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4. ディオンside
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「君の病名は『魔宝玉凝固化』だ。これからは魔法を使えないどころか、あと一か月で君の魔宝玉は完全に固まるだろう」
「……そん、なっ……」
学園での授業中、いつものように魔法を発動させようとしたらいきなり体中が引き裂かれるような痛みに襲われた。そして気が付けば俺はどこかの病院に運ばれ診察を受けていた。
俺の目の前に現れたのは、俺の苦手なカミーユの父親。この国で魔法治癒士として最高権威を持つ男だ。そんな人が診察をしたということは、俺が抱える何かは得体のしれないもの。そしてそれは『魔宝玉凝固化』という聞き慣れないものだった。そして俺はあと一ヵ月後には死ぬという。
なんで。なんで俺がこんな目に。俺はあの女を見返したくてがむしゃらに突き進んできたんだ。だがそのストレスを近寄って来る女を抱いて発散させていた罰が下ったのだろうか。
どの女も一度抱いたら捨てていた。それを隠しもしていなかったから俺がそんなクズだと皆知っている。それでも俺に群がる女は絶えなかった。だからあっちもそう望むならと好き勝手にやっていた。だからこんな俺に天罰が下ったんだろう。
「今現在体に痛みはないだろうが、魔法を使えばまたあのような痛みがぶり返す。苦しみたくなければ魔法を使わないことだ」
「……この病気は治らないんですか?」
「……治療法はあるにはある。だが今はそれをはっきり言うことは出来ない」
「教えてください! どうすればいいんですか!?」
「……それを伝えてもいい状況になったら教えよう」
「待って! 待ってください! 治療法を教えてください!」
俺がどれだけ叫んでも、カミーユの父親は俺の質問には答えず病室を出て行った。そのまま俺は入院することになった。
ただベッドの上で呆然としたまま時間は過ぎて行った。目の前に食事を用意されても食欲は一切湧かず、夜も更けてベッドに体を横たえても全く眠気は訪れない。ずっと『どうしてこんな目に』『どうして俺が』『天罰が下ったんだ』とそれだけがずっと頭の中を支配していた。
そして多分二日経った頃。カミーユの父親が病室に現れた。
「ディオン。君の病気を治すことが可能になった」
「え……? 本当ですか!?」
いきなりの朗報。俺はベッドから飛び出しカミーユの父親にしがみ付いた。「落ち着きなさい」と言われ、はやる気持ちをなんとか抑え込み再びベッドの上に座った。
そんな俺の目の前にカミーユの父親は状態保存の魔法がかけられた透明の箱を取り出した。その中には白く輝く球体が納められている。見たことのないものに俺は首を傾げた。
「それは?」
「これは生きた『魔宝玉』だ。これを君の魔宝玉と交換することで、君の病気を治すことが出来る」
「は……? 生きた『魔宝玉』……?」
魔宝玉は誰しもが体の中に持っているもの。だけどそれを体内から取り出すのは死んだ時だけ。でもそれは宝石のように固まったものだ。こんな風に光り輝くことはない。それにこの魔宝玉の持ち主は体から取り出された時点で死亡していることになる。
その事実を理解したと同時に「ひゅっ」と息を呑んだ。カミーユの父親はこの誰かの魔宝玉を取り出したことで、誰かを殺したことになるのだから。
「心配する必要はない。君の病気のことを知って、自分の魔宝玉を君にあげて欲しいと願い出た者がいたんだ。だからこれはこの魔宝玉の持ち主本人の願いでもある」
「え……それ、は一体、誰なんですか……?」
俺のために自らが犠牲になった人がいたということだ。俺にはたくさんの女が群がってくるが、俺のために命を投げ出してくれるような奴はいない。こんなクズな俺に命を投げ出す奴なんて……
「君はそれを本当に知りたいと思うのか?」
「え……?」
カミーユの父親は真剣な表情だった。それを本当に知りたいのか、知ってどうするのか。そう問われているようで俺は何も答えられなかった。だけどこんな俺のために命を投げ出してくれた人を知らないまま、この先の人生を歩む覚悟はなかった。どうせなら、ちゃんと弔いをしてやりたいし直接伝えられなくても礼くらいは言いたいし言わなきゃいけないだろう。
「……はい。俺はそれを知りたいと思っています。こんな俺のために、ここまでしてくれた人が誰なのかを。そうしなければいけないと思っています」
「そうか……ではついてきなさい」
カミーユの父親はそう言うとさっと背中を向けて病室を出て行った。慌ててそれを追いかける。長い廊下を抜け、重厚な扉を開ける。いかにも一般人が入れるような場所ではないことがわかる。その部屋は立派な執務室で、大きなデスクと皮張りの大きな椅子が置かれていた。
カミーユの父親はそのまま部屋を突っ切ると別室へと続く扉を開ける。そこには魔法陣が敷かれていて、よく見ると転移魔法陣だとわかった。そのままカミーユの父親は魔法陣の上に乗ると、俺を手招きする。恐る恐るその魔法陣の上に乗ると、軽い浮遊感の後景色が一瞬で変わった。
何処に来たのかもわからないが、カミーユの父親はすたすたと歩きだす。離れないよう俺もその後ろを付いて行った。
「ここは私の自宅だ」
どうやらここはカミーユの父親の屋敷だそうだ。かなり広く立派な屋敷で、あちこちに絵画や見るからに高そうな壺などが置かれている。廊下には灰色のじゅうたんが敷かれ、靴を履いているというのにそのふかふかな感触がしっかりと伝わってくる。
孤児院育ちの俺には経験のない豪華な廊下をおっかなびっくりしつつ歩いて行くと、やがて一つの扉の前で足が止まった。
カミーユの父親はその扉を開けて中へと入っていく。俺もそれに続いて中へと入れば、どうやら誰かの私室のようだった。ソファーやローテーブルが置かれた部屋を通り抜け、もう一つ扉を開けるとそこは寝室だった。天蓋が下ろされていたが誰かが寝ているのはなんとなくわかった。
この屋敷に来てから嫌な予感が止まらない。この魔宝玉の持ち主がなんとなくわかってしまった。どうかその予想は外れてくれと思うも、それで間違いないだろうという確信は消えなかった。
「彼がこの魔宝玉の持ち主だ」
「……そん、なっ……」
学園での授業中、いつものように魔法を発動させようとしたらいきなり体中が引き裂かれるような痛みに襲われた。そして気が付けば俺はどこかの病院に運ばれ診察を受けていた。
俺の目の前に現れたのは、俺の苦手なカミーユの父親。この国で魔法治癒士として最高権威を持つ男だ。そんな人が診察をしたということは、俺が抱える何かは得体のしれないもの。そしてそれは『魔宝玉凝固化』という聞き慣れないものだった。そして俺はあと一ヵ月後には死ぬという。
なんで。なんで俺がこんな目に。俺はあの女を見返したくてがむしゃらに突き進んできたんだ。だがそのストレスを近寄って来る女を抱いて発散させていた罰が下ったのだろうか。
どの女も一度抱いたら捨てていた。それを隠しもしていなかったから俺がそんなクズだと皆知っている。それでも俺に群がる女は絶えなかった。だからあっちもそう望むならと好き勝手にやっていた。だからこんな俺に天罰が下ったんだろう。
「今現在体に痛みはないだろうが、魔法を使えばまたあのような痛みがぶり返す。苦しみたくなければ魔法を使わないことだ」
「……この病気は治らないんですか?」
「……治療法はあるにはある。だが今はそれをはっきり言うことは出来ない」
「教えてください! どうすればいいんですか!?」
「……それを伝えてもいい状況になったら教えよう」
「待って! 待ってください! 治療法を教えてください!」
俺がどれだけ叫んでも、カミーユの父親は俺の質問には答えず病室を出て行った。そのまま俺は入院することになった。
ただベッドの上で呆然としたまま時間は過ぎて行った。目の前に食事を用意されても食欲は一切湧かず、夜も更けてベッドに体を横たえても全く眠気は訪れない。ずっと『どうしてこんな目に』『どうして俺が』『天罰が下ったんだ』とそれだけがずっと頭の中を支配していた。
そして多分二日経った頃。カミーユの父親が病室に現れた。
「ディオン。君の病気を治すことが可能になった」
「え……? 本当ですか!?」
いきなりの朗報。俺はベッドから飛び出しカミーユの父親にしがみ付いた。「落ち着きなさい」と言われ、はやる気持ちをなんとか抑え込み再びベッドの上に座った。
そんな俺の目の前にカミーユの父親は状態保存の魔法がかけられた透明の箱を取り出した。その中には白く輝く球体が納められている。見たことのないものに俺は首を傾げた。
「それは?」
「これは生きた『魔宝玉』だ。これを君の魔宝玉と交換することで、君の病気を治すことが出来る」
「は……? 生きた『魔宝玉』……?」
魔宝玉は誰しもが体の中に持っているもの。だけどそれを体内から取り出すのは死んだ時だけ。でもそれは宝石のように固まったものだ。こんな風に光り輝くことはない。それにこの魔宝玉の持ち主は体から取り出された時点で死亡していることになる。
その事実を理解したと同時に「ひゅっ」と息を呑んだ。カミーユの父親はこの誰かの魔宝玉を取り出したことで、誰かを殺したことになるのだから。
「心配する必要はない。君の病気のことを知って、自分の魔宝玉を君にあげて欲しいと願い出た者がいたんだ。だからこれはこの魔宝玉の持ち主本人の願いでもある」
「え……それ、は一体、誰なんですか……?」
俺のために自らが犠牲になった人がいたということだ。俺にはたくさんの女が群がってくるが、俺のために命を投げ出してくれるような奴はいない。こんなクズな俺に命を投げ出す奴なんて……
「君はそれを本当に知りたいと思うのか?」
「え……?」
カミーユの父親は真剣な表情だった。それを本当に知りたいのか、知ってどうするのか。そう問われているようで俺は何も答えられなかった。だけどこんな俺のために命を投げ出してくれた人を知らないまま、この先の人生を歩む覚悟はなかった。どうせなら、ちゃんと弔いをしてやりたいし直接伝えられなくても礼くらいは言いたいし言わなきゃいけないだろう。
「……はい。俺はそれを知りたいと思っています。こんな俺のために、ここまでしてくれた人が誰なのかを。そうしなければいけないと思っています」
「そうか……ではついてきなさい」
カミーユの父親はそう言うとさっと背中を向けて病室を出て行った。慌ててそれを追いかける。長い廊下を抜け、重厚な扉を開ける。いかにも一般人が入れるような場所ではないことがわかる。その部屋は立派な執務室で、大きなデスクと皮張りの大きな椅子が置かれていた。
カミーユの父親はそのまま部屋を突っ切ると別室へと続く扉を開ける。そこには魔法陣が敷かれていて、よく見ると転移魔法陣だとわかった。そのままカミーユの父親は魔法陣の上に乗ると、俺を手招きする。恐る恐るその魔法陣の上に乗ると、軽い浮遊感の後景色が一瞬で変わった。
何処に来たのかもわからないが、カミーユの父親はすたすたと歩きだす。離れないよう俺もその後ろを付いて行った。
「ここは私の自宅だ」
どうやらここはカミーユの父親の屋敷だそうだ。かなり広く立派な屋敷で、あちこちに絵画や見るからに高そうな壺などが置かれている。廊下には灰色のじゅうたんが敷かれ、靴を履いているというのにそのふかふかな感触がしっかりと伝わってくる。
孤児院育ちの俺には経験のない豪華な廊下をおっかなびっくりしつつ歩いて行くと、やがて一つの扉の前で足が止まった。
カミーユの父親はその扉を開けて中へと入っていく。俺もそれに続いて中へと入れば、どうやら誰かの私室のようだった。ソファーやローテーブルが置かれた部屋を通り抜け、もう一つ扉を開けるとそこは寝室だった。天蓋が下ろされていたが誰かが寝ているのはなんとなくわかった。
この屋敷に来てから嫌な予感が止まらない。この魔宝玉の持ち主がなんとなくわかってしまった。どうかその予想は外れてくれと思うも、それで間違いないだろうという確信は消えなかった。
「彼がこの魔宝玉の持ち主だ」
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