3 / 10
3. 番を助けるための選択
しおりを挟む
その後、クラスに戻りいつも通り授業を受けるもディオンのことが気になってそれどころじゃなかった。ディオンが運ばれた病院もわからない。でも父様に聞いてみたらわかるかもしれない。僕は授業が終わるとすぐに家へと帰った。
父様は家で仕事をしていることが多い。急ぎ父様の執務室へ訪ねてみるも、そこに父様の姿はなかった。こんな時に限ってどこへ行ったのか。その父様は夜遅くに帰ってきたようで慌てて父様の部屋へと突撃した。
「ディオンのことか?」
父様は僕の目的がわかっていたようでいきなり訪ねてきた僕を追い出すことはなくそう聞いてくれた。ディオンが僕の番だとわかってから家族にはディオンのことを話していた。だから当然ディオンのことを知っているけど、今日ディオンが病院に運ばれたことは言っていない。
「父様、もしかしてディオンの治療に行っていたの?」
「そうだ。かなり珍しい症例だったため、私が呼ばれた」
やっぱり。父様は医療協会のトップだ。しかも魔法治癒士としても有名で、現在父様以上の人はいない。その父様が呼ばれたということはディオンは――
「カミーユ、よく聞いてくれ。ディオンの病は『魔宝玉凝固化』だ。この病を持つ者が国に一人いるかどうかの珍しいものだ。そしてディオンの凝固化はかなり早く、持ってあとひと月というところだろう」
僕達は体の中に『魔宝玉』というものを持っている。そこが魔力の元であり、魔法を使うためには必ず使用する大切な器官だ。体内で魔力を作るだけじゃなく、空気中に漂う魔素を取り込む器官でもある。体内の魔力が少なくなっても魔素を取り込むことで魔法を使うことが出来るが、その魔宝玉の大きさは個人差がとても大きい。
ディオンは元々その魔宝玉が大きくて取り込める魔素も多いため、大量の魔力を使うような難しい魔法でも難なく扱うことが出来る。だから魔法の天才と呼ばれているのだけど。
そしてこの魔宝玉は、人が死ぬと硬くなり宝石のような形になる。遺族はそれをアクセサリーにして身に着けたり部屋に飾ったりして故人を偲ぶのだ。生きている間は硬くなることはない。だがディオンの病名は魔宝玉凝固化。生きている間は硬くなることはない魔宝玉が硬くなっていく病気。このまま完全に硬くなってしまったら、ディオンは死ぬということだ。
「そんなっ……!」
「だがディオンが助かる方法はある」
「え!? 助けられるの!?」
「ああ。だが、場合によっては大きな犠牲が必要になる」
父様は僕の目をしっかりと見つめている。僕にそれを聞く覚悟があるのかと言われているようだった。
「お前と番になり繋がることか、お前の『竜玉』を渡すことだ」
僕達竜人は『運命の番』と番になるためには体を繋げる必要がある。でもそれだけじゃ番関係は成立しない。相手も僕達のことを心から好きになって相思相愛になっていなければ、番関係にはなれないのだ。
お互いを想い合い番になると、竜人と番の間に不思議なパイプが繋がる。お互いの魔力を共有することになるのだ。そうなればディオンの病気も治すことが出来る。
でも僕はディオンに好かれるどころか嫌われている。今まではそれでもいいと、いつかはわかってくれると思っていた。でももうそれを待っている時間はない。
残されるのは僕の竜玉を渡すこと。竜人は魔宝玉ではなく竜玉と呼ばれるものを体内に持っている。機能としては魔宝玉とさほど変わらないのだけど、大きさも魔力量も何もかもが桁違いに大きい。だから僕達竜人は魔法に関しては特別なんだ。
だけど、当然僕の竜玉がなくなれば僕は死ぬ。番になれなければ竜玉を渡すしかディオンを助ける手段はない。
「父様。僕の竜玉をディオンに渡して」
「……それでいいんだな?」
「もちろん。父様もわかるでしょう? 番が危ない時は番を優先する気持ち」
「そうだな。私も番が助かるなら、私の命を差し出すことなど容易いことだ」
「うん。だから僕の竜玉をディオンにあげてほしい」
「……わかった。お前の覚悟を受け取ろう」
「ありがとう、父様」
これでディオンは助かる。僕の命と引き換えにして。
でもそれが悲しいとか辛いという気持ちは全くない。僕は番を助けることが出来るんだ。こんなに嬉しいことはない。
僕の竜玉がディオンの中に入るということは、ディオンが生きている限り僕はディオンとずっと一緒ということだ。いつかは番になることを夢見ていたけど、これはこれで悪くない。ずっとディオンと一緒にいられるなんて、こんな素敵なことが他にあるだろうか。
そして二日後。僕は寝台の上で横になっていた。すぐ側には父様が。これから僕の竜玉を取り出す魔法を使う。
「……何か伝えることはあるか?」
「ディオンに『幸せになって』って伝えてくれる?」
「わかった。約束しよう」
「ありがとう、父様。それじゃあお願いします」
父様の手が僕のお腹に当てられた。するとすぐにぽかぽかと温かいものが体の中に入ってくる。それを感じながら目を瞑った。
ディオン。君はこの先もずっとずっと生きられるよ。大好きな魔法をこれからもいっぱい使えるよ。君の将来が幸福で溢れるよう祈っているからね。
そうディオンへの祈りを捧げた時、僕の意識は闇に落ちた。
父様は家で仕事をしていることが多い。急ぎ父様の執務室へ訪ねてみるも、そこに父様の姿はなかった。こんな時に限ってどこへ行ったのか。その父様は夜遅くに帰ってきたようで慌てて父様の部屋へと突撃した。
「ディオンのことか?」
父様は僕の目的がわかっていたようでいきなり訪ねてきた僕を追い出すことはなくそう聞いてくれた。ディオンが僕の番だとわかってから家族にはディオンのことを話していた。だから当然ディオンのことを知っているけど、今日ディオンが病院に運ばれたことは言っていない。
「父様、もしかしてディオンの治療に行っていたの?」
「そうだ。かなり珍しい症例だったため、私が呼ばれた」
やっぱり。父様は医療協会のトップだ。しかも魔法治癒士としても有名で、現在父様以上の人はいない。その父様が呼ばれたということはディオンは――
「カミーユ、よく聞いてくれ。ディオンの病は『魔宝玉凝固化』だ。この病を持つ者が国に一人いるかどうかの珍しいものだ。そしてディオンの凝固化はかなり早く、持ってあとひと月というところだろう」
僕達は体の中に『魔宝玉』というものを持っている。そこが魔力の元であり、魔法を使うためには必ず使用する大切な器官だ。体内で魔力を作るだけじゃなく、空気中に漂う魔素を取り込む器官でもある。体内の魔力が少なくなっても魔素を取り込むことで魔法を使うことが出来るが、その魔宝玉の大きさは個人差がとても大きい。
ディオンは元々その魔宝玉が大きくて取り込める魔素も多いため、大量の魔力を使うような難しい魔法でも難なく扱うことが出来る。だから魔法の天才と呼ばれているのだけど。
そしてこの魔宝玉は、人が死ぬと硬くなり宝石のような形になる。遺族はそれをアクセサリーにして身に着けたり部屋に飾ったりして故人を偲ぶのだ。生きている間は硬くなることはない。だがディオンの病名は魔宝玉凝固化。生きている間は硬くなることはない魔宝玉が硬くなっていく病気。このまま完全に硬くなってしまったら、ディオンは死ぬということだ。
「そんなっ……!」
「だがディオンが助かる方法はある」
「え!? 助けられるの!?」
「ああ。だが、場合によっては大きな犠牲が必要になる」
父様は僕の目をしっかりと見つめている。僕にそれを聞く覚悟があるのかと言われているようだった。
「お前と番になり繋がることか、お前の『竜玉』を渡すことだ」
僕達竜人は『運命の番』と番になるためには体を繋げる必要がある。でもそれだけじゃ番関係は成立しない。相手も僕達のことを心から好きになって相思相愛になっていなければ、番関係にはなれないのだ。
お互いを想い合い番になると、竜人と番の間に不思議なパイプが繋がる。お互いの魔力を共有することになるのだ。そうなればディオンの病気も治すことが出来る。
でも僕はディオンに好かれるどころか嫌われている。今まではそれでもいいと、いつかはわかってくれると思っていた。でももうそれを待っている時間はない。
残されるのは僕の竜玉を渡すこと。竜人は魔宝玉ではなく竜玉と呼ばれるものを体内に持っている。機能としては魔宝玉とさほど変わらないのだけど、大きさも魔力量も何もかもが桁違いに大きい。だから僕達竜人は魔法に関しては特別なんだ。
だけど、当然僕の竜玉がなくなれば僕は死ぬ。番になれなければ竜玉を渡すしかディオンを助ける手段はない。
「父様。僕の竜玉をディオンに渡して」
「……それでいいんだな?」
「もちろん。父様もわかるでしょう? 番が危ない時は番を優先する気持ち」
「そうだな。私も番が助かるなら、私の命を差し出すことなど容易いことだ」
「うん。だから僕の竜玉をディオンにあげてほしい」
「……わかった。お前の覚悟を受け取ろう」
「ありがとう、父様」
これでディオンは助かる。僕の命と引き換えにして。
でもそれが悲しいとか辛いという気持ちは全くない。僕は番を助けることが出来るんだ。こんなに嬉しいことはない。
僕の竜玉がディオンの中に入るということは、ディオンが生きている限り僕はディオンとずっと一緒ということだ。いつかは番になることを夢見ていたけど、これはこれで悪くない。ずっとディオンと一緒にいられるなんて、こんな素敵なことが他にあるだろうか。
そして二日後。僕は寝台の上で横になっていた。すぐ側には父様が。これから僕の竜玉を取り出す魔法を使う。
「……何か伝えることはあるか?」
「ディオンに『幸せになって』って伝えてくれる?」
「わかった。約束しよう」
「ありがとう、父様。それじゃあお願いします」
父様の手が僕のお腹に当てられた。するとすぐにぽかぽかと温かいものが体の中に入ってくる。それを感じながら目を瞑った。
ディオン。君はこの先もずっとずっと生きられるよ。大好きな魔法をこれからもいっぱい使えるよ。君の将来が幸福で溢れるよう祈っているからね。
そうディオンへの祈りを捧げた時、僕の意識は闇に落ちた。
293
お気に入りに追加
389
あなたにおすすめの小説
お前とは番いになりたくないと言われたのに何故溺愛されているのでしょうか?
紅月
BL
僕が12歳の頃両親は事故で死んでしまった。
その後孤児院に引き取られて奨学生として貴族から平民が通う学園に通い文官になった。
だがある日、最上位の種族である竜人で公爵家当主である、ルイ・メイアンから僕が公爵様の運命の番である事を知らされる。しかし、僕の魂の色は真っ黒で醜いため僕とは番いになりたくないと契約書を作られてしまった。
この国は無種族が生活しており竜神や獣人は運命のつがいというものが存在する。
おまけに竜人には人の魂の色が見えるらしく相手の感情や思考が魂の色によって分かるらしい。しかし、僕の魂の色はぐちゃぐちゃした濁った色をしていて見るに堪えないらしい。
しかし、ある時から公爵様が契約を違反すれば1億円の罰金が発生するという契約書を作ったのにも関わらずそれを違反して僕を溺愛し始めた。
最強竜人公爵家当主第一騎士団長×孤独な神の愛おし子
主人公ガーベラ23歳
ルイ・メイアン201歳
【完結/R18】俺が不幸なのは陛下の溺愛が過ぎるせいです?
柚鷹けせら
BL
気付いた時には皆から嫌われて独りぼっちになっていた。
弟に突き飛ばされて死んだ、――と思った次の瞬間、俺は何故か陛下と呼ばれる男に抱き締められていた。
「ようやく戻って来たな」と満足そうな陛下。
いや、でも待って欲しい。……俺は誰だ??
受けを溺愛するストーカー気質な攻めと、記憶が繋がっていない受けの、えっちが世界を救う短編です(全四回)。
※特に内容は無いので頭を空っぽにして読んで頂ければ幸いです。
※連載中作品のえちぃシーンを書く練習でした。その供養です。完結済み。
【完結】瀕死の剣士を助けたら、懐かれて『番』認定受けました。
華抹茶
BL
『最強の冒険者』として有名なメルヒオール。一人でいろんな所へと旅をして、立ち寄った街のギルドでドラゴン討伐に向かった冒険者が戻らないことを知る。この街の冒険者はドラゴンを倒せる人はおらず、メルヒオールは「それなら自分が行ってくる」とギルドを出た。
そしてドラゴンが現れたという場所へ行ってみれば、伝説のドラゴンである『エンシェントドラゴン』が一人の剣士を殺そうとしていたところだった。
メルヒオールはそのドラゴンを倒し、瀕死だった剣士を救ったことから懐かれてしまう。
瀕死だった剣士(童貞の歳下攻め)×最強の冒険者(ビッチの歳上受け)
●約7万字ほどの中編です。全22話。
●特にR18シーンに印をつけたりしてないです。(そういうシーン多いので)
●最終話まで執筆済み
【完結】狼オメガは、このアルファに溺れたい
犬白グミ ( 旧名・白 )
BL
【番外編更新予定】
狼獣人のオメガである俺は、褒められる容姿をしているらしいが、三十歳になっても番どころか恋人さえいたことがない。
そんな俺が、王宮で暮らすことになり、四人のアルファの中から愛する一人のアルファを番に選ぶまでの物語。
宰相補佐官の知的眼鏡α・人たらしの王弟α・初恋の騎士団長α・引きこもりヘタレα × 狼獣人美形男前Ω
「聖獣人アルファは事務官オメガに溺れる」の登場人物ゲリンのスピンオフ
*R18
前作未読でも、どちらを先に読んでも大丈夫です。
お気に入り、いいね、エール、ありがとうございます!!
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
俺のかつての護衛騎士が未だに過保護すぎる
餡子
BL
【BL】護衛騎士×元王子もどきの平民
妾妃の連れ子として王家に迎え入れられたけど、成人したら平民として暮らしていくはずだった。というのに、成人後もなぜかかつての護衛騎士が過保護に接してくるんだけど!?
……期待させないでほしい。そっちには、俺と同じ気持ちなんてないくせに。
※性描写有りR18
生まれ変わったら知ってるモブだった
マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。
貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。
毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。
この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。
その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。
その瞬間に思い出したんだ。
僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。
隣国王子に快楽堕ちさせれた悪役令息はこの俺です
栄円ろく
BL
日本人として生を受けたが、とある事故で某乙女ゲームの悪役令息に転生した俺は、全く身に覚えのない罪で、この国の王子であるルイズ様に学園追放を言い渡された。
原作通りなら俺はこの後辺境の地で幽閉されるのだが、なぜかそこに親交留学していた隣国の王子、リアが現れて!?
イケメン王子から与えられる溺愛と快楽に今日も俺は抗えない。
※後編がエロです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる