上 下
5 / 17

5

しおりを挟む

「ん……」

「あら? 気が付いたのですか?」

 誰? それにここはどこ?

「貴女は高熱を出して倒れていたらしいのです。ここに運ばれて2日ほど目を覚まさなかったのですよ。よかったわ意識が戻って」

 え? 2日も寝込んでたの?

「…あ、りが…と……けほっ」

 声が掠れてちゃんと出ない。

「ああ、無理しないでください。まだ熱は下がりきっていませんので。とりあえず医師を呼んでまいりますのでお待ちください」

 ここがどこかもあの人が誰なのかもわからないけど、倒れた私を介抱してくれたようだ。のどが渇いてしかたない。周りにいた人に声をかけると、ゆっくりと水を飲ませてくれてやっと人心地ついた気分だ。まだ熱があるせいかぼーっとするけど、起きた時より意識がはっきりしている。

 それからお医者様が診察をしてくださって薬を飲んでまた眠った。声がうまく出せなくてここがどこかも聞けなかった。次起きた時はちゃんと聞かなきゃ……。



 そして次に目を覚ました時、衝撃の事実を聞かされた。なんと私が寝ていたこの場所は王宮の客室だった。なんで王宮!? と思ったら、殿下の婚約者様が私の様子を見に来られていたらしい。すると部屋で倒れている私を発見。それを殿下に伝えると王宮で看護するということになって連れてこられた、と。

 でもなんでわざわざ王宮に?? という疑問は殿下とブランディス様がお見えになって説明してくださった。

「まずは意識が戻って良かったです。君が意識を失って倒れていると聞いたときは肝が冷えました。
 ……それと申し訳ありませんでした」

 え? なんでブランディス様に謝られるのかわからずぽかんとしてしまった。

「貴女の事情を聞かず一方的に詰ってしまいましたから。あれほど毎日図書室で勉強している貴女があの成績なんておかしいのです。なのにそれも聞かずに私は……」

「アルタマン嬢、あの後こいつをしっかり叱っておいたからね。僕の婚約者殿が。いやー見ものだったよ。君にも見てほしかったね。くくく」

「……殿下」

 部屋に私の様子を見に来られたのもそうだけど、なんで殿下の婚約者様が叱ったの?
 私の疑問を感じ取ったのか殿下はくすくすと笑いながら説明してくれた。

「周りのご令嬢の態度が気になってね。僕がアルタマン嬢のことを気にしておくように伝えていたんだ。
 そして先日の成績発表の時、君はコンラートに怒鳴られただろ? 周りに他の生徒がいるにも関わらず。そしたら『男性にあんな風に怒られて怖いに決まっているでしょう。何も聞かず一方的に女性に詰め寄るなんて、それでも殿下の側近候補ですか!?』とすごい剣幕だったよ」

 殿下はわかってたのか。私が周りのご令嬢から嫌がらせされてたこと。

「それに上級貴族のコンラートが、下級貴族である君にあんな風にされては君の立場がますます悪くなる。そんなこともわからない不甲斐ない男だとは思わなかった、なんてズタボロだったよ。
 それに寮の部屋もめちゃくちゃにされたんだってね。君がそんな目に遭ったのは僕たちにも落ち度がある。すまなかったね。それでお詫び、というわけじゃないけど君を介抱するのに王宮の医師に見せるためにここへ連れてきたんだ」

「い、いえ! 殿下方が謝られることではありません! 看護もしていただきありがとうございます」

「……いえ、貴女への影響をもっと考えるべきでした。私が一方的に貴女をライバルだと決めたことで関わりが増えました。それを面白く思わないご令嬢はいるのだとちゃんと考えるべきだったのです。それなのに私は貴女を一方的に詰ってしまった。
 試験で手を抜いたのはご令嬢からの嫌がらせがあったからでしょう?」

「そ、れは……」

 ないとは言えない。だって実際そうだったから。

「本当に申し訳ありませんでした。私が出来ることは何でもさせていただきます。ですので遠慮なく言ってください」

「え!? それは申し訳ないので大丈夫です! あの、本当に気にしないでください!」

「いえ、それでは私の気がすみません。お願いします。何でも言ってください」

「いえ、本当に大丈夫ですから!」

「それはダメです。お願いですから……」

「はいはい、そこまで」

 お互いに譲らず言い合いを続けていたら、パンパンと手を叩き殿下が呆れながら止めに入ってきた。はぁとため息をつきその口を開く。

「アルタマン嬢はこいつの謝罪の意味も込めて、コンラートに部屋のもの全て弁償してもらえばいいよ。君が気にすることじゃない。それにそうでもしないとこいつは収まりがつかないだろうし。君はこれからコンラートのライバルとして正々堂々勝負をしてくれたらそれで万事解決だ。
 ご令嬢たちのことはこちらでも何とかするから気にしないでほしい」

「え……。ライバルは続けないといけないのですか?」

「うん、それは出来たらお願いしたいかな。…こいつが初めて本気になったんだ。将来、僕の側近としてもとてもいい方向で変わってくれた。だから未来の国の為だと思って僕からもお願いしたいかな」

 ずるい……。そんな風に言われたら断るなんて出来るわけがない。

「…わかりました。これからは私も手を抜くなんてことはいたしません。正々堂々と勝負します」

「アルタマン嬢! ありがとうございます!」

 私が諦めてそう言うと、こんな風に笑うのかとこっちが驚くくらい満面の笑みでブランディス様は仰った。あまりにも綺麗な笑顔で私の心臓はドキッと音を立てる。
 うわぁ…周りに花が見えるわ。心なしかキラキラと光りまで舞って見える。顔が良い方の全力の笑顔ってすごい迫力なのね…。


 それから父が迎えにきて、殿下とブランディス様にひたすら頭を下げて家へ一旦戻った。私の天使ちゃんである可愛いヨアヒムに十分癒されたお陰で、すっかり風邪も治った私は学院へと戻った。


 学院の寮の部屋へ入った途端、私は自分が持っていた鞄を落としてしまった。だって、だって部屋に! 部屋に大量の荷物が!!

 慌てて部屋番号を確認するも私の部屋で間違いない。だけど、こんな沢山の物買った覚えなんてもちろんない。うちは貧乏なのだ。こんな散財するわけがないもの。

 置かれた箱の一つを開けてみると、自分で絶対買えない上等な布が使われた煌びやかなドレスが出てきた。既製品だろうけど、そんな高価なドレスなんて触ったことのない私は怖くなってそっとしわにならないように置いた。
 それから他の箱を開けてみると、これまた自分では絶対に買えないキラッキラな靴…。別の箱を開けてみれば鞄まで…。

 これは一体何事!? なんでこんな大量の贈り物? が私の部屋に!? 
 とふと見るとメッセージカードが置かれていた。


『知の女神アルタマン嬢へ。部屋の中に何があったのかわからなかったのでこちらで選ばせていただきました。どうぞお受け取りください。気に入っていただけると嬉しいです。コンラート・ブランディス』


 え……。これってまさか部屋の物がめちゃくちゃにされたそれの弁償の品ってこと!? ちょ! こんなに高価な物一つもないから! このドレス1着で私の物全て買えるどころかお釣りが大量にでるわよ!
 しかも『知の女神』って何!? そんな大層な物になったつもりはないですよ!? 女神だなんてこんな平凡顔に冗談でも使っていい言葉ではないですから!!

 
 それにしても上級貴族の金銭感覚って怖すぎ……。ついていけない……。
 とりあえず明日ブランディス様に会ったらお礼言わなきゃ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

料理大好き子爵令嬢は、憧れの侯爵令息の胃袋を掴みたい

柴野
恋愛
 子爵令嬢のソフィーには、憧れの人がいた。  それは、侯爵令息であるテオドール。『氷の貴公子』と呼ばれ大勢の女子に迫られる彼が自分にとって高嶺の花と知りつつも、遠くから見つめるだけでは満足できなかった。  そこで選んだのは、実家の子爵家が貧乏だったために身につけた料理という武器。料理大好きな彼女は、手作り料理で侯爵令息と距離を詰めようと奮闘する……! ※小説家になろうに重複投稿しています。

村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。 彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。 ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。 その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。 そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。 彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。 紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。 すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。 しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。

愛しい義兄が罠に嵌められ追放されたので、聖女は祈りを止めてついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  グレイスは元々孤児だった。孤児院前に捨てられたことで、何とか命を繋ぎ止めることができたが、孤児院の責任者は、領主の補助金を着服していた。人数によって助成金が支払われるため、餓死はさせないが、ギリギリの食糧で、最低限の生活をしていた。だがそこに、正義感に溢れる領主の若様が視察にやってきた。孤児達は救われた。その時からグレイスは若様に恋焦がれていた。だが、幸か不幸か、グレイスには並外れた魔力があった。しかも魔窟を封印する事のできる聖なる魔力だった。グレイスは領主シーモア公爵家に養女に迎えられた。義妹として若様と一緒に暮らせるようになったが、絶対に結ばれることのない義兄妹の関係になってしまった。グレイスは密かに恋する義兄のために厳しい訓練に耐え、封印を護る聖女となった。義兄にためになると言われ、王太子との婚約も泣く泣く受けた。だが、その結果は、公明正大ゆえに疎まれた義兄の追放だった。ブチ切れた聖女グレイスは封印を放り出して義兄についていくことにした。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

復讐された悪役令嬢

猫又
恋愛
地味で引っ込み思案、小学校教員のアリシアはダイヤモンド産出世界一というアクアル国の皇子から秘宝を盗んだと疑いをかけられる。母親の葬儀の後、身柄を確保されプライベートジェットでそのままアクアルに連行され、今すぐ返すか、アクアルで逮捕されて死刑になるか選べ、と迫られる。 世界で一番裕福で贅沢な国、アクアルの皇子、アレクサンダーの勘違いからアリシアは復讐される! 勘違いの最悪の出会いから、恋に落ちる二人。 嫉妬深いスパダリ皇子と質素で心優しいアリシアの恋物語。  

転生悪役令嬢と転生ヒロインによる目指せハピエン!〜オタが最推しに貢ぐとか常識じゃね?〜

有馬 迅
恋愛
マルチエンディング乙女ゲーアプリの世界を舞台に「転生して悪役令嬢になった少女」と「転生してヒロインになった少女」による最推しとのハピエンを目指す共同戦線物語。 2人以外にも主要攻略キャラやその婚約者だったキャラに転生者がチラホラ居て、どうなることやら⁈ ※話しの都合上、1人称視点の人物が話しによってコロコロ入れ替わります ※R15は保険です ※のんびり進行の不定期更新です

【完結】親に売られたお飾り令嬢は変態公爵に溺愛される

堀 和三盆
恋愛
 貧乏な伯爵家の長女として産まれた私。売れる物はすべて売り払い、いよいよ爵位を手放すか――というギリギリのところで、長女の私が変態相手に売られることが決まった。 『変態』相手と聞いて娼婦になることすら覚悟していたけれど、連れて来られた先は意外にも訳アリの公爵家。病弱だという公爵様は少し瘦せてはいるものの、おしゃれで背も高く顔もいい。  これはお前を愛することはない……とか言われちゃういわゆる『お飾り妻』かと予想したけれど、初夜から普通に愛された。それからも公爵様は面倒見が良くとっても優しい。  ……けれど。 「あんたなんて、ただのお飾りのお人形のクセに。だいたい気持ち悪いのよ」  自分は愛されていると誤解をしそうになった頃、メイドからそんな風にないがしろにされるようになってしまった。  暴言を吐かれ暴力を振るわれ、公爵様が居ないときには入浴は疎か食事すら出して貰えない。  そのうえ、段々と留守じゃないときでもひどい扱いを受けるようになってしまって……。  そんなある日。私のすぐ目の前で、お仕着せを脱いだ美人メイドが公爵様に迫る姿を見てしまう。

処理中です...