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番外編

これもある種のチート

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「陛下、また陳情書です」

「…またか」

「はい。また、です」


 俺が王に即位してからというもの。しばらくたってこういった陳情書がよく送られてくるようになった。
 まぁつまりは。今までのように美味しい思いをしたいので、こんなに厳しい規則はやめてちょうだい! といった内容だ。

「はぁ…。俺が即位して全貴族にこういう政策をするって通知したはずなんだけどな…」

「今までずっと当たり前だと思っていたことが、全否定されたわけですからね。実際もう我慢の限界なんでしょう」

 今までの生き方や考え方を変えるっていのは簡単じゃない。そんなこと俺だってわかってる。だけど、それじゃこの国は変わらないし意味がない。どれだけ反感が出ようとも曲げるつもりは一切ないからな。

 それに本当なら敗戦の責で奪爵や最悪処刑されても文句は言えない立場。なのに、降爵と罰金だけで済ませてやったというのにこのザマだ。
 …ま、いきなり大勢の処刑や家の断絶なんぞしようものなら恐怖政治ととられかねない。それに一気に貴族が減ってしまうとこれからの国政も回らなくなるという意味もあったけど。
 

「…となると、次世代だな」

「? どういう意味です?」

 今の当主達はがちがちに凝り固まった『ガンドヴァの思想』を持ってしまっている。それを変えるっていうのはよほど柔軟な考えを持っている人じゃないと無理だ。

 だけど、これからの国を担う若者たち。その子たちの考え方を変えてやれば、時間はかかるが将来この国にとって俺が望んだ方向へと行きやすくなる。となると、教育内容を早急に変えなければいけない。

「なるほど。では、まずは教育関係者の代表を呼んで会議ですかね」

「だな。本当はもう少し後にしようと思っていたんだが…。こうなったらあまり間を置かない方がいいだろう。
 で、その結果もし俺の考えに賛成出来なければ上を変える。反感を買おうが恨まれようが変革なんてそんなもんだ。それと俺が直接学園に行って講演でもするか」

「え? 陛下が、ですか?」

「そうだ。『神の愛し子』が直接出向くんだ。ま、握手会だな」

「??」

 『神の愛し子』認定を受けた俺は国民にとって所謂アイドルみたいな存在でもある。

 あの神卸しの儀によって、俺は神様から直接認められた愛し子。でも王でもあるから簡単に会おうなんて出来るわけがない。でも一度会ってみたい人がやってきたら? そんな人と直接会話できたら? 俺なら間違いなくテンション爆上がりだな。
 そして講演でもして直接俺の考えを俺の口から話をする。だから力を貸して欲しい、とお願いする。

 それが上手くいけば、当主が交代した時俺の考えに賛同しやすくなるし貴族の考え方も変えやすくなる。…ま、実際にはそう簡単にいかないだろうけど、やってみなきゃわからない。

 それに若い方が考え方も柔軟で変革に対しても対応しやすいだろう。…と思っている。


 ということで。なんやかんや打ち合わせやら日程の調整やらがまとまって学園に行き講演。俺の姿を見て「おおおおお!」と歓声が上がった。はっはっは! 照れるじゃないかっ!

 そして俺が目指していること、皆に協力してもらいたいことなんかを色々と話をした。そして学生代表である生徒会のメンバーと対談。彼らも戸惑いは大きかったがなんとか受け入れて貰えたようだった。

 中には識字率を上げることで平民が大きな顔をすることは貴族にとって脅威だ! みたいな意見も出た。その考えもわからんでもない。
 
 そこで俺はノブレス・オブリージュを教えた。貴族や王族などの特権を持った者はそれに対する義務がある。という考え方だ。実際俺もしっかりと『ノブレス・オブリージュ』をわかっているわけじゃないからふんわりとした説明だったけど…。

 ま、要するに上に立つものは下の者に対して模範とならなきゃいけないんだぞ。ってことを言ったわけだ。
 上の者がしっかりとしていれば、下の者はちゃんとそれを見て判断してついて来る。脅威となる場合は下の者が、『上に立つものが脅威』と感じた時だ。

 それをガンドヴァはドゥクサス神信仰という名の洗脳で抑え込んでいたわけだが、下の者はただ辛い思いしかしていない。だけど下にいる平民たちが「俺らの領主様って最高じゃね? 一生付いていきます!」ってなったらどうよ? 上の者も下の者もウハウハだ。WIN-WINの関係になれる。

 平民たちが貴族より優秀になると困るならば、自分たちがより優秀になればいい。それが無理なら優秀なものを正しく採用して仕事をして貰えばいい。そうすれば自分も楽になれるし、成功して大きくなれれば平民たちだって生活も良くなって好循環が生まれる。

 まぁそんな感じの話をしたらなんとか理解してもらえたようだ。ほっ。なんとかなったかな。



「しかし陛下、ノブレス・オブリージュ? などどこで学ばれたのです?」

「ま、俺は神の愛し子だからな。神様からの助言ってことにしといてよ」

 不思議に思う文官の人達にそう言った。…前世の知識なんです~って言えるわけないからな。


 それからの政は上手くいったりいかなかったり。
 ただ、学園での講演は良かったらしくなんとか時間を作っては直接学園へ赴き、学生と直接話をしとことん認識のすり合わせを行っていった。

 そして俺が行ってきた政策が一つ一つと芽を出し始めると、学生たちも段々と考え方が変わってきたようで、今じゃ学園へ行けば「わぁぁぁ! 陛下ー!! こっち向いてくださーい! 素敵ー!」と以前より大歓声で迎えられるようになった。

 モテ期到来! やったぜ! だが俺はディルクのモノだからな、許せ! ははははは!



⁂ ⁂ ⁂ ⁂ ⁂

~数年後、ディルクside~


「王配殿下、陛下の行う政策や思考などですが一体どこで学ばれたのかご存知ですか?」

 陛下の執務室へ向かっていた時だ。共に向かっていた宰相殿がふと声を掛けてきた。

「…というのは?」

「いえ…。今までガンドヴァにいた者にすればとてもそこに思い至ることはあり得ません。なんというか、斬新でかつ理に適っていて、初めて話を聞いた時は目から鱗と言うか…。
 そして今はそれが見事に成果として表れています。平民からの支持率もとても高く、皆が生き生きと生活し、税収も増え国庫も潤ってきました。以前は税収があまり思わしくないこともありましたが、今では喜んで税を納めているような気さえするほどで…。
 これもやはり神の愛し子様という訳でしょうか…」

 陛下は神の愛し子だ。だが、今まで行ってきた政策や理念、思想は前世の知識を基にしている。
 他国であればそれに近しい物もあったのだろうが、この国で育ってきた者にしてみれば思ってもみない内容だっただろう。

 長くこの国は自らの殻に閉じこもり他との関りを持つことがなかった。だからこそ、この国の考え方が普通なのだと思っていた。

 だが、そこへ陛下は全く違う新しい風を吹き込んだ。凝り固まった考えの貴族たちにとってみれば自分の世界を破壊され戸惑いしかなかっただろう。


「宰相殿。陛下は本当に神の愛し子です。俺達ただ人では理解し得ないこともご存知なのです。それを陛下は民の為に心を砕き導いてくださっています。きっと天上での知識を俺達ただ人に教えてくださっているのだと思いますよ」

「…やはりそうなのでしょうな。平民へ通達し実践した手洗いやうがい、そして大衆浴場での入浴。そんなもので病になる確率が減るとは思いませんでしたが、今では目に見える結果として表れています。
 陛下の仰るウイルス? というものが未だによくわかりませんし、ノブレス・オブリージュも始めは意味がわかりませんでした。ですが時間が経つにつれ陛下の仰っていた通りになって、始めは疑っていた者も次第に変わっていって…」

 俺も始めはウイルスと言われて全く意味が分からなった。それが病の原因になっているなんて。だが1年2年と時間が経つにつれ流行り病にかかる者も減り、平民の死亡率が減少した。そしてそれは一時のものではなく、現在も維持している。

「いやはや、陛下が即位されてからのこの国は本当に生まれ変わりました。最初は反発していた者も多かったですが、今ではすっかり陛下の虜ですよ。以前よりも豊かに、そして過ごしやすくなったのですからね。
 これからも国はどんどん変わっていくのでしょうな。ドゥクサス神の加護を得られた陛下の治世に生きていられることが、陛下と共に国政に携われることがこんなに幸せだと思うとは…。私もこれからはより一層、陛下の力になって参りたいと思います」

「ありがとうございます宰相殿。陛下にもそのようにお伝えいたします」

 新しい事が多すぎて始めは馴染めなかったこの国も、今ではすっかり変わってしまった。
 俺が子供の時に感じていた理不尽も今ではもうほとんどない。俺が望んでいた世界、望んでいた国。それを陛下は実現された。

「国政は我々が力になるとして、残るはお世継ぎですかな。王配殿下、楽しみにしておりますぞ」

「ええ。そろそろその気配も出てくるかもしれませんね」


 そして俺たちはその足取りが軽いまま、陛下の執務室へと入っていった。




* * * * * 


ヴォルテルはチートなしのド平凡ですが、なんちゃって内政チートを発揮していたという話でした。これも本人は自覚なしですが。

明日からは裏ストーリーとしてエレンsideで4話更新します。思ったよりもボリューミーになってしまって4話に分けました。2話ずつの更新で、8時と17時に更新します。よろしければご覧ください!

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