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6・ウォルテアside①

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 今から18年前。王都を震撼させた事件が起きた。
 隣国から違法薬物が大量に輸入され、それをとある子爵家の夫婦がばら撒こうとしたことがわかった。

 前宰相であるデシュラー公爵がそれを突き止め事件を未然に防ぎ、国を薬物中毒者で溢れさせようとした罪でその子爵家の夫婦を処刑した。
 迅速な判断を下したとして前宰相は称賛された。私が当時10歳の時だった。

 だがその事件の3年後、現宰相様であるエクスターイン侯爵様がその薬物事件の黒幕がデシュラー公爵であることを突き止めた。そして真実を明るみにし、デシュラー公爵をはじめ、薬物事件に関わっていた貴族全てを断罪。
 深く関わっていた者は問答無用で処刑、その他は終身刑を言い渡され、鉱山での無期限労働者となった。

 冤罪で罪のない人を処刑したことで、デシュラー公爵は公開処刑となった。処刑される寸前まで『冤罪だ!』と喚いていたそうだが、証拠が出揃っておりそれを貴族平民関係なく公開したことにより、誰一人としてデシュラー公爵の話を信じる者はいなかった。

 そのまま公爵家は取り潰され、資産など全て没収されることとなった。

 その事件の後エクスターイン侯爵様は宰相の座に就き、王宮内に蔓延った不正を正し膿を出し切った。それが完了するまで5年程かかったそうだ。

 だがその献身のお陰で真っ当な国政が行えているので、『氷の宰相』などと言われてはいるが王族を始め感謝している者は多い。



 私は伯爵家の4男で、家を継ぐこともなければ嫡男のスペアとしての役割もない。成人してしまえば自らの力でで稼いでいかなければならないことが分かっていたため、幼少期より勉学に励んでいた。お陰で今は宰相補佐官だ。
 学園を卒業すると同時に、王宮で働くのなら、と父が持っていた男爵家を引き継ぐことになった。

 働き出して2年後、まだ15歳の少年が同じ部署に就職した。それがクルトだ。

 孤児院出身だという彼は、まだ幼さが残る顔立ちながらもしっかりとした子で、いつもにこにこ笑ってよく働いた。だが宰相様から彼があの冤罪で処刑された子爵家夫婦の子供だと聞かされ、その時はまさか、と驚きを隠せなかった。

 いつも元気で明るい彼に、そんな辛い過去があったなんて思わなかったのだ。

 彼がここに就職したのは宰相様の罪滅ぼしでもあったらしい。前宰相の愚かな行いによって、罪のない人が殺されてしまった。それを早くに止められなかった罪滅ぼしだと。クルトがいた孤児院の院長にクルトの様子を聞き、彼に試験を受けるよう促したそうだ。官吏になれば給金が多く貰えるから。

 だがクルトがただの恩情でこの部署にいるわけではない。彼自身が優秀だったのだ。試験での成績によっては、雑用が主な部署に振り分けるつもりだったらしい。与えられたチャンスをそれ以上の結果で掴み取ったのは彼自身だ。


 そして彼は『皆様の手助けが出来るよう精一杯努めます!』と言った通り、皆が気持ちよく働けるように自ら考え動いていた。朝は誰よりも早く出仕し掃除や書類の整理、朝のお茶くみなど別に誰に言われたわけでもないのにそれをやっていた。

 出仕すれば元気に挨拶をする彼を誰もかれもが気に入り可愛がり、丁寧に仕事を教えていった。そのお陰と彼の優秀さであっという間に即戦力にまでなり、クルトは自分で自分の居場所を確立していった。

 私もそんなクルトと一緒に働けるのが楽しく、ついつい彼を目で追うようになった。その意味もよくわからずに。

 そしてクルトが突然結婚したと報告した。聞けば相手は孤児院時代からの友人だと。それはそれは嬉しそうに恥ずかしそうに言っていた。部署内は驚きと共に、冷やかしながらもクルトを祝福した。

 だが私はズキンっと胸の痛みを覚えたのだ。そして初めて彼の事を、そう言った意味で好きだったのだと理解した。

 今まで誰にも恋愛感情を持つことがなかった私は、これがそういった気持ちなのだとわからなかったのだ。伯爵家の4男であった私に告白してくる人がいないではなかったが数も少なく、その誰にも心を動かされることなどなかった。だから全て断って来た。中には一夜だけでもという人がいたので肉欲を共にしたこともある。だが事が終わってもそういうもんか、と特に何も思わなかった。

 初めて好いた相手が結婚して誰かのものになってから自分の気持ちに気が付くとは…。

 そこであっさりと気持ちが冷めれば良かったのにそうはならず、私はずるずると自分の気持ちを引きずることになった。

 密かにクルトの夫となった人物がどういった人物なのか、秘密裏に調査まで行っていたのだ。ちゃんとクルトを幸せに出来るのか、それが気になって仕方がなかった。

 誰にもバレないと思っていたのに、どこから聞きつけたのか宰相様に私がしていたことがバレてしまった。

「お前がクルトに対してただならぬ感情を抱いていたのは見ていてわかっていた。だがここまでするとは思わなかったぞ」

 自分でもやりすぎていることの自覚はあったため、宰相様にそう言われ恥ずかしく思った。しかも私の気持ちが宰相様に筒抜けだったとは…。

「すみません…。ですが調査をしてわかったこともあったんです」

 金はかかったが、その道の優秀な人間を調査に当てていたおかげでとんでもないことがわかった。
 『祝福の実』。給金が多いクルトの稼ぎでそれを買っていた。だがクルトの夫であるフリッツは、クルトにバレないようにぶどうの実とすり替えた。そして本物の祝福の実を転売していたのだ。

 だから当然クルト達に子供が出来ることはなかった。子供が欲しいと言っていたクルトの事を想うと胸が痛んだが、そんな夫との子供なら出来なくて良かったとも思っていた。

 フリッツのしたことは許せなかった。そしてその金をどうしていたのかというと、デニスという浮気相手の借金に充てていたのだ。

 フリッツとデニスの関係は、クルトと結婚する前から始まっていた。そしてクルトはその事実を知らぬままフリッツと結婚したと幸せそうに笑っていたのだ。

「……まさかそんなことになっていたとは」

 宰相様もその事実を知って意気消沈していた。あの子がどれほど辛い目に遭えば運命の神は気が済むのかと。

「ウォルテア。言っておくが下手に動くなよ。やるなら上手くやれ」

 宰相様もフリッツに対して悪感情を抱き、私にそう仰った。わかりました、と答えたものの、こういった駆け引きが初めてで、しかも得意ではない私にはどうすればいいのかわからなかった。

 調査を続けさせるもいい手が思いつかず、そのまま時間だけが過ぎていった。

 クルトの笑顔を見るたびに、その裏であの男が何をしているかを考えると苦しくて仕方がなかった。私ならクルトに対してそんなことは絶対しないというのに。

 クルトは私付きになった。宰相様がそうしてくださったのだ。何かあったら守ってやれ、と。有難くその役目を拝命した。

 そしてアデルモ伯爵の不正疑惑があり、その調査に私とクルトが向かう事になった。時々地方へと出張で出ることがある。そしてその時は決まってフリッツはデニスを家に連れ込んでいた。

 ならその現場を見せればクルトは…。

 その場を見てしまえばクルトは必ず傷つく。だがあの男の本性を知るいい機会だ。その時は私が誠心誠意、慰めればいい。

 仄暗い思いを抱えながら、出張は10日ほどかかりそうだとクルトに伝える。素直なクルトはそのままあの男にそう言うだろう。







* * * * * *

フリッツが裏でやってたことの真実と、ウォルテアも実はちょっとやべー奴だった、ていう話…(´・_・`)
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