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しおりを挟む何かの冗談であってくれと祈ってはみたが意味はなく。本当にブランディス様と一緒に食事をすることになった。
「貴方がヨアヒムですか。初めましてコンラート・ブランディスと申します。貴女の姉上とはライバルとして切磋琢磨させていただいています」
「あ、あの。ヨアヒム・アルタマンと申します。えっと、姉上がいつもお世話になっております。これからもよろしくお願いいたします」
「あああああ! 可愛い!! ちゃんとご挨拶出来て偉いわ! 100点満点! いえ、1000点満点あげちゃう!」
あまりの可愛さにぎゅーっと抱きしめて頭をなでなでしてあげた。
「あ、姉上! お客様の前ですよ! 恥ずかしいです!」
「……弟君にはそんな風になるのか。これは妬けるな」
「? 何か仰いました?」
「いえ、何も。
それよりもとても美味しそうですね。楽しみです」
食卓に並んだのは家庭菜園でとれた野菜をたっぷり使ったシチュー。そしてサラダにパン。急遽お肉料理も付けたはいいけどこんな質素な食事で恥ずかしすぎる。
「あ、あのお口に合わなければ無理しないでくださいね。侯爵家の方にお出しする物ではありませんし…」
そして食前の祈りを捧げてスプーンを手に取った。
ブランディス様がシチューを口に入れていく。いつも思うけど本当に綺麗な所作で食事されるのよね。
あああ、あんな高貴な上級貴族の方の口に私の手作り料理が運ばれていく……。
「…………美味しい」
「え?」
「とても美味しいです、アルタマン嬢。なんというか、ほっとする味ですね。野菜の味もとても濃くて濃厚なシチューに全然負けていません」
「野菜は家庭菜園でとれたものを使いました。うちは見ての通り裕福ではありません。節約のために野菜は自分達で作っているんです。ですので、本当に恥ずかしいのですけど……」
「え? ご自分で作られているのですか? それは凄いですね。こんなに美味しい野菜を作れるなんて素晴らしいと思います」
え…? 家庭菜園なんてあり得ないって言われるかと思ったのに。まさか褒めてもらえるだなんて…。
「アルタマン家はうらやましいですね。こんなに美味しい料理を食べられるなんて」
美味しいって、そんなにいい笑顔で言われたら嫌でも顔が赤くなってしまう。
どうしよう。すごく嬉しい。それがたとえお世辞であっても。
それからたまに週末にはブランディス様がいらっしゃるようになった。そして一緒に食事もしていく。侯爵家の方に出すような食事じゃないはずなのに、食べる姿は本当に嬉しそうでいつも「美味しい」と言ってくださる。
なんで……。
こんな風にされたら勘違いしてしまうから止めてほしい。最近はブランディス様の顔を見るだけで心臓がどきどきとしてしまう。
好き、なんだろうな。身分が違いすぎて好きになっちゃいけない人なのに、私は好きになってしまった。
学院では相変らずライバルとして試験で成績を争っていた。お互い1位になったり2位になったり。時間が合えば図書室で一緒に勉強することも変わらない。
そんなある時、ふとブランディス様が私に質問された。
「アルタマン嬢、貴女はなぜこんなにも勉強に力を入れているんです? 前から不思議だったのです。女性ですからここまで勉強に力を入れる方が珍しくて……」
ブランディス様の仰ることはごもっとも。普通のご令嬢ならばここまでがむしゃらに勉強なんてしない。結婚して子供を産むことが第一だから私のような人間は珍しい。
「それは……。恥ずかしながらご存知の通りうちは貧乏です。これから先、弟のヨアヒムが学院に通うための学費が足りないんです。ですから私が良いところに就職してお金を稼ぐ必要があって……。
それに昔は縁談もあったのですが全て断られてしまいまして。私がなんとかするしかなくて、だから勉強をしなければならないんです」
うちの経済状況をお話しするのはすごく恥ずかしいけど、恥ずかしいだけで隠すようなことでもない。だから全部正直にお話しした。ブランディス様なら馬鹿にすることはないとも思ったし。
「そうだったのですか。弟のために。……なるほど」
「? 何か?」
「いえ。それに縁談はすべて断られたというのは本当ですか?」
「はい。向こうから来た縁談なんですが、貧乏男爵家と縁を結んでもいいことなんてないですからね。しかも私はこんな平凡顔ですし。絶世の美女だったら、貧乏でも誰か貰ってくれたんでしょうけど…。
ま、しょうがないです。私は1人でも大丈夫です。逞しさなら負けません!」
「そうですか…。確かに貴女は逞しいですしね」
「あ、ブランディス様もそう思われます? ふふっ。逞しいご令嬢って本来あり得ないんですけどね」
こんなこと好きな人に自分で話してて悲しくなるけど、そんなことを思わせないように必死に笑顔を張り付けた。
3年に上がってしばらくして。私はお父様に呼ばれて執務室へと向かった。
「ベティーナ。実はお前に縁談の申し込みが来ている」
「え? 縁談? 誰からですか? こんな平凡顔の貧乏男爵家の私に縁談の申し込みだなんて……」
「……ブランディス侯爵家のコンラート様だ」
「は?」
え? 今、なんて? ありえない名前が聞こえたんですけど?
「ブランディス侯爵家のコンラート様からだ。お前と婚約したいと打診が来た。うちは男爵家で身分も釣り合わない。だがこちらからお断り出来る立場でもないからお受けするしかないんだが…。
お前は何も聞いていなかったのか?」
「き、聞いていません! 知りませんこんなこと! 絶対何かの間違いです! 学院に戻ったら確認してみます!」
なんてことなんてことなんてことー!? 意味がわからない! なんで一体どうしてこんなことに!? 絶対これは何かの間違いよ! こんなこと私の身におこるはずがない!
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