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1.僕の目は魔眼

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「くぅ~ん。くぅ~ん」

「……マテオ? おはよ。うん、起きるよ」

 いつものようにマテオの目覚ましで目が覚める。マテオはちゃんと起きる時間になると、僕の顔をぺろぺろして朝になったことを教えてくれる。とっても賢くていい子。

 ベッドから降りるとコンコンと扉をノックする音が聞こえ、声を掛けると使用人のララが入って来た。

「おはようございます、ジェフリー様。さ、顔を洗ってお着替えして朝食ですよ」

 マテオが僕を起こしてくれるのを皆知ってるから、ララも何も言わない。いつものようにマテオに「ジェフリー様を起こしてくれてありがとう」と言っている。

 僕はジェフリー・フィンバー。一週間前に7歳になった。
 マテオは2年前、家族皆で森へピクニックへ行った時に出会ってそのままついてきた子。真っ白な狼の魔物だ。

 最初出会った時は狼の魔物だってことで父様に討伐されそうになったんだけど、この子が僕の事が好きで一緒にいたいって言っていたから、なんとかお願いして家で飼う事を了承してもらった。帰りにギルドでマテオの従魔登録をして名前を付けた。

 僕は生まれた時から、普通の人が見えないものや動物の気持ちがわかる特殊能力持ちだ。母様から引き継いだ『魔眼』の能力の一つみたいだ。

 母様は片目だけが魔眼で、僕は両目。だから母様の力はそんなに強くない。人の魔力が視える程度。それでも十分に珍しい能力だから仕事でも活躍してるらしい。

 僕がまだ言葉も話せない赤ちゃんの時から、いろんなものが視えていた。今もその子たちはたまに家に遊びに来ている。
 どうやら僕の魔眼のお陰で、いろんな子が集まってくる。動物だったり魔物だったり妖精も。妖精は気まぐれでたまにしか会えないけど。

「父様、母様、おはようございます。ルークもおはよう」

 食堂へ行けば皆揃っていた。僕が一番遅かったみたい。マテオを撫でていたら遅れてしまった。

「ジェフリーおはようございます。さぁいただきましょう」

 父様と母様は仕事の関係で帰りが遅い時も多く、夜の食事を一緒にとれない時がある。だから朝は絶対家族全員揃って朝食をとるのが決まりだ。
 僕はルークの隣に腰掛けるとマテオは僕の足元に座る。マテオにもちゃんとご飯が用意されて、僕たちと一緒に食べるんだ。

 僕はカトラリーを持つとマテオに「いいよ」と声を掛ける。そうしないとマテオはずっと食べずに待ってるんだ。本当に賢い。最初は父様も母様も魔物だからって心配してたけど、今はもう家族の一員として見てくれて皆一緒に可愛がってくれている。

 ルークは僕の弟。4歳。ルークは魔眼を受け継ぐことはなく、母様の青の色を引き継いだ。だから僕たち家族の目の色は見事にバラバラだ。

「ジェフリー、ルーク。今日から3日ほど、仕事で王都を離れるから父様も母様も家に帰ってこれない。だからその間、お祖父様とお祖母様が来るからいい子にしてるんだぞ」

「はい。わかりました」

「おじいちゃまとおばあちゃまに会えるの楽しみ! ね、兄さま!」

 僕もルークもお祖父様とお祖母様が大好きだ。ソルズの街に住んでるからたまにしか会えないけど。でも今日から3日間一緒にいられるからすごく嬉しい。
 今日こそはお祖母様のお話が聞けるといいな。


「じゃあ行ってくるな」

「お土産買ってきますからね。いい子でいるんですよ」

 父様は僕とルークの頭を撫でて、母様はほっぺにキスをして仕事に出かけていった。


 この後はお祖父様達が来るまで勉強の時間だ。家庭教師の先生が来てくれて、僕とルークの勉強を見てくれる。ルークは始めたばっかりでまだ少しだけだけど、僕は算術とか歴史とかいろいろな事を勉強している。

 僕は勉強が大好き。本を読むことも大好きで色んな本を読んでいる。でもルークは体を動かす方が好きみたいで、剣術とかの時間になると生き生きしている。僕は体を動かすのはあまり好きじゃない。運動音痴な訳じゃないけど、それよりも本の続きが気になって仕方がない。

 父様が言うには、僕は母様似でルークは父様似なんだろうって。うん、僕もそう思う。

「ジェフリー君にルーク君、こんにちは。今日もよろしくお願いいたします」

 ショーン・ブレッド先生、御年65歳。貴族学園でずっと教師を務めていた人で、宰相様のお知り合いらしい。僕が勉強を始める頃に、宰相様から紹介されて家庭教師を務めてくれるようになった。

 すごく優しい人で僕もルークもショーン先生が大好き。しかも博識で先生の授業はとても面白い。読み書きは母様に教えて貰っていてそれからはずっと本を読んでいた。母様が色々勉強を教えたかったみたいなんだけど、仕事も忙しくてそんな時間がとれない。それで家庭教師の先生が来てくれるようになったんだ。

「先生今日もよろしくお願いします。これ、宿題です」

 先生は週に3回来てくれる。だから授業の後は宿題が出されて、先生が来ない日はそれをこなして授業が始まる前に提出する。

「……請われたとはいえ、かなりの量を出したのですが全て終わったのですか」

「はい。もう少し増やしてもらえませんか? もっと色んなことを知りたいのです」

「……君は母上を上回る天才になりそうですね。わかりました、ご希望どうりに致しましょう。……このまま行くと、学園入学前には学園での学習内容が終わりそうですね…」

 本当はこんなに急いで勉強しなくてもいいことは僕も分かっている。だけど僕は急いで色んなことを勉強したい理由がある。
 
 それは僕の魔眼だ。

 魔眼の事は正直よくわからない。今わかっていることは、人の魔力が視えること、人には視えない物が視えること、魂の色や形が視えること、動物たちの気持ちがわかること。
 だけどこの魔眼は突然変異で現れた物じゃないだろうと思っている。なにかの理由があってこの目があるんだろうと。

 だから過去の文献を調べて、この目のことについてなにか書かれていないか、それを僕は調べたい。

 そのきっかけになったのは僕のお祖母様だ。お祖母様の魂の色も形もすごく変わっていた。それが不思議で聞いてみた。でも僕は当時3歳でお祖母様は僕がもう少し大きくなったら話そうと言って、その時は教えてくれなかった。

 だから僕は魔眼のことについて色々調べなきゃと思って、そのためにはたくさんの事を勉強しなきゃって思ったんだ。
 先生にもそれは伝えてある。というか伝えざるを得なかったと言うか…。

 先生の授業を受けるようになって数回目の時、僕の回りに妖精が集まって来た。僕以外誰も視えないことはわかっていたし、母様にもそれを誰かに言う事は控えるように言われていたから初めは無視していた。
 だけどそれを嫌がった妖精たちが僕の授業の邪魔をするように目の前をぶんぶん飛び回り、チカチカ光を放ったりするもんだから授業に集中できなくなってしまった。それで先生にどうしたのかと聞かれて答えることになったんだ。

 でも先生は宰相様から母様のことを聞いていて、魔眼のことも知っていた。そして僕にもその魔眼が引き継がれていることも知っていて、特に驚くこともなく「それは大変でしたね」と笑っていた。

 それで僕は魔眼の事を調べたいことを言ったら、もしかしたら昔の文献にあるかもしれない、と言って色々な本を持ってきてくれることになった。難しい本はまだ読み解けないから神話とかの絵本から始まったのだけど、意外と神話ってバカに出来ないんじゃないかと思ってる。

 おとぎ話とかになってる神様の話。だけど神様がいることを僕は知っているから、もしかしたらある程度は本当の話なんじゃないかと思った。

 もちろん神様の姿を見たり声を聞いたりしたことはない。だけど吹き抜ける風や暖かな太陽の光、綺麗な川の水や緑が生い茂る森。その中に時々神様の息吹を感じることがある。きっと自然の力に乗ってこの世界を見に来ているんだと僕は思っている。

「ルーク君もちゃんと宿題をこなしていますね。2人共優秀で先生も嬉しいですよ」

 ルークは僕と違っていたって普通の進み具合だ。だけどちゃんと自分のペースで頑張ってる。剣術になったら僕とルークは真逆になる。ルークは先生にもっともっととせがむけど、僕はのんびり言われた課題をこなすだけだし。

 それから数時間、休憩を挟みながらみっちり授業を受けた。新しい事を知るって楽しい。今日の授業もすごく楽しかった。

「では今日の授業はこれで終わりです。宿題を出しますから次の授業の時に提出してください」

 先生はたくさんの宿題と、新しい本を僕に渡して帰っていった。

 今日持ってきてくれた本はどんな内容なんだろう。先生を見送って、僕は早速本の表紙をめくった。

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