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10・俺たちはテロリストじゃない

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 そして翌日。俺とディルクは兵士に囲まれながら王都へと向かった。

 転移門。話には聞いていたが俺は使うのは初めてだ。もちろんガンドヴァにもある。だが宮からあまり出たことのない俺は転移門を見るのも使うのも初めてだ。
 あまりにも凄くて感動してきょろきょろとおのぼりさん状態だった。

「この転移門を潜れば王都へと出る。そこからはある建物へ行き面談だ。行こう」

 昨日、国境門で話をした兵士に連れられて門を潜った。その転移門の建物から出ると、本当に別の場所へ来たんだとわかるほど周りの景色が違った。
 人の多さも、建物の多さや高さも、さっきいた場所と何もかもが違う。凄い。本当に一瞬で別の場所へ行けるんだ。

「…ラッセル? どうした?」

「あっ、ごめん。転移門が初めてだし凄いなって思って。1人で感動してた」

「ガンドヴァで使ったことがなかったのか?」

「俺たちは平民だし金もあまりない。転移門を使う事なんて無理だし、そもそも他へ行くことなんて出来ないからな」

 疑問に思った兵士にディルクが上手く説明する。なるほどな、と一言零して兵士は一台の馬車を指した。

「これからはあの馬車に乗って移動する。さ、乗ってくれ」

 言われるまま馬車に乗り込み目的地へと出発した。窓から見える景色に俺は目を奪われた。街にはとても活気があった。人々は生き生きとしていて、笑顔で、平民だってしっかりと生活が出来ていることがわかる。

 ガンドヴァとは何もかもが違う。どうしてあの国はあんな風になってしまったんだろう。

 ああ、だからか。この国が豊かに見えるからそれを奪いたいと思っているのか。自分達がより贅沢をするために。


 あれからガンドヴァはどうなったのだろうか。
 『これで俺がやっと王になれる』、そうアイツは言って笑っていた。きっとすぐにでもリッヒハイムに戦争を仕掛けてくるんじゃないだろうか。そうなったら今こうやって幸せそうに暮らしている人々は不安と悲しみと怒りに身を震わせることになるだろう。

 戦争を仕掛けないなんてことは絶対にない。アドリアンなら何としてでも奪おうとするはずだ。もし戦争なんかになったら…。俺はこの国の人たちに申し訳ない気持ちしかない。
 
  外の景色を見ながらそんなことを考えていたらあっという間に目的地に着いたようだ。

 馬車を降りるとそれなりに大きくて立派な建物が聳え立っていた。華美な装飾はなく厳かな雰囲気が漂っている。入り口には兵士が立っていた。

「ここは国が管轄している建物だ。主に貴族の犯罪や取り調べを行っている」

「犯罪!?」

 待て待て待て待て!? 犯罪だと!? それも貴族のだって!? まさか、俺の素性がバレたんじゃ!?

「ああ、驚かせたな。主に、と言っただろう。…それとも何かまずい事でもあるのか?」

「いえ、そういう訳では…。既に犯罪者として調べられるのかと、驚いただけ、です」

「お前たちの場合はそういう訳ではないが…まあいい。行くぞ」

 不安になってディルクの方を見るとディルクも眉を寄せていた。どうしよう…不味いことになるかもしれない。
 内心かなりの冷や汗を流しながら、とある部屋へと案内された。


 色々な絵画や骨董品が置かれた落ち着いた内装だ。貴族相手だからかそれなりに気を使っているのかもしれない。

 立派なソファーに腰掛けるよう言われ2人並んで腰を落ち着けた。なんと目の前には紅茶とお菓子まで出されている。怖くて手を付けることは出来ないが今から取り調べを行う雰囲気ではない感じだ。
 もちろん見張りの兵士はちゃんとそこにいるけど。

 しばらくすると、きっちりとした黒のコートを着た文官らしき人物が部屋へとやって来た。その姿を見て俺とディルクは立ち上がる。

「お待たせしました。私はドミニク・バックラーと申します。あなた方がガンドヴァからいらしたというお2人ですね?」

「はい。俺はディーダ。そしてこちらがラッセルです」

  簡単に自己紹介をしてソファーへと腰掛けた。

「では確認ですが今回リッヒハイムへお越しになった目的は商人としてということで間違いないですか?」

「そうです」

「ではなぜ剣を持っているのですか?」

 あ…商人なのに剣を持っていたらおかしいよな。どうしよう。そこまで全然考えてなかった。

「ここへ来る道中に森を通ります。そこで魔物に襲われる危険もあるため、剣を所持しています」

 さすがディルク! 良かったここにディルクがいて。俺だったらそんなこと言えなかった。

「商人として働いているのに剣を扱えるのですか? 失礼ですが平民ですよね?」

「…ガンドヴァでは平民も剣を扱います。それこそ孤児院の子供たちでさえ。もし戦争になったら真っ先に平民や孤児が前線へと立たされます。国の戦力として俺たちは戦う術を教えられるんです」

 もともとディルクは孤児だった。孤児院で剣を習っていたのは本当だし、平民が最前線に出て壁になることも本当の事だ。

「…ふむ。ガンドヴァではそれが当たり前なのですね。ですが平民や孤児が剣を習ったとしてそこまで強くなれるのでしょうか」

「強さはそこまで求められていない。あくまで本体である国軍の戦力維持のために壁になることが目的なので」

「…なるほど。なのに貴方はそれなりに剣を扱うことが出来るようですね? 平民としてはいささか不思議ではないですか?」

 !? この人ディルクが強いことを知ってる? なんで!? 本当に俺たちの素性がバレたんじゃ?

「…いや、俺はそんなに強いわけじゃない。戦いはそんなに得意じゃ…っ!?」

 いきなり殺気を感じて俺とディルクは立ち上がった。ディルクはいきなり斬りつけた兵士と鍔迫り合いを行っている。俺はいつでも撃てるよう魔力を練り上げた。

 くそっ! こんなところでいきなり襲われるなんてっ! やっぱり俺たちの素性がバレてたんだ! どこでバレた!? どうするどうするどうする。どうしたらいい?
 背中に冷や汗が流れる。この部屋には取り調べの文官1人、見張りの兵士が3人。なんとか部屋を出れたとしても外には兵士が沢山いるだろう。

「はい、そこまでです。皆さんも持ち場に戻ってください」

「は?」

 何? どういうこと? 取り調べのドミニクがそう言うと斬りつけてきた兵士はあっさり殺気を抑えて剣を下ろした。そしてさっと元居た場所に戻っていく。

「…これはどういうことだ?」

 ディルクは俺を守るような位置を取り、剣を抜いたままドミニクに尋ねた。

「いきなり試すようなことをして申し訳ない。ですがこれではっきりしましたね。殺気も弱い物でしたが貴方はそれにすぐさま反応し対応した。貴方の話が本当であれば普通の平民はそこまで出来ないですよね? 普通なら」

 嵌められた…。俺たちは嵌められたんだ。

「ディーダさんとおっしゃいましたか。私にはよくわかりませんが、国境門で話をしていた兵士が貴方はかなりの使い手だと言っていました。商人としては不自然なほどの。隙のない身のこなしが仇になったようですね」

 くそ…。もう最初から俺たちが商人じゃないと推測して、ここへ連れてこられたということか。まさかこんなことでバレるなんて思ってもいなかった。
 ディルクもそうなんだろう。苦い顔をしている。

「それであなた方の目的はなんですか? この国を混乱に貶めるためですか? また爆発の魔道具でも仕掛けるつもりですか?」

「違うっ! そんなことをしたいわけでもするつもりもない!」

 ディルクを押しのけて俺は叫んだ。ガンドヴァというだけで疑われることは覚悟していた。だけど既に商人ではないとバレているなら最悪の事が予想できる。テロリストとして扱われてしまうことだ。それにもう俺たちはそうなのではないかと疑われている。
 
 それで捕まってしまったらその先に待っているのは、死だ。
 今までガンドヴァがこの国に対して行ってきたことを考えれば、俺の言っていることが嘘だと思うだろう。

 アドリアンから逃げてきたのに、この国で死んでしまう。せっかく皆が自分を犠牲にして繋いでくれた俺の命が終わってしまう。

 それだけはなんとしても阻止しなければならない。俺たちはこの国にとって混乱を招く存在ではないと何としても伝えなければいけない。

「嘘だと思われても仕方ないと思う。だけど本当にこの国をどうにかしたいなんて思っていないんだ」

「そうでしょうね」

「「は?」」

 思わずディルクと声が揃ってしまった。え? どういうことだ??

「あなた方が何か犯罪を犯すような人ではない、とわかっているということですよ」

 え? だからなんでそう言えるんだ? ディルクと顔を合わせる。ディルクも何が何だかわからないって顔をしている。

 2人してポカンとしていたらコンコンと扉をノックする音が聞こえた。
 扉を開けて入って来たのは2人の男。1人は兵士だろう。剣を携えた紫の目が綺麗なイケメン。そしてもう1人は穏やかで優しい顔つきのイケメン。だがその人の目が…。

「…オッドアイ」


 ――金と青のオッドアイだった。


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