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9.魔眼の正体
しおりを挟むドラゴンが5体、スーッと目の前に降りて来た。
あの巨体なのに降り立つときはまるで羽のように軽やかだった。だけど目の前にあの伝説のドラゴンが5体も並ぶと、圧巻の一言で夢なのか現実なのか、よくわからなくなってしまった。
『ほう……本当に『神の眼』を持つものに再び出会えるとは……』
『かかかかか。やはり長生きはするものよのう』
え!? ドラゴンが、喋ってる!?
『そこな童。何をそんなに驚いておる。神の眼を持つ者であろうが』
「えっと………『神の眼』って何ですか…?」
『…なに? お前が持っている『金の双眸』の事だ。お前はそれで我らを呼んだのであろう?』
「え……? 僕は、呼んでないです……たぶん」
神の眼? 僕に呼ばれた?
全く意味が分からなくて困惑していると、となりでマテオが「わふ!」と鳴いた。どうやらマテオが以前「任せて」と言って家を出た時に、森にいた魔物や動物に声を掛けて、ドラゴンに僕がいることを伝えて欲しいと言っていたらしい。
それが繋がりに繋がって、このドラゴンたちの耳に届いた。それで『神の眼』を持つ者がいるというので本当かどうか確かめに来たらしい。
『そこのフェンリルは幼体ではあるが、お前が『神の眼』を持っていることをわかっていたようだな』
「は……? フェン、リル……?」
フェンリルって……あの伝説のフェンリル!? マテオが!? ただの狼の魔物じゃなかったの!?
『なんじゃ童。お前、そこのフェンリルの正体さえわかっておらなんだのか』
「……………」
今日はなんだか色んなことがありすぎて、頭が情報を処理しきれていない…。
マテオがフェンリル……。
フェンリルって神獣と言われている、滅多に人の前に姿を現さない、今じゃ本当にいるかどうかもわからない伝説の魔物だ。僕の横でちょこんとお座りしているマテオが、その伝説の魔物フェンリル…。
ボールを投げればわんわん言いながら猛ダッシュして取りに行ったり、ご飯を目の前にすると千切れるんじゃないかと思うくらい尻尾をぶんぶん振り回したり、寝ている時は仰向けになってお腹を思いっきり晒している、このマテオが? 伝説のフェンリル?
『我らも『神の眼』を持つ者に出会うのは何年ぶりかの? 500年…いや、1000年か?』
『我らのような長命種には人の時間など些細な事よ。ただ、以前出会ったのがいつだったか忘れるくらい前だということだ』
「え…? やっぱり僕のような魔眼を持つ人がいたんですか!? それっ、その話を聞きたいんです!」
僕の魔眼を持つ人は実在したんだ! こんな目の前にそれを知ってる人、じゃない、ドラゴンに出会えるなんて!
『そうじゃの。そうそう特殊なその双眸を持つ者はおらぬが、以前には確かに……』
「ジェフリーーーー!!」
名前を呼ばれて振り向けば、あれは父様と母様…? しかも、いつの間にか周りには騎士の人達がいっぱいいる。
『……ふむ。どうやら騒がしくなってきたようだの。童よ。我らは神の眷属。そなたのような『神の眼』を持つ者に従う者。我らに触れてくれるか?』
一体のドラゴンがそう言うと、全員顔を僕の前に突き出してきた。そしてその巨大な顔に驚きながらも鼻先をちょっとずつ撫でていく。
うわぁ、ドラゴンの肌ってちょっとひんやりしててツルツルしてて、すごく気持ちがいい。
『これでお前の魔力の匂いは覚えた。我らとお前の間に繋がりが出来たな。これ以上、ここにいるのは良くないだろう。お前が望む時我らを呼べ。お前の為ならば、我らは力を貸そう。
あとの詳しいことはそこのフェンリルに話しておく。そいつも幼体でまだ詳しいことを分かっていないだろうからな。その後でそのフェンリルに話を聞くがいい』
そう言うと、ドラゴンたちはまたふわりと浮かぶと空へと飛びあがった。
そのまま空中で旋回すると、凄い勢いで飛び去って行った。
「ジェフリーーーーーーー!!」
父様の声が聞こえて振り向けば、母様を抱きかかえた父様が必死の形相で駆け寄ってきているところだった。
「父様……」
「ジェフリー! 怪我は!? 何もされていないか!?」
僕の視線に合わせるようにして跪くと、片手で僕の体を触りまくって怪我がないか確認していく。片手で母様をしっかり抱き込んでいて、母様の顔を見れば血の気がなく意識がないようだった。
え? 母様大丈夫!? 僕のことより母様を心配した方がよさそうなんだけど…。
「僕は大丈夫です。あのドラゴンたちは僕に会いに来たみたいで、挨拶をしていきました。それより母様は大丈夫なんですか?」
「………は? お前に会いに来た? 挨拶……?」
あれ、父様固まってしまったぞ。
「僕が困ったときは力を貸してくれると言っていました。僕は戦うことが得意ではありませんが、ドラゴンに力を貸してもらえたらもう怖い物はありません。これで力を示せますよね?」
「………ちょっと待て。よくわからないが、そうじゃないだろうという事はわかるぞ」
「あ、あとさっきわかったことなんですが、マテオはフェンリルだったみたいです。普通の狼の魔物だと思ったら、伝説の魔物フェンリルでした。びっくりですよね」
「…………は? な、なん……フェン……え?」
マテオの正体を伝えたら驚きながらも喜んでくれるかなって思ったのに。
石のように固まって動かなくなってしまった。
父様でもここまでの事が重なればこうなるんだな。勉強になった。
「ジェフリー! ライリー! 大丈夫か!?」
また名前を呼ばれて顔を向ければ、お祖父様にお祖母様、少し離れたところにはアーネスト伯父様にアシェル伯母様がいた。皆、僕たちの方へ走ってきている。
騎士たちだけじゃなくて、お祖父様達もここにいたんだ。やっぱりドラゴンがここに来たからだろうな。
「ジェフリー怪我はないか!? ……はぁ良かった。何もなくて…」
お祖母様にも父様みたいに体を撫で繰り回されて、怪我の確認をされた。ちょっと勢い良すぎて頭がぐわんぐわん揺れたのにはびっくりした。
「あれ? ライリー? って、ライリー!? 大丈夫!? 目を開けたまま気絶してる!? ヴィンセント君も気絶してるんだけど!? え!? なにこれどうなってるの!? ちょっとしっかりしてーー!」
アシェル伯母様は父様の異変に気付いて父様の顔をぺちぺち叩いている。アーネスト伯父様は父様の代わりに母様を抱き上げていた。うん、そのままだと母様落ちそうになってたからね。伯父様ありがとう。
「あの……とりあえずドラゴンの脅威は去ったという事で…よろしいのでしょうか?」
僕たちがやんのやんのと騒いでいたら、1人の騎士の人が言いにくそうにぼそりと言った。
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