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7.強くなるために
しおりを挟むアルに認められる男になると決意して帰国後、僕はどうすればいいのか考える毎日だった。
正直僕は、戦うことが苦手だし魔法も得意じゃないし、父様やアシェル伯母様達みたいには出来ないと言う事。
だけど何か方法はあるはずだ。
とりあえず体を鍛えることはしたいから、剣の稽古には以前よりもやる気を見せている。逞しい体になってアルを抱っこするんだ。父様が母様にするみたいにすっと軽々と横抱きに出来たらカッコいいしね。
「ジェフリーはカッコイイね!」ってアルに言われることを想像するだけで、顔がにやけてしまう。それを現実にするためには頑張らなければ。無我夢中で剣の素振りを繰り返して次々とノルマを消化していく。
「……ジェフリー様はグリュック王国から戻られて変わりましたね」
「カッコいい男にならなければならないんです。ふっ…ふっ…」
僕はアルの為にカッコイイ男になるんだ。
「先生終わりました! 次は何ですか?」
「……いえ、今日はここまでにしましょう」
「ダメです! 僕は少しでも体を鍛えて逞しい体になりたいんです!」
アルのためには妥協なんてしていられない。だからやれるだけやらないと!
「ジェフリー様、お気持ちはわかりました。ですが、今の体はまだ子供です。無理に詰め込み過ぎても逆に体を壊す原因にもなります。少しずつ計画的に行いましょう」
「そんな……」
のんびりしている時間なんてないのに……。
体を鍛えるなんて、長い時間かけて少しずつ出来ていくんだ。のんびりなんてしていたら、アルの婚約者が決まってしまう…。
だけど先生はそれ以上許してはくれず、その日の剣の稽古はお終いになった。
それからも自分で時間を見つけては筋トレをしたり、素振りをしたりと試行錯誤しながらも体を鍛えていた。だけどとうとう父様からもやりすぎだと注意を受けてしまう。
「はぁ……どうしよう」
早くアルの隣に立てるような男にならなきゃいけないのに。のんびりゆっくりなんてしていられないのに…。
「くぅ~ん、くぅ~ん……」
「ん、大丈夫だよマテオ。心配しないで」
側にいるマテオから心配しているって気持ちが伝わってくる。
僕がずっとため息ついていたからどうしたのかと不安にさせてしまったみたいだ。
隣国から帰って来た時、マテオにも強い男にならなきゃいけない、力を示せるようにならなきゃいけないって話をしたから応援してくれていた。
だけど僕のこんな姿を見て上手くいってないことが伝わってしまったらしい。
「くぅ~ん。わふ」
「…え? 自分に任せろって? どういうこと?」
答えはないまま、「出かけてくる」と伝えてくると、するっと窓から飛び出しそのままどこかへと出かけてしまった。
マテオは時々姿を消すことがある。家の中でじっとしているのはマテオの体に問題があるみたいで、たまに森へ行っては走り回っているらしい。
だから出かけることに何の心配もないのだけど、今回はちょっと違うみたいで……。
でももうここにはいないから何をするのか知るすべはない。
まぁマテオは賢い子だから大丈夫だろう。
次の日マテオは戻って来た。何をしに行ったのか聞いても「上手くいくかわからないから待ってて」という気持ちが流れて来ただけで、結局答えを教えてくれることはなかった。
体を鍛えることを制限されてしまったので、次は勉強にもっと力を入れることにした。
家庭教師の先生にはどんどん課題を出してもらえるようにお願いして、それと同時に魔眼のことについて調べるためにたくさんの本を読んでいた。
「ジェフリー君、そんなに根を詰めて大丈夫なのですか? もう少しゆっくりとしたペースで勉強してもいいかと。もう既に、かなり先の課題をこなされてますし…」
「いいえ。それじゃあダメなんです。僕にはあまり時間がないので」
「はぁ……え?」
あれから色々と調べたら、王太子とは後の国王陛下になるということ。ということは国政を担い民を導くということだ。
王太子と結婚し、後に王妃、もしくは王配となったなら共に尽力しなければならない。
王妃、もしくは王配がポンコツだったらアルに多大なる負担をかけてしまう。それだけはダメだ。
アルを支えて手を取り合って、共に国を、民を導けるような存在でなければならない。
だから今のうちに出来ることは何でもやり、学べることは何でも学んでおかなければ。
だが結局これも母様にやりすぎだと止められてしまった……。
僕には時間がないっていくら説明しても、焦りすぎて周りが見えなくなっている今は何をやっても上手くいかないと言われてしまった。
でもこうやってもたもたしていたら、アルに婚約者が出来てしまうかもしれない。僕じゃない『誰か』がアルと結婚してしまうかもしれない。
身分も違う、国も違う。そして僕には権力も財力も力さえもない。
早くそれを手に入れなければならないのに……。
悶々とした日々を過ごしながらあれから2か月。事態は急変することになる。
父様と母様が仕事の影響で3日前から帰ってきていないそんな時。僕はそれをチャンスだと思い、2人がいない間に止められていた体のトレーニングと勉強を一気に進めてしまおうと考えていた。
そしていつものように家庭教師の先生の授業を受けていた時の事だ。いつもは大人しく側にいるマテオがソワソワと動きだし、終いにはワンワンと吠え出してしまった。
「マ、マテオ? ダメだよ、授業中だから静かにしなきゃ」
「ワンワン! ワオ~ン! ワン!」
「え…? どういうこと? ってちょっと!」
マテオが「来た! あいつらが来た! だから早く行こう!」と気持ちを伝えてくる。だけど僕は意味が分からないし『あいつら』って誰かわからないし、でも混乱している僕を置いてマテオは走って行ってしまった。
「せ、先生! ごめんなさい! 僕行かなきゃ!」
「え!? ジェフリー君!?」
先生の声を無視して部屋を飛び出しマテオを追いかける。玄関を出ればマテオはそこで待っていて、そのままついて来るように伝えてきた。
何をしたいのかわからないけど、必死にマテオは「付いて来て」としか言わない。僕はとにかくがむしゃらに走ってマテオを追いかけて走った。だけどマテオの足は速すぎて追いつけない。それに気が付いたマテオは「わふ!」と鳴くと一回りも大きな体に変化した。
「え!? マテオっておっきくなれるの!?」
目の前で起きたことが信じられなくて呆然としてしまう。するっと僕の側まで来るとその大きさに圧倒されてしまう。二本足で立てば、僕の伸長を軽々と超す大きさだ。
大きくなったマテオは身を屈めて「背中に乗って」と催促してくる。僕の足じゃ遅いから背中に乗せて走ってくれるらしい。
よいしょ、とマテオに跨った僕はマテオのふさふさの毛にしがみ付く。準備が出来たと判断したマテオはスッと立ち上がったと思ったらそのまま勢いよく駆け出した。
「うわぁ! ちょ!」
凄い速さで駆けだすマテオから振り落とされない様、必死にしがみ付いた。前からの突風で飛ばされそうになるから前に体を倒し、余りの速さに恐怖で目を瞑ってしまう。わかることはただひたすらマテオに何処かへと連れられていることだけ。
どれくらいそうして走ったのだろうか。マテオはゆっくりとしたスピードになると「降りていいよ」と声を掛けてくる。そうしてやっと体を起こし周りを見渡せば、なんと僕たちは王都の外に出ていたのだ。
「え……ここ、王都から出たところだよね。マテオはなんでここに僕を連れて来たの?」
「わふ! わふ!」
マテオは「あいつらがもうすぐ着くからちょっと待ってて」と言うだけ。その『あいつら』がさっぱりわからないんだけど……。
と不思議に思っていたら、前方から何かが飛んでくるのが見えた。
「え……嘘」
その飛んできた何かがこちらへ近づいてくると、その正体がはっきりとわかる。
「マテオが言ってた『あいつら』って、あれの事………?」
なんとこちら目掛けて飛んできたものは――
「ドラゴン………」
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