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13・俺は転生者なんだ

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「俺には前世の記憶があるんだ」

「え? 前世??」

 この顔は俺が何を言っているのかわかってないな。そりゃそうだろう。俺だっていきなりこんなこと言われたら絶対「こいつやべえ奴」って思うもん。

「意味が分からないって思うかもしれないけど本当の事なんだ。今のヴォルテルとしての人生を送る前の、別の人間だった時の記憶があるんだ。それもこことは別の世界。つまり異世界、なんだが…。おーい、大丈夫か? ついてこれてるか?」

 お口がぽかんと開いて間抜けな顔になってるぞ。

「え、あの…。つまり、今の人生の一つ前の人生の記憶があると…? それも異世界??」

「そう。俺の前世の世界はここみたいに魔法なんてものは存在しなかったんだ。空想物としてはあったけどな。それにもっともっと色んなものが発展していて、魔法の代わりに科学が発達していた。だから魔法が使えなくてもすごく便利な世界だったんだ」

 「はあ…」と何とか俺の話について来ようと一生懸命で相槌も適当になってる。こんなディルク初めて見たな。ちょっと可愛いぞこいつ。

「俺が10歳の時落馬して怪我しただろ? あのタイミングでその時の記憶を取り戻したんだ」

「え? ではやはりあの時に変わったのはそのせいだったんですね。…前世の記憶と言われてもピンときませんでしたが、あの時から殿下は人が変わってしまいました。そのきっかけが記憶を取り戻したということなら納得できます」

「…頭がおかしいと思うか? 気持ち悪いと思うか?」

「は? いいえ! まさかそんな風に思うことはありません! むしろ俺としては腑に落ちたというかなんというか…。
 その、ガンドヴァの王族はかなり悪質な人間の集まりです。例外はありませんでした。貴方以外は。貴方も元々はそちら側でした。ですがいきなり真逆の性格になって俺は戸惑ったんです。何を企んでいるんだ? 何をしたいんだ? と。最初は疑惑で一杯でした」

 …そりゃそうだよな。昨日まで暴れてた奴が、いきなり大人しくなったら不思議に思うし疑惑しかないよな。

「…そうだったんですね。前世の、記憶。…だから俺の知らない言葉や知識があったというわけですね」

「いろいろ発展してるって言っただろ? ここじゃ未だ解明されていないこともたくさん、前世の世界では常識となっていて日々新しいことが発見されていたんだ」

「あ…もしかして先ほど紙とペンを借りて書いていたのは…」

「そう。俺の前世で使われていた言語だよ」

「ということは、通話の魔道具を作った人物も同じく前世の記憶を持った人物だと…」

「いや、そこまではわからない。もしかしたら、と思っているだけだよ。前世に『電話』というものがあったんだ。通話の魔道具がまさに『電話』そのものなんだ。だから気になっていて…確かめようと思ったんだ」

 「なるほど…」と呟いたきりディルクは黙ってしまった。多すぎる情報を整理しているんだろう。

 ただ一つ良かったと思ったのは俺の事を気持ち悪いだとか変な風に思わなかったことだ。これを言うのは結構勇気がいったけど、ディルクの反応をみて心底安心した。

「……やはり殿下は神の啓示を受けておられたのですね」

 しばらく黙っていたディルクがおもむろにそんなことを言いだした。

「は?」

 おい。いきなりどうした。お前大丈夫か? なんだ神の啓示って…。凄いところに飛んだなおい。

「だってそうとしか考えられません! あのガンドヴァという国を正しい道へ導くために神が遣わされた愛し子なんですよ! だから貴方がガンドヴァの王族としてこの世に生を受けたのも、前世の記憶を取り戻したのも神の思し召しだったのです!」

「待て待て待て待て! 俺は神さんの声も言葉も聞いていないぞ!?」

「きっと思い出せないようにされているのでしょう。ですが貴方は本来あり得ない存在です。前世の記憶、しかも異世界だなんて神の意志だとしか思えません。きっとガンドヴァの国の在り方に心を痛めた神が貴方をこの世界へと遣わしたのです」

 マジかぁ…。そんなところへ話が及ぶとはさすがの俺も思わなかったわぁ…。お前の想像力の逞しさ、すげぇな。

「以前からそうではないのかと思ってはいましたが…ああ、俺はなんて幸運な人間なんだ。そんな貴方の側にいることを許されているだなんて…。これからも誠心誠意貴方を身命を賭して守ります」

 俺の前に跪き、手を恭しく掲げて手の甲にキスをした。ディルクの目は先ほどよりも熱がこもり俺を見る目が変わっている。

 …コレどうしよう。俺はどうしたらいんだろうか。なんか知らんうちにとんでもない存在へと昇華されている。

「なぁディルク。よく考えてくれ。魔力量もしょぼくて剣の腕もそこそこで、顔の作りも平凡に毛が生えた程度の俺が神の愛し子だとかあり得ないだろう。そんなすごい存在ならばものすごい美貌と力を持っていてもおかしくないだろうが」

「何を仰います! あの国でそんな目立つ存在危険極まりないです! きっと幼いうちにとっくに殺されていました。今のお姿も能力も、全て神の思し召しなのです。それに貴方の見た目もとても愛らしいです。平凡に毛が生えた程度などとんでもない!」

 …………そんな風に思うのはお前だけだと思うぞ。俺に惚れているからこそ言える言葉だと俺は思うぞ。


「まぁ神の愛し子かは置いといて。お前に嫌われなくて良かった。うん」

「そんなことで嫌う訳がありません。貴方は間違いなく神の愛し子です。それに、むしろ色んなことが繋がってすっきりしました」


 …もういいや。お前が納得したんならもうそれでいいよ。違うって言ってもどうせ聞き入れてくれやしなさそうだしな。ははは…。


 そして次の日の午後、準備が出来たというので王宮へと移動した。

「これがリッヒハイムの王宮…」

 目の前に現れたのはとんでもなく豪華な王宮だった。だけど俺が一番驚いたのはガンドヴァと違って上品さがあるってことだった。

 …なんというかガンドヴァはありとあらゆるところに金が施され、ちかちかピカピカする目に優しくない建物だったからこんなに綺麗なところがあるのかと驚いてしまった。…知ってたけど、改めてガンドヴァって趣味悪いなと思うわ。


 俺たちの存在は国家機密だから正面から堂々と入ることは出来ない。なるべく人目につかないようにするために離宮へとそのまま馬車は回された。

 中へと案内され俺たちが暫くお世話になる部屋へと通される。これまたとんでもなく広くて綺麗な部屋だった。窓からは綺麗な庭園が見え、居間、寝室、書斎、風呂やトイレ、全てが広くて落ち着いて上品な内装だ。書斎にはたくさんの本も置かれていて退屈しのぎに丁度よさそうだ。

「あの…こんなに良い部屋を与えてもらっていいのか? その、俺はガンドヴァの、敵国の王族だしもっと質素なところを想像していたんだが…」

「何を仰いますか。確かに敵国ではありますが、貴方は由緒正しき王族です。そんな方をお迎えするのに当然です」

 今回案内してくれたのは昨日話をしたドミニクさんだ。

「ですが、くれぐれも外へ出ることはなさらないようお願いいたします」

「ああ、わかっている。そちらに迷惑はかけないように気を付けるよ。むしろここまでしてくれて感謝しかない。本当にありがとう」


 俺たちはここで、どのくらいの期間になるかはわからないが世話になることになる。世話になる以上、何かを返さないとな。俺が持っている情報が役に立つなら安いものだ。俺が出来ることならなんでも力になろう。

 そして明日にはこの国の王太子殿下と謁見することになった。本来なら俺が王宮の謁見の間へ出向くのが筋だが俺たちの姿を誰かに見られるわけにはいかない。それでわざわざここまで来てくれることになっている。

 他国で、その国の王族を向かわせるなんて申し訳ないけどこればっかりはしょうがない。


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