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旧・番外編
皆で仮装してパレードだ!~ハロウィンSS~
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「あ、もうすぐハロウィンか……」
「あ? なんだ? その『はろーん』ってのは?」
今日は珍しく、ギルドマスターのデイビットさんと奥さんのケリーさんが家に来てお茶をしている。
そんな時、ふとカレンダーを見て前世にあったハロウィンのことを思い出した。そして思わずぽろりと口から出てしまって、それをデイビットさんにしっかりと聞かれてしまった。
「あー……えっと、なんて言えばいいんだろう? 一種のお祭り、かな? 死後の世界との扉が開いて、ご先祖様たちが家族や親戚に会いに来たり現世に遊びに来るんだ。その時に悪霊なんかも一緒に現れるから子供が攫われたりするんだよ。それで自分の子供が攫われないように、色々な化粧を施したり仮装させてそいつらの仲間だと思わせるっていう風習があるんだ。で、それがいろいろと変わって仮装大会みたいなお祭りになってるっていう感じ、かな?」
たしか、たしかそんな感じだったと思う……正直俺だってハロウィンについて詳しくないから上手く説明出来ないけど。
「へぇ。面白い話だね。俺はそんな話聞いたことなかったんだけど、デイビットは知ってた?」
「いや、俺も初めて聞くな。エレン、お前どっからそんな話を聞いたんだ?」
「え!? えっとぉ……どこだったかな~? ハハハ……む、昔読んだ本に書いてあったようななかったような~……?」
前世の話だなんて言えないから必死にごまかす俺。挙動不審すぎて笑える……嘘下手過ぎだろ。
「……ま、そういうことにしてやるか。お前、元々クリステンの貴族だし、いろんな本を読んでてもおかしくねぇからな」
「ハハハ……」
デイビットさんの胡乱気な視線がちょっと気になるけど、深く追求されなくて助かった……
「もうすぐってことは収穫祭と時期は同じなのか」
「あ、そうそう。なんか元々は収穫祭だったらしいんだけど、そこからなんかいろいろ派生してそんなお祭りになったらしいよ」
宗教が混ざり合っていろいろと変わったんじゃなかったっけ? すげーあやふやなことしかわからなくてすまん。
「子供の仮装って、例えばどんな格好をさせるんです?」
ライアスがお代わりのお茶を注ぎながら質問してきた。そうだよな。こっちじゃ仮装ってあんまりないしな。
「そうだな、例えば……」
俺達の近くで二人で仲良く遊んでいるアシェルとライリーに視線を移す。今、アシェルは7歳、ライリーは5歳だ。積み木に似た玩具できゃっきゃ言いながら遊んでる。くっ、可愛すぎて目が潰れそうだ。
「アシェルには吸血鬼、ライリーは狼男、みたいな? 可愛い顔立ちのアシェルにはちょっと悪そうな感じで牙を付けて、わんぱくなライリーには狼の耳と尻尾を付けてがおーって言ったり。くはっ! 想像しただけで可愛すぎるだろ!!」
「エレン! 貴方は天才ですか!? 最高です!!」
同じく想像したライアスが悶絶している。その気持ち、すげぇわかるぞ!!
「はははっ! 確かに可愛いな、それ。街の子供達皆にさせたら可愛いの集まりだな」
「だろ!? ケリーさんならわかってくれると思ってた! そんで、大人たちはそんな仮装した子供たちのためにお菓子を用意するんだ。子供たちは悪霊に扮して出会った大人に『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!』ってセリフを言うんだ。それを聞いた大人がいたずらされないためにお菓子をあげるんだよ」
「へぇ、それ面白そうだね。今度この街でも収穫祭があるからそれも一緒にやったら面白そうだな!」
と、なんだかんだ話が盛り上がり、ケリーさんは「それ、ちょっと相談してくるよ」とノリノリだった。
それから数日後。ケリーさんは街の教会に相談に行ったらしい。なんで教会? と思ったら、街の子供たちが集まる場所を考えるとそこが一番わかりやすいからって。なるほど、たしかに。
しかも教会の人達も「子供達皆が笑顔になれるなら」と協力的だったらしい。それで俺のところに来てどうしようか相談に来た、と。ケリーさんめちゃくちゃ行動派だな。
それで教会からスタートして子供たちのパレードをやったらいいんじゃないか、と提案した。あんまり距離があると子供たちも疲れてしまうから、ほどほどの距離で。
市場が近いからそこを練り歩く感じがいいんじゃないか、とケリーさん。集まれる大人たちは教会と市場に集合して子供たちにお菓子を渡す。子供たちは貰ったお菓子を袋に詰めて、教会へと戻ったらそれを皆で食べる。という風に話がまとまった。
そしてケリーさんはまたしてもその話を教会の人に話してくると出かけて行った。
そして更に数日後。なんとそれがまるっと決まってしまった。凄いな。皆ノリノリだぞ。
まぁそれも仕方ないか。この世界は前世みたいにお祭りもいっぱいあるわけじゃないし、娯楽自体が少ないし。子供達主体のイベントなんてものもないからな。
開催日は収穫祭と合同で。あまり日にちもないため、ギルドの冒険者たちにも手伝ってもらって街中にそのことを宣伝してもらった。
仮装は自由。オバケでも妖精でも天使でも魔物でも憧れの人でも何でもいい。とりあえずなりたいものに仮装しようとなった。
ぽろっと口から出たことがこんな大事になるなんて思ってもいなかったけど、めちゃくちゃ楽しそうだから俺も乗り気だ。
そして仮装大会当日。アシェルとライリーに仮装をさせる。
「お母さん、どう? 似合う?」
「めちゃくちゃ可愛い!」
「お母さん、僕は? がおーっ!」
「くはぁっ! 可愛すぎて死ぬっ!」
アシェルは白いフリルシャツに黒いズボン。黒いマントを付けて歯には牙を取り付けた。髪は一つ結びにして耳の横に赤いバラを差し込み、口紅を使って口横に流れる血も描いておいた。
ライリーは茶色い狼の耳にふさふさの尻尾を付けて狼男に変身だ。髪はツンツンにさせてそこから出ている耳がなんとも可愛い。手には犬の手を模した手袋。もちろん肉球付きだ。それを掲げて「がおー!」なんて言われてみろ。可愛すぎて心臓が止まるぞ。
「エレン、ここは天国ですか?」
「きっと間違いなくそうに違いない」
親バカ二人して可愛い息子たちにノックアウトだ。素晴らしすぎる。
準備が出来たので家族全員で教会へと向かう。すれ違う大人たちがアシェルとライリーを見て「可愛い!」と大絶賛。俺も鼻が高い。
教会へと到着すると、そこにはいろいろな格好に扮した子供たちが大勢集まっていた。鳥の羽を背中に付けた子や、蜘蛛に扮した子、体に包帯を巻きつけている子に、ライリーみたいに動物の耳を付けた子など様々だった。
どの子も可愛くて、初めて仮装をしたからか皆楽しそうに笑っている。子供の笑顔、プライスレス!
「さぁ皆さん! 袋はちゃんと持ちましたか? これから市場に向かって歩きますよー!」
「「「はぁーい!」」」
教会の人達の先導で皆で市場に向かって出発。もちろん俺達大人も、警護も兼ねて一緒に歩く。市場への道には街の警邏の人達が立ってくれていて、冒険者の皆も散らばって見守ってくれている。街をあげてのパレードで俺も嬉しくなった。
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞー!」
「おお~それは怖い怖いっ! これをあげるからいたずらはしないでおくれ」
「おや、可愛いオバケだね。ほら、キャンディをあげよう」
子供たちは出会った大人にそれぞれ突撃し、ちゃんとお決まりのセリフを言ってお菓子を貰っていた。それを嬉しそうに袋に詰めてまた別の大人のところへ。凄く小さな子は少し年上のお兄ちゃんが手を握って一緒に行動していたり、もう微笑ましい光景がそこら中に広がっていた。
仮装した子供たちが来ると大人も楽しそうに笑ってお菓子を手渡している。もちろん、俺やライアスも子供たちが来たらライアスお手製のクッキーを手渡している。
「お母さん! お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞー!」
「しちゃうぞー!」
アシェルとライリーも俺達のところへとやって来る。もう可愛すぎて手持ちのクッキー全部あげたいくらいだ。
「うわぁ! 吸血鬼さんと狼男さんが来たー! お菓子をあげるので勘弁して下さーい!」
俺がそう下手な演技をしてクッキーを渡してやるとアシェルもライリーもくふくふと笑って受け取った。ああ、ハロウィンを思い出した俺、グッジョブ! 最高です!
そうやって市場を練り歩き、教会へと戻って来る。教会では椅子とテーブルが用意されていて子供たちはそこへ腰かけた。
お茶が用意されると、子供たちは袋から各々お菓子を取り出し食べ始める。これが美味しい、あれも美味しいと大賑わいだった。
「そのクッキー美味しそうだね」
アシェルの隣に座った子が、俺があげたクッキーを見て羨ましそうにそう言った。あの子は俺のところに来なかったからもらえなかったんだな。今からでもあげようか、と俺が動こうとした時。
「これ、お父さんが作ったクッキーなんだよ。すごく美味しいからあげるね!」
「え、いいの? ありがとう! じゃ、僕のこのキャンディと交換しよう!」
「わぁ、ありがとう! 僕、そのキャンディもらってなかったから嬉しい!」
な、なんて優しい世界……子供たちが天使すぎて涙が出るっ! ライリーも隣に座った子と仲良くお話しながらお菓子を食べている。あの子はアシェル大好きっ子だから他の子と上手くいくか心配だったけど問題なかったようだ。
「エレン、今日はなんとか成功って感じか?」
「うん、初めてにしてはよかったんじゃないのかな。デイビットさん達もありがとう。ギルドの皆も手伝ってくれて助かったよ」
ちょっと強面の奴らもいる冒険者たちだけど、心根は良い奴ばっかりだ。それに子供にお菓子をあげる時はデレデレした顔で面白かったしな。
警邏の人達やギルドの皆の警護もあって、大きな問題もなくパレードは終了した。子供たちも大満足だったみたいでよかったよ。
「本当にお前は他の人が思いつかないようなことをぽんぽんと出してくるよな」
「えっとぉ……えへへ。発想力があるから……ってことで」
「……まぁいい。そのおかげで子供たちも喜んでるからな」
デイビットさんからはまた胡乱気な目を向けられてしまったけど、そういう事で納得してくれ。
子供たちもそれぞれ仲良くなったところで、今回のパレードとお茶会はおしまい。その場で解散となった。
教会の人達や警邏の人達にもお礼を言うと、「改善する部分もありますが、まずは子供たちが喜んでくれて良かったです」と来年もぜひやりたいと意欲的だった。
俺達も家に帰ることにする。ライリーは疲れてしまったらしくライアスに抱っこされて、俺はアシェルと手を繋いで家へと帰る。
「アシェル、今日は楽しかったか?」
「うん! すっごく楽しかった!」
「ライリーもいつもよりはしゃいでいたみたいですね」
「だな。はしゃぎすぎて疲れて寝てるし」
くたりとライアスにもたれかかって幸せそうな顔で寝てやがる。ふふ。そこまで楽しんでもらえたんだなと俺も嬉しい。
来年の開催はもしかしたらもっと参加する子供の数も増えるかもしれないな。そうやって子供達のイベントも増えてくれるとこの街ももっと活気づきそうだ。
アシェルもずっとにこにこと笑って「あの子がね」と楽しかった話をずっと聞かせてくれている。それをうんうんと相槌を打ちながら皆で仲良く家へと帰った。
◇ ◇ ◇ ◇
ハッピーハロウィン♪皆様お久しぶりです!またまたゲリラ更新です。
「アシェルとライリーに仮装させたい!」と急に思い立ち、昨日から急いで書き上げました。何とか間に合ってほっとしております。
今回はほのぼの回でしたがいかがでしたでしょうか。可愛い子供たちが書けて私は満足しております。
先日、『著者近況』でも簡単にご報告したのですが、平民シリーズの一作目となったエレンたちのお話が現在書籍化進行中です!
まだこれ以上何も言えないのですが、大幅加筆をしてお届けする予定です。
ただいま、編集部の方々のご協力の元、必死に作業をしております…
書影の解禁などされましたら、また改めて告知させていただきますね☆
まさかエレン達が一冊の本になるとは、公開した当時は全く思っていませんでした。皆様の応援や読んで下さる方々のおかげです。本当にありがとうございます!
またネタが浮かびましたら番外編更新していきます。何かリクエストなどあればどうぞ投げてくださいね。
そして来月にはまた新作の公開を予定しています。もしよろしければ覗いてくださると嬉しいです。(中編の予定です)
読者の皆様に最大の感謝を!
「あ? なんだ? その『はろーん』ってのは?」
今日は珍しく、ギルドマスターのデイビットさんと奥さんのケリーさんが家に来てお茶をしている。
そんな時、ふとカレンダーを見て前世にあったハロウィンのことを思い出した。そして思わずぽろりと口から出てしまって、それをデイビットさんにしっかりと聞かれてしまった。
「あー……えっと、なんて言えばいいんだろう? 一種のお祭り、かな? 死後の世界との扉が開いて、ご先祖様たちが家族や親戚に会いに来たり現世に遊びに来るんだ。その時に悪霊なんかも一緒に現れるから子供が攫われたりするんだよ。それで自分の子供が攫われないように、色々な化粧を施したり仮装させてそいつらの仲間だと思わせるっていう風習があるんだ。で、それがいろいろと変わって仮装大会みたいなお祭りになってるっていう感じ、かな?」
たしか、たしかそんな感じだったと思う……正直俺だってハロウィンについて詳しくないから上手く説明出来ないけど。
「へぇ。面白い話だね。俺はそんな話聞いたことなかったんだけど、デイビットは知ってた?」
「いや、俺も初めて聞くな。エレン、お前どっからそんな話を聞いたんだ?」
「え!? えっとぉ……どこだったかな~? ハハハ……む、昔読んだ本に書いてあったようななかったような~……?」
前世の話だなんて言えないから必死にごまかす俺。挙動不審すぎて笑える……嘘下手過ぎだろ。
「……ま、そういうことにしてやるか。お前、元々クリステンの貴族だし、いろんな本を読んでてもおかしくねぇからな」
「ハハハ……」
デイビットさんの胡乱気な視線がちょっと気になるけど、深く追求されなくて助かった……
「もうすぐってことは収穫祭と時期は同じなのか」
「あ、そうそう。なんか元々は収穫祭だったらしいんだけど、そこからなんかいろいろ派生してそんなお祭りになったらしいよ」
宗教が混ざり合っていろいろと変わったんじゃなかったっけ? すげーあやふやなことしかわからなくてすまん。
「子供の仮装って、例えばどんな格好をさせるんです?」
ライアスがお代わりのお茶を注ぎながら質問してきた。そうだよな。こっちじゃ仮装ってあんまりないしな。
「そうだな、例えば……」
俺達の近くで二人で仲良く遊んでいるアシェルとライリーに視線を移す。今、アシェルは7歳、ライリーは5歳だ。積み木に似た玩具できゃっきゃ言いながら遊んでる。くっ、可愛すぎて目が潰れそうだ。
「アシェルには吸血鬼、ライリーは狼男、みたいな? 可愛い顔立ちのアシェルにはちょっと悪そうな感じで牙を付けて、わんぱくなライリーには狼の耳と尻尾を付けてがおーって言ったり。くはっ! 想像しただけで可愛すぎるだろ!!」
「エレン! 貴方は天才ですか!? 最高です!!」
同じく想像したライアスが悶絶している。その気持ち、すげぇわかるぞ!!
「はははっ! 確かに可愛いな、それ。街の子供達皆にさせたら可愛いの集まりだな」
「だろ!? ケリーさんならわかってくれると思ってた! そんで、大人たちはそんな仮装した子供たちのためにお菓子を用意するんだ。子供たちは悪霊に扮して出会った大人に『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!』ってセリフを言うんだ。それを聞いた大人がいたずらされないためにお菓子をあげるんだよ」
「へぇ、それ面白そうだね。今度この街でも収穫祭があるからそれも一緒にやったら面白そうだな!」
と、なんだかんだ話が盛り上がり、ケリーさんは「それ、ちょっと相談してくるよ」とノリノリだった。
それから数日後。ケリーさんは街の教会に相談に行ったらしい。なんで教会? と思ったら、街の子供たちが集まる場所を考えるとそこが一番わかりやすいからって。なるほど、たしかに。
しかも教会の人達も「子供達皆が笑顔になれるなら」と協力的だったらしい。それで俺のところに来てどうしようか相談に来た、と。ケリーさんめちゃくちゃ行動派だな。
それで教会からスタートして子供たちのパレードをやったらいいんじゃないか、と提案した。あんまり距離があると子供たちも疲れてしまうから、ほどほどの距離で。
市場が近いからそこを練り歩く感じがいいんじゃないか、とケリーさん。集まれる大人たちは教会と市場に集合して子供たちにお菓子を渡す。子供たちは貰ったお菓子を袋に詰めて、教会へと戻ったらそれを皆で食べる。という風に話がまとまった。
そしてケリーさんはまたしてもその話を教会の人に話してくると出かけて行った。
そして更に数日後。なんとそれがまるっと決まってしまった。凄いな。皆ノリノリだぞ。
まぁそれも仕方ないか。この世界は前世みたいにお祭りもいっぱいあるわけじゃないし、娯楽自体が少ないし。子供達主体のイベントなんてものもないからな。
開催日は収穫祭と合同で。あまり日にちもないため、ギルドの冒険者たちにも手伝ってもらって街中にそのことを宣伝してもらった。
仮装は自由。オバケでも妖精でも天使でも魔物でも憧れの人でも何でもいい。とりあえずなりたいものに仮装しようとなった。
ぽろっと口から出たことがこんな大事になるなんて思ってもいなかったけど、めちゃくちゃ楽しそうだから俺も乗り気だ。
そして仮装大会当日。アシェルとライリーに仮装をさせる。
「お母さん、どう? 似合う?」
「めちゃくちゃ可愛い!」
「お母さん、僕は? がおーっ!」
「くはぁっ! 可愛すぎて死ぬっ!」
アシェルは白いフリルシャツに黒いズボン。黒いマントを付けて歯には牙を取り付けた。髪は一つ結びにして耳の横に赤いバラを差し込み、口紅を使って口横に流れる血も描いておいた。
ライリーは茶色い狼の耳にふさふさの尻尾を付けて狼男に変身だ。髪はツンツンにさせてそこから出ている耳がなんとも可愛い。手には犬の手を模した手袋。もちろん肉球付きだ。それを掲げて「がおー!」なんて言われてみろ。可愛すぎて心臓が止まるぞ。
「エレン、ここは天国ですか?」
「きっと間違いなくそうに違いない」
親バカ二人して可愛い息子たちにノックアウトだ。素晴らしすぎる。
準備が出来たので家族全員で教会へと向かう。すれ違う大人たちがアシェルとライリーを見て「可愛い!」と大絶賛。俺も鼻が高い。
教会へと到着すると、そこにはいろいろな格好に扮した子供たちが大勢集まっていた。鳥の羽を背中に付けた子や、蜘蛛に扮した子、体に包帯を巻きつけている子に、ライリーみたいに動物の耳を付けた子など様々だった。
どの子も可愛くて、初めて仮装をしたからか皆楽しそうに笑っている。子供の笑顔、プライスレス!
「さぁ皆さん! 袋はちゃんと持ちましたか? これから市場に向かって歩きますよー!」
「「「はぁーい!」」」
教会の人達の先導で皆で市場に向かって出発。もちろん俺達大人も、警護も兼ねて一緒に歩く。市場への道には街の警邏の人達が立ってくれていて、冒険者の皆も散らばって見守ってくれている。街をあげてのパレードで俺も嬉しくなった。
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞー!」
「おお~それは怖い怖いっ! これをあげるからいたずらはしないでおくれ」
「おや、可愛いオバケだね。ほら、キャンディをあげよう」
子供たちは出会った大人にそれぞれ突撃し、ちゃんとお決まりのセリフを言ってお菓子を貰っていた。それを嬉しそうに袋に詰めてまた別の大人のところへ。凄く小さな子は少し年上のお兄ちゃんが手を握って一緒に行動していたり、もう微笑ましい光景がそこら中に広がっていた。
仮装した子供たちが来ると大人も楽しそうに笑ってお菓子を手渡している。もちろん、俺やライアスも子供たちが来たらライアスお手製のクッキーを手渡している。
「お母さん! お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞー!」
「しちゃうぞー!」
アシェルとライリーも俺達のところへとやって来る。もう可愛すぎて手持ちのクッキー全部あげたいくらいだ。
「うわぁ! 吸血鬼さんと狼男さんが来たー! お菓子をあげるので勘弁して下さーい!」
俺がそう下手な演技をしてクッキーを渡してやるとアシェルもライリーもくふくふと笑って受け取った。ああ、ハロウィンを思い出した俺、グッジョブ! 最高です!
そうやって市場を練り歩き、教会へと戻って来る。教会では椅子とテーブルが用意されていて子供たちはそこへ腰かけた。
お茶が用意されると、子供たちは袋から各々お菓子を取り出し食べ始める。これが美味しい、あれも美味しいと大賑わいだった。
「そのクッキー美味しそうだね」
アシェルの隣に座った子が、俺があげたクッキーを見て羨ましそうにそう言った。あの子は俺のところに来なかったからもらえなかったんだな。今からでもあげようか、と俺が動こうとした時。
「これ、お父さんが作ったクッキーなんだよ。すごく美味しいからあげるね!」
「え、いいの? ありがとう! じゃ、僕のこのキャンディと交換しよう!」
「わぁ、ありがとう! 僕、そのキャンディもらってなかったから嬉しい!」
な、なんて優しい世界……子供たちが天使すぎて涙が出るっ! ライリーも隣に座った子と仲良くお話しながらお菓子を食べている。あの子はアシェル大好きっ子だから他の子と上手くいくか心配だったけど問題なかったようだ。
「エレン、今日はなんとか成功って感じか?」
「うん、初めてにしてはよかったんじゃないのかな。デイビットさん達もありがとう。ギルドの皆も手伝ってくれて助かったよ」
ちょっと強面の奴らもいる冒険者たちだけど、心根は良い奴ばっかりだ。それに子供にお菓子をあげる時はデレデレした顔で面白かったしな。
警邏の人達やギルドの皆の警護もあって、大きな問題もなくパレードは終了した。子供たちも大満足だったみたいでよかったよ。
「本当にお前は他の人が思いつかないようなことをぽんぽんと出してくるよな」
「えっとぉ……えへへ。発想力があるから……ってことで」
「……まぁいい。そのおかげで子供たちも喜んでるからな」
デイビットさんからはまた胡乱気な目を向けられてしまったけど、そういう事で納得してくれ。
子供たちもそれぞれ仲良くなったところで、今回のパレードとお茶会はおしまい。その場で解散となった。
教会の人達や警邏の人達にもお礼を言うと、「改善する部分もありますが、まずは子供たちが喜んでくれて良かったです」と来年もぜひやりたいと意欲的だった。
俺達も家に帰ることにする。ライリーは疲れてしまったらしくライアスに抱っこされて、俺はアシェルと手を繋いで家へと帰る。
「アシェル、今日は楽しかったか?」
「うん! すっごく楽しかった!」
「ライリーもいつもよりはしゃいでいたみたいですね」
「だな。はしゃぎすぎて疲れて寝てるし」
くたりとライアスにもたれかかって幸せそうな顔で寝てやがる。ふふ。そこまで楽しんでもらえたんだなと俺も嬉しい。
来年の開催はもしかしたらもっと参加する子供の数も増えるかもしれないな。そうやって子供達のイベントも増えてくれるとこの街ももっと活気づきそうだ。
アシェルもずっとにこにこと笑って「あの子がね」と楽しかった話をずっと聞かせてくれている。それをうんうんと相槌を打ちながら皆で仲良く家へと帰った。
◇ ◇ ◇ ◇
ハッピーハロウィン♪皆様お久しぶりです!またまたゲリラ更新です。
「アシェルとライリーに仮装させたい!」と急に思い立ち、昨日から急いで書き上げました。何とか間に合ってほっとしております。
今回はほのぼの回でしたがいかがでしたでしょうか。可愛い子供たちが書けて私は満足しております。
先日、『著者近況』でも簡単にご報告したのですが、平民シリーズの一作目となったエレンたちのお話が現在書籍化進行中です!
まだこれ以上何も言えないのですが、大幅加筆をしてお届けする予定です。
ただいま、編集部の方々のご協力の元、必死に作業をしております…
書影の解禁などされましたら、また改めて告知させていただきますね☆
まさかエレン達が一冊の本になるとは、公開した当時は全く思っていませんでした。皆様の応援や読んで下さる方々のおかげです。本当にありがとうございます!
またネタが浮かびましたら番外編更新していきます。何かリクエストなどあればどうぞ投げてくださいね。
そして来月にはまた新作の公開を予定しています。もしよろしければ覗いてくださると嬉しいです。(中編の予定です)
読者の皆様に最大の感謝を!
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