【完結】僕は『番狂い』の竜人

華抹茶

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2. 番が倒れた

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 僕とディオンは魔法科だけどクラスは違う。でも週一回は全クラス合同で魔法の授業が行われるんだ。僕はそれがいつも楽しみでならない。だってディオンを近くで見ていられるし、彼の素晴らしい魔法を見られるから。

 合同授業は魔法戦だ。特殊な結界内でお互い魔法をぶつけ合う。例え直撃しても体への直接的なダメージはない。ただしちゃんと体力や魔力は削られるようになっているから、怪我をしないだけで怪我をした時と同じように消耗するように出来ている。これは僕のご先祖様である白竜が授けた魔法らしい。
 僕達はこの結界内で戦う訓練を行い、魔法を使う技術を高めている。武器に魔法を纏わせて戦う近接戦闘が得意な者や、前衛のサポートが得意な者、治癒が得意な者と皆それぞれ得意分野が違う。そういった人達とチームを組んで魔法戦を行うのだ。

 魔法戦は判断力、技術力、素早さ、緻密さなどを総合的に鍛えることが出来る。学園を卒業したら皆それぞれの道を歩むのだけど、戦闘を生業にした職業じゃなくても学園で培ったものは無駄にはならない。だから皆魔法戦はかなり本気で取り組んでいる。
 そして僕はこの魔法戦が大好きだったりする。皆の魔法を見るのも楽しいけど、それぞれその状況でどう魔法を出してくるのか見ていて面白いし勉強になることもある。因みに僕は竜人だからどんな魔法も使えるエキスパートだ。皆よりも強過ぎちゃうから僕だけ一番弱い下級魔法しか使ってはいけないというハンデをつけている。それでちょうどいいんだから竜人ってズルいと思う。

 そんなちょっと特別な僕達だけど、学園の卒業後は重要な職に就くことが多い。お祖父様はいわゆる脳筋だったので国の騎士団長だった。今は引退して相談役をやっているけど、今でも元気で騎士の人達によく訓練をしてる。
 お父様は魔法治癒が得意だったので医療協会のトップだ。難しい病気や治療法を研究したりしていて、実際たくさんの治療法を編み出している。
 僕は魔法の研究が大好きだから卒業したら新しい魔法の開発なんかをしたいと思っている。それにはぜひディオンも一緒にいて欲しいと思う。ディオンも魔法が大好きみたいだから一緒に仕事が出来たら嬉しいなぁ。その前に僕と番って欲しいけど。

「よし。じゃあ次はディオンのチームとカミーユのチームだ」

 やった! 僕達はディオンのチームと魔法戦だ! ディオンと関われるならなんでも嬉しい僕と違って、ディオンは一気に眉間にしわを寄せてしまった。嫌そうな顔だけど、それでも僕のことを意識してくれているんだと思うと嬉しさしかない。うきうきと結界内に入って魔法戦の準備だ。
 ディオンは魔法の天才と言われているだけあって魔法はなんでも得意だ。しかも多種多様な攻撃魔法を一度に放ってくるし隙がない。僕は後衛で皆をサポートした方がよさそう。皆と相談して作戦を練る。
 お互い準備が出来たようで、早速魔法戦の開始だ。

「一気に畳み込むぞ!」
 
 開始早々ディオンが火、水、土、風と四種の魔法を一度に展開する。あれだけたくさん展開すると発射までは少し時間がかかるから、その隙に特攻隊長であるチームメンバーが仲間のサポートを受けて一気に前へと踊り出した。手に持つのは槍。それに雷の魔法を纏わり付かせ一気に突いた。
 ディオンを狙ったのだけど、ディオンのチームメンバーがしっかりとそれを受け流し結界へと当てた。するとディオンは展開した魔法を一度に発射する。四種の魔法は勢いよく僕達を狙ってくる。はずだった。

「ぐあぁぁぁぁ!」
「ディオン!?」

 ディオンがいきなり胸を押さえて蹲ってしまう。放たれた魔法は制御が利かずあっちこっちへと乱射されることになった。これじゃあ敵味方関係なくダメージを受けてしまう。結界内であれば怪我をする心配はないのだけど、僕はいきなりの非常事態に皆に結界を張り巡らせた。そのお陰で誰もダメージを受けることなく魔法は消え去った。

 僕はすぐにディオンに駆け寄った。まだ苦しそうに藻掻いていて、一体何が起こったのかわからない。でもこんなの普通じゃないことは明らかだ。僕はディオンを横抱きにすると一目散に医務室へと駆け込んだ。
 突然僕達が駆け込んできたことに驚いた学園の医師に、ディオンの状態を矢継ぎ早に説明する。とりあえずベッドに寝かせて欲しいと言われ慌ててディオンをベッドの上に下ろした。
 医師は魔法でディオンの状態を確認するも自分では手に負えないと言う。急ぎ大病院へ運ぶ必要があると、緊急転移魔法陣の発動の許可を学園長に貰うことになった。すんなりと許可が下りたことで転移魔法陣へと運ぼうとするが、医師にそれを止められてしまう。

「君は部外者だ。ここは私が行くから君は授業に戻りなさい」
「嫌です! 彼は僕の番でっ……!」
「その話は有名だから知っている。でも今の君は部外者に変わりはない」

 医師の言う通り、僕達はまだ番っていない。ただの学友でしかない。何も言えなくなった僕の横を、医師はディオンを抱えて医務室を出て行った。
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