上 下
9 / 44

9.魔眼の正体

しおりを挟む

 ドラゴンが5体、スーッと目の前に降りて来た。
 あの巨体なのに降り立つときはまるで羽のように軽やかだった。だけど目の前にあの伝説のドラゴンが5体も並ぶと、圧巻の一言で夢なのか現実なのか、よくわからなくなってしまった。

『ほう……本当に『神の眼』を持つものに再び出会えるとは……』

『かかかかか。やはり長生きはするものよのう』

 え!? ドラゴンが、喋ってる!?

『そこな童。何をそんなに驚いておる。神の眼を持つ者であろうが』

「えっと………『神の眼』って何ですか…?」

『…なに? お前が持っている『金の双眸』の事だ。お前はそれで我らを呼んだのであろう?』

「え……? 僕は、呼んでないです……たぶん」

 神の眼? 僕に呼ばれた? 

 全く意味が分からなくて困惑していると、となりでマテオが「わふ!」と鳴いた。どうやらマテオが以前「任せて」と言って家を出た時に、森にいた魔物や動物に声を掛けて、ドラゴンに僕がいることを伝えて欲しいと言っていたらしい。
 それが繋がりに繋がって、このドラゴンたちの耳に届いた。それで『神の眼』を持つ者がいるというので本当かどうか確かめに来たらしい。

『そこのフェンリルは幼体ではあるが、お前が『神の眼』を持っていることをわかっていたようだな』

「は……? フェン、リル……?」

 フェンリルって……あの伝説のフェンリル!? マテオが!? ただの狼の魔物じゃなかったの!?

『なんじゃ童。お前、そこのフェンリルの正体さえわかっておらなんだのか』

「……………」

 今日はなんだか色んなことがありすぎて、頭が情報を処理しきれていない…。

 マテオがフェンリル……。
 フェンリルって神獣と言われている、滅多に人の前に姿を現さない、今じゃ本当にいるかどうかもわからない伝説の魔物だ。僕の横でちょこんとお座りしているマテオが、その伝説の魔物フェンリル…。

 ボールを投げればわんわん言いながら猛ダッシュして取りに行ったり、ご飯を目の前にすると千切れるんじゃないかと思うくらい尻尾をぶんぶん振り回したり、寝ている時は仰向けになってお腹を思いっきり晒している、このマテオが? 伝説のフェンリル?

『我らも『神の眼』を持つ者に出会うのは何年ぶりかの? 500年…いや、1000年か?』

『我らのような長命種には人の時間など些細な事よ。ただ、以前出会ったのがいつだったか忘れるくらい前だということだ』

「え…? やっぱり僕のような魔眼を持つ人がいたんですか!? それっ、その話を聞きたいんです!」

 僕の魔眼を持つ人は実在したんだ! こんな目の前にそれを知ってる人、じゃない、ドラゴンに出会えるなんて!

『そうじゃの。そうそう特殊なその双眸を持つ者はおらぬが、以前には確かに……』

「ジェフリーーーー!!」

 名前を呼ばれて振り向けば、あれは父様と母様…? しかも、いつの間にか周りには騎士の人達がいっぱいいる。

『……ふむ。どうやら騒がしくなってきたようだの。童よ。我らは神の眷属。そなたのような『神の眼』を持つ者に従う者。我らに触れてくれるか?』

 一体のドラゴンがそう言うと、全員顔を僕の前に突き出してきた。そしてその巨大な顔に驚きながらも鼻先をちょっとずつ撫でていく。
 うわぁ、ドラゴンの肌ってちょっとひんやりしててツルツルしてて、すごく気持ちがいい。

『これでお前の魔力の匂いは覚えた。我らとお前の間に繋がりが出来たな。これ以上、ここにいるのは良くないだろう。お前が望む時我らを呼べ。お前の為ならば、我らは力を貸そう。
 あとの詳しいことはそこのフェンリルに話しておく。そいつも幼体でまだ詳しいことを分かっていないだろうからな。その後でそのフェンリルに話を聞くがいい』

 そう言うと、ドラゴンたちはまたふわりと浮かぶと空へと飛びあがった。
 そのまま空中で旋回すると、凄い勢いで飛び去って行った。

「ジェフリーーーーーーー!!」

 父様の声が聞こえて振り向けば、母様を抱きかかえた父様が必死の形相で駆け寄ってきているところだった。

「父様……」

「ジェフリー! 怪我は!? 何もされていないか!?」

 僕の視線に合わせるようにして跪くと、片手で僕の体を触りまくって怪我がないか確認していく。片手で母様をしっかり抱き込んでいて、母様の顔を見れば血の気がなく意識がないようだった。

 え? 母様大丈夫!? 僕のことより母様を心配した方がよさそうなんだけど…。

「僕は大丈夫です。あのドラゴンたちは僕に会いに来たみたいで、挨拶をしていきました。それより母様は大丈夫なんですか?」

「………は? お前に会いに来た? 挨拶……?」

 あれ、父様固まってしまったぞ。

「僕が困ったときは力を貸してくれると言っていました。僕は戦うことが得意ではありませんが、ドラゴンに力を貸してもらえたらもう怖い物はありません。これで力を示せますよね?」

「………ちょっと待て。よくわからないが、そうじゃないだろうという事はわかるぞ」

「あ、あとさっきわかったことなんですが、マテオはフェンリルだったみたいです。普通の狼の魔物だと思ったら、伝説の魔物フェンリルでした。びっくりですよね」

「…………は? な、なん……フェン……え?」

 マテオの正体を伝えたら驚きながらも喜んでくれるかなって思ったのに。
 石のように固まって動かなくなってしまった。

 父様でもここまでの事が重なればこうなるんだな。勉強になった。


「ジェフリー! ライリー! 大丈夫か!?」

 また名前を呼ばれて顔を向ければ、お祖父様にお祖母様、少し離れたところにはアーネスト伯父様にアシェル伯母様がいた。皆、僕たちの方へ走ってきている。

 騎士たちだけじゃなくて、お祖父様達もここにいたんだ。やっぱりドラゴンがここに来たからだろうな。

「ジェフリー怪我はないか!? ……はぁ良かった。何もなくて…」

 お祖母様にも父様みたいに体を撫で繰り回されて、怪我の確認をされた。ちょっと勢い良すぎて頭がぐわんぐわん揺れたのにはびっくりした。

「あれ? ライリー? って、ライリー!? 大丈夫!? 目を開けたまま気絶してる!? ヴィンセント君も気絶してるんだけど!? え!? なにこれどうなってるの!? ちょっとしっかりしてーー!」

 アシェル伯母様は父様の異変に気付いて父様の顔をぺちぺち叩いている。アーネスト伯父様は父様の代わりに母様を抱き上げていた。うん、そのままだと母様落ちそうになってたからね。伯父様ありがとう。

「あの……とりあえずドラゴンの脅威は去ったという事で…よろしいのでしょうか?」

 僕たちがやんのやんのと騒いでいたら、1人の騎士の人が言いにくそうにぼそりと言った。

しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...