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しおりを挟む「ではまずは…」
不能とはいえ、どういう感じなのか見てみないとな。という訳で。まずは手で扱いてみた。
「テオ様…気持ちいい感じはありますか?」
「…ないわけではないが……」
うん。だよな。全然硬くならないもん。じゃあ次は舐めてみる。
「んん…んちゅ…ん…これは?」
お、少し兆してきたか? だけど、他の客と比べて全然ダメだ…。
「いや……悪い…」
「いえ、謝らないでください。私、頑張りますから」
とは言ったものの……。
あれこれ手を尽くしてみたが、結果は全然ダメ。
マジか…。俺のテクニック自信あったのに。
…不能の原因、ストレスじゃねえの? それ、根本的な解決をしないとダメな気がする…。とはいっても俺はそんなことできるわけじゃないしな。
その日の夜は俺の持つテクニックを駆使してもダメだという結果で終わった。今日はもうそのまま寝ることに。
「イルミリオ。すまない…」
こちらに体を向けながら横になったテオ様が、眉を下げて謝った。
「テオ様が謝ることではありません。まだ一日目です。望みがないわけではありませんので諦めずに頑張りましょう」
「…そう言ってもらえると助かる」
ふわぁ…。困った顔ながらもその微笑み。めちゃくちゃきゅんきゅんする!
優しいし、無理を言わないし、俺を気遣ってくれるし、顔はいいし、体もいいし。こんな人が不能で困ってるなんて信じられない。なんとかしてあげたいんだけど…。
「あの…テオ様。不躾なことをお聞きしますが…。その、不能の原因はストレスなのでは?」
「……それもあるのだが。…はぁ、ここまで来たんだ。隠していてもしょうがないな」
そうため息を零してからの話に俺は愕然とした。
テオ様が精通をした12歳の時、家にいたメイドに襲われたらしい。夜、寝ていたら上から伸し掛かる重みに気づいて目を開けた。すると恐ろしい顔をしたメイドが裸でのしかかっていたらしい。
びっくりしたテオ様は、嫌だ、助けてと叫びながら逃げようとしたが大人の力に適う訳もなく、無理やり服を脱がされペニスをいじられた。そしてメイドが自分で挿れようとした時に、部屋から聞こえるテオ様の助けを求める声を聞いた家令が助けに来てくれて難を逃れたらしい。
「それから俺は女がダメになった。ただ普通に会って話す分には問題ないのだが、夜の事になるともう…。あの時の恐怖が蘇って…」
その襲い掛かって来たメイドは、テオ様の子供を孕んでその家の夫人となって思いのまま贅沢をしたかったらしい。テオ様が精通したのを聞いて、他の誰かと婚約する前に自分のモノにしようと画策したことだった。
そして15歳から始まった閨教育で、勃たなくなっていることに気が付いた。そして今に至る。
その事件から全ての女性がそう見えてしまうようになったらしく、女の裸を見ればあのメイドに見えてしまって恐怖しか感じなくなった。それで男相手にしてみたところ女のように恐怖は感じないが、勃つことはなかった。
「テオ様…そんな過去があったのですね。全部そのメイドのせいじゃないですか。酷い…テオ様は何も悪くないじゃないですか。不能になったのもテオ様に何の責任もありません」
「…そうか。お前はそう言ってくれるのか」
「? 当たり前じゃないですか」
「俺の周りはそうじゃなくてな。過去にあったことはことは変えられない。だがいつまで昔の事を引きずっているんだ、情けない。そう言われていた。あのメイドがしたことは犯罪だ。だが大人になった今でもそんな些細なことに足を取られるなんて、と周りは呆れているんだ」
些細な事…。子供の時にあったこんな酷いことが些細な事だなんて。でもそれがテオ様はトラウマになっていて、なのに周りは追い打ちをかけるかのように子供を急がせる。
全部全部テオ様にとって負担にしかなっていない。そりゃ不能にもなるわ。治るどころか酷くなる一方じゃん。
俺もその気持ちは分かるつもりだ。テオ様とは違うけど、俺だって親に売られたときはショックでしばらく何もできなかった。周りの勝手で押し付けられる都合。それが酷く心を傷つけることくらいは分かるつもりだ。
また心臓がきゅってなって苦しくなった。…あの時の気持ちを思い出したから。
せめて俺だけでも寄り添ってあげたくてテオ様を抱きしめた。
「テオ様…。辛かったですね。苦しかったですね。頑張りましたね」
「イルミリオ?」
「…私も子供の時、親にここへ売られました。その理由がこの見た目です。白い肌に白い髪、なのに目は血のように赤い化け物のような姿。親にも化け物だなんだと言われ打たれていました。
テオ様とは違いますが私も子供の時に心に傷を負いました。あの時は辛かったなぁ…。自分はいらない子だったんだって。死ねと言われたときは本当にそうしようかとも思いました。
だから私は見返してやろうと思ったんです。ここで一番になって有名になって裕福になって、あの人たちが出来ない贅沢をしようって」
本当は俺だって辛かった。親に愛されたかった。だけど俺に向けられるのは愛ではなく憎悪。
娼館に売られた俺は、自分が望んでいなくても相手に体を開かなきゃならない。
どんなに嫌悪感をいだこうと顔に出すことはできない。
客に理不尽に打たれても俺は謝ることしかできない。
殴られても首を絞められても、俺に許されているのはその客を満足させてやることだけ。
ここに売られて良かっただなんてただの強がりだ。そうやって虚勢を張らなきゃ潰れてしまうから。そうなったら俺を売ったあいつらの思うツボ。
自分で昔の事を話していたら、その時の気持ちが思い出されて自然と涙がこぼれてきた。
考えないようにしていたのに。考えてしまったら俺は何もできなくなってしまうのに。
「イルミリオ…。お前も苦労してきたんだな。…そうだよな。娼館に自ら望んで来た訳ではないんだから」
「いいえ。テオ様に比べたら私なんて…」
「いや、俺は恵まれていたんだと思う。不能の事を除けば、親も仕事も何もかも恵まれているんだと今知ったよ。君も頑張ったな。辛かったな。…今だけは思いっきり泣いていい」
俺がテオ様を抱きしめていたはずなのに、今は逆に抱きしめられている。優しく包み込むように。
テオ様の言葉は俺の心にすっと染み込んでいく。我慢しようと思ったのに、俺はボロボロと泣き出してしまった。そしてそのまま眠りに落ちて気が付けば朝だった。
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