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21.行かなきゃダメ?

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「え……行かなきゃダメですか?」

「ダメってことはないけど、お前友達いないだろ?」

「いますよ。レジナードが」

「1人だけじゃないか」

「他にもいます………いつもよくいる10人の学者さんが」

「それ、友達じゃないだろ……」

 この国の貴族は16歳になれば貴族学園へと入学する。これは絶対ではないが人脈を培ったり、より深い専門的知識を学んだりするのにうってつけで大体の人は通っている。
 父様も母様もここを卒業しているし、今はリアム兄様が通っている。フィンレー兄様は卒業するし、僕とは入れ違いになる。

「レジナードも通うんだし、お前も行けば?」

「えぇ~…僕はもう既に学園での授業範囲を学び終えてるんですよ。行く意味あります?」

「たまには同年代の人と関わって交友を広げた方がいいぞ」

「そんなことする時間があるなら『赤い月』と『日食』の事を調べたいです」

 レジナードは僕の友人だ。父様の親友であるアーロン・メリフィールド様の次男。父様に連れられて何度か遊びに行ったことがある。

 僕は小さい時から勉強に、訓練に、文献の解読にと忙しく過ごしていた。たまに同年代の貴族の子供がいる家からお茶会の招待状が届いたりしていたけど、僕はそんなのに興味はないし、それよりもやることが多くていつも断っていた。

 だからレジナード以外の友人はいない。
 レジナードは僕と同じ歳。だから学園へ行けば同じ学年で過ごすことが出来る。でも別にずっと一緒にいたいわけじゃないし……。

「ジェフリーももう少し友人を増やしたらもっと楽しくなると思いますよ。私も始めは友人がいないことが普通でしたが、今では彼らがいて良かったと思っています」

「母様……」

 母様も本当にたまにだけど、学園時代の友人とお茶をしている。だからこその言葉だろう。

「学園の卒業証があれば、そこまでの学問を納めたという証となります。確かに既に学び終えてはいますが、それを証明するものはありませんし、貴方がここまでやったという証となるなら悪い話でもないと思いますよ。
 ……もし、アルフレッド殿下と結婚することになった場合、貴方がどこまでしっかり勉強していたか、卒業証だけで示すことも出来ますね」

「行きます」

「……お前な」

 確かにアルと結婚することになったら、それは確かに必要だろう。いくら口で説明したところで、証明できるものが無ければ嘘だと言われても仕方がない。学歴が全くない人間を、王妃や王配には出来ないだろうし。

 というわけで、僕も学園へと入学することになった。そして文官科で入学試験を受けた結果は首席だった。その結果を見た父様と母様は「だろうな」という反応だった。

 学園は寮生活だ。それに向けて準備をする中、アルにもそのことを手紙に書いた。そして学園へと向かう前日にアルから手紙が届いた。

『親愛なるジェフリー。学園入学、そして首席合格おめでとう。首席なんて流石だと思うと同時に、そうだろうなと納得したよ。
 ジェフリーと同じ歳なら留学したかったな。そしたら毎日会えるのにね。君の綺麗な金の瞳が見られなくて寂しいよ。だから毎日君に貰ったネックレスを眺めてるんだ。
 私からも君に首席合格のお祝いを贈らせてね。私の瞳の色のペリドットのネックレスなんだ。少しでも私の事を思い出してもらえると嬉しい。
 ささやかだけど、私の祈りを込めてあるよ。と言っても何も意味はないんだけど。少しでも君が楽しく、何事もなく学園生活が送れるように祈ってみたんだ。どうかその通りになりますように。
 体に気を付けて、文献の解読も無理をしすぎないようにね。優しい金色が恋しいアルフレッドより』

 手紙と一緒に梱包された箱の中には、手紙にあった通り綺麗なペリドットのネックレスが入っていた。石の大きさは普段使っていても邪魔にならない程度の大きさだ。

 アルが僕の為に用意してくれた、アルの瞳の色のネックレス。アルが祈りを込めたネックレス。嬉しすぎて震える手で持ち上げる。

「ありがとうアル。今までに貰ったどんなものより、一番うれしい」

 僕は早速そのネックレスを身に着けた。石からはほんのりアルの魔力を感じた。
 学園へ入学すると決めたものの、憂鬱だったのは間違いない。一度学び終えたことをもう一度学ぶのだ。時間の無駄だと思う気持ちは消えなかった。

 だけどアルがこうしてプレゼントを贈ってくれたのなら、入学することにしてよかったと思う。これは一生大切にしよう。
 
 アルも僕に会えなくて寂しいって思ってくれている。手紙からは僕に対してとても好感を持っているという事がわかる。

 僕たちがやり取りする手紙には、はっきり『好き』だとか『愛してる』などの言葉を書いてはいない。それは会って直接伝えたい言葉だ。
 それに今のアルはまだ幼い。年齢にそぐわずとても大人びてはいるけど。でもその言葉はもう少し大きくなってからと思ってる。

 その時の僕はきっと、胸を張って想いを伝えられる人間になっているだろう。というかなっていないといけない。

 だから僕は面倒だと思う学園へだって行くんだ。出来ることは一つでも多くやっておきたいから。

 

「兄様、行ってらっしゃい」

「うん、じゃあねルーク。マテオの事よろしくね」

 家族とは家の前でお別れだ。今日は学園へと入学する日。父様達は仕事があるから一緒には来れない。着替えと筆記用具くらいで荷物はそんなにないのだけど、一応付き添いで使用人の一人を連れて馬車に乗る。
 マテオは流石に学園へ連れていくことは出来ない。その間の世話をルークに任せることにした。と言ってもマテオは自由に外へ行っては狩りをしているし、そんなに世話をすることはないのだけど。

「友達が出来るといいですね。気を付けて行ってきなさい」

「休みの日は戻って来てもいいからな。とにかく友達作って来いよ」

「はい。父様、母様、行ってきます」

 僕たちの乗り込んだ馬車は学園へ向けて走り出す。するとやがて大きな建物が目に入って来た。

 馬車乗り場で降りるとそのまま校舎の中へと進む。すると、なんだか周りから物凄く見られていることに気が付いた。その理由はわからなかったけど、それを無視して寮の部屋へと案内してもらう。寮の管理人の人に会った時も物凄くびっくりした顔をされてしまった。

 僕の部屋は下級貴族の階にある。父様は爵位を持っているとはいえ、一代限りの騎士爵だから男爵家とほぼ同じ並びだ。案内された部屋は狭いけど、個室だから別に構わない。それに使用人がいるわけでもないしね。

 僕は冒険者としても活動しているし、自分の事は自分でできる。1人でのんびりできると思えば悪くない。

 とりあえず、部屋に荷物を置いたらリアム兄様に会いに行かなければ。寮に付いたらおいでと言われているし。

 管理人の人に声を掛け兄様の部屋を教えて貰う。するとなぜそんなことを聞くのかと訝し気に言われてしまった。従弟だというと、信じられないのか直ぐに了承を貰えなかった。
 本当だと伝えても分かってもらえず、結果部屋を教えて貰う事が出来なかった。

「…困ったな」

 簡単に教えて貰えると思ったけど、そう上手くはいかなかった。どうしようかと悩んだ末、部屋に戻ることにした。ここに居ても仕方がない。
 来た道を戻っていると、向こうから見たことのある人物が走って来ていた。

「ジェフリー!」

「リアム兄様!」

 なんと兄様の方からこちらへと来てくれたのだ。

「金色の目の子がいるって皆が話していたから、きっとジェフリーだと思って来てみたんだ」

 なるほど。そういう事か。

 そういえば僕の目の色は珍しいんだっけ。母様も昔、両目の色が違う事で嫌な目に遭ったと聞いている。でもそのお陰で父様と知り合えたしそれで良かったと言っていたけど。

 ここに到着した時周りにじろじろ見られていたのは目の色が原因だったのか。

「この目の色が気持ち悪いとか怖いとかそんな感じでしたか?」

「…うん、まぁね。僕たちは何も思わないけど、初めて見る人はびっくりするよね。あ、そうそう。『もし目の色の事で何か言われらたらそんな奴はぶっ飛ばしてやれ!』ってフィンレー兄様が言ってたよ」

「それは過激すぎますよ…。僕はこの目を気に入っていますし、アルも僕の目は好きだと言ってくれているので、他の人が何を言おうと気にしていません」

「それならいいんだけど。何かあったら僕に言ってね」

「リアム兄様、ありがとうございます」

 父様達は友達作ってこいって言っていたけど、僕はそこまで乗り気じゃない。無理して作ろうとも思っていないし、兄様もいるし、レジナードもいる。向こうが嫌なら別に関わろうと思っていない。

 僕は大事な人たちと、アルに関われていたらそれでいいから。

「ふふ。ジェフリーは一途だよね」

 とリアム兄様。兄様も凄くモテるはずなんだけど、気になる人はいないようだ。だから周りからのアプローチが凄くて大変だって言ってたっけ。聞く人が聞けば嫌味ともとれる発言だけど、本人は困ってるみたいだからモテるのも大変だな。

 アルはどうなんだろうか。手紙の中にはそういったことは書かれていなかったけど、アルも王子様だからきっとまわりから婚約のこととか言われてるんだろうな。そこでアルが気になる人が出来たらどうしよう…。

 そうならないように、学園にいる時もちゃんと手紙を送ろう。僕の事をもっと意識してもらうために。

 アルに会いたい。会えないから、僕はすごく不安になる。

 どうかアルの目が他の人に向きませんように。

 アルから贈られたネックレスをそっと撫でて、気持ちを落ち着かせた。


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