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「んあ…あ、あ、あんっ…すご、い…あ、もっとっ!」

「へへっ…そんなに、気持ち、いいのかよっ? ほらっ! お望み通りにっ、してやるよっ!」

「あんっ! それっいいっ! あっ、あんっ!」

 肌と肌がぶつかる音とベッドが軋む音、そして2人の息遣いと喘ぎ声。これはいつもの光景。違うのは相手にしている男の姿。


 ここは『娼館・幻夢の館』。サクローマ王国の王都にある高級娼館だ。だから相手は金持ちの商人か貴族しかいない。今日の相手もご立派なお貴族様だ。持ってるアレはかなりしょぼいが。

 そして俺はここで働く男娼、イルミリオ。20歳、いや今日で21歳になったばかりだ。

 ここには5歳の時から世話になっている。親に売られたんだ。ま、ここにゃそんな奴珍しくもなんともない。
 俺は白い肌に白い髪を持ち、なのに目だけが紅いという気味が悪い容姿をしている。そんな奴今までに会ったことも見たことも聞いたこともない。そのおかげで親にはまともに育ててもらえずポイっだ。

 だが、俺はここに売られて感謝している。だってあのままあの親に育てられてみろ。まともな食事も与えてもらえず、奴隷のように扱き使われる。ここでも扱いは奴隷に近いが、食いっぱぐれることはなかったし、相手がお貴族様だってんできちんとした教育だって受けさせてもらえた。

 食事と教育を引き換えにして、一生ここから出ることが出来ないがな。いや、出ることは出来るか。身請けさえしてもらえれば。

 だがこんな見た目が気味の悪い俺を引き取りたいなんて言うおめでたい奴がいるとは思えない。俺は一生ここで飼われる籠の中の鳥。
 それにこの仕事は俺に向いていると思っている。だから辞めるつもりも辞めたいとも思わない。


 でもこんな気味の悪い俺でも、この館の中では一番人気だ。なぜかって? 顔の造りが良いからだよ。

 背の高さは高くもなく低くもなく。体つきは華奢で繊細。肌が白いおかげで口は赤みが目立ち色っぽい。目はぱっちりしててスッとした鼻筋。顔の形も卵型でとてつもない美形なのだ。
 色の珍しさも相まって、俺はデビューするや否や瞬く間に人気者となった。

 ああ、もちろん見た目だけよくたってお客が続かないことなんてザラだ。そこは俺のテクニックのお陰だな。言葉遣いや所作は優しく丁寧に美しく。そして庇護欲をそそるようにしな垂れてやれば、下半身で生きてる男なんてコロッと騙される。

「はぁ…。旦那様…今日も、とても凄かったです…。僕、気持ち良すぎて死んじゃいそうでした…」

「はははっ。そうかそうか。そんなに良かったか。…お。今日もお口で綺麗にしてくれるのか」

「…んん…んちゅ、んう…。はぁ、旦那様の美味しい…。これで終わりなんて…はむ…んん…僕、寂しい、です…ん」

「安心しろ。また来てお前をとことん可愛がってやるさ」

 にっこり笑って「嬉しい♡」と言ってやれば、こいつの顔はデレデレだ。毎度あり。おかげさんで俺の人気は不動だぜ。


 最後に一緒に風呂に入り、客を見送る。最後のサービスにキスをおまけして。

 客が帰ったことを確認してベルを鳴らす。そうすれば小間使いが入ってきて部屋を掃除してくれる。その間に俺は1人で風呂へ入りなおす。あんな奴と入ったって綺麗になった気がしないからな。あ、歯も念入りに磨いとこ。
 さんざん睦み合ったおかげで体は疲労困憊だ。もうすぐ50歳だというのにあの性欲は大したもんだよ。馬鹿じゃねぇの。

 湯に体を沈めてぼーっとする。俺はこの時間が一番好きだ。誰にも構わられず気を抜ける時間。温かい湯を贅沢に使えるのもこの場所娼館だからだ。あのままあの家にいたら、普通に過ごしていたとしても無理だからな。風呂は贅沢品。平民なんておいそれと使えない。それもここへ来て有難く思ったことだな。


 さっぱりして風呂から出ればこの館の主人がいた。しかもいつもより旨そうな料理付きで。

「ミリオ、お疲れさん。今日もいい稼ぎだったぜ。帰り際、金貨を数枚多めに払っていった」

「あ、そ。良かったね。これ食っていいの?」

「ああ、お前今日誕生日だろ? いつもがっぽり稼いでくれてるお前に特別サービスだ。一杯食えよ」

「じゃ遠慮なく」

 ふ~ん。あのおっさん、追加で金貨置いてったのか。もっともっとって強請ったのが良かったのか、それともたっぷりしゃぶってやったのが良かったのか。ま、どちらにしても流石お貴族様は金回りがいいねぇ。
 
「それでなミリオ。お前に変わった予約が入った」

「変わった予約?」

 人気の俺はいつだって予約が埋まっている。1年先まで一杯だ。だが、特別に一か月の中に一週間だけ直前じゃなければ予約を入れられない特別予約枠が設けられている。

 俺は人気だからこそ高い。俺1人を一晩買うのと他の男娼10人買うのと値段は変わらない。ここは高級娼館だから他の男娼だって安くはない。だからこの金額を払える奴ってのはおのずと限られてくる。それでも俺の噂を聞いて来る奴は絶えないが。

「来月の特別予約枠一週間分、1人の男が予約を入れた。それとその間はその男とこの部屋でずっと過ごしてもらうことになった」

「は?」

 おい。ちょっと待て。一体そりゃどういう事だ?
 一週間分まるまる予約を入れた? しかもその間ずっとこの部屋で過ごすだと? 

 ここにやってくるお貴族様はそれなりに忙しい。良くここに来ると言っても一か月に2回か3回くらい。自由に遊べる時間てものはそんなに多くはないらしい。そういや社交だなんだと言っていたな。俺にはよくわからんが。

 それなのに話を聞く限り、予約を入れた男って言うのは一週間ずっとここにいるってことだろ? そいつ仕事大丈夫なのか? 

「おい。一週間もここにいるってそいつ、仕事何やってんの? そんな奴今まで1人もいなかったけど。それにその予約は直前じゃなければ入れられなかったはずだろ」

「何をしてる奴かは俺もよくわからん。だが既に支払いも済んでいる。しかも倍額、ポンってな。だから特別に許可した」

「マジか…」

 倍額を軽く払うやつ。それも一週間分まとめて。さすがは金持ち。毎度あり!

「でもその間って俺に自由はないってことだよな? でもなんで一週間ずっとここにいるんだよ。家に帰ればいいのに」

「理由は知らん。ただ、少しでも時間を無駄にしたくない、と言っていた。だからそのお客が来たら一週間頼んだぞ」

「へいへい」

 どんな奴なんだろうな。一週間も娼館に入り浸る奴って。金払いを見るに商人じゃなくて貴族だろうな。でも一週間入り浸るのはいくら何でも外聞が悪すぎる。「あの人娼館に入り浸るなんて何考えてるのかしら? お家が没落寸前でやけにでもなったのかしら?」なんて勝手に悪評が立つからな。

 貴族なんてお互い足の引っ張り合いだ。何かネタがあればつついてつついてつつきまくる。全くめんどくせぇ。


 ま、そんな悪評が立った方が俺にとっては有難いけどな。「男を溺れさせるほどの男娼」って俺の名も上がるってもんだ。そうすりゃここでの生活は安定の贅沢三昧だ。



 そしていつものように毎日を過ごし、例の客が来る日になった。

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