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しおりを挟む「ん……」
「あら? 気が付いたのですか?」
誰? それにここはどこ?
「貴女は高熱を出して倒れていたらしいのです。ここに運ばれて2日ほど目を覚まさなかったのですよ。よかったわ意識が戻って」
え? 2日も寝込んでたの?
「…あ、りが…と……けほっ」
声が掠れてちゃんと出ない。
「ああ、無理しないでください。まだ熱は下がりきっていませんので。とりあえず医師を呼んでまいりますのでお待ちください」
ここがどこかもあの人が誰なのかもわからないけど、倒れた私を介抱してくれたようだ。のどが渇いてしかたない。周りにいた人に声をかけると、ゆっくりと水を飲ませてくれてやっと人心地ついた気分だ。まだ熱があるせいかぼーっとするけど、起きた時より意識がはっきりしている。
それからお医者様が診察をしてくださって薬を飲んでまた眠った。声がうまく出せなくてここがどこかも聞けなかった。次起きた時はちゃんと聞かなきゃ……。
そして次に目を覚ました時、衝撃の事実を聞かされた。なんと私が寝ていたこの場所は王宮の客室だった。なんで王宮!? と思ったら、殿下の婚約者様が私の様子を見に来られていたらしい。すると部屋で倒れている私を発見。それを殿下に伝えると王宮で看護するということになって連れてこられた、と。
でもなんでわざわざ王宮に?? という疑問は殿下とブランディス様がお見えになって説明してくださった。
「まずは意識が戻って良かったです。君が意識を失って倒れていると聞いたときは肝が冷えました。
……それと申し訳ありませんでした」
え? なんでブランディス様に謝られるのかわからずぽかんとしてしまった。
「貴女の事情を聞かず一方的に詰ってしまいましたから。あれほど毎日図書室で勉強している貴女があの成績なんておかしいのです。なのにそれも聞かずに私は……」
「アルタマン嬢、あの後こいつをしっかり叱っておいたからね。僕の婚約者殿が。いやー見ものだったよ。君にも見てほしかったね。くくく」
「……殿下」
部屋に私の様子を見に来られたのもそうだけど、なんで殿下の婚約者様が叱ったの?
私の疑問を感じ取ったのか殿下はくすくすと笑いながら説明してくれた。
「周りのご令嬢の態度が気になってね。僕がアルタマン嬢のことを気にしておくように伝えていたんだ。
そして先日の成績発表の時、君はコンラートに怒鳴られただろ? 周りに他の生徒がいるにも関わらず。そしたら『男性にあんな風に怒られて怖いに決まっているでしょう。何も聞かず一方的に女性に詰め寄るなんて、それでも殿下の側近候補ですか!?』とすごい剣幕だったよ」
殿下はわかってたのか。私が周りのご令嬢から嫌がらせされてたこと。
「それに上級貴族のコンラートが、下級貴族である君にあんな風にされては君の立場がますます悪くなる。そんなこともわからない不甲斐ない男だとは思わなかった、なんてズタボロだったよ。
それに寮の部屋もめちゃくちゃにされたんだってね。君がそんな目に遭ったのは僕たちにも落ち度がある。すまなかったね。それでお詫び、というわけじゃないけど君を介抱するのに王宮の医師に見せるためにここへ連れてきたんだ」
「い、いえ! 殿下方が謝られることではありません! 看護もしていただきありがとうございます」
「……いえ、貴女への影響をもっと考えるべきでした。私が一方的に貴女をライバルだと決めたことで関わりが増えました。それを面白く思わないご令嬢はいるのだとちゃんと考えるべきだったのです。それなのに私は貴女を一方的に詰ってしまった。
試験で手を抜いたのはご令嬢からの嫌がらせがあったからでしょう?」
「そ、れは……」
ないとは言えない。だって実際そうだったから。
「本当に申し訳ありませんでした。私が出来ることは何でもさせていただきます。ですので遠慮なく言ってください」
「え!? それは申し訳ないので大丈夫です! あの、本当に気にしないでください!」
「いえ、それでは私の気がすみません。お願いします。何でも言ってください」
「いえ、本当に大丈夫ですから!」
「それはダメです。お願いですから……」
「はいはい、そこまで」
お互いに譲らず言い合いを続けていたら、パンパンと手を叩き殿下が呆れながら止めに入ってきた。はぁとため息をつきその口を開く。
「アルタマン嬢はこいつの謝罪の意味も込めて、コンラートに部屋のもの全て弁償してもらえばいいよ。君が気にすることじゃない。それにそうでもしないとこいつは収まりがつかないだろうし。君はこれからコンラートのライバルとして正々堂々勝負をしてくれたらそれで万事解決だ。
ご令嬢たちのことはこちらでも何とかするから気にしないでほしい」
「え……。ライバルは続けないといけないのですか?」
「うん、それは出来たらお願いしたいかな。…こいつが初めて本気になったんだ。将来、僕の側近としてもとてもいい方向で変わってくれた。だから未来の国の為だと思って僕からもお願いしたいかな」
ずるい……。そんな風に言われたら断るなんて出来るわけがない。
「…わかりました。これからは私も手を抜くなんてことはいたしません。正々堂々と勝負します」
「アルタマン嬢! ありがとうございます!」
私が諦めてそう言うと、こんな風に笑うのかとこっちが驚くくらい満面の笑みでブランディス様は仰った。あまりにも綺麗な笑顔で私の心臓はドキッと音を立てる。
うわぁ…周りに花が見えるわ。心なしかキラキラと光りまで舞って見える。顔が良い方の全力の笑顔ってすごい迫力なのね…。
それから父が迎えにきて、殿下とブランディス様にひたすら頭を下げて家へ一旦戻った。私の天使ちゃんである可愛いヨアヒムに十分癒されたお陰で、すっかり風邪も治った私は学院へと戻った。
学院の寮の部屋へ入った途端、私は自分が持っていた鞄を落としてしまった。だって、だって部屋に! 部屋に大量の荷物が!!
慌てて部屋番号を確認するも私の部屋で間違いない。だけど、こんな沢山の物買った覚えなんてもちろんない。うちは貧乏なのだ。こんな散財するわけがないもの。
置かれた箱の一つを開けてみると、自分で絶対買えない上等な布が使われた煌びやかなドレスが出てきた。既製品だろうけど、そんな高価なドレスなんて触ったことのない私は怖くなってそっとしわにならないように置いた。
それから他の箱を開けてみると、これまた自分では絶対に買えないキラッキラな靴…。別の箱を開けてみれば鞄まで…。
これは一体何事!? なんでこんな大量の贈り物? が私の部屋に!?
とふと見るとメッセージカードが置かれていた。
『知の女神アルタマン嬢へ。部屋の中に何があったのかわからなかったのでこちらで選ばせていただきました。どうぞお受け取りください。気に入っていただけると嬉しいです。コンラート・ブランディス』
え……。これってまさか部屋の物がめちゃくちゃにされたそれの弁償の品ってこと!? ちょ! こんなに高価な物一つもないから! このドレス1着で私の物全て買えるどころかお釣りが大量にでるわよ!
しかも『知の女神』って何!? そんな大層な物になったつもりはないですよ!? 女神だなんてこんな平凡顔に冗談でも使っていい言葉ではないですから!!
それにしても上級貴族の金銭感覚って怖すぎ……。ついていけない……。
とりあえず明日ブランディス様に会ったらお礼言わなきゃ。
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