫だから。ね?」
「………」
眉間に皺を寄せて、『不満だ納得いかない』って顔をしている。僕は何を言われても大丈夫なんだけどダラスは嫌なんだよね。もう本当に僕の恋人が可愛い。こんなに想われてるって幸せな事だ。
ブラント君が言っていたことは間違っていない。そして周りもそう思っているからこそ、ダラスへの告白は収まることがない。
でもそれは学園を卒業するまでのこと。卒業してしまったら、きっとこんな風にはならない。というか出来ないだろう。
「明日はお休みだし、今日はダラスの家に泊まるね。いいでしょ?」
「もちろん」
そう言った途端、眉間のしわも取れて一気に機嫌が良くなった。本当に可愛い。
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