今まで我儘放題でごめんなさい! これからは平民として慎ましやかに生きていきます!

華抹茶

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新・番外編

エレン、母になる②

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 妊娠初期は子供に魔力がぐんぐん吸われていくから体調が悪いが、それも徐々に落ち着いてきた。予定通り、三か月もすると俺も普通に生活が送れるようになった。
 おじいちゃん先生はたまに診察に来てくれて、子供も順調に育ってると太鼓判を押してくれた。それを聞いてほっとしている。
 この世界の妊娠はお腹が大きくなったりしないからな。成長を目で見ることが出来ないから、こうやって先生の診察を受けるしか確認方法がない。おじいちゃん先生、いつもありがとう。

 ライアスは俺が元気になると、予定通り仕事へと行くようになった。俺は家でお留守番だ。いくら元気になったとはいえ、激しい運動は禁止されている。まだ子供に俺の魔力が吸われているからな。妊娠前と同じようにとはいかないんだ。
 だけど家にずっといるのもしんどいから、ライアスと一緒に市場へ出かけたりふらふらと当てもなく散歩したりしている。

 そんな風に穏やかに日常を過ごしているうちに、出産予定日が近づいてきた。そんな時、俺の両親が家にやってきた。予想通り沢山の荷物を持って。

「エレン! 体調はどうだ? ランドルフは都合がつかず来られなかったが、お前に手紙と土産を預かって来た」

「ありがとうございます! 兄上達もお元気ですか?」

「ああ、家も夫夫仲も順調だ。カイルもローレンスも大きくなったぞ。ランドルフに似て賢くてな。これまた可愛くて愛らしくて……」

 ローレンスはカイルの弟だ。兄上のところは二人目が生まれている。これまた可愛かった。

「ちょっと旦那様、お気持ちはわかりますけどエレンちゃんを立ちっぱなしにしてどうするんです! ほら、エレンちゃんは座っていなさい。もういつ生まれてもおかしくないのだから。何か体に異変があったらすぐに言ってね。大丈夫! お母様が付いているからね!」

「はい、ありがとうございます、母上」

 こういう時、母親がいるっていうのは心強い。なんてったって俺と兄上と二人産んでるからな。
 それからライアスが中心となって、父上が連れてきた使用人達と一緒に荷物の整理だ。今回も大量の箱がリビングを占拠している。
 どうやら赤ちゃんの服やらおもちゃやらもたくさんあるみたいだ。ライアスはそれを嬉しそうに子供部屋にどんどんと運んでいる。
 俺は今回はそれを眺めているだけ。父上が連れてきた使用人もいるし、荷物は多いが整理されるのも早い。瞬く間にリビングに積まれた箱がなくなっていく。
 
「うむ、やはりエレンが淹れた茶は美味いな」

「ええ、本当に。この手作りのクッキーも凄く美味しい! でも本当に体は大丈夫?」

 相変らず過保護というか何というか。お茶を淹れたりするくらい別に負担でも何ともないのに、母上は俺がちょっとでも動くと大袈裟なくらい心配する。

「大丈夫ですよ、母上。これくらいはいつもやってることですし。それに折角こうして会え…………あれ?」

 お茶の入ったカップを持ち上げようとしたところ、力が上手く入らずカチャンと音を立ててしまう。「あれ?」と思ったその直後、ぶわりと体が一気に熱くなった。

「ぐぅっ……! な、んでっ……熱いっ……体がっ、熱いっ……!」

「エレン!?」

「エレンちゃん!?」

 おいおいおい! マジかよ!? これ、もしかして生まれるんじゃ!? え!? ちょっと予定より早くない!? あと一週間くらい後のはずだろ!?
 俺はその場に崩れ落ちるようにして倒れこんでしまった。体の中の魔力がぐるんぐるん勝手に動いてる。そのせいで体に力が入らない。やべぇ……どこが上か下かもわからないぞ。全部がぐるぐる回って気持ち悪いっ……!

「エレン! エレン!」

 ぐっと誰かに抱きかかえられた。この安定感はライアスだな。うっすらと目を開けて見れば、今にも泣きそうな顔してやがる。

「ラ、イアスっ……先生っ、呼んで、きてっ……」

「エレン! エレン! しっかりしてくださいッ!」

 だからおじいちゃん先生を呼んで来いっつってんだよ!! そう言いたいのに体の中がめちゃくちゃで、信じられないくらい熱くて上手く話せない。
 ……こいつ、すげぇテンパってんじゃん……いつもの冷静なお前はどこにいった? 今すぐ連れ戻せ。

「エレンちゃん、生まれるんだね? 大丈夫、大丈夫だよ。さぁ、ライアスは今すぐ先生を呼んできなさい! 旦那様はエレンちゃんをベッドへ運んで!」
 
「エレン! エレン! しっかりしろぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「エレン! しっかり! あああああ、神よ! 俺の天使をお守りくださいッ!」

 母上がてきぱきと指示を出しているのに、父上とライアスはパニクって何も聞いちゃいない。この場で冷静なのは、出産経験のある母上だけだ。母上がここにいてよかったかも。頼りになるぜ。

「ちっ……おいッ! クズ共ッ! ここで喚いたって意味がねぇんだよッ! 言われた通り今すぐ動けッ! ボケがぁぁぁぁぁぁ!!」

「「は、はいッ!!」」

 す、すげぇ……こんなキレた母上初めて見たぞ。いつもおっとりふわふわしてる人なのに、キレたらこんな風に乱暴な口調になるんだ……でも流石母上。父上もライアスも一瞬でシャキッとして動き出したぞ。すげぇ。つえぇ。マジ尊敬。
 
 俺は父上に抱きかかえられて寝室へと運ばれ、しばらくするとライアスが「うぉぉぉぉ!」って叫ぶおじいちゃん先生を負ぶって帰って来た。ライアスの足の速さにびっくりしたんだろうな……ちょっと乱暴になってごめん、先生。謝りたい気持ちでいっぱいだが、体の魔力がぐっちゃんぐっちゃんなせいで唸るしか出来ない。

「ふぃー……死ぬかと思ったぞい……」

 ふらふらになりながらも俺の側に来ると、にっこり笑って「大丈夫じゃ」と汗だくな俺の頭を撫でてくれた。この人が担当の先生でよかったかも。その優しい顔を見てなんだかほっとしてしまった。

 おじいちゃん先生は俺のお腹に手を当てて魔力を流す。すると俺の中で暴れまくっていた魔力が段々規則正しく流れていくのを感じる。それに合わせて俺も少しだが体が楽になってきた。

「ほっほっほ。これまた元気な赤子じゃの。予定より早いし、早くお前さんらに会いたかったのかのぅ」

「ぐっ……ふぅ、ふぅ……うっ……はぁっ……!」

 少し楽になったとはいえ、苦しいのは苦しい。魔力が勝手に暴れるってこんなにもしんどいんだな……そう思うと子供を産んだ人全員すげぇって思う。マジリスペクト。

「エレン、頑張ってくださいッ! 俺が、俺が付いていますからッ! 先生ッ! エレンはまだ苦しむのかッ!? 大丈夫なのかッ!? 子供はッ!? まだ産まれないのかッ!?」

「うっるさいのう。ちょっと落ち着いたらどうなんじゃ。大丈夫じゃわい。儂を信じなさい、全く」

 おじいちゃん先生は慣れているのか、怒鳴るように話すライアスにも淡々と言葉を返している。さすがはベテラン。

「そうじゃそうじゃ。いいぞ、いい子じゃ。……魔力の流れが変わって来たぞ。もう少しじゃ」

 先生の言葉通り、俺の中の魔力の流れが変わってきた。体全体をぐるぐる回っていたのが段々下へと下りてきている感じがする。
 
「よし、かなり下へと流れて来ておる。もう少し、もう少しじゃ…………来るぞっ!」

 先生がそう言った瞬間――
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